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義母と面会と二面性と(2)

「えっと、じゃあお言葉に甘えて、クラリス皇女の事なんですけど………」

「確かクラリス皇女の悪癖の標的におなりになったのでしたね」


 情報はなんでも筒抜け状態のようだ。


「そうなんです。昨日政務から帰ってきたら、部屋の前にお疲れ様の手紙と滋養強壮に効く食べ物が置かれていたんです」


 あれだけ喧嘩腰で会話したというのに、良き友達、良き隣人のような態度で接してくるのは魂胆が理解が出来なさ過ぎて恐怖しているところなのだ。


「悪い話ではないのよねぇ」

「気味の悪い話です………」


 一見すれば悪い話ではないが、一方的でこちらの気持ちを通さない好意は気味が悪いのだ。


「分かっているのよ。私も昔から標的にされているもの」

「クレマンティーヌさんも標的にされているんですか? どうやってやり過ごしているんです?」

「簡単よ。屈しないことね。クラリス皇女は意のままに操れない人間には徹底的に尽くすのよ。尽くして、相手が隙を見せたところで、所有物にしようとするのが癖なの。なのでクラリス皇女の魔術と言葉に屈さなければ、従順な可愛い子よ」


 ニッコリと余裕を見せて笑うクレマンティーヌ。これが大人で淑女で皇妃の余裕か。あのクラリスが手玉に取られている。確かにそんな弱点があるなんて考えもしなかったな。


「もしも、もしも屈してしまったらどうなるんですか?」

「そうねぇ、飽きて捨てられるまであの子の玩具かしらね」


 クラリスの玩具って単語だけで怖気がする嫌な想像をしてしまう。下手な事を言わず、自分に嘘つかず接しよう。


「グウェンドリンさんなら大丈夫よ。貴女はあの子より、よっぽど強いもの」

「確かに物理的な喧嘩になれば勝つ自信はあります」

「あらあら、物騒ね」


 クレマンティーヌはクスクスと鈴を鳴らして笑顔になった。


「そうではなくてね。貴女にはあの子に無い向上心があるもの」

「あたしそんな風に見えます?」

「人はね、目標に到達すれば衰えるのよ。貴女はダンスで頂点に君臨しているのに、未だに衰え知らずでまだ上を見ているわ。私そんな貴女が好きよ」

「だ、ダンスは私の功績ですわよ!」


 クレマンティーヌにベタ褒めされているあたしに対して、これまで褒められてこなかったグウェンが我慢ならなかったか悔しそうに言い放った。


「ありがとうございます。一つ訂正させていただいてもよろしいでしょうか?」


 クレマンティーヌは「どうぞ」と快く快諾する。


「あたしがダンスを踊っているのは、自分が楽しいと思っているからです。そしてダンスの楽しさを人々に伝える為です。だから別に向上心や、頂点に立ちたいんじゃなくて、この気持ちを教えてくれた人に恩返ししているだけなんです」


 グウェンの言う通り、ダンスの功績はグウェンのものだ。あたしはそれを借りているに過ぎない。それにダンスとは頂点に君臨して偉ぶるためのものではなく、見聞きした者と感情を分かち合うものなのだ。


「そう………そうなのね」


 クレマンティーヌはまたどこか遠い目をしてあたしを見つめていた。


「あ、でも魔術は向上心ありありですよ」

「ふふっ、そう見えるわね。あ、でしたら来月の魔術会は出席するのかしら?」


 クレマンティーヌは手を打って訊ねてきたので、聴き馴染みのない単語にあたしは首を傾げた。


「魔術会?」

「あら、御存じないの? 年に一度の魔術の祭典で、魔術師たちが研究した魔術を披露する場よ。よかったら私と一緒に出席します?」


 何その胸躍る祭典。グウェンが魔術に興味が無かったから、どうせ抜け落ちていたんだろうし、前回は出席もしていないのだろう。


「はい! 行きます! 行きたいです!」

「ちょっとモモカ、クレマンティーヌ様は二面性がありますのよ」


 高揚を乗せた返事をしたら、まだ猜疑心があるグウェンに注意された。二面性があったとしても、今回のクレマンティーヌはあたしの味方になってくれたのだから大丈夫でしょ。


「ではそう申請しておきますわね」


 クレマンティーヌが微笑むと同時に、部屋の奥にある豪華な振り子時計が鳴った。


「あら、もうこんな時間。楽しい時間はあっという間ね」

「こちらこそ、有意義なひと時を過ごせて感謝しています」

「うふふ、これからも仲良くしましょうね、グウェンドリンさん」

「はい、よろしくお願いします」


 差し出された手を軽く握って、義母との挨拶は終わりを迎えた。


「ぜーったいおかしいですわ」


 部屋に帰ると早々にグウェンが腕を組んで眉を吊り上げて言った。


「何がよ」

「あの態度ですわよ。私の時はずっと語尾に舌打ちしているんじゃないのかと疑ってしまう程の態度でしたのよ! なのにあの変わり様はなんですの!?」


 前回は嫌われていて、シュザンヌのいびりよりも激化したいびりを熟してきたグウェンは納得いっていないようだ。そこまで露骨に嫌われている状態でよく会話になったものだ。


「いや、クレマンティーヌさんも言ってたじゃん、あんたが魔術に興味が無かったからでしょ?」


 魔術を学んでこなかったから、クレマンティーヌの評価基準に至らず、有象無象の婚約者と認定されていた。ただシャルには認められていたので渋々承諾されていたって感じだろう。


「普通興味ありませんわよ! そもそも無理難題が魔術とどう関係がありまして!?」

「あー、うん。集中力を高めるんじゃない?」


 問われても分からないので、考えるのも面倒くさいから適当に答えておくと、目をひん剥いて反論された。


「どこがですのよ!? いいことモモカ! 心許すんじゃありませんわよ! 私があの女の化けの皮を剥がしてやりますわ!」

「やらんでいいやらんでいい」


 そうは言っても、鼻息荒くして大荒れ模様なので聞く耳持ってくれないのは確定だ。


 グウェンの言う通りに完全に信用した訳じゃない。前回で意地悪姑のような仕打ちにあっているグウェンがいる事実はあるのだ。認められているからこそ、今日みたいな態度なだけで、認められず排斥対象となれば、グウェンと同じ仕打ちにあう可能性だってある。


 嫁姑問題に発展させないように、相手の機嫌を見て取り繕うしかない。正直素で話せない分肩が凝る相手だ。これも死の運命を回避する仕事の内だと心を無にして努めよう。


「そういえば魔術会ってあんたの時はあったの?」

「知りませんわよ。私は魔術に興味ありませんもの! シャルル様も出席なさっていませんでしたし!」


 グウェンちゃん拗ねちゃったみたい。


 シャルも出席していないって事は詳しい内容を知らないかもしれないな。ここは魔術の師匠であるヴィクトルに手紙で訊ねておこう。


 そうと決めれば紙と便箋を用意してペンがあるテーブルに椅子を持って行き、手紙を書き始めた。


27日 21:10に更新です。よろしくおねがいします。


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