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結婚式と死の運命と終わりと(11)


「ネェル!」


 倒れそうになったネェルを床に寝かそうとすると、シュザンヌがドレスの汚れなんて気にせずに駆け寄ってきて、自分の身体の中に引き寄せる。


「お前っ! ネェルに何したの!?」

「死なせない為に魔力を吸った」


 シュザンヌの腕の中でネェルは苦しそうに息をしている。死にはしないけど瀕死だ。


「し、死ぬ? 貴女のせいで今死にかけているのに何を言っているの!?」


 甲高い声で責め立てられるのはもうこりごりだ。あたしは大きく息を吐いた。


「あんたがカミーユを火の海に投げたのと一緒で、この子は自ら火の海に飛び込んでいた」

「な、なんで貴女にそんなことが分かるんですの!? あ、貴女は……よく分かりませんがグウェンドリンではないんでしょう!?」

「分かるに決まってんじゃん。あんたら親子だもん」


 あたしは予想しているだけで確信めいたものはない。予想を的中させる確立を上げてくれたのが、ネェルの発言とシュザンヌという存在だ。


「え……」

「その子がネェルじゃなくても、ネェルとして過ごしてきたんだから、少なくともあんたの影響は受けているはずでしょ。実際腹黒いのは変わんないし」

「腹ぐっ……」

「だからあたしはあんた等のその部分を信頼しただけ」

 

 言い捨てると、シュザンヌは睨みつけてくる。

 正直な話、この親子があたしを転生させた元凶である為に、やり場のない拳……もとい怒りを振り下ろしてやってもいい。でもそれはただの自己満足でストレスの発散だ。この状況なんだから、それで何が悪いと思う自分がいる反面、それでは結局一人だけで解決しただけだと甘い部分が顔を覗かせている。


「お母さん……」

「ネェル!?」


 ネェルの擦れた声にシュザンヌは顔を向ける。魔力を殆ど搾り取ったのだ、意識があるのはグウェンへの執念だろうか。しかし、目は虚ろであった。


「お母さん……期待を裏切ってごめんなさい」

「何を言っていますの!? 貴女は裏切ってなんかいませんわ!」

「ごめんなさい。出来の悪い子でごめんなさい」


 譫言のようにネェルは呟く。これはネェルではなく限界まで活動している中にいる人間が出している心残りの言葉なのかもしれない。


「何を……貴女は立派ですわ。こんな桁違いな相手に立ち向かうのですもの、立派ですわ」


 シュザンヌは何かを理解したのかネェルを褒めながら額を撫でた。


 するとネェルは苦しそうにしていた表情を柔らかくして、張っていた力が抜けた。寝息を立てるような呼吸をしているので気絶してしまったようだ。


「この子はネェルではないのですわよね?」

「自分でそう言ってたね」

「貴女も、あの小娘、グウェンドリンではないのですわよね?」

「…………そうだね」 

「…………そうですか」


 シュザンヌはネェルの頬を優しく撫でる。


「私は……あの小娘の母親に慕っているお人を一度奪われたの――」

「おい」

「え? は、いっ!?」


 あたしの叩きが過去を語ろうとしていたシュザンヌの頬を通り抜けた。


「え? え? なんで叩いたんですの?」


 グウェンが長い睫毛を叩いていた。シュザンヌも何故今、自分が叩かれたのかを理解していない顔だった。


「あんたの過去の動機なんて知らない! あとやっぱムカつきが治まらなかった!」

「え、えぇ……」


 顔を引きつらせてグウェンは困惑している。


「それよりも、ネェルを愛してるならもっと信じてやりなさいよ!」

「いやっ…愛していますわ。だからこそネェルが幸福になる為に小娘を亡き者にしようとしていたのですわ」

「じゃあそれ先に言って!」

「い、言おうとしたのに邪魔したのは貴女でしてよ……」

「お、横暴にも程がありますわ……」


 グウェンが額を押さえて項垂れている。

 どうやらあたしは決着ついたことで興奮状態なのかもしれない。まあ色々とあったから興奮するのも仕方ないよね。


「ネェルを幸福にするためにグウェンを亡き者にしようとしていたって、それって結局ネェルを信じていないじゃない」

「それは…………石ころは掃くものでしょう?」

「確かにね~、石で殴ったら痛いもんね」

「ひっ」


 笑顔で拳を作って見せたら顔を青ざめさせてネェルを庇うシュザンヌ。


「こ、これではどちらが悪役か分かりませんわ………」


 ははは、どうやらあたしも悪役令嬢の仲間入りらしい。そんなグウェンのぼやきは放っておく。


「ネェルの為っていいながら、結局あんたは自分の為に行動していたんじゃないの?」

「そ、そんなことは…………」


 シュザンヌは言い返そうとしたが、心当たりしかないようで言葉が続かなかった。

 

 言われたくなかった言葉を突きつけられてシュザンヌはそれ以上何も言わなくなった。言い足りない事は沢山あるし、やってやりたいことも沢山ある。だがこの二人は戦意喪失状態なので、一旦はここで決着をつけておこう。生きている間ならば罪は償える。


「まああんた達には落とし前はつけてもらうとして、もう一人、落とし前つけなきゃいけない奴がいるよね」


 そう言ってあたしは背後にいる男の方へと振り返る。


「こっちは決着ついたよ。次はあんたの番よヴィクトル」


10日 21:10投稿予定です。


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