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悪役令嬢とあらすじと死の運命と

 グウェンから改めての自己紹介とあらましを説明された。


 グウィンドリン・ド・ラインバッハ十七歳。ラインバッハ公爵家の長女。ラインバッハ家の家族構成は父と異母と長女のグウェンと長男の弟に異母妹の五人家族。父方の祖母は存命だが、旅に出ているらしい。使用人は二十人程いる。


 グウェンが絞首台に送られるのはこれから一年後の今日だ。なぁんだ結構時間があるじゃんと思ったが、思考が読まれており、一週間後の舞踏会で異母であるシュザンヌ・ド・ラインバッハに陥れられると言うのだ。

 それが絞首台へと昇る最初の一段目らしく、阻止するのが目下の目的。


 グウェンはその舞踏会で第三皇子様に見初められて婚約するのだが、謀のせいで最終的に第三皇子の妃になるのは異母妹だという。何がどうなったらそうなるかは、謀が近づけば教えてくれるようだ。何やら綿密に練られていて、今から突発的にできることは数少ないらしい。


 謀を阻止して最終的に第三皇子様と結ばれたら死を回避したことになるはず。とのこと。当事者の言い分が曖昧なのは、明確なゴールがグウェン自身も分かっていないので、一年後の今日を過ぎ、皇子様と結ばれていたら死を回避したとみなしたことにするようだ。本当にいいのかそれで。


 そもそもシュザンヌにどうして嫌われてるの? という至極真っ当な疑問が湧いた。


 グウェン曰く、そりが合わないとのこと。


 グウェンの母は弟を生んで直ぐに亡くなった。そしてグウェンが幼少期の頃に父が再婚してシュザンヌが家にやってきた。最初はまぁまぁ猫を被ったように優しかったのだが、妹が生まれてからは妹にしか愛を注がなくなり、グウェンを邪険に扱いだした。

 弟は家系的に家長になるので邪険に扱うこともなく普通の扱いだ。

 弟への態度も気に食わなく、幼いながらも気の強かったグウェンは大人に舐められない態度を取りまくったせいで、シュザンヌから酷く嫌われた。そして二人の間にとんでもない確執が生まれて戦いが始まった。


 例えばシュザンヌがグウェン専属のメイドをいびるので、妹の専属メイドをいびり返したりとか。

 お気に入りの服を馬鹿にされたので、妹の足引っ掻けて泥だらけにしてやったりとか。

 賓客がいる食事の場で嫌いなものを食べさせられたので、妹の食事を横取りして食べたとか。

 どっちが先に始めたとか、もうそんなことは当の昔に忘れたようで、収取がつかなくなっている。


 とにかく互いに陰湿だった。


 そういえばこの転生は悪役令嬢ものだったのを失念していた。

 グウェンはちゃっかりと悪役令嬢だし、異母のシュザンヌもよくある嫌な悪役だ。似ているからこそ水と油なのか? 油と油に思えるが、とにかく異母妹が可哀そうな板挟みにあっているのは理解できた。このまま第三皇子様とやらとくっついて幸せになってほしい。


「なんですのその目、まるで私が悪者と言いたげですわね」


 あらましを聞いていて、どんどん目が細くなっていたあたしを見て、グウェンは不平だと言わんばかりに口を開いた。


「分かってるじゃん。直接本人にやり返しなよ。なんで妹さんにやり返すのさ」

「あんの女狐はネェルを蝶よ花よと可愛がっていますのよ。直接女狐にし返すより、そうした方が精神的ダメージが高いのですわ。そう学びましたわ」


 高らかに宣誓する感じではなく、どこか辛そうに学んだを強調して言うグウェン。

 ちなみにネェルフアム・ド・ラインバッハが異母妹の名前である。


「妹さんがグウェンに直接何かした訳? 可哀そうだよ」


 内容はしょーもないけど、やられた本人はしょうもなくない。


「私は可哀そうではないと? いえ違いますわね……そんなのは分かっていますわよ。でも引っ込みつかなくなったのですわ。一番効果的にあの女が絶望する顔が見られるのなら私はなんだってできますわ」

「何でもできるなら、物理的に分からせれば良かったじゃん。ぜーんぶ陰湿だよ。聞いてるだけでおえーってなる」


 血色の良い舌を出してやると、グウェンは床を見つめて呟いた。


「暴力はいけませんわ」

「妹さんからしたら一方的な暴力みたいなもんでしょ」


 物理的なものでも一方的な暴力は手も足も出せなくて、丸まって恐怖するしかないのに、精神的なものも合わさると体も心も壊れてしまう。あたしはそれを知っている。


「別にやりたくてやってる訳じゃ!……もういいですわ」


 もういいのはこっちの台詞だった。

 いじめは現代で見飽きた。直近だとあたしの仕事じゃないを仕事を割り振られたりとかだ。断らないあたしもあたしだけど、徹夜をすれば処理できてしまうのだから仕方ない。


 子供のグウェンがどれだけ高慢だったのかは知らないが、子供のやることなすことに本気で邪険に扱う大人のシュザンヌは大人気ない。だからと言ってグウェンが妹にしたことを容認はできないけど、全てが全てグウェンのせいではないのは分かった。


「それで、あたしはそのシュザンヌと仲良くすればいいの?」


 微妙な空気になったので話を変えて現実的な話を振る。


「仲良く? はっ、天と地がひっくり返っても無理ですわね」

「話を聞く限りはね。とりあえず会ってきていい?」

「駄目に決まってますわ! 変ないちゃもんつけられて嫌な気分になりますわよ!」

「じゃあ行こ」


 ふかふかベッドの反動を使って立ち上がって、この部屋の一つしかない扉へと向かう。


「話を聞いていますの!? ちょっと待ちなさいな!」


 グウェンは前に立ちはだかって止めたけど、胸に突っ込んでも煙に突っ込むみたいに通り過ぎれた。

 部屋の扉を開けると、馬鹿長い赤絨毯の廊下が視界に広がった。どうやらグウェンの部屋は一番突き当りの角部屋らしい。日当たりいいと思ってたんだよね。


「モモカ、貴女あの女狐がどこにいるかは分かって歩いていますの?」


 長い廊下を真っすぐ歩いていると、右後ろから浮遊しながら付いてくるグウェンが言う。


「知らない。どこにいるの?」

「…教えませんわ」


 にやりと不敵に笑いながらグウェンは言うので、歩みを止めずに返す。


「別にいいよ、探検ついでに探すから」

「え? は? 探検?」


 素っ頓狂な声が面白かったが、笑うのを堪えて返す。


「うん。だって一年はこの家で暮らすことになるんでしょ? だったら部屋とか地形を把握しておいたほうがいいよね」


 初めて入ったダンジョンのマッピングは隅々までする派なのです。正答ルートだと思ったら引き返して、違うルートにも行きたがりなのです。

 

「だ、駄目ですわよ! 本館には入ってはいけない部屋がありますのよ!」

「自分の家なのに開かずの部屋があるの? え、どこどこ」

「目を輝かせないでまし! わかりましたわ。教えますわ。教えますから探検はやめてくださいまし!」


 自宅散策されたくないのか、グウェンは観念した。


「むぅ…ま、いっか。あっ」

「な、なんですの」


 グウェンは碌な思い付きじゃないんだろうなとの表情を浮かべていた。


「宝物庫は自分で探すから言わないでね」

「そんなものありませんわ!」


 けたたましくグウェンの叫び声が別館の廊下にこだました。


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