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12月26日のサンタクロース

作者: 海野はな

激務でお疲れなサンタさんが愚痴ります。

こちらのサンタさんは口が悪いです。

イメージ通りのサンタさんはたぶんいません。

 ようやくクリスマスのプレゼントを配り終え、サンタクロースは家に帰ってきた。

 相棒のトナカイたちを労い、まずは食事を与える。ひたすらに走り回ったトナカイたちも、もう限界だ。


 そして部屋に入ると、時計の短針と長針がそろって一番上を差した。つまり、12月26日になったということだ。


 サンタは拳を握りしめ、大きく掲げながら叫んだ。


「クリスマスが終わったぞー!!!」



 ◇



 クリスマス翌日の12月26日、サンタクロースは何をしているのかって?

 その話をする前に、サンタの仕事について聞いてほしい。


 サンタの仕事ってのは、ご存じのとおり、クリスマスに子どもたちにプレゼントを届けることだ。

 そのために一年かけて準備する。

 クリスマス以外は暇だろうって?

 そんなことはない。どれだけのプレゼントの量が必要なのか、考えてもみてほしい。すごい量だ。

 もう一度言う。

 すごい量だ!


 少子化じゃないのかって?

 そうなのだ、子どもの数は明らかに減っている。

 だけど、仕事量は変わらないどころか増えているんだ。

 一人の子どもに対するプレゼントの質が格段にあがっちゃったからだ。

 昔は小さなぬいぐるみとか、文房具とか、お菓子とかだったんだ。

 それが今はどうだ。

 複雑怪奇なでっかいやつ!

 もしくは小さいけど中身が複雑なやつ!

 サンタのおじさん、子ども向けのプレゼントなのに使い方がわかんない。


 とはいえ、一年の前半はまあ余裕はある。

 その間にトナカイとの絆を深めておく。繁忙期にいなくなられては困るからな。クリスマスにちゃんとそりを引いてくれるか確認して、雇用契約書も作っておく。


 あとはプレゼントそのものより、包材の準備をしたり、そりのメンテナンスをしたりとかだな。プレゼントの中身は例年確実に需要があるものは準備しておけるが、そうでないものは直前までわからない。


 それから、ダイエットだ。

 トナカイは重いそりをひかなきゃいけない。だからサンタが重かったら大ブーイングをくらうのだ。

 豊満ボディを見るあのトナカイの目ったら!

 でもしょうがないじゃん。サンタ、食べるの好きなのよ。

 それにほら、サンタのイメージってのもあるじゃん? 柔らかそうな、包容力がありそうな感じ、あるじゃん?

 やめてそんな目で見ないで。



 忙しくなるのは10月半ば頃からだ。このころになると、早い子は何がほしいのか決まってくる。手紙も届くようになって、準備が本格化してくる。


 さらに忙しくなる11月。


 えっ、何? トナカイ3号、妊娠したの!?

 ちょ、おまっ、え、ちょ……。

 おめでとう! よかったな、ずっと望んでたもんな!

 マジおめでとう! 身体を大事にしろよ。

 嬉しいよ。本心だよ。おめでとうこんちくしょう!

 ごめんなさい?

 なんで謝るんだよ。ずっとこうなるかもってのは分かってただろ。

 悪いことしてないのに謝るんじゃねぇ。

 少しならそり引けます?

 ありがたいけどやめておけ。妊婦が重いもの持っちゃダメだ。

 代わりにダンナの4号が二人分働くから大丈夫だ。な、4号?

 おい4号、3号が繁忙期なのに申し訳ないって顔してるときに、おまえはへらへらすんなバカヤロウ!

 


 そして恐怖の12月。


 12月のサンタってのはな、激務中の激務なんだよ!

 休み? ないないないない。

 プレゼントの準備、準備、準備、それから仕分け、仕分け、仕分け。


 手紙もどしどし届く。


 まだ何をもらうか決まっていません?

 早くしろ。手遅れになるぞ。


 わたしは永遠の命がほしいです?

 無理です。


 やっぱりこっちのおもちゃがいいので変えて下さい?

 変えるんじゃねぇバカヤロウ。もう用意しちまったんだよ。

 え、ホントに変えなきゃダメなの? あー、どこ入れたっけ。ちくしょう、このプレゼントの山の一番下じゃねえか取れねぇちくしょう!

 あー崩れた!


 パニックに次ぐパニック!


 トナカイの手だって借りたいくらい忙しい。

 実際に借りたら壊されるから借りないけどな!


 特に12月20日を越えたら、寝る時間さえなくなる。

 疲れすぎて無口。からの、ラジオから流れるクリスマスソングにブチ切れ。

 あわてんぼうのサンタがクリスマス前にやってきた?

 そんなわけないだろそんな余裕ねぇよ。いつもギリギリで生きてんだよ。

 きっと君はこない?

 行くために頑張ってんだよバカヤロウ!


 時折やってくる睡魔のささやき。そろそろ寝ちゃいなよォ。

 サンタ vs 睡魔 第五ラウンド、ファイ! 


 ギリギリの勝利。

 そしてふいに訪れる謎のハイテンション。


 ヒャッハー!!


 要するに情緒不安定。


 毎年思うんだけどさー、なんでクリスマス一日に集約しちゃうのかな。

 誕生日みたいにクリスマスも分散させようよ。そのほうが絶対にいいよ。

 そのほうがサンタも助かるし、仕事も丁寧になって結果的には子どもたちにとってもいいと思うのよ。

 え、無理? 知ってる。



 そして運命の12月25日。


 午前0時のゴングがなったら試合開始だ。さあ配るぞトナカイ。


 ここはヒャッハーしてはいけないところ。寝ていないからといってミスをしてはならないのだ。

 違う物を届けてしまったり、乱暴に置いて壊れてしまっては、年に一度のプレゼントに喜んでくれるはずの子どもが悲しんでしまう。

 全ては子どもたちの喜ぶ姿のため。


 そして何より。

 クレーム回避!!

 逆さになって潰れていました、とかいうことになっては大変だ。マジ大変だ。

 

 いざプレゼントを置くときには、細心の注意を払わなければならない。

 まずは場所を間違えないこと。家によってツリーの下だとか枕元だとか、場所が違うから。

 それから、子どもがちゃんと寝ていることを確認することだ。これがまた重要で、大変なのだ。


 あいつら、寝たふりしやがる!

 サンタを絶対に見てやるんだって、こっそり起きていることがたくさんあるのだ。


 サンタには、見られてはいけないという決まりがある。

 ほら、あれだ。助けてもらった美しい鳥が現れて「絶対に姿を見てはいけません」といって美しい布を作り、姿を目にされた瞬間に飛び立ってしまう話があるだろう。

 あれと同じだ。

 サンタは姿を見られてしまったら、もうその子どもにはプレゼントを届けられないんだ。

 見られたら終わり。そういう決まりなんだ。


 サンタとしては、次の年も届けてあげたい。だから本当に寝ているか、寝たふりなのか、起きているのか、しっかり見極めなきゃいけない。


 ちくしょうこの家の子は寝たふりだ。

 良い子は寝ておけバカヤロウ!

 しょうがない、またあとで来るか。

 そのあとでを忘れてはいけない。サンタは寝てないから、頭ちょっとおかしくなってる。


 配り始めてからは時間との勝負である。なにせ大量のプレゼントを間違いなく配り終えなければならないのだ。


 丁寧に置き場所を教えてくれたおばあさん。せっかくいらしてくださったのですからお茶でも、じゃないんだわ。

 お気遣いありがとうございます結構です。

 おじいさん、お酒なんてもってのほかです。飲酒運転断固反対。


 タイムリミットは子どもが起きるまで。

 朝日が昇る前、ではないのだ。冬の日の出は遅く、早い子はその前に起きる。

 というか、楽しみで早く起きちゃった、てへ、とかいう子どもがいっぱいいる。

 ゆっくり寝ておけバカヤロウ!


 ようやく配り終えたとホッとした瞬間。

 どこからともなく出てきたプレゼント。

 あーこれは寝たふりされてあとでにするかって取っといたやつ!

 やばいぞ、間に合うか? トナカイ、全速力でお願いします。え、もう無理?

 寝たふりボーイはまだ寝ていた。なんとかセーフ。夜中起きてるからだぞ。



 ようやく本来の仕事を終えたサンタ。もうヘロヘロ。だけどすぐには帰れない。

 クリスマスのサンタ、いろんなところにひっぱりだこ。

 姿は見せられないけれど、イベントやらインタビューやら大人気。

 それ今じゃなきゃダメですか。


 あのさぁ、試合が終わったばっかりの選手とか、24時間走った人とか、終わったら休ませてあげるべきだと思うんだよね。なんで引き続きお仕事なのよ。

 そう、配り終えたサンタも!

 だけどマネージャーのトナカイ1号が引き受けちゃったんだよ……。


 そうしてそれらを終えて、ようやく、ようやく。

 ようやく!

 家に戻ったのである。



 それで、12月26日にはサンタは何をしているのか? という話だったな。


 この時点で察してほしい。


 ……寝てるよ! 泥のように寝てるよ!!


 サンタ、何歳だと思ってるの? 若くないの。ご老体なの。

 もう体力のひとかけらも残ってない!


 本音を言うなら、そろそろ世代交代したい。

 だからサンタ募集の広告を出してみたけど、集まらない。

 子どもを笑顔にする素敵なお仕事ですハート。って書いたのに。

 実際にやりがいはあるし、素敵なお仕事なのは間違いないのに。


 もはやお手伝いでもいいからと、バイト・パート募集をかけたけれど、12月は所得制限に引っかかるからそんなに働けませんって……。

 12月がヤバいのに!


 それでもサンタはやっぱり、子どもを笑顔にするこの仕事に誇りを持っている。

 やめたい、と言うわりには、やっぱりやめられない、とも思う。

 だって、サンタのおかげで笑顔になる人がいるって、すごいことじゃないか。嬉しいじゃないか。

 だからなんだかんだ言っても、また少し休んだら続けてしまうのだ。



 そんなわけで、今少し、休ませてほしい。


 それでは良い子のみんな、また来年!

サンタさん、そしてクリスマスはクルシミマスだった職種のみなさま。

あなたの仕事に敬意と感謝を捧げます。

本当にお疲れさまでした!

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― 新着の感想 ―
 笑いが止まりませんでした。このお話の、一人で頑張ってくれたサンタクロースは日本担当なのでしょうか?ドイツのサンタクロースだったら、お仕置き担当の黒い人もこき使ってそうですし(当日の黒いサンタのキレっ…
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