4 新型と襲撃と
まず目を引くのがサブアーム。固定式の武装が付くブレードランナーとは違いマニピュレーターが取り付けられているが、これは様々な武器を持つことを想定してだろうか。
次に頭部からは複数の太いケーブルがロングヘアのように垂れ下がっている。これはある程度個別に動かせるらしく、先端には内蔵式マニピュレーター、魔法発射口、サブカメラが仕込まれているとのことだ。
また、腕はベルスリーブのように広がっており、ここにも発射口や武装が隠されているようだ。
特性の【模倣と同調】は今までの魔導杖には無かったもので、仲間や魔獣の魔法をコピーして使ったり、仲間の魔法発動に合わせて魔力を同調させ発動した魔法を強化することができるそうだ。
やれることが多い反面、上手く運用しないと他の魔導杖の劣化になる他、単独ではできることが減るなど総じてテクニカルな機体と言えそうだ。
「それで、試作機というのは?」
「ああ、実はこの機体は未完成でね。まだ魔法の効率が悪く魔力の消費量が多いそうだ。特性が有用なのは間違いないが、かなり大型の魔力電池を積む必要から現状では実戦投入が難しいということらしい。そこで白羽の矢が立ったのが」
「わたしですねっ!」
「そうだ。この部隊なら魔力量はあまり問題とならない。特にあおい君なら魔力の性質もこいつと相性がいい。というより、この機体を運用するために君が配属された。というのが実際のところだが」
隊長の言葉にあおいは、意を決したような面持ちになる。少し背伸びしているようにも見える様子は可愛らしく思わず微笑ましくなった。
「繊華〜。あいちゃんが真剣になってるのに笑うのはヒドいんじゃなーい?」
「み、美月さん。そういうわけではなくて」
「先輩、ひどいですっ」
一転してふくれっ面のあおいに慌てて謝ると、「冗談です。」と笑った。配属された当初の緊張していた様子から、段々ここに慣れてきてくれたようで繊華は嬉しいと思った。同時に自分の先輩としての威厳がどこにいったのだろうと嘆きつつ……
「さて、はしゃぐのもいいがそろそろ最終調整といこうか。あおい君、魔導杖を装着してみてくれ」
あおいは隊長の言葉に頷くと、機体を搭乗姿勢にさせ背中側にまわった。整備士たちにサイズを調整してもらいながら魔導杖へ乗り込むとそのまま隊長や整備士達とともに訓練場へ移動していった。
「わたし達も移動しましょうか」とリリィが提案したとき、魔獣の接近を知らせるアラートがけたたましく鳴り響いた。
「あちゃー。あいちゃんの晴れ姿を見るのはお預けかなー」
「これから一緒に戦っていくんですから、いくらでも機会はありますよ」
「そうだね。私達は待機場所へ急ごう」
今日のシフトでは、繊華達の部隊は予備戦力として基地内の部屋で待機することとなっている。とはいえ、敵の数が多かったり、強力な魔獣が現れたりといった余程のことがなければそのまま出撃することはなく、暇な時間を過ごすこととなる。繊華はせっかくの楽しみを邪魔されたこともあり、少し憂鬱になりながら部屋へと廊下を進んでいった。
「偵察部隊の情報では、今回の魔獣は中型の牛系が5体だって。数も少ないし、やっぱり私達の出番は無さそうだね」
三人は作戦会議室にて送られてきた情報をもとに簡単にブリーフィングを済ませ、隊長とあおいを待っていた。なかなか現れない二人に、部屋の外の様子を伺うが姿は見えず、ただ職員達が慌ただしく走り回っていた。
「何か様子がおかしくありませんか?」
「そうだね、何かあったのかな。なんというか焦ってるみたい」
「ここは私が話を聞いてきてみるよ」
外のことを美月に任せ、繊華とリリィの二人は部屋に戻ることにした。
朝のわくわくした気持ちとは対象的に、悪い予感が頭から消えない。時計を見るとアラートから1時間以上経っている。あの程度の魔獣ならとっくに討伐が終わっていてもおかしくない時間だ。
焦る気持ちとは裏腹にゆっくりと動く時計の長針がようやく二文字分だけ動いた頃、ガチャリとドアが開き隊長と美月が入ってきた。全員をミーティングテーブルへ座らせると「悪い知らせだ」と隊長は切り出す。
「基地の魔導杖の殆どが魔力不足で動かないそうだ。現在何とか動けるもので魔獣と戦闘しているが、足止めが精々というところ。間もなく君たちにも出撃命令が出る」
「魔力不足って、どうしてそんなことが!?」
「調査中とのことだが、まだ原因は特定されていない。それより優先されるのは魔獣への対応だ」
「とりあえず、格納庫に行きませんか? 命令が出たらすぐ出れるように」
「ああ、リリィ。そうしてくれ。こちらでも援護できるよう手配を急ぐ。すまないがよろしく頼む」
隊長と別れ、格納庫へ進んでいく。敵は5体。私達が行く前に他の人達が何体か倒してくれているだろうか。普段であれはなんてことのない相手なのに、言いようの無い不安を感じた。