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2 仲間と魔法と

「あんなに沢山の魔獣を一瞬で倒すなんてほんとにすごいです。これでもう隠れて生きなくていいんだ!」

 興奮冷めやらぬ様子のあおいを微笑ましく感じながら、繊華は基地の中を歩いていく。

 先程の戦闘はあおいや一緒にコロニーへ来た人々へのパフォーマンスのようなものだ。もちろん魔獣の襲撃自体は狙って起きたものではなく規模が大きかったのもたまたまだが、基地への新人配属時やコロニーへ新たな移民があった際は普段からすれば過剰な戦力を投入し、自分達の強さやコロニーが安全であることをアピールしているのだ。

 そういった意味で、あおいの様子を見ればこの企みは大成功だったといえるだろう。

 

「さっきは説明の途中になっちゃったけど、これから向かうのがこの基地の中枢である格納庫と整備施設だよ」

「魔導杖を近くで見れるんですねっ!」

「ははは。見れるどころか、これからはあおいちゃんにも乗ってもらうことになるんだよ」

「えっ? 私もですか?」


 きょとんとするあおいを見て繊華は内心頭を抱えた。魔導杖を知らなかったから嫌な予感はしていたが、こんな大事なことも説明していなかったのか。

「なんか検査を受けて、わたしには素質があるからって。かわりにこのコロニーに受け入れてくれるっていってもらえたので」


 確かに魔導杖は強力な兵器だ。それでも、戦闘で怪我をすることはあるし、死んでしまうことだってあるのだ。それを騙すように連れてくるなんて……

 そんなことを考えている繊華の様子に気付いたのか


「でも、安心しました。わたしにもできることがあるんだって。それは魔獣と戦うのは怖いですけど、それでもみんなが平和に暮らせるためならがんばります」


 そんな健気な言葉に今度こそ、その小さな体を抱きしめてしまった。

 

 

 

 途中先輩として恥ずかしいところを見せてしまったが、ようやく目的地にたどり着いた。

 

「さて、ここがお待ちかねの格納庫です」

 

 扉を開けると中には戦闘から帰ってきたばかりの魔導杖達が並んでいた。今回は圧勝ではあったが、消耗や動作不良が無いか整備士さん達がばたばたと走り回って確認している。そのうちの一人が少女達に気付き、声をかけてきた。

 

「よう繊華ちゃん。その子が新人かい。ガールズのふたりならちょうど自分達の機体のところにいるよ」

 

 おじさんにありがとうと手を振ると笑って返してくれた。彼女達はこの基地で数少ない女性ということもあって、ちやほやされることが多い。逆に邪険にしてくる人達もいるが、少数派だ。

 

「あの、先輩。ガールズというのは?」

「うん。私達の部隊のこと。女の子ばかりなのと隊名をもじってそう呼ぶ人もいるの。ほら、あそこに見えてきた」

 

 いつもの場所。繊華達の部隊用の格納場所には三機の魔導杖と二人の少女が見える。


「あそこの魔導杖はちょっと形が違いますね。なんというか女の人みたいな感じで」


 そう。そうなのだ。これらの機体は他と比べて魔力電池(マナバッテリー)魔力濃縮機マナコンセントレイター、各種ケーブルなど魔力まわりの部品が少ないため、全体的にスリムになっている。その一方で、装着者の足回りの可動域を確保するため腰から太ももあたりまでは大きく、また心臓付近を守るため機体の胸部付近に装甲が盛られている。そして――恐らく女性的になっていることの最大の理由でもあるが――整備士達の趣味と悪ノリにより全体的に丸みを帯びたシルエットになっている。あとは搭乗者達の趣味でカラーリングをしたり、装備をアクセサリーみたいにしてるのも理由かも知れない。


 (ちょっとだけね。ほ、ほら他の人達もノーズアートとか描いてるし)

 内心で言い訳しながら、そんなことをあおいに説明する。

「でも、それじゃあ減らした分の魔力関係? がうまく動かないんじゃないですか?」

「そこはこのおねえさんに説明させて欲しいかなー」


 気付くとすぐ横まで来ていた彼女にあおいを紹介し、説明の続きをお願いした。

「どうも、ご紹介にあずかりました美月(みづき)ですっ! 気軽におねえさんって呼んでね。せんちゃんがかわいい子をひとり占めしてるから、ちょーっと我慢できなくなってねー。おねえさんにもいいとこ見せさせて欲しいと思ったわけですよ」

「はいっ。よろしくお願いします。おねえさん」

「きゃー。ほんと、かわいいねぇ。それでは、あいちゃんは魔力はどこから生まれるか知ってる?」


 美月のペースにドギマギしながらも、あおいは心ですか? と答えた。


「そう、だいせいかーい。加えて言うなら心の動き、精神の波が大きいほど強い魔力を生み出すことができ、感受性が高いほど魔力をうまく使えるって言われてる。そして、実験部隊の私達は思春期の女の子。魔力との相性はバツグンってわけなのですよ。逆に大人でダンディーなオジサマは魔法が苦手ってこと」


 事実、魔力補助が無くても他の人達より彼女達のほうが高い出力を出せている。美月の話は、ますますヒートアップしていき、あおいは必死に聞いているがついていくのは大変そうだ。


「あちゃー、ちょっと難しかったかな? とにかく、おねえさんたちはかわいくてさいきょうってことなのです!」


 眼鏡を直しながらキメ顔で語る美月の言葉にそれならわかりましたとあおいも納得したようだ。


「それじゃあ、もうひとり大切なメンバーを待たせてる事ですし、我らの魔導杖のところまで行きましょう」




「やっときてくれましたね。わたしはリリィと申します。よろしくお願いしますね」


 リリィは部隊のなかでは唯一の外国人だ。いかにもといった金髪碧眼で、おっとりして優しく、繊華よりひとつ年下だというのに精神的にも外見的にも包容力に溢れている。


「そういえば、隊長はどちらにいらっしゃるのでしょう? 先ほど出撃した際もお見かけしませんでした」


 リリィの言う通り、あとは隊長さえいれば全員集合……と噂をすれば影だ。


「すまないな。少々仕事がたてこんでいた。隊長の入部(いりべ)だ。隊長と言っても建前的なもので、実質はただの連絡員のようなものだ。気軽に接してもらえばいい」

「隊長だけ軍部所属で、おねえさん達のは魔法結社所属ですからね。それにガールズでもなくオジサンですし?」

「おいおい美月、オジサンは無いだろう。まだ29のお兄さんだ」

「あいちゃんからみれば親子でもおかしくないんだから十分じゃないですかー」

「おいおい。それを言ったら君もあおい君の倍の歳だろう? 」

「おー? 女性の年齢に触れるとは、覚悟はできているみたいですね?」


 いつものようにじゃれ合う隊長と美月。リリィは頬に手を当てて微笑んでいる。二人の顔を交互に見ながら慌てているあおいだって、きっとなれていくだろう。


 これが今の繊華の大切な場所だ。


「わかった、わかった。俺の負けだ。オジサンでいい」

「よし、勝った! じゃあ、あいちゃん、隊長にパパっていってみて?」

「えっと……、お父さん?」


 ついに隊長は頭を抱えてしまったが、少しの時間で立ち直りそんなことより大切なことだと、繊華達を整列させあおいへ向き直らせた。

 そして、3人は軽く顔を見合わせた後、あおいへほほ笑みかけた。

 

「ようこそ、守護天使(ガルダンジェロ)へ。私達はあなたを歓迎します」

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