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弟と感傷とダンスと(2)

 一回も躓くことなくワルツを踊り終えた。


「お二人共素晴らしい出来です。カミーユ様は未経験とは思えない程ですよ」

「そ、そうかな? ありがとうヨランダ」


 ヨランダが拍手をしている中、グウェンは静かにあたしを見つめているだけだった。踊っている最中も黙って審査員みたいな顔して見ていたし、何か思うところがあったのだろうか。


「凄いですわねモモカ。本当に一回見ただけで覚えてしまうのですわね」


 基本姿勢を解いて、一旦休憩の為に近くのテーブルに置いてある飲み水を飲んでいるとグウェンに言われた。


「まぁ特技だからね。ただこれ会得は早くても伸びしろがないんだよね」


 実は飲み込みは早いのだが、ここからよく伸び悩む。格闘技の師範が言うには、理解が早いが故に基礎を怠っているからだと。だからあたしは基礎に忠実に何かをすることが多くなった。とグウェンに伝える。


「なるほどですわね。私のやっていた基礎固めをすれば、私には及びませんがいいところまでいけると思いますわよ。私には及びませんが」


 自分が上位の存在だと立場を知らしめるかのように二回言ったな。ふふふ、このあたしにしてはならないのは優位だからって喧嘩を売る事だ。あたしは立場が不利でもそういう傲慢な奴に完膚なきまで勝利するのが、異世界転生の次に大好きなんだ。今の発言で、この面白い女を完膚なきまで叩きのめして、足元でわんわん泣かしてやりたくなった。


「フィリップ負かしたら、次、あんたね」

「な、なんですの、その獲物を狙った狼のような眼」

「え、俺…私ですか?」


 グウェンを指さして不敵に笑っていると、その陰からさっきまでヨランダに改善点を訊ねていたカミーユの声がした。


「ほ、ほらモモカが怖い目をしましたからカミーユが怯えているではありませんか! 謝りなさいな!」


 グウェンはビビり散らかして、あたしから距離をとりカミーユの横へと移動した。

 くっこいつカミーユをだしにして、あたしに謝らせようとしているな。


「う…カミーユもいつかあたしと勝負しようね。ってことだよ」

「私が姉上と勝負ですか? それは困りますね」

「こらぁ! カミーユを困らせないでくださいまし! モモカはすーぐ変な事を言うんですから、カミーユ、真面に取り合わなくてよろしいですからね」


 グウェンはカミーユに聞こえていようが聞こえていまいが、実際に三人で会話をしたらこういう態度を取るんだろうな。全く弟馬鹿と言うか、ただの馬鹿と言うか。なんともめでたい奴。見ているだけで救われるよ。

 

「そういえば気になっていたんだけどさ、なんでカミーユは一人称変えるの?」


 救いようのある馬鹿は放っておいて、気になっていたことを訊く。


「えっ…やっぱり気になりますか?」

「まぁ、俺だったり私だったりする訳だしね」

「そうですよね。まだ練習不足なんです。慣れなくて咄嗟に出てしまうのです」

「はー、モモカ、今は俺に変わっていますが、カミーユは元々一人称は僕なんですわよ。それに私は貴族として社交の場での当たり前の一人称ですわ。それを練習しているのですわ。偉いですわね~よしよししちゃいますわ~」


 触れないのでエアよしよしをしながら、いらない情報といる情報を教えてくれた。


「別にあたしの前だったら俺で良くない?」

「そ、そういう訳には行きませんよ。社交界までに習慣付けないといけませんから…」

「そっかぁ。あたしは俺の方が格好良くて好きなんだけどなぁ」


 異世界転生異能バトル系の主人公みたいでカッコイイじゃん。

 グウェンは何もわかってないなコイツとの表情で鼻で笑ってきた。価値観の相違だね。


「そ、それじゃあ姉上の前では俺にします…」


 カミーユが照れくさそうに言ったことで、グウェンが驚いた顔をしてから、声を殺しつつ憎き者を見るかのように睨みつけてきた。


「え、いいんだよ気を遣わなくても」

「もう俺が決めました」


 尋常じゃない睨み方だったので訂正を促すも、カミーユの決心は硬いようだった。

 また覚悟決めてるじゃない! なんの覚悟? ま、いっか。


「さぁ姉上続きをしましょう。ヨランダに改善点を教えてもらったので、今度は俺がしっかりとリードしてみせますよ」


 そう言ってカミーユは、覚悟が決まった男の子の顔を堪能していたあたしの手を握って、ヨランダの方へと引っ張ってくれた。

 背後では般若の面でも被ってるのかと形相を変えた嫉妬の怨霊が生まれていた。踊っている間は関わってこない…よね?


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