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5 戦闘と……

 魔導杖は背中のハッチからツナギを着るように乗り込む。手足が入るのは機体の半ば程までになるため生身とまったく同じ様に曲げ伸ばしはできないが、動作を増幅して動いてくれるため慣れないと精密作業は難しいもののおおよそ普通に体を動かすことの延長で操作することができる。


 頭はMRゴーグルとヘッドセットのついたヘルメットを被り、魔導杖の頭部に収めることとなる。このため、人体同様頭部が弱点となるが、首を動かすだけで違和感なく周りを見回すことができる。この違和感なくというのが、魔法を使うために重要なのだ。と整備士のおじさんが力説していた。


 ちなみに顔部のデザインも魔導杖によって違い、繊華のディアスポラは目の部分がバイザーによって覆われているが、リリィのアルジャーノンはベネチアンマスクの様になっている。これも個性のひとつといえる。

 



「出撃命令が出た。現れた魔獣5体のうち、1体は撃退済。残る4体には手傷は負わせているものの致命傷のものはいない。それに対してこちらの味方は魔力残量がほぼゼロ。君達が到着次第撤退する予定となっている」

 

 予想していたより状況が悪い。とはいえ絶望的とは程遠い。「大丈夫。私達ならやれるよ」そう仲間と私自身を鼓舞する。味方の数がいつもより少ないとはいえ、局所的には今日と同じように三人で同じ程度の敵を相手にしたことはある。

 違いは何かがあった時に味方のフォローがないと言うことだけ。

 その違いこそが恐ろしいのは確かだが、いつもと同じように振る舞えば問題ない。そう思うと少しだけ気が楽になった。

 

「ガルダンジェロ。出撃します!」

 基地を出て荒野を駆ける。三人の機体の中では、ディアスポラが一番遅い。魔法で空気の圧縮と解放、通称エアバーストを機体の後方ですることにより機体に風でブーストはかけているが、断続的になるため長距離移動目的としては如何せん効率が悪い。

 

「わたしが先行して味方を援護して来ましょうか?」

「ううん。元から足止め目的だし、危なくなれば撤退してくれるはず。それよりも私達が分断されていることのほうがまずいかな」

「そうだねー。通信によれば今のところ安定はしているようだし、繊華ちゃんの言う通り部隊で動いたほうがいいかもね? まぁ、その分繊華ちゃんにはその移動をがんばってもらわないとですが」  

 

 冗談めかした美月の言葉に頷き、先を急ぐ。変に吹き飛ばされないよう体勢や風の制御に気を使う必要があり、正直精神的にも負担の大きい移動法だがそうも言っていられない。



 

 目標地点へ到達したとき、急いだ甲斐もあり友軍は全員健在であった。


「ガールズ! すまない撤退する」

「こんなやつら、魔力さえあれば……後は頼む……」


 基地へ戻る彼らを見送り、魔獣と対峙する。情報通り魔獣は乗用車程の大きさの牛型で、魔力特性はシンプルな強化系。勢いを付けた突進が怖いが位置取りにさえ気をつければさほど脅威ではない。私達が到着するまでにかなり善戦してくれていたようで、4体のうち1体はもう倒れそう……と、美月の一撃でちょうど倒れた。

 

 仲間がやられた事で、魔獣達の意識が一斉に美月へ向かう。繊華の魔法によりさらに意識を集中させられた、その隙を狙うようにリリィは「うぉぉぉぉー」とかわいい声で雄叫びをあげるとハルバードで薙ぎ払う。一体は大きく弾き飛ばされ、さらに一体も大きく体勢を崩した。繊華もとりあえず体勢を崩した魔獣へランスを投げ追撃すると、逃した一体が突進している美月のほうへ機体を向き直らせた。

 

 美月はサブアームの盾を半身を隠すように構え、魔獣を待ち構えているところだった。魔獣の突進が盾に当たる瞬間、横にスライドするとすれ違いざまに剣を突き刺す。そして両手を前へ構えると、剣へむかって魔法の雷を放った。ともすれば拡散しがちな電気を繊華の魔法で剣へ集中させる。魔獣は体を大きく痙攣させるとそのまま動かなくなった。これで2体。

 

「繊ちゃん、ナイスフォロー! 信じてたよー」

「美月さんも流石です」

 

 先程ランスを投げた個体はそれがトドメになっていたようで、すでに事切れていた。これで3体。

 最後の1体は、リリィの手によって組み伏せられているところだった。


「どなたかトドメをお願いします。まだ元気いっぱいみたいで、抑えるのがやっとなのです」

「はいはーい。今行くねー」


 美月が盾の先端で魔獣を刺し潰す。これで4体。殲滅完了だ。そこへ隊長から通信が入る。


「これで発見されていた敵の全滅を確認した。こちらはまだ魔力が回復できておらずレーダーが使えない。悪いが敵の追加がないか周囲を索敵後、異常ないようだったら帰投してくれ」

「了解!」


 指示に従いイヤーアンテナへ魔力を通し、集音魔法を発動させると人のような気配が感じ取れた。瓦礫の影から大きく動かずこちらをうかがっているようだ。


「隊長、この先に誰かいるようです」

「何? 今そちらには君達以外の人員はいないはずだが」

「難民でしょうか? 接触してみます」

「ああ。危険はないと思うが、十分注意して対応してくれ」

「了解です」


 通信を切り、気配のしたほうへ歩き出す。その時、発動させたままにしていた集音魔法が何かが猛スピードで接近する音を捉えた。


「総員、警戒体勢! 空から何か来ます!」


 見上げた空に浮かぶ何かは、みるみる大きくなり、そのまま私達の上を旋回すると堂々とした様子で眼の前に降り立った。


 ――ドラゴン


 それは翼を持つ巨大な蜥蜴。この世界にはいなかったもの。「臨界の日」に異世界からきた大空の覇者だ。

 

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