さようならグウェン
『君の顔を最後に見たのはいつだろうか。目を瞑って思い出すと、君と初めて出会った時の事を思い出すよ。金糸を束ねたような上品な金髪に、気品に溢れた佇まい、老若男女の目を惹く姿はもちろん僕の心も奪った。
君は僕の言葉を薄っぺらな言葉だと思っていたようだけど、舞踏会で鼻っぱしを折られて以来は、言葉に嘘偽りはないよ。……って、今までやってきたことや、僕の人柄を含めると信じてもらえるなんて思っていないよ。でも、伝えておきたかったんだ。
今だから言えること、だけどね。僕は君の事が嫌いで、好きだった。君みたいな女性なのに比類なき才に溢れた人間が嫌いだった。その才や境遇を鼻にかけずに同等に扱ってくる君が嫌いだった。
才能じゃなく、努力する天才で、何度も挫けそうになっても諦めない君が好きだった。劣悪な環境でも、根を上げずにいつも変わらず接してくる君が好きだった。
努力する天才なんて書いたら激昂してこの紙を破いてしまいそうだね。君は天才なんじゃない。知っているさ。でも、凡夫な僕や第三者から見ればそう見えるのさ。
君は亡き母君の思いを流布しようと続けていただけ。同じ思いを共感させようとしていただけ。
何で知っているのかって驚いているのかい? 伊達に君とずっとカップルをしていただけあるだろう?
誰かに聞いたわけじゃないよ。ずっと君と踊っていたからこそ、伝わってくる感情だってあるんだよ。
あの頃は君の思いを感じ取ろうとしていなかったから、分からなかったけどね。
「分かってないんかい」ってツッコミを入れながら手紙を投げつけるのは、はしたないと思うよ。投げつけていないのだったら謝るよ。
何にせよ、僕は自分の気持ちに気付くのが遅かったのさ。君がずっと差し伸ばしてくれていた手をなあなあで取って、自分の気持ちだけを押し付けていたんだ。』
……いいや気付いていたさ。ただ思いを言葉にするのがワルツのようにいかなかっただけだね。ここは書かなくてもいいかな。
『贖罪の言葉を述べているんじゃないんだ。往年の蟠りを記しておきたいだけなんだ。そうすることで、僕は僕としていられる。ハッハッハ、嫌な奴だろう? そうだろう? 僕は変わらないよ。君のいない世界で僕は僕として生きていくんだ。
だから君も変わらず幸せに暮らしてくれ。』
「ふっ、僕に言われるまでもないだろうけどね」
筆を置いて手紙を便箋にしまう。宛名も宛先も書かない。
「貴方~! こっちとこっちの衣装どっちがいいと思います!?」
部屋の扉をノックせずにそそっかしい子猫ちゃんがダンスの衣装を両手に持って入ってくる。
「こっちだね。あの時と同じ衣装で負かしてやろう」
「流石ですわ! 今日こそあのカップルよりも私達の方が上だと知らしめてやりましょうね!」
子猫ちゃんは僕の腕に寄り添って頭を押し付ける。本当に愛くるしい奴だ。
僕は何でも持てるけど、両手に一杯持つよりも、片腕で持てるこれくらいが丁度良いのかもしれない。もう片方の手は未来の重さになるかもしれないから残しておかないとね。
「ああ今日こそ僕が勝つ」
そして勝ったら、この手紙を渡してやるつもりだ。
31日 21:10投稿予定です。
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