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転生と幽霊と悪役令嬢と

 あたしの名前は芹沢百歌(せりざわももか。好きなものは三度の飯より異能バトル異世界転生。お給料も全部異能バトル異世界転生系の娯楽へと転生させるくらい大好き。だから私も異能バトル異世界転生系の主人公のように死んだら異世界転生すると信じてやまなかった。


 芹沢百歌としての生を全うし終えたと気がついたのは、会社のオフィスでモニターに映る表を眺めていたのに、鏡に映る金髪美少女を眺めている視界に変わっていたからだ。


 最初は信じられなかった。

 徹夜三日目に突入した頭が見せる幻覚なのかと思ったけど、頬を抓ってみてももち肌触感と軽い痛みを感じる。あたしの徹夜三日目のカサカサお肌とはえらく違ったので、夢ではないと確信する。


 転生体は長い金髪がいやに似合い、異世界転生系の貴族の女性が着るオーソドックスな服を着ている。猛禽類のようなつり目に、羽のように跳ねた睫毛の奥にはキラリと輝く赤い瞳。スキー台のように整った鼻筋。艶めき血色の良い控えめな唇。小顔ローラーで絞ってもこんなスマートな顔にはならない。

 順々に触ってから服越しに二の腕を触ると、全く筋肉がついてなかった。それに胸も重い。どうやったらここまで育つのかは甚だ理解しがたい。これは異能バトルなんてできないていたらくな身体だと判断できる。


 というか神様を通さない突然転生系か。このパターンだと自分の知識でスキルやら何やらを調べる必要がある。いやはや辟易しているんじゃない。これこそが転生序盤の醍醐味とも言える。自分のステータスまたはスキルを見ることで、チートスキルを持っているか、または不遇スキルを持っているか、突出したステータスがあるのかどうか。そんじゃそこらのギャンブルでは味わえない一番射幸心が擽られる瞬間だ。


「ステータスオープン」


 通例と言っても過言ではない言葉を鏡の前で決めポーズを取って高らかに言う。


「……」


 自分の目の前にステータスのユーザーインターフェースが出ることは無かった。

 頭上かと思って頭の上を見ても、一回転して辺りを見回してもそれらしいのは無く、豪華なベットやカーテンに装飾品がある誰かの部屋が目に映るだけだった。


「status open」


 流暢に発音良く言ってみたし、ポージングももっとかっこよくしてみたけど変化は無かった。


「ハッ、まさかこの世界の言語で言わないとステータスが開示されない!」


 言語問題のことを失念していた。

 異世界転生すればなぜかそういうスキルとかなんとかで異世界の言語へと翻訳されていたりするが、ハードモードな異世界転生は言語問題に直面している。でもしかし、あたしの耳に入ってくる声は転生前の自国の聞き慣れた言葉である。


「あなたさっきから何を一人でやっていますの?」


 突然降って湧いた声に驚いて、反射的に声のした背後に裏拳をかましてしまった。

 背後にはあたしと同じくらいの身長をした女性がいた。その女性の顎に裏拳がもろに入るはずだった。だったのだ。あたしの拳は女性の顎をすり抜けた。


「なっ何しますの!」


 驚きの体を見せているのはお互い様だった。

 確実に顎に入ったはずだったのに感触が一切ない。そこに実態として見えているのに、煙を掴むような感じである。


「え……あれ? あたし?」


 よくよく顔を見ると、全く瓜二つのあたしが後ろにいた。


「違いますわ。わたくしが私なのですわ」


 意味不明だった。しかもこの瓜二つのあたしは足が透けて、足元は火のように揺らいで宙に浮いていた。

 

「も、もしかして幽霊!?」

「あら勘がよろしいのですわね。そうですわ。私はその身体の持ち主、グウェンドリン・ド・ラインバッハですわ」


 グゥェンドリンは胸に手を当てて鼻高々に名乗った。

 鼻につくが敵意は一切なさそうなので会話を試みてみることにしよう。


「なんでこの身体の持ち主が幽霊になってるの?」

「説明してもよろしいですけど、まずは貴女も名乗りなさいな」


 幽霊に礼儀礼節を正された。でもその通りだ。


「芹沢百歌。家名がセリザワで、名前がモモカね」


 苗字って言って伝わらないのは日々の妄想で予習済みなので家名と言い換えれて、妄想した出来事が現実になっている実感ができる。


「セリザワモモカ。変な名前ね。モモカって呼ぶわ。私のことはグウェンでいいわよ」

「よろしくグウェン。で、なんで私が貴女の身体に転生して、貴女は幽霊になっているの? そういうのって大体は前世の記憶を思い出した時点で元の人格は無かったことになるのか、記憶として処理されるんじゃないの? というかどうしてステータスオープンできないの? まずは森にいる魔物達とチュートリアルが如くに戦うのが常識でしょ? もしかして貴女がチュートリアルの敵ってこと?」

「まくしたてるように訳の分からない事を言わないでくださる!? 私、敵じゃないですわ! 貴女の味方ですわよ!」


 目をひん剥いて寄って来られたので、どうどうと止めるジェスチャーをして、あたしの知識欲を一時的に封印した。

 グウェンは咳払いをして続けた。


「とりあえず順を追って説明しますわよ」


 話が長くなりそうなので、一人では広すぎるベッドの上に腰掛ける。実家の煎餅布団よりも柔らかくて手触りが良かった。ここで寝たら徹夜の疲れ吹き飛びそう。


「 まず、私は謀によって死にましたわ。ですが私の女神様が時間を戻して一度だけやり直すチャンスを与えてくださいましたの。正しそのチャンスをものにするのは私ではなく、私の身体に宿った人物ですの。私は思念体となって貴女に助言をすることができますが、実行はできませんの。ですから貴女も死にたくなければ、私の死を共に回避するのですわ!」


 人差し指を指して見下すようにグウェンは言った。




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