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風呂と危うさと異母妹と(2)

「な…んで……ネェルが?」

「なんでって、御姉様がわたしに会いたかったのですわよね?」

「あたしが?」


 確かにカミーユの件が終わったら会いたいと思っていたけど、会おうと思ってお風呂に入っていたんじゃない。


「そうじゃなきゃ、私の湯浴みの時間に御姉様が入ってくる理由がありませんわ」

「ネェルの湯浴みの時間? ちょっと待っててくれる?」


 あたしはネェルをその場に置いて、髪の毛の水分を落とすのもせずに、背泳ぎしているグウェンへと近づく。


「ねぇお風呂って時間制なの?」

「そうですわよ。まさか一日中湯が張ってあるとでも思っていたんですの?」


 天井を見ながら遅い事実をさも当たり前のように言うグウェン。


「じゃああんたはネェルがお風呂に入る時間だって知ってたわけだ」

「え! ネェル!?」


 浮いていたグウェンは驚き顔になって立ち姿勢に戻り、ネェルを探し、探しあてたところで眉を顰めた。


「こ、この時間はカミーユがよく入っている時間ですわ。ネェルの時間ではありませんわよ。まさかあの子…」


 神妙な顔つきになってしまったグウェン。


「カミーユの時間に入らせないでよ! ばったり会ったらどうするのさ」

「その時は御身体の洗いっこをしてあげればよろしいのですわ」


 親指立てて屈託のない笑顔で提案することじゃない。


「なんで洗いっこしないといけないのよ! カミーユがまたトラウマになるわ!」

「そ、そんなことありませんわ! 昔はよく一緒にしてましたもの!」


 未就学児の頃の結婚しようを本気にするタイプの亜種だこいつ……。

 いや、いいよね、約束が実るのは、王道展開で好き。けど、なんかグウェンのは下心を感じる。


 恥ずかしげもなく言うのは置いておいて、妙に興奮気味に食い下がってくるのがなんだか気持ち悪い。

 こいつもしかして、カミーユと一緒にお風呂に入りたかったんじゃないか。思春期真っ盛りで、なおかつ最近までちゃんと接していなかった姉弟で裸のお付き合いだぁ? 本気かこの女。………本気っぽそう。


「御姉様、どうかされましたの?」


 グウェンと会話していると置いてけぼりにしたネェルが寄ってきていた。一人で湯船に喋りかけている奇人と思われるのは癪なので、それっぽい言い訳をしよう。


「お、お湯の温度を確かめていたの」


 ぐるぐると湯を混ぜながら誤魔化しておく。


「そうでしたの? なにか洗いっこがどうとかと仰っていましたが」


 風呂場だから響いたのか聞かれていた。


「そう! ネェルと洗いっこがしたくてね!」


 咄嗟の言い訳でグウェンの願望が混ざってしまった。これじゃあグウェンの事をとやかく言えない。……いや女子同士だし、姉妹だし、別に疚しくはないか。


「まぁ、嬉しいわですわ。私も御姉様と洗いっこしてみたかったのですわ」

「うんうん。じゃあ先に洗面台へ行っていてね」

「わかりましたわ」


 ネェルは嬉しそうに洗面台へと向かって行った。

 ネェルを虐めているはずなのになんでこんなにも普通に接してくるんだろう。虐めてくる相手には嫌悪や畏怖の感情があるはずだけども、そんなのを一切感じさせず仲の良い姉妹みたいだ。


「ちょっ、モモカ、あんまりネェルと接するのは良くなくてよ」


 いつもの尊大な態度ではなく、どこか怯えたようにグウェンは言う。


「なんでよ。あんたは虐めているんでしょ。あたしが虐めるのが駄目ってこと? そこは安心してほしいね。あたし虐めが大っ嫌いだからさ」


 嫌いなものは何? って言われたら戦争の次くらいに嫌い。次点で納豆。


「そうでしたけど、違うのですわ。あの子は……危険なのですわ」


 思いつめたようにグウェンは言った。言葉を選んでいたようだけど、意味が分からなかった。

 自己解釈すると、虐めなくてもネェルに近づくのはシュザンヌの怒りに触れる事になるから、危険だと教えてくれているってことか。優しいのか優しくないのかよくわからん奴。


「大丈夫じゃない?」


 シュザンヌの怒りに触れたところで、これまでの積み重ねがあるから関係ない。


「御姉様ー、早くですわー」

「はいはーい」

「モモカ! もう、私は忠告しましたわよ!」


 ネェルが呼んでいるので、心配性でお優しいグウェンは放っておいて、ネェルとの洗いっこの時間を堪能することにした。


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