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8 打ち上げと歓迎会

「それでは、ガルダンジェロの益々の成長とあおい君の活躍を祈念して。乾杯」

 

 ドラゴンの襲来の翌日。ガルダンジェロは祝勝会兼歓迎会のため、コロニーにある飲食店へ来ていた。

 

「隊長かーたーいー。こちとらうら若き乙女なんですからね。もっと楽しくやりましょうよー」

「まぁまぁ、美月さん。隊長はお金を払うためだけに来てくれたんですから、それくらい大目に見ないと」

「やだっ、繊ちゃん。辛辣。流石のおねえさんでもそこまで言えないわ」

「だって、あおいちゃんを出撃させたこと、私まだ納得してませんから。いくら結果が良かったからって……」


 繊華の言葉に美月やリリィ、あおいまでも隊長のフォローをしようとしたが、隊長はそれを制止して彼女をまっすぐ見つめた。


「繊華。今回のことは我々軍の、大人の責任だ。それを幼いあおい君に押し付けてしまい、本当にすまないと思っている。そもそも繊華達だってまだまだ子どもだ。こんな世界になってしまったが、だからといって子ども達に無理を押し付けていい訳ではない。大人が頑張らなければいけないのは変わらないんだ。だが、私の力だけでは魔獣達を倒し切ることはできないし、君達に戦わなくていいとは言えない。だから、この世界のため、力を貸して欲しい。これはガルダンジェロみんなへのお願いだ」


 繊華は思わず目をそらす。


 わかっているのだ。自分が隊長に甘えてる。かまってほしくて駄々を捏ねているだけだということに。


「はいはーい。おねえさんは力を貸しまーす。でもぉ、この貸しは高いよ。だいたいねぇ、今日のお支払いくらい?」

「わたしも精一杯頑張らせてもらいますね。隊長、ごちそうさまです」

「わたしもこれからがんばります!」


 美月が、自分のせいで悪くなった空気を変えてくれたことに感謝しつつ、繊華はますます自己嫌悪に苛まれた。

 (自分が本当に子どもで嫌になる。あとで美月さんにもちゃんと謝らないと。それよりもまずは……)


「私も、引き続きやらせて下さい。隊長、すみませんでした」

「ああ、みんなありがとう」 



「それではお話も終わったことですし、歓迎会を再開しましょうか。わたし、お腹がすいてしまいました」


 リリィの一言で食事を再開し、お腹も満ちてきたころ次は昨日の戦いについての話題となった。


「それにしてもあおいさんが隊に来てくださったおかげで、ガルダンジェロの力はドラゴンに引け劣らないほどになったということですね」

「そうだね。隊としても足りなかったピースがかちっとハマったみたい」

「うんうん。あおいちゃんが八面六臂の大活躍をしてくれたから、私達も実力が出せるわけです」

「こ、これからも、期待に添えるようがんばります!」

「そんなに硬くならなくても大丈夫だよ。今回より大変なことなんて、まず無いんだから」


 ドラゴン相手に4人で立ち向かうなんて、絶望的な初陣だったのだ。これからの戦闘はなんてことないだろう。


「とはいえ、今回の最後は少し残念でした。もう少しでドラゴンバスターになれたところでしたのに」

「すみません。わたしが最後の一撃をちゃんと当てられていれば……」

「ううん。あおいちゃんのせいじゃないよ。そこはさすがはドラゴンってとこだよね。でも、トドメを取られちゃったところはちょっと悔しいかな」

「とはいえ、あのまま戦っていたら今こんなふうに笑ってられる被害じゃ無かっただろうし、おねえさん的には最善の結果だったんじゃないかなって思うわけですよ」


 このあとも、お互いの動きの良かったところを褒め合い、そして笑いあった。

 繊華、美月、リリィ、そして新たに加わったあおい。この4人なら、きっとどんな困難だって乗り越えていける。そう、強く思った。


「次は絶対、勝つ!」

「はいっ!」


 繊華の言葉に3人も同意してくれた。だから、きっと叶えられる。


「いや、またドラゴンと4人だけで戦うようなことがあっては困るんだが……」


 そう呟く隊長を置き去りにして、私達はますます盛り上がっていった。 

 

 


 歓迎会が終わったのは、すっかり夜もふけた頃だった。コロニーに家のある隊長と別れ、繊華達は美月の運転する車で基地へとで向かう。はしゃぎ疲れたのか、はたまた単純に遅い時間だからか、あおいは後部座席で寝てしまっている。その寝顔はますます幼く見え、胸がチクリと痛む。


「美月さん、リリィ、今日はごめんなさい。始めに空気を悪くしちゃって……」

「ううん、全然気にしないで。私だってあのときのあおいちゃんの扱いに不満が無いわけじゃないし。それにほら、私はみんなよりちょっと歳上で今はもう20歳も越えたからもういいと思うけど、ガルダンジェロ結成当時は繊華やリリィを一緒に戦場に出すことについては悩んだこともあったしね」

「わたしも気にしていませんよ。そんなところも繊華さんの良い所じゃありませんか」

「ふたりとも……、ありがとう」


 その優しさに、身勝手で子供じみた自分が恥ずかしくなった。


「あ、そんなことより繊ちゃん。あいちゃんが助けに来る前、死ぬ気だったでしょ? おねえさん、そっちのほうがどうかと思うなー?」

「そうですよ、わたしもそれについて聞きたいと思ってました」

「いや、あれは私なりの勝算があったわけで、無傷でどうにかできる可能性もなくはなかったと言うか、決して死ぬつもりはなかったというか……」


 しどろもどろで答える私に、ふたりは笑い声をあげる。

「冗談です。あのときは仕方なかったので、気にしていませんよ」リリィはそういい、美月も口調が戻っているのできっと繊華を気にしてこの話題を振ったのだろう。

 繊華も少し頰を膨らませ、そしてそのまま吹き出して笑った。

 いつの間にか目を覚ましていたあおいが、まばたきしながら3人を不思議そうに見ている。


 基地まではもう少し。4人を乗せた車は暗闇のなか、スピードを緩めること無く進んでいった。



 これが大切な仲間達。そして、今の幸せな日常。

 このまま同じ仲間との同じような日々が、今度こそずっと続くと思っていた。


 だけど、世界は思っていたより残酷で、その真実はとても苦しく、そして救いがあった。


 でも、その事をこのときの彼女達は少しも知らなかった。








 本エピソードで第一章終了となります。

 ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

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