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舞踏会と謀と第三皇子と(6)

 楽しむと決めた私達は待機場まで移動してきた。そこには先にフィリップが待機していて、私達がやってきたのに気がつくと頬を緩めた。


「やぁグウェンにカミーユ、今日は君達と同等の勝負ができるように女神様に祈ってあげたよ」


 挨拶に嫌味を混ぜるとはいけ好かない奴だ。しかも自分達が上だとの認識でものを言っているところも、腹が立つポイント。


「ごきげんようフィリップ。私達の為に祈ってくれるなんて殊勝な心掛けじゃない。でも嘘はよくないなぁ……同等の実力が出せますように、の間違いでしょ?」


 あたしも微笑んで挨拶代わりの煽りをしておく。


「ふっ減らず口だけは一流だね。口が達者になっていても、ダンスを疎かにしているとこの前みたいに足元を掬われるよ」

「ご配慮ありがとう。だけどね、誰かさんとは違って、あたしのカップル相手はしっかりと支えてくれる頼もしい弟なの。不調のあたしは終わったわ、今、絶好調だから。楽しみにしておいて」


 目を見開いて不敵に笑うとフィリップは臆したのか何も言わなかった。代わりにフィリップの後ろに身体を隠していた女子が声を荒げた。


「フィリップ様を馬鹿にするなんて! 許せませんわ~~~!」


 ネェル程に小柄な女子が、頑張ってか細い声で叫んでいた。フィリップとあたしが同身長だったら、この女子はもう一頭身程小さいくらい小柄。


「ミミ・ド・ジラーリュ。私を家から追い出した後にフィリップとくっつく盛りのついた猫女ですわ」


 ため息交じりにグウェンが説明してくれた。泥棒猫って意味かと思ったけど、猫目で八重歯があって、雰囲気が猫っぽい。今も毛を逆立てて、ふしゃーと威嚇している感じだし。


「大きな声を出すとはしたないよ?」

「うにゃっ……グ、グウェンも大きな声を出している時ありますわ!」

「確かにモモカにだけは言われたくない言葉でしょうね……」


 あたしはこの猫娘の前で会話をするのは初めてなので、グウェンが罪を擦り付けているのは火を見るよりも明らかだった。


「モモカ、この女のダンスの実力は大したことはありませんわ。私と比べたら月と鼈、つまり雑魚ですわよ。今のモモカでも勝てますわ」


 傲岸不遜に述べるものだ。この舞踏会でグウェンの上に立つものはいないのか。その点だけではフィリップとは良いカップルだったのでは?

 

「貴方がカミーユさん? ふーん」


 あたしの事は一旦置いておいて、ミミはカミーユを観察する。


「な、なんですか?」

「よっわそ~」


 グウェンがノンストップで含み笑いをしていたミミの頭を叩いた。いくらすり抜けるからと分かっていても、暴力を是としないグウェンが躊躇なくした行動に驚愕せざるを得なかった。


「ちょっと失礼なん――」


 グウェンの行動で出遅れた反論をしようとしたあたしを前に出て止めたのはカミーユだ。


「ミミ・ド・ジラーリュさん。ハンカチはお持ちですか?」

「はぁ? 持ってないですわよ。何か関係あるのです?」

「私は………俺は勝負の場では情けをかけてはならないと父から教わっています。だから貴女にハンカチを差し上げれません。持っていないならば準備をしておいた方がいいですよ」


 カミーユは紳士の振る舞いで柔和に笑って、とげのついた言葉でミミをぶん殴った。

 温厚なカミーユから女子に対して泣かす宣言をするとは、流石にカミーユもプライドを持った男の子ってことだ。


「ふ、ふみゅっ! お、脅したって、私はひ、怯みませんわっ!」


 腰が引けた姿勢で半泣き状態では説得力はない。


「わ、私は貴方のような素人には負けませんわっ!」


 そう捨て台詞を残して、口喧嘩で負けたミミは怖かったのかフィリップの背後に隠れてしまった。


「やれやれ、すまないねカミーユ。あとでしっかりと躾けておくよ」

「その必要はありません。俺がお二人共を躾けますから」


 一度火が付いたら止まらないねカミーユ。


「グウェンと姉弟なだけはあるね。まぁ結果が出るまでは何とでも言えるさ、結果が出た時吠え面をかくのは一体どちらだろうね………ま、言うまでもないか。僕達も君達と同じ種目で踊るんだからね」

「は? 今………なんて?」


 聞こえていたけど、聞き返さざるおえなかった。


「だから僕達も君達と同じ種目で踊るんだよ。そうじゃなきゃ、愚かな君達に実力の違いを知らしめせないだろう?」

「なんであたし達の出る種目を知っているの」


 あたし達が曲決めを決定したのは昨日だ。どうやって知って、当日に組み込める。


「僕は耳が良いんだ。あとは君ほどではないが横のつながりがある。とでも言っておこうかな」


 シュザンヌか。ヴァロウヌ家の力と、シュザンヌの個人的な力を使って、あたしたちの曲を知って、無理やり捻じ込んできた。あたしがヴィクトルとラテンで出場して直接対決を望んでいることも知れていることだろう。その前に実力差で潰す気だな。


「そろそろ僕達の出番だね。是非僕達を引き立てるいいダンスにしてくれよ。ふははは」

「おーっほっほっほ」


 高笑いして待機場を出て行ってしまう。


「姉上」

「どしたの」

「俺、もっと楽しみになってきました」

「いいね、じゃあ楽しもうか」


 瞳に闘志を宿らせたカミーユの手を取って、拍手が鳴る試合会場へと足を運んだ。


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