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舞踏会と謀と第三皇子と

 舞踏会当日。


 本日の舞踏会は第三皇子が催しているので、男女共に自分の名を売って、王宮に取り入れる絶好の機会と言える舞踏会だ。


 前世のグウェン・ドリン・ラインバッハはここでダンスを披露して、第三皇子の目に留まり、求婚をされた。理由としてはダンスの表現力に心を掴まれたとかなんとか。あのグウェンが人の心を表現力だけで魅了したって事実が信じられない。


 それでフィリップとの許嫁関係は破談となって、第三皇子のいる王宮へと向かい、日々を過ごすことになる。なるんだけど、またそこでシュザンヌが第二の計略が炸裂した。ネェルを王宮に送り込んでくるようだ。

 グウェンが知らぬ間に、裏でなんやかんやがあって、ネェルと第三皇子が縁談を取り決めて、グウェンは王宮から追い出されて、またフィリップとくっつかされる。それでシュザンヌの最後の計略によって、フィリップに裏切られて処刑台オチ。


 追放系悪役令嬢じゃん! って茶化せる程の空気ではないので、黙ってあらましを舞踏会の会場になる第三皇子が所有している屋敷へと移動する馬車の中で訊いていた。


 舞踏会でシュザンヌは邪魔してこなかったかのか? と問うと、先日のアレルギー茸が邪魔に値するらしい。だからまさかグウェンが素晴らしい踊りを披露できると思ってもいなかったシュザンヌは追撃をしてこなかった。

 それでも舞踏会では快調ではなく、体重が三キロも減っていた中で、反骨心だけで踊り切ったようだ。そこだけきくとプロフェッショナルだ。


 では今回はどうだろうか。あたしはシュザンヌの小さな謀を阻止している。謹慎処分にはなったけど、身体はピンピンとして元気だ。話を聞く限り、綿密にグウェンを陥れようと計画しているあの女が、ただ黙って傍観しているはずはない。絶対になにか仕掛けてくる。

 その証に、ここ二日は姿を見ていない……怪しい。


 腰の筋肉痛がとれていない中、馬車は腰に鞭打たれているようだった。


 筋肉痛の原因であるヴィクトルとの特訓の事は、特訓を始めた次の日にグウェンと相談した。

 魔力の事は興味がなさそうだと思ったので省いておいた。ただフィリップが出るので、ヴィクトルとラテン種目で出場するとの旨を伝えた。

 フィリップの新しい相手は、最終的にフィリップと結婚する相手なので、快く了承してくれて、コテンパンにしてきなさいなと笑っていない眼で圧をかけられた。


 あとはヴィクトルに惚れたのか? って再三確認された。惚れたらあるのかも知らない呪いが発動する可能性があるので、もちろん強く否定しておいた。そもそもお互いに破滅する秘密を持っている仲で惚れた腫れたできるか。もはやこの秘密はあたしがヴィクトルにかけられた呪いだよ。


 特訓の成果は………本番で発揮できるといいのだけど。


 馬車にゆらりゆられ、ようやく屋敷へと到着した。


 屋敷の玄関口の前には大きな噴水があって、その噴水の周りを円を描きながら馬車が玄関へと止まった。


 自動扉の如く馬車が開いて、屋敷の使用人が笑顔で迎え入れてくれた。


「でっか……」


 ラインバッハ家と遜色ない大きさで、見上げると後ろへとこけてしまいそうだった。しかもこの屋敷は人が住む目的としては建てられていない。この屋敷は舞踏会の為だけに建てられた屋敷なのだ。居住区は最低限で、玄関口を抜けて奥の二枚扉の先には、二階席もあるダンスホールが広がっているらしい。


「姉上、どうかされましたか?」


 玄関口で止まっていると、次の馬車で来ていたカミーユがイザークと降りてきてから、圧倒されているあたしに近寄ってきた。


 イザークは檄を飛ばすかのように、あたしとカミーユの肩を叩いてから、作った声を上げつつ上っ面で寄ってきた顔見知りと大人の話をしに行ってしまった。


 あたしの見た目は舞踏会仕様で、メイクもバッチリだし、背中がぱっくり開いたいつもとは違う煌びやかなドレスに、髪型も中に針金でも入っているかの如く、魔術で固定されている。ちなみにヨランダの魔術だ。戦闘で使ったら強そう。だなんて妄想をしている余裕はない。


 対してカミーユも、いつものふんわりとした髪の毛が、逆上がりつつも上の方で綺麗に整えられている。『可愛いおでこがこんにちわですわ!』とかいって興奮していた弟馬鹿を思い出しつつ、あたしは返答する。


「本番だなぁって、実感してるの。カミーユは緊張してる?」

「緊張は……してないって言うと嘘になります。もうやれることはこの緊張を武者震いに変えるくらいですね」

「カミーユったら頼もしくなってまぁ……」


 握りこぶしを作って冗談を仄めかすカミーユに対してグウェンは涙ぐんでいた。あたしは覚悟が決まった男子が、更に成長の表情をする展開に興奮していた。


「うし。じゃあ一番になりに行こう」


 自分にも言い聞かせて、二枚扉へと向かった。

 ちょうど後ろでは、ネェルとシュザンヌとヴィクトルが馬車から降りてくるところだった。


 絶対にミスが許されない舞踏会が始まるのだと、あたしは緊張を高揚に変えた。


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