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頭痛と倦怠感と筋肉痛と


 目を覚ましたのは自室のベッドの上だった。薄暗い室内で、あたしには似合わない天幕付きのダブルベッド級のベッド。なんか視界の端にチラチラと見切れるものがあるので、そちらを向くと、グウェンの脚があった。死人に足向けられてるとか史上初の体験。


 手で払ってから身体を起こすと、妙な倦怠感と筋肉痛と酷い頭痛がした。


「あったまいたっ……」


 掌でおでこを抑えながら痛みを紛らわす為に呟く。この頭痛の感じは前世で知っている気がするが、寝ぼけた頭では思い出せない。


「起きられましたか。調子はいかがですか?」

「のわっ! びっくりしたぁ、ヨランダか……ってなんでヨランダが?」


 暗闇に溶けるように隣で椅子に座っていたヨランダに驚く。なんで専属使用人は心臓に悪い登場の仕方しかできないんだ。


「お嬢様を気絶させたのは私ですし、介抱するのも私の仕事の内です。それで調子は如何ですか?」


 あたしを一発で気絶させるなんてやり手だ。


「怠さと筋肉痛と、すんごい頭痛いかな。なにこれ」

「熱はないようですね。筋肉痛は言わずもがなですよね。怠さは魔力の使い過ぎだと推測できますね」


 おでこに温かい手を当てつつ推測された。


「魔力の使い過ぎって、あたし魔術を使っていないけど」

「ダンスの自主練習をなさっていましたからね」

「なんで自主練で?」


 問い返すと小さいため息が聞こえた。また何か言っちゃいました?


「……一人のダンスは魔力を流す相手がいませんから、ただ体外へ放出するだけになります」

「なるほどな。魔力の使いすぎは分かったけど、この頭痛も?」

「いえそれは二日酔いかと」


 あっけからんと言うもんで、一瞬だけ理解が追いつかなかった。


「ふ、二日酔い? お酒飲んでないけど……あ、魔力酔いってこと!?」

「魔力酔い? は知りませんが、お嬢様が最後に口にしたシュークリームはジョンが個人的に試食用に作っていたウィスキー入りのシュークリームだったのです。ジョンめが間違って入れてしまったようで。それを口にしたお嬢様は酔われてカミーユお坊ちゃまに襲い掛かっていましたので止めた次第でございます」


 あーこれ二日酔いか。飲み会で同僚に飲めや飲めやと注がれてゴクゴクとジュースのように飲んだ後になるやつか。覚えがある訳だ。

 にしてもカミーユに襲い掛かった? 覚えがない。


「え、でも待って、入っていても少量でしょ。そんな量で二日酔いになる?」

「おそらくお嬢様はアルコールに対しての耐性が殆どと言ってないのでしょう。しかもお嬢様は悪酔いなさる性質ですので、今後アルコール類に近寄るのは厳禁です」


 あたしの身体だったらそんなことないのに、このへっぽこお嬢様の身体は酒に弱いのか、社交界での飲酒はどうしたらいいんだろう。ノンアルコールとかあるのかな、なかったらソフトドリンクか水かな。

 まぁそんなことよりもだ。


「そういえば今何時? あたしって何時間くらい寝てたの?」


 あたしの問いかけの答えを示すように、立ち上がったヨランダは裾の長いカーテンを開けた。

 朝の陽ざしがあたしを突き刺したので目を細める。


 そう朝。


「午前十時です。お嬢様は十五時間ほど寝ておられました」


 わーお十五時間睡眠なんていつぶりだ。流行り風邪ひいた時以来じゃないか。自分がそんなに寝れたことに驚き。


「ではお嬢様、お身体を拭きますので、お召し物をお脱ぎください」


 天幕で仕切りを作りながら言うヨランダ。


「え、いやいいよ、それくらい自分でできるもん。てかお風呂に行けばよくない?」

「あぁお伝えしていませんでしたね。お嬢様は謹慎処分中でございます」

「謹慎処分? どゆこと!?」


 自宅で絶対に聞かない単語に驚きを隠せるわけもなく。


「ネェル様への嫌がらせ。フィリップ様との勝負。カミーユ様の拉致および器物破損。昨日これだけをしておいて、旦那様がご寛容でいられるとでも?」


 ネェルに嫌がらせしていないのにしたことになってる! あたしがこの身体に宿る前にやりやがったなグウェン。そのせいで仏の顔も三度システムが発動してるじゃん。


「それは…そうだけど……謹慎処分って別館内とかは歩いていいんだよね? 外に出るのが駄目なだけだよね?」

「はぁ……時間がかかりそうですね。お嬢様の行動範囲はこの部屋だけです」


 やれやれと首を振って告げられた。


「ええっ! じゃあお風呂とかトイレとかご飯とかどうするの!」

「湯あみは身体を拭きます。催したのなら付き添いの元なら許可されています。お食事はこちらに持って来させます」


 刑務所生活か!

 入所したことはないから知らないけど、もしかしたら刑務所より拘束されていない?


「本来は自習室行きですが、カミーユ様の嘆願もあり、この程度の処置なのですよ」


 カミーユ、姉想いのできた弟だことだ。嘆願してくれたってことは、一時的なものじゃなくて、ちゃんと確執は取り除けたみたいで良かった。それに襲ったことも水に流してくれているってことだよね。


「あ、そうだよ! ダンスの練習どうするの、今日から教えてくれるんでしょ」

「元気がよろしいのは良い事ですが、謹・慎・処・分・中。で、ございます」


 目が笑っていないヨランダの顔に怯んでしまう。


「わ、わかりました。大人しくします、はい」


 これ以上やらかしてしまうと、シュザンヌに弱みを見せることになって、もしかしたら家から追放されかねない。そうなれば追放系異世界転生になるのか? それもありか? でもこの身体、魔力高めないと一人で生きていけなさそうなんだよな。大人しくしてよ。


 大人しくすると決めたら、腹の虫がくるると鳴った。


「お身体を拭くタオルとお食事を持ってきます。大人しくしていてくださいね」


 部屋から出るなよと釘を刺された。グウェンって信用無いんだね。


 倦怠感が抜けないし、筋肉痛だし、本日は身体を休める日と言うことにしておこう。

 あたしはヨランダが帰ってくるまで、ふかふかのベッドに身体を預けなおす。


 邪魔だなこの脚、いつまで寝てるんだよ。


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