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グウェングウェングウェン

 僕はなんでも持っている。

 富も美貌も権力もだ。


 具体的に言ったら自慢になってしまうかって? 自慢なんてそんなありきたりなものじゃなくて、これは僕、フィリップ・ド・ヴァロウヌが持つべきものであり、普遍なんだよ。


 富は侯爵家だから、民から徴収した税がたんまりとある。それに父上がラインバッハ卿と懇意になさっていられるから、多少の荒使いをしても都合がきくと言うものだ。


 美貌はいわずもがな。男には嫉妬され、僕と顔を合わせた女性は、直ぐにでもとろんと蕩けた女の顔になる。甘い言葉を囁けば、女性たちは甘さにやられて吐息を吐いて身を寄せてくる。両手に花なんてお茶の子さいさいだ。


 権力は上記した通り、侯爵だ。それに僕は長男であって、いずれ家長になる者だ。

 人の上に立つ為に、人を従わせる為に、人を掌握する為に生まれてきた。選ばれし男なのだ。


 にもかかわらず。僕には頭の上がらない許嫁がいる。


 グウェンドリン・ド・ラインバッハ。公爵家の長女だ。

 お判りだろう。僕は侯爵で、彼女は公爵だ。いくら世間的に男が女よりも偉くても、生まれで偉さは変わるのだ。

 初めて許嫁が出来たと言われた時、気に入らなかった。そうだろう? 僕よりも偉い女がいて、それがいきなり許嫁だと言われたら、誰だって気が悪くなる。まぁ?皇妃様だって言うならば跪いて、こちらからも快くお願いしたね。


 ラインバッハ家の新しい奥方が、父上との遠い親戚だった為の急な縁談だ。

 どうせ、教養もなく皇子様との玉の輿だけを狙っていて、それが女の誉だと言っている馬鹿な女だろう。僕はそんな女とは二度と会ってやらない。僕を見て、僕に振り向き、僕に靡く女しか必要ない。だから断るつもりだった。


「グウェンドリン・ド・ラインバッハですわ」


 一目見て、雷に打たれた。

 なんだ。この胸の高鳴りは。

 彼女の金髪は金糸で紡がれた織物のように清廉で、赤く輝く宝石を嵌め込んだ瞳に吸い込まれそうで、気が強そうな目尻なのに、細めると慈母のような愛を感じる微笑みになる。凛とした付け焼刃ではない伸びた背筋と、包み込むような女性らしさが大きく判別できる体つき。

 僕が……この僕が目を奪われてしまった。

 挨拶をされただけなのに、まるで一目惚れの如くに目を奪われたのだ。


 彼女は、今まで出会ってきた女性の誰よりも気丈で、芯があり、強情なのが偶に傷だが、それも彼女らしさで、心までもを奪われた。

 ただし、彼女は僕の事は歯牙にもかけていないのが癪ではあった。

 それでも、ダンスのカップルとしても成功し、社交界では有名になっていった。おしどり夫婦になるんじゃないかって噂されていた。

 関わるにつれて、このまま彼女の家に婿入りするのも悪くはないのかもしれないと思い始めていた。


 僕は自分が最も嫌悪する男になっていると気がついた。


 他人任せてで、個を持たずに、流れに身を任せる。そんなの汚物塗れの矮小な存在だ。

 嫌悪する嫌悪する嫌悪する。

 少しでもグウェンに心を奪われて、僕が僕で無くなっていた自分を嫌悪する。


 何やらラインバッハ卿の奥方は、グウェンを屈服させて欲しいようだ。そうしてラインバッハ家をいずれは僕の手中に収めて欲しいとのこと。願ってもいない頼まれごとだった。

 しかしこの女の言う通りに事が運ぶのだけは自尊心を傷つけた。


 あの女の言いなりにはならずに、僕はグウェンを屈服させる。僕無しでは生きていけないようにし、そして僕の方を振り向かせてみせる。


 あぁ愛しのグウェン。必ずその瞳に僕しか映らなくしてあげよう。その血色の良い唇からは、僕に対しての愛の言葉が漏れる様にしてあげよう。

 

 できるさ僕なら。

 だって僕はなんでも持っているのだから。


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