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悪役令嬢と引っ越しと者々と

 じめりとした雨月が過ぎ去って、涼味を欲するようになる九夏の初週日、あたしは額に汗を浮かばせながら、自室で引っ越し作業をしていた。


「こんなものでいいかな」

「カミーユと作った、お花の髪飾り、持っていきますわよ!」

「入らないちゅーの。それに造花じゃないし、ヨランダに固定してもらってもいずれは枯れるから駄目」

「いやですわ! カミーユとの思い出の品は全部持っていきますの! じゃないと生きる活力がなくなってしまいますわ! モモカはそれでよくって! ねぇよくって!?」


 暑苦しい必死な顔を近寄らせてくるので、虫を払うように手を振ってかき消す。


 舞踏会から一か月半が経った。


 あれからシュザンヌはその週の内に実家に帰らされて、今もまだ地方田舎の実家で暮らしている。出て行くときに見送りに行ってあげた。屋敷の全員に見送られていたけど、大半の人間は清々していることであろう。あとからシェフのジョンと他愛ない会話をしている時に知った話だが、彼女は使用人に強くあたり、精神的な嫌味をグチグチと言ってくるので、人間として嫌われていた。


 シュザンヌはイザークの前だから笑顔を取り繕っていたけど、腸煮えくり返っていたに違いない。だからあたしは心の中で中指立てて見送ってやったのだ。二度と帰ってくるなとの祈りも乗せた。


 イザークには週一で近況報告の手紙が送られてきて、一刻も早くこの家に戻って来たいという反省文も同封されているらしいと、ネェルが教えてくれた。金輪際あのけばけばしい狐顔をみないで済むならば、あたしはこのままでいいし、これ以上死の運命に対して邪魔されたくないので、このままで頼みたい。


 カミーユとはカップル継続で偶に踊りの練習をしたり、お茶したりと交流がかなり増えた。以前よりも男らしい顔つきになったのに、ふにゃりと笑顔を崩す時は可愛らしいギャップを持っている。後ろに酷く厄介な実姉がいるから惚れることはない。癒されるだけ。


 舞踏会で名が上がったおかげで、カミーユの魅力に大勢に人々が気が付いて、カミーユファンクラブが立ち上がっていた。あたし――もといグウェンが立ち上げたのだけど、これがあたしの現代知識を駆使して、絵とか扇子とかのグッズ展開を身内でして使用していたら、舞踏会でファン達の目に留まり、カミーユの容姿の良さと人当たりの良さもあり、火が点いた。


 あたしが名誉会員となって、使用人やファンクラブ会員の力を借りて大きく展開し、社交界が今やアイドルのライブ会場みたいになってしまっており、更に言うと、庶民階級にまで波及してしまって、世間のブームになってしまった。


 その為名誉会員であり、プロデューサーであったあたしに、全ての儲け金が入ってきた。ヨランダに配当とかを手伝って貰いつつ、無一文だったはずなのに実利が発生してしまい、小金持ちになった。………元からお金持ちではあるんだけどね。自分で自由に使えるお金が増えたってことだ。


 どうしてこうなったんだろうね。グウェンの愛の重さかな………カミーユの美しさの罪かな………。


 とにもかくにも、自慢の弟が世に羽ばたき始めていた。


 手荷物として持っていく荷造りの中身は殆どカミーユファンクラブ会員系の代物ばかり。あたしの私物は一切ないので、グウェンが荷物に入れたい代物を、あたしが選別している状況である。


 この幽霊が我儘言うせいで小一時間は手荷物整理する羽目になっている。


「なにを―すの―――モカ! やっ――」


 まだ何か面倒事を言いそうなので、顔面を連続でかき消してやる。通信状態が悪いみたいに声が途切れ途切れになっていて面白い。


 グウェンには触れる事はできないけど、こうやってかき消すことによって物理的? に黙らせることができると最近思いついた。


「やめなさいな! 怒りましたわ! モモカの恥ずかしい寝言を言いふらしますわ!」


 弱点としては離れられると機能しなくなる点だ。


「幽霊がどう言いふらすんですか~」


 完全におちょくる言い方をすると、グウェンが小馬鹿にしたように舌を鳴らして人差し指を振った。人の事を言えないがめっちゃムカつく。


「私もただ幽霊として過ごしていた訳ではありませんのよ。私が枕元に立って根気強く相手に話しかければ、夢の中に現れることができるようになりましたのよ!」

「最近妙にグウェンが現れていたのって………」


 ここ数週間、グウェンが夢に現れては、あたしが食べたかった料理を先に食いつくしたり、あたしの代わりにチートスキルを授かったり、お嬢様バトルランキングで負けたりと、寝覚めの悪い夢を見させられていた。


 グウェンが勝ち誇ったように鼻を鳴らした。


 幽霊に枕元に立たれていたあたしは、荷造りしたての鞄の中から塩の入った小瓶を掴んで開けた。


「悪霊退散! 悪霊退散!」

「ちょっと! 塩を撒かないでくださいな! いくらもう暫くは帰ってこないからって、掃除するヨランダに叱られますわよ!」

「へっ! 明日には出発するんだから、自習室なんて怖くないね! それよりも目の前の悪霊を退治するのが、陰陽師として先決なのさ!」

「オンミョウジってなんですの!? わ、わかりましたわよ! ヴィクトルに教えてもらった魔術ですわね! ちょっと魔術が使えるようになったからって、私は臆しませんわよ!」


 グウェンはへっぴり腰のファイティングポーズを取った。


毎日21:10に更新ですが前より頻度は落ちます。よろしくおねがいします。

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