さようなら御姉様(6)
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「すみませんでした！ あたしにダンスを教えてください！」
普段は落ち着いているはずの御姉様の声が屋敷に響き渡った。
今のは……中庭から？ 確か今日はシュザンヌがフィリップを呼んでいるはずだ。御姉様がフィリップにダンスのレッスンを乞うている？ そんなまさか。
中庭が見える場所から隠れて覗いていると、御姉様とフィリップがダンスバトルをすることになった。
ゲームではネェルとフィリップが組んで御姉様と戦うはずだ。ネェルが、私がいないと発生しないイベントのはずだ。なんで私がいるのにイレギュラーが発生してるの？ どこかで私がエラーを起こしてしまったのかもしれない。とりあえず成り行きを見守ろう。
「カミーユ！ 窓から離れて！」
御姉様がカップルを作る為にカミーユを部屋から連れ出して仲直りしてしまった。御姉様は破天荒だけど、あそこまで破天荒じゃない。やっぱりどこかでエラーが発生しているに違いない。これは傍観者ではいていられない。私が身を持って調査しなければ。
風呂で御姉様とやり取りをしたけど、御姉様らしいと言えば御姉様らしい。でもどこか違和感がある。どこだろう。
違和感の正体を探る為に要観察しなければ。
舞踏会で観た御姉様は誰？ 御姉様っぽいだけで完全な御姉様ではない気がする。
御姉様は王宮へと行くことになったが、私はここに残る事にした。それはゲームの展開を逸脱し過ぎているからだ。
どのルートでもカミーユと仲直りすることはないし、ヴィクトルからは嫌厭されているはずだし、フィリップを絆すこともないし、シャルルと婚約するのはネェルがシャルルのバッドエンドへと向かった時だけだ。なのに御姉様は最善の道を選べていた。
絶対におかしい。私の思うように顛末を操作できるはずなのに、私が動かしていないところで物語が大きく動いている。そうなったのは御姉様の奇抜な行動が増えた時からだ。
ここがゲームと同じ世界で設定に忠実なんだから、私がバッドエンドの条件を満たさない限りはどうやってもネェルのルートに入るのだ。確かにシャルルのバッドエンドルートに入るようにしたけど、他のルートの条件も満たしているのはおかしい。
やっぱりあの御姉様はこのゲームを知っている？ それとも偶然条件を満たす行動をエラーで起こした？
分からない。分からないからこそ、追い詰めてみる価値はある。
シュザンヌとクレマンティーヌとヴィクトルを使って、来る御姉様の結婚式で違和感の正体を暴こう。
違和感の正体を暴くのには結婚式まで待つ必要はなかった。
魔術会で観た御姉様は牙が抜けた獣だった。シャルルとイチャイチャして幸せを振りまくバカップルぶりを見せつけられて、女の顔をする御姉様はメッキが剥がれていると言わざるを得ない。あそこにいるのは御姉様でもなく、グウェンドリンでもない。グウェンドリンの姿形を似せた何かだ。何か悪いものに取り憑かれてしまったんだ。
悪い想像は時にして天啓を授けるのかもしれない。
もしかして……私と同じようにグウェンドリンに転生した人物がいるんじゃないか。
神様が私の為にそう教えてくれたんだ。
そうと思ったら、そうとしか思えなくなった。
シャルルに好意を抱いている奴が……いや他の攻略キャラクターに好意を抱いている奴が私利私欲でグウェンドリンの身体を使って楽しんでいる。そう考えると腸が煮えくり返った。
私の御姉様を私利私欲だけで利用している輩が許せない。
私の御姉様を汚す奴が許せない。
絶対に思い通りにいかせない。本気で阻止してやる。例え誰も彼もが不幸になって死ぬことになっても、私のグウェンドリンから魅力を奪い去る奴には容赦はしない。
私の計画通り王位継承権を持っているヴィクトルはその情報を使って復讐を果たし、私はシュザンヌを使ってグウェンドリンの中にいる不届き者を暴いた。
御姉様は土下座なんてしない。
御姉様は挫けない。
御姉様は諦めない。
御姉様はいつでも御姉様を演じ切る。
お前は誰だ。
私のように姉を演じきれないお前は誰だ。
その姿を私に見せるな。私はそんなの見たくない。それを見る必要がないから、この転生を受け入れたのに、過去の私を見なくて済むから、私を上書きしてくれるから受け入れていたのに。そんな醜悪な過去を忘れたかったのに！
こいつのせいでグウェンドリンが汚された。
終わりだよ。終わりだよもう。私の愛したグウェンドリンがこの世にいないなら、こんな世界いらない。
壊してしまおう。
壊れてしまえ。
消えてしまえ。
………ああそうか、なんで早く気がつかなかったんだろう。
そうだよ………私が観測しなければいいんだ。
この中にいる奴はグウェンドリンを真似て誰も彼もを助けようとしている。私の一番の復讐はそこにあったんだ。
グウェンドリンを汚した罪を償ってもらおう。
お前の大事なモノを全て奪ってやる。
27日 21:10投稿予定です。
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