小娘小娘小娘
あの小娘がまた歯向かってきた。
しかも今回は叩こうとした私の手を握って、勝ち誇ったように薄ら笑いを浮かべて「暴力はいけません」なんて言ってきた。確かに暴力は下品で下劣な行為ですが、それを止めたからって勝ったと思っているのが腹立たしい。暴力は物理的なものだけが暴力ではないと、嫌と言う程に叩きこんであげたのに毎回毎回澄ました表情で盾突いてくる。
目障りこの上ない小娘。
流石はあの女の血を分けた娘。顔の皮が分厚くて、周りの目を気にせず我が道を行って、他人にどう見られても気にも留めない鈍感さ。見ているだけでイライラするわ。
私が最初にイザーク様を好きになりましたのよ。私がイザーク様と最初に結ばれるはずでしたのよ。ですのに、ですのに、あろうことかあの女が奪い取った。
子を産み、家族の営みをして、人並み以上の幸せを手紙で送ってきた時は、死んでやろうかと思ったわ。
だけど先に死んだのはあの女。
過剰な幸せを享受し過ぎて、不幸へと天秤が傾いたのよ。
調和の女神様はいらっしゃる。幸と不幸の所有量をお量りになられているのよ。
私はこれまで不幸だった。だから、幸せになるのよ。天秤が大きく傾いたのを実感しているわ。
傷心だったイザーク様を何度も、何度も、何度も何度も何度も見舞って、あの女の面影を残す小娘の面倒を見て、次期家長になりうる小僧を取り込むために、無い愛を振りまいて。ようやく私はイザーク様と結ばれた。
幸せだった。
とっても、とーっても幸せ。
あの絢爛さだけの暗い自室で、さめざめと過ぎ去る日々を過ごしていた不幸な私があったからこそ、今、幸せなのよ。あの時の私を否定しないわ。だから、そこだけはあの女に感謝しないといけないわね。
ありがとう貴女が幸せだったからこそ、私は幸せになれている。
私の幸せはまだ続いた。
初めての子を産んだ。
子供なんて、五月蠅くて、我儘で、何を考えているか分からない生き物。そう思っていたのに、生まれたての我が子の小さな手が、私の指を力強く握り返してきた時に、私の幸せをこの子の為に捧げなければならないとの使命感に襲われた。
ネェルフアムを私のようにはさせない。
常に、往々に、一定の愛を与え、そしてネェルフアムが望む相手と添い遂げさせる。
あの小娘がネェルフアムを傷つけても、それは過不足の無い不幸であって、ネェルフアムが幸せになる為の踏み台。
小娘はいずれ、不幸に見舞われる。
いいえ、見舞ってみせる。
まずは直近の舞踏会で、一生の恥をかかせてあげますわ。