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父と気持ちと悪役令嬢と(2)

「フィリップ君と勝負すると言うことは、新たにカップル候補が必要になるのでしょう? 誰か候補はいるのですか?」

「えーっと、一応は目星として一人」

「それはそれはグウェンがフィリップ君以外の男性と踊るところが見れるのは楽しみですね。わたしの知っている方ですか?」


 イザークがとても嬉しそうに目を細めて訊ねてきたので、あたしも嬉しくなって力強く答えた。


「はい! カミーユです!」

「お、お馬鹿さん!」


 なんで馬鹿って言われなきゃいけないんだとの目線を送ろうとしたら、理由が分かった。

 イザークの表情がさっきのブチギレの笑顔に戻っていた。


「どうしてカミーユの名前が?」

「えっ、えっ、だってカミーユしかあたしに見合うのがいないから?」


 他の男性なんてあたしは知らないし、これから知り合っている時間もないのが本音だけど。


「それはカミーユは了承していることなのですか? グウェンドリンの独断専行ではないのですか?」

「うぐっ」


 流石は一家の家長、一番言われたくないところを的確に言うじゃない。


「や、やだなー独断専行なんて、交渉中ですよ、交渉中。その為にシュークリームを作って貰ってるんです。それで一緒に食べて、お話ししようかなーなーんて」


 情報を喋る事にお父様の左眉だけが吊り上がっていくんだけど、どうやっているのそれ。


「ジョンシェフに無理矢理にシュークリームを作らせて、それをあたかも自分の手柄かのように持参し、引け目のあるカミーユに付け込んでカップルを組ませる……ということですか?」


 どうしてそうなるの!? あたしって、いやグウェンって父親から見てもそんなにも自分中心なの!?


「そ、それは飛躍し過ぎです! ジョンさんは快く手伝ってくれてますし、別にあたしの手柄とは思ってないですし、カミーユは……確かに拒絶されましたけど、ちゃんと話せば昔のように戻れるって思うんです!」

「まるで他人事のように言うのですね」


 その言葉はあたしには刺さらない。だって他人事だもん。

 だがしかし隣のグウェンはこの世の終わりかという顔をしている。今にもまた「無理だ」「止めましょう」とかのネガティブな事を言いだしそうだ。


 グウェンは普段は強気な癖して、自分が起こした不祥事になると弱気になるところが、嫌いになれないところかな。恥ずかしいからまだ本人に対しては言わないけど、あたしは人間味があって好きだ。


 そもそもあたし的にはちゃんと話せばカミーユとは仲直りできるとの確信がある。

 だから生前は勇気を出さずに見ないふりして逃げていたグウェンの尻をあたしが蹴り上げるんだ。


「このままじゃ他人になっちゃいますから。だからこの機会に、あたしはカミーユと仲直りします!」


 拳を握って宣言すると、イザークは肩を竦めた。


「……グウェン。また一方的になっていますよ。カミーユの気持ちを汲んであげなさい」

「そ、そうですわモモカ、カミーユも嫌がっていましたし何も無理には――」

「カミーユの気持ちを汲んだからです!」


 グウェンの湿ったような言葉をかき消して叫んだ。


「ど、どういうことだい?」


 イザークは理解できずに訊ね返してくるので、あたしは同じ声量で続ける。


「カミーユはあたしの事が好きです!」

「へ、は? 何言ってますの?」

「何を言っているんだい? 確かに昔はグウェンに着いて回っていたが、今はもうカミーユも大きくなったのだよ」


 親子揃って理解不能といった様子。まだ続ける。


「あたしは大きくなってもお父様が好きです!」

「んなな、何をさっきから言っていますの!?」

「そ、それは嬉しいけども」


 照れくさそうに言うイザーク。まだまだ続ける。


「だから大きくなっても好きって気持ちは変わらないんです! あたしは大きくなってもお父様が好き! つまりカミーユも大きくなっても、あたしを好きって気持ちは変わらないんです! あたしが証明です!」


 胸の前に握りこぶしを作って、証明を終了した。


「「・・・・・・」」


 二人ともに絶句される。簡単には吞めない理論を言っているのは重々承知だ。

 人を嫌いになるのって簡単だ。人を好きになるのも簡単だ。難しいのは嫌いを好きに変えるのと、好きを嫌いに変えることだ。何もないニュートラルから始まった好き嫌いはちょっとやそっとじゃ変わらない。これは持論と経験論!


「たしかにグウェンの言うことには一理はありますね」

「ですよね!」


 黙っていたイザークがポツリと肯定的な意見を言ったので、あたしは笑顔の花を咲かせた。


「わたしとしても当の本人達が解決しないのであれば、二人共が成人するまでは一旦は静観しているつもりでしたが、グウェンが本気でカミーユとの関係を戻したいと言うなら止める理由はありません」

「やった! オトウサマ大好き!」

「わ、私のお父様ですわよ! 私の方がお父様の事が好きですわ!」


 あたしはおべっかのつもりなんだけど、グウェンは頬を赤らめながらも言っているため大真面目だ。よく大真面目に人前で言えるな。羨ましい。


「ただし人間の感情は傷つきやすいものですよ。肝に命じていなさい」


 今日一番の釘を刺すような眼で言われた。


「はい! グウェンドリン命じました!」

「敬礼はやめなさい」


 イザークの圧が凄すぎて敬礼して答えてしまっていた。昔出会った田舎の兵隊だった曽祖父並に怖いんだもん。


「この後に会いに行ってカミーユがどうしても会いたくないと言うなら、本日は無理に会うのはよしなさい。後日、わたしが説得して場を設けてあげます」

「わかりました」

「お説教は終わりです。行っていいですよ」

「ありがとうございます。失礼します」


 お辞儀をして書斎を後にする。


「モモカ。貴女凄いですわね。あのお父様と対等に建設的な話し合いができるとは思いませんでしたわ」

「あたしが直情的な馬鹿だと思っていたってこと?」


 部屋を出て廊下を歩いていると、グウェンが心外なことを言ってきたので、ジトっとした目で返した。


「ち、違いますわよ。それに感情的になりやすいのはどちらかと言うなら私の方ですわ。お父様の言うことは正しいですわ。正しいからこそ、私は反発してしまい、いつもお話にならないのですわ」


 十七歳って第二次反抗期の期間だったか?

  まぁ正しさで押しつぶされそうになったから、口にチャックできないグウェンは、反動で感情的な言葉をぶつけてしまったのだろう。世の中正論だけでは解決しないもんねぇ。解決したいなら相手に寄り添わないとね。

 でもイザークは娘にも嫁にも寄り添って、板挟みになって苦労してそうだ。そりゃあ白髪も増える。


 それにしても割とグウェンの性質分かってきたかも。


「モモカは強いのですわ。強引で横暴な部分はありますけど嘘を含みませんわ。その証に言葉が芯に響きますのよ」

「褒めるか貶すかどっちかにして」

「ほ、褒めてますのよ!」

「ホントかなー」

「本当ですわよ! 本心ですわよ! もう! 揶揄わないでくださいまし!」


 ジト目を継続しながら言うと、グウェンは口を尖がらせてしまった。


「じゃああたしも本心から一言」

「な、なんですの」

「グウェンは優しいね」

「へ? やさ……しい?」


 初めて言われた言葉のようにきょとんとするグウェン。どうやら自覚は無いようだ。


 あたしがシュザンヌに会いに行くと言った時、嫌な気持ちになるから行かない方がいいと止めた。普通はあの状況、自分が嫌な思いをするから行きたくないと言えばいいのに、あたしを気遣ってくれた。

 使用人からも嫌われている訳じゃないし、なんなら好感がある。本当に嫌われていたら表情と態度の機微に出る。

 カミーユの件も、カミーユがこれ以上傷つかないようにグウェンなりの思いやりで離れている。

 グウェンの発言からは節々に思いやりを感じる。それを無意識化でやっているのならば、根が優しいのだ。


「お、おほん。わ、私のどこが優しいのです? お、仰ってみなさいな」


 声が上ずっている。嬉しさ半分恥ずかしさ半分と言ったところかな。

 褒め上手じゃないくせに、褒められ待ちとは傲慢な奴だ、けしからん。


「へへ、教えてあげなーい」


 悪戯に笑ってあたしは廊下を速足で歩きだす。


「かっ、揶揄いましたわね!!!」


 顔真っ赤にして叫んでいても、その声はあたしだけが聞こえる特権だ。


 しかしそんなグウェンがどうして異母妹であるネェルを虐められるのだろう。

 やりたくてやっている訳ではないと言っていたが……カミーユの件が終わったらネェルにも会ってみないとな。


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