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義母と面会と二面性と


 次の日からはシャルの公務に付き合った。一日かけて始めて行く領へと遠出して、そこで林業を生業としている貴族との交流会をした。あたしは挨拶くらいしかやることがなかったので、そこのチビ達と遊んで時間を潰した。


 そこで一泊してからまた一日かけて王宮へと帰ってきて二日後、今度は義母にあたるクレマンティーヌとの挨拶する機会を設けられた。


 シャルはどうしても政務が外せないので、あたしだけがクレマンティーヌの部屋へと挨拶をしに行くことになった。


「貴女、陛下と腕相撲をしたんですって?」


 挨拶交わして細かい刺繍が施されたソファに座ってから開口一番に白銀の髪をまとめて左肩から降ろしたクレマンティーヌが言った。


「はい!」


 元気溌剌に返答すると、長い銀髪が揺れた。


「では貴女は魔術が使えるのね」

「使えます!」


 義母との対面でガチガチに緊張しているんじゃない、クレマンティーヌの雰囲気が妖艶なおかげで反対に子供っぽい対応になってしまっているのだ。それを緊張しているというのかもしれない。


「貴族にしては珍しいわね。好きなの? 魔術」

「父の影響で興味がありました」

「あぁ……そうだったわね、貴女イザークさんの娘でしたわね」


 王宮ではイザークは有名人のようだ。財務大臣なのだから有名人なのも当たり前か。


「父とお知り合いで?」

「イザークさんも貴女の母も、貴女の今の母親も、懇意の仲でしてよ」

「えっ、そうなんですか? そんなこと一言も………」


 グウェンを見るとグウェンも強く首を振って否定していた。


「昔は貴族を一纏めにしておく学園があったのよ。そこで私達は知り合ったの。私は陛下やイザークさん達とは一つ下の年でしたが、良くして貰っていました。イザークさんとジャンヌさんの馴れ初めも、その学園でしたね」


 忘我の彼方にある過去を懐かしんで、クレマンティーヌは細い目で儚げに笑った。

 学園あったんだ。その頃に転生していたら学園お嬢様バトルが繰り広げられていたのかもしれない。


「まぁ陛下が皇帝になって学園制度は無くしてしまわれたんですけどね。私は楽しい思い出もありましたけど、大半の貴族が檻だと思っていたのでしょうね。学生に革命は甘美な口実ですから……」

「は、はぁ……」


 昔話をされても、当事者でもないし、なんならイザークの過去は気にもならない。後ろのグウェンだけがソワソワと落ち着きのない様子なので、訊ねたいことがあるんだろう。過去に同じ会話をしなかったのだろうな。


 そうなるとあたしは気に入られている………のか?


「シャルルには触れられましたか?」


 ソファの間にあるガラス張りのテーブルの上にあるティーカップに入った紅茶を一口飲んでからそう言った。


「えっと………」

「まだみたいですね。ですが距離はかなり近いですね?」


 どう答えるべきかと言葉を引き出そうとしていると、その様子だけで現状を当てられてしまった。ただ現状を知りたいんじゃなくて、既に現状を知っていて確認したいだけのようなので、あたしは率直に現状を答えておく。


「い、一応は」

「シャルルがそこまで気を許す女性は今までいませんでした。どうかこのまま距離を縮めてくださいな」


 クレマンティーヌは軽く頭を下げた。


「わっわっ、頭を上げてください!」


 あたしの王族のイメージだと頭は下げないんだけど、ラリア家の頭が軽すぎる。こんなものなのだろうか。


「ありがとうね。貴女……グウェンドリンさんと呼んでもよろしいかしら」


 儚げに微笑むクレマンティーヌに対してあたしは頷く。


「嬉しい。本当はね、グウェンドリンさんの事を訊いた時、酷い女性だろうと思ったの」

「どうしてですか?」


 あたしがやってきた悪行――主にラインバッハ家でのやらかしが伝わっているのか。この人はシャルとの進展も知っているし、もしかしたら伝わっているかもしれない。


「シャルルに寄って来る女性は皆、シャルルの威光だけしか見ていないもの」

「そ、そうらしいですね。本人も言っていました」


 また遠い目をしながらクレマンティーヌは冷淡な口調で言った。どうやら違ったらしいので、心の中でホッと一息をついておく。


「あらもうそんなお話を? いい関係でなによりだわ。ね、シャルルはそういう体だけしか見ない人間が一番嫌いでしょう? だから殆どの人間はシャルルの眼鏡には敵わないのよ。でも、偶にシャルルの思惑通りにはならず、抜けてくる方もいるの。その人達は私のところへやってくるのよ。何故だかわかるかしら」

「選定ですわね」


 選定されたグウェンが不満を露わにしていた。


「見極める為ですか?」

「そう! シャルに相応しいかどうかを私が見極めていますの。王家の妻になるには資格が必要ですわね。その資格があり、かつシャルルを支えられる人間かどうか」


 細かった目が、二重瞼を強調するように開いた。

 背筋がゾワリとした。今までの物憂げな言葉の調子が全て、氷柱を喉元に当てられていたと錯覚したからだ。


「安心して、グウェンドリンさんは見込みがあるのよ」


 あたしが感じた圧迫感を和らげる様な物言いだが、グウェンの前例があるのでその一言だけではまだ安心できなかった。今から一転して敵に回るなんてことも無いとは言い切れないので、地雷を踏まないように慎重に質問する。


「あたしがですか? シャルが気を許してくれているからですか?」

「それもありますが、私が最も必要としている魔術の素養が貴女にあるからですね。今までの方達は魔術は使えませんでしたから」


 魔術の素養。前回のグウェンには無かった要素だ。あたしが魔術を習ったことによって、前回とは違う展開になっているのかな。ありがとう異世界転生バトル欲、これのおかげで義母を敵に回さずに済みそうだ。あたし偉い。


「で、では………あの嫁いびりは魔術が使えなかったから……ですの?」


 グウェンは真実を知って、辛い過去が重くのしかかったように肩を落とした。流石に同情する。


「グウェンドリンさん、この王宮内で何かお困りごとがあれば私に相談してくださいね。もちろんシャルルにも相談できないことでもよろしいですのよ」


 敵じゃないと分かった義母はこれほどまでに頼もしいのか。今まで冷徹な雰囲気を纏う人だと感じていたのに、急に慈愛に満ちた人物に様変わりした。そうだ、クラリスの事をクレマンティーヌになんとかしてもらおう。


次回は26日 21:10です

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