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転生と幽霊と悪役令嬢と(2)

 ん。なんだこれ。異世界転生なのに、転生体の幽霊に命令されているぞ。

 異世界転生ってチートスキルもって魔王倒したり、不遇なスキル持って追放されたり、気ままなスローライフを送ったりするんじゃないのか。この導入じゃ異世界転生ものでも悪役令嬢ものの導入だと思うのだが…。

 あたしは悪役令嬢ものはジャンルとして知っていて、内容はさわりの部分程度にしか知らない。あんまり食指が動かないジャンルだったと言える。


「えっと話をまとめると、このままだと死ぬのが確定していて、その死の運命を回避するためにあたしが頑張るってこと?」

「簡単に言うとそうですわね」


 胸の前で腕を組んでグウェンは頷く。


 はは、嘘でしょ? 異世界転生だよ? それが悪役令嬢転生?

 いいや芹沢百歌諦めるにはまだ早い。まだ決まった訳じゃない。


「この世界にチートスキルやステータスオープンはないの?」

「チートスやステタスは知りませんが、魔法や魔術はありますわよ」

「えっ! じゃあじゃあ魔王とか魔物とかいるの!」


 消沈しかけていた気持ちを取り戻して、ちょっと前のめりになる。

 魔法と魔術があるんだったら、異能バトルできちゃうじゃない。


「いませんわ」


 だが非情にもグウェンは言い切った。


「は? だって魔法とか魔術があったら、魔力があるってことだから、それに侵された自然生物がいるものでしょ?」


 こちとら予習してきたんだよ。

 だけどやっぱりグウェンは否定する。


「魔力で自然生物が魔物になっていたのは私の曾曾曾御爺様の代の出来事ですわ。現代では調和の女神様が降臨なされたので魔のつく人間にあだ名す生物は根絶しましたわ。それにしても貴女以外と博識ですのね。 これなら安心ですわ。一緒に死の運命を回避しますわよ!」


 高らかに笑ってもおかしくないくらいな宣誓だった。対してあたしはあからさまな不満を表しながら答える。


「やだ」

「ですわよね! ……え? いや?」


 グウェンは目を丸くさせて自分の耳を疑いながらも聞き返してきた。


「うん。いやだ」


 不満を存分に乗せて言ってやった。

 あたしが不満なのが意味が分からないとの表情で詰め寄ってくるグウェン。


「どっ、どうしてですの!」

「だってあたしは異能バトルがしたかって、悪役令嬢の死の運命を回避するのなんか望んでない」


 ロールプレイングやローグライク系統の転生物が良かったのに、アドベンチャーやノベル系統だと異能バトルにならない。転生失敗だ。次に期待です。


「んなな、何を言ってますの!? このまま時間が経てば死ぬのですわよ!」

「異能バトルが無い異世界なんて死んだ方がましよ~」


 やる気が無くなったのでベッドに横たわりつつ言う。


「なんてことを仰いますの!? あなた気が狂ってまして!? 絞首台に上がった時の絶望感を知らないからそんなことを言えるのですわ!」


 今にも掴みかかってきそうな勢いで顔の前で必死に言われた。

 そりゃあ絞首台に上がるなんて現代じゃないけど、首に縄かけた状態で仕事していたようなものだしな。あたしは次があるって信じていたからこそ絶望はしなかったけども。


「だって……じゃあさ、グウェンは魔法か魔術が使えるの?」


 言い返してやろうと思ったが、涙目になっているグウェンが可哀そうになったので、異能バトルへの希望を見いだせる質問をする。


「ま、魔術は嗜みがありますわよ」


 目を泳がせながら言うグウェン。


「ファイアの魔法を撃ったら、実は最強のファイアだったりする?」

「そんな上級魔術は使えませんわ。できてキュキュですわ」

「なにそれ不遇魔術?」

「お皿の油汚れだけを弾く魔術ですわ」

「つかえなっ!」


 肩にかかった髪の毛を払いながら自信満々に言うもんだから、最強魔術なのかと思ったじゃん。


「んななっ! シェフには便利だって褒められましたわよ!」


 確かに日常では超便利~、油汚れって頑固だよね☆ って違うわ!


「あたしは異能バトルがしたいの! 血で血を洗うような異能バトルがしたいの!それが皿を洗う魔術しか使えませんってさぁ。あたしはその為に三日徹夜を月に四回してまでして転生してきたのにさ! なにこれ! お嬢様学園異能バトルとかにならないの!?」


 ベッドの上で駄々をこねる。大人気ないし、グウェンにとっては酷い事をしているのも承知だ。

 現世での普通の人からすればかなり不幸な出来事も、転生できると信じてやまなかったから過ごせてきたのだ。せっかく転生してきたのにあんまりだよ。夢破れたんだよ、唯一の心の支えを失ったんだよ、逃避して駄々もこねたくなるよ…。


「また訳の分からないことを……あのですわねバトルはバトルなのですわよ。私の死の原因は異母が異母妹を皇妃にする為に、目の上のたん瘤である私を謀った事が原因ですの! 私とモモカの命を賭けたバトルなのですわよ!」


 異能バトルはできないけど、異母との計略勝負は出来るのか。


「……あんまり燃えないなぁ」

「状況分かってまして!?」


 耳元で大声で叫ばれる。グウェンの声は甲高くて耳を劈くので、これ以上叫ばれたくないから生返事のように提案する。


「んじゃあその異母を謀をさせない程にボコボコにすればいいんじゃない?」

「貴女元々は蛮族でして!? そんなことをすれば異母の精鋭護衛に捕まってあれやこれやと最終的に処刑台ですわよ!」

「その精鋭護衛もボコボコにすれば?」

「なんでそう野蛮な方向へと持っていくんですの!? 自慢じゃありませんが私はそれ程体力に自信はありませんわよ!」

「だろうねぇ。腕やお腹の肉の付き方でわかるもん」


 今はコルセットでぎっちりと締まって苦しいけど、腹はちょっと余分に肉があって、それは筋肉じゃない。腕の肉の筋肉はあんまりないし、強いて言うならふとももは胸同様太ましい。こっちは若干筋肉がついている。

 まぁだからといって、この身体で大の大人と格闘するなんて無理な話。


「……貴女は武術に心得がありますの?」


 怪訝そうに尋ねてくるグウェン。


「色々とやっていたよ」

「お強いんですの?」

「んーわかんない。目は良いって言われたけど、それだけだよ。実戦では想定するなら相手と対峙してみないとなぁ。それに魔術とか使われたら不利だろうしね」


 日々の妄想でもしも序盤に魔術が使えなかった時の備えとして、色々と格闘技を齧った。もちろん身体も鍛えたけど、転生して身体が変わるんだから鍛える意味はあんまりなかったなってちょっと後悔している。


「そんな目測で戦おうとしていましたの……」


 グウェンに憐れむ目で見られた。

 馬鹿の一つ覚えで突撃するんじゃなくて、ちゃんと算段つけて戦うっちゅーの。


「何事もやってみなきゃ分からないでしょ。それに死んだら、また違う誰かを転生させて頑張ってよ。あたしはまた違う転生体に転生するよ」

「あ……そういうことですのね」


 なにか理解したようでグウェンは手を鳴らした。あたしはちょっと唸ってから聞き返す。


「どゆこと?」

「さっきも言いましたが、女神様が与えてくれたチャンスは一度だけですわ。それは貴女、モモカにも適用さているらしいですわ。つまり私もモモカにも次はありませんわ」


 瞬きを何度もしながら、グウェンの言ったことをゆっくりと咀嚼する。

 時間をかけてから、唾を大きく呑み込んで。


「……つまり死ぬと、あたしも死ぬ?」

「そう言っていたつもりでしたわ」


 鷹揚にグウェンは頷く。


「違う身体に転生もなし?」

「一回だけらしいですわ」


 これまた鷹揚に頷く。


「あたしは元の世界に戻れない?」

「死を回避すれば、女神様に直接会えますわ。そこで報酬を貰いなさいな」


 場に静寂が訪れる。

 あたしは転生後も死んだらまた転生できると思い込んでいた。確かにそんな前例は滅多にないけど、気に入らなければチェンジは一回くらい使えてもいいじゃないか。だけど使えないらしい。女神様とやらはあたしの事をグウェンに課す試練か何かと思っているのだろう。


 とにもかくにもグウェンが異母に殺されるのを阻止すれば、あたしが異能バトル異世界転生を果たせる可能性がある訳だ。

 寝転がるのを止めて、起き上がってから気合を入れなおした。


「よし。話を詳しく聞こうかな!」


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異母母てなに?
2025/06/11 00:19 退会済み
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