表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/102

父と気持ちと悪役令嬢と


 イザーク・ド・ラインバッハ。それがグウェンの父親の名前。この屋敷の家長。屋敷外ではこのラリア皇国の財務大臣で、ラインバッハ領を代々統治しており、かなりお国の重役を担っているお人である。不肖平民生まれのあたしはそんな雲の上のような存在の人を父として接しなければいけない。


 イザークの性格は厳格であり、曲がった事が嫌いのようだ。


 グウェンはイザークの事を敬愛し、尊敬している。例え傍から見ると別館に追いやられている状況でも、父として慕っている。

 イザークもまたグウェンの事を愛している。溺愛程ではないが、子供たち全員に均等に愛をばら撒くくらいだ。シュザンヌのように贔屓はしない。


 因みになぜグウェンが追いやられたかとの理由は、どれだけ諫めてもシュザンヌと顔を合わせると喧嘩する為、グウェンに打診したらしい。グウェンは父の為ならと渋々飲んで、あの部屋でこれまで過ごしてきた。まぁ頻度が減っただけで喧嘩は継続中なのだけども。


「グウェンドリン。自分が何をしたのか言ってみなさい」


 グウェンに甘いんだったら、別にそんなお咎めもないだろう。って入ったらこれだ。


 背筋が伸びて胸を張った綺麗な姿勢の、スクエア眼鏡をかけた壮年の男性が窓を見ていて、入室してどうしたものかと、その場に立っていたあたしに対して横目で睨めつけるよう言った。

 白髪だらけのおじさんなのにヴィクトルよりも鬼気迫る気迫がある。


 射抜かれたあたしは姿勢を正して起立……屹立……規律正しくした。なぜかグウェンも同じように横で姿勢を正していた。


「言いなさい。それとも言えないことなのですか?」


 イザークは窓の方からあたしの方へと向いて、目尻に皺を作った笑顔で優しく言った。敬語で圧かけられるのは怖すぎる……。


「は、早く言うのですわ。お父様は三度なら許してくれますわ」


 なにその仏様システム。なんて言っている場合ではない。弁明しないと。


「ヴァロウヌ家の長男のフィリップさんとのカップルを解消し、今度の舞踏会でダンス勝負をする約束をしました!」

「それで?」

「そ、それで? えーっと、勝負事の報酬としてフィリップさんが勝てばフィリップさんとの婚姻を進め、あたしが勝てば名誉を傷つけたことを謝罪してもらうと取り決めました!」


 そこまで言うとイザークはワザと靴音を強調させて、あたしの前まで移動してくる。


 ぶん殴られるのか。そんな事を思って歯を食いしばる。だからグウェンは真似しなくてもよくないか。


「グウェン。よく言いました」

「はい! はい?」


 イザークは大きく頷いて言った。

 あたしの頭の中がはてなで埋め尽くされた。だってすんごい雷落とされるんだと覚悟していたし、頬がパンパンに張れるくらい修正の拳飛んでくるとも思っていた。だからただありのままの事実を言っただけで、褒められたのが不思議でならない。


「えっとお説教ですよね?」

「説教をしてグウェンの薬になったことはありますか?」

「ないですわね」


 胸張って誇れないことをなに誇ってるんだか。

 なんだよ優しいお父さんじゃないか、気迫が凄すぎて寿命縮んだよ。


「ない……です。だったら何で呼び出しを?」

「グウェンの口から聞いておきたかったからですよ。かけなさい」


 イザークは窓側にある豪華な椅子に座って、書斎机を挟んだ先にある椅子に座るように指示してきたので、指示通りに座った。


「お、怒っていないんですか?」

「怒ってはいますよ」

「えっ」


 ニッコリとした笑顔で言うもんだから嘘だと思ってしまう。けど怒りのオーラが出ている気がするので信じよう。


「女人の身でありながら男性に勝負事を仕掛けたのもそうですが、勝負事の為にヴァロウヌ家を侮辱したのは褒められたことではありません」

「す、すみません」

「吐いてしまった唾がいずれは自分に引っかかる事も考慮しなさいといつも言っていますね?」

「は、はいですわ…」


 いつも言われてあの感じなんだね。


「だけど…許せなかったんです」


 噛みつくつもりはなかったけど、想いを知っておいて貰おうと口にした。


「耐え忍べないくらいですか?」

「はい。あたしにとっては家名を冒涜されたと同じくらい許せませんでした」

「モモカ…私のことをそこまで大切に……」


 潤った目でグウェンに見つめられる。あぁいや、確かに友達馬鹿にされてムカついたのもあるけど、あたしの矜持が高かったってだけなんだけど……まぁいいや。


 イザークの目があたしの目の奥を覗き見る。それはまるであたしの言葉の中にある思考を見透かすような目であった。


「そうですか」


 あたしの本気を受け取ったイザークは視線を外した後に、長く目を瞑って何かを思案していた。

 暫くして目を開けた。


「わかりました。諸々の事はヴァロウヌ卿と話をつけておきます」

「お、お父様!」

「ありがとうございます」


 グウェン共々に感動に胸打たれて頭を下げる。この人この屋敷の中で一番話が分かる人だし、実は一番の味方だったりするんじゃないか。なんでこの人に頼らなかったんだよこの悪役令嬢。・・・悪役令嬢だから人に頼らなかったのかな。


 悪役令嬢って取り巻きとかいるイメージだけど。

 グウェン友達いなさそうだもんな。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ