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2 : ゲームと同じくモンクになろうと思います

無駄に長いです。

「ここでタイトルだったよね」


 わたしは始めたばかりの頃を思い出している。壮大な音楽と共にタイトルコールされ、門を通る。初めての時はグラフィックに驚かされた記憶があった。

 わたしは門を通り、街の中に入る。レンガ造りの建物が立ち並んでいる。あの時見た風景と同じだが、画面越しで見る景色とは違い、五感で感じられる。

 レンガが積み重なり作られた建物は、表面が少し欠けて風化しており、かなりの時間が経過している事が見て取れる。人の声が止むことはなく、様々な人の声が聞こえてくる。乾燥地帯のため、砂が舞っており、砂の匂いが届いてくる。風が当たる度に細かな砂の粒が当たり、ザラザラとした触感がある。口の中に入ってくる砂は……ってどんだけ砂が舞ってるのよ!!?


 この、乾燥地帯のサンドーラがA(アナザー)E(アース)O(オンライン)の最初の町だ。


「嬢ちゃんはここに来るのは初めてかい?良かったら乗りながらだけど案内しようか?」


 馬車に乗りながら町並みを眺めていると、御者のおじさんに声をかけられる。ゲームでも同じような場面があり、強制的に町の案内が始まった記憶があった。


「昔来たことあるので知って………」


 いや、待てわたし。ゲームとは違うアクション起こして知らない流れになるよりはゲームの通りにやった方が良いのでは?転生の優位性を存分に発揮すべきでは?


「いや、結構昔なので覚えてないかもですね!お願いします」


 ゲームの序盤の流れは覚えている。それに沿っていれば、後々有名になる未来が見えている。これが転生。約束された勝利じゃない?


「おぉ…?そうか?それなら……………………………あれが………………………そして、あれが……………………………」


 わたしは直ぐに選択を後悔した。

 とにかく長い。長すぎる。

 ゲームではスキップが出来るムービーだったはず。初めてこのゲームをした時ですら途中で長いと思って飛ばしてしまった。わたしはとりあえず何も知らずに進んで探索したいタイプだったため、事細かに説明する御者のおじさんのお話は苦痛すぎた。


(まさかこんな罠があるなんて…)


 御者のおじさんは町を1周してくれた。ちなみにわたし以外の乗客は途中で降りていったよ。わたしは逃げられなかったし、聞くしかなかった。







 ___________







「確かここだったはず」


 町の中に塀で閉ざされた木造の道場のようなものが立っている。ゲーム内でもここだけ日本っぽい風景なのは違和感しかなかったが、実際に見てみると更に異質な空間に見える。


「格闘士…やっぱりここだね」


 門を見つけ、近くにある看板を見る。看板には大きな字でこう書いてある。


『格闘士ギルド 初心者お断り』


 こんなのを見て誰が来るのだろう?こんな頭のおかしい看板は読んで字のごとく、ゲームでは格闘士は操作が難しく、初心者には向かないジョブだった。

 複数のジョブに慣れた結果、手をつけるような玄人ジョブであり、様々なスキルを使いコンボを決めていく爽快感のあるジョブで一部の人から人気だった。

 モンクは格闘士の上位ジョブであり、格闘士で1人前になれば、ジョブがモンクに切り替わる。そのため、モンクになるには格闘士ギルドに入って修行を重ねないといけない。


 当時のわたしはこの看板をみると、ゲーマー心に火がつき、迷いなく戸を開けたのだった。様々なスキルを繋げてコンボをして火力を出すジョブであるため、序盤は意味がわからず苦戦していたが、レイアウト変更やキー割り当て変更を行い、操作性を上げた結果、そこそこは使える様になっていた。


 操作の方法は覚えている。これも転生の力。わたしはこの記憶を元にこの世界で楽しく幸せになる。

 門をどんどんと叩くと、門が開く。


「だれじゃ?」


 仙人のような雰囲気の白い髪、白い髭を生やしたおじいちゃんが現れる。


「格闘士ギルドに入門に来ました」


 そう、この人が格闘士ギルドの名物であるギルドマスター……………


「ほうほう、そうかそうか。それじゃったら入るが良い。………師範、お客様じゃ!」


 そう、この人が格闘士ギルドの名物である、ギルドマスターっぽく見えるだけの門番だ。

 門番はわたしを中に招き入れ、大きな声を出してギルドマスターを呼んだ。


「すぐ行く」


 どこからか遠くから声が聞こえると、わたしは後ろに1歩下がる。


「ほう?」


 動かなければわたしの左肩に当たる場所だったところを空振りした右手が見えた。

 これが第2の格闘士ギルドの名物である即帰宅QTEだ。

 なんと、格闘士のみ、ギルドに所属する際に突然Q(クイック)T(タイム)E(イベント)が発生し、これに失敗すると所属できずに追い出されるイベントになっている。

 油断していたところに来るQTEには初見で誰が出来るんだと言うイベントで、違うキーを押したら即失敗であるため、セリフを読み切らずにEnterキーを押していた人は何が起こったのか分からずに門前払いされるという意味のわからないイベントだった。

 失敗した場合はもう一度来て、成功するまでやれば良いのだが、初めてのジョブとして格闘士を選んだ場合のみ、失敗すると、他ジョブのレベルがカンストするまで格闘士になれないと言う意味のわからない仕様となっている。

 ちなみに、運営はバグではなく仕様と言っているので本当に仕様のようだった。頭おかしい。


 そして、更にわたしは左手でわたしの右肩に触れようとしている手を掴む。


「素晴らしいな」


 門番のおじいちゃんの手を掴み、ギルドマスターを見るとギルドマスターは拍手していた。


 そう、QTEが格闘士入門時には初見殺しのQTEが2連続で行われる。

 わたしは初見時に突然でてきたQTEに敗北し、ギルドマスターがわたしのキャラの左肩に手を置いた。

 ゲーマー魂に火がつき、アカウントを作り直し、再度行うと、ギルドマスターのQTEはクリアしキャラが1歩下がったが、油断した瞬間にわたしのキャラの右肩に門番のおじいちゃんの手が置かれた。

 わたしは更にキャラを作り直したが、QTEをミスして失敗、更に作り直して、もう一度失敗。そして10回目の挑戦にて格闘士になれたのだった。 わたしのキャラが門番のおじいちゃんの手を掴んだ時には声が出てしまった程だった。

 QTEもよくある簡単なボタンを押すタイプではなく、キーボードのランダムなキーを押すタイプだった。更には日本語版であれば半角だけでなくひらがなキーも対象になり、猶予時間も少なく、難易度が高かった。

 今思うとこのゲームはクソゲーだったのかもしれない。


 何度もアカウントを作り替えた過去があったからこそ、わたしはドヤ顔で2人を見つめる。あの時の経験が生きている。これこそが転生の強み。わたしは子供だましのような手には引っかからないのだ。


「あー…っと…格闘士ギルドは君を歓迎しよう。君の名前は…?」


 多分わたしのドヤ顔に引いているように見えてしまい、恥ずかしくなってくる。


「わたしの名前は…ヒマリです」


 顔を赤くしながらも慣れ親しんだ名前を伝える。


「『ヒマリ』だね?俺が格闘士ギルドマスターのハヤトだ」


 ギルドマスターは笑顔を見せて挨拶してくる。ダンディーな印象ではあるが、笑顔を見せると爽やかさもあり、一部のお姉さま方からの人気が高い。昔流行ったちょいワルオヤジと言った印象だ。

 わたしは王子様系のイケメンが好きなのでストライクゾーン外である。


「では、改めてヒマリ。お前を格闘士ギルドに歓迎しよう。格闘士ギルドに登録しようと思うが、登録すると別のギルドに変更できなくなるからな?良く考えろ。良ければ登録する。」


 この町ではギルドに登録することで、市民権を得られる。そのため、町の人間は何かしらのギルドに登録しているのだ。

 そして、上位のジョブになれるまでは別のジョブにはなれない縛りが発生する。

 そういえば?


「なんで変更できないんです?」


 ゲームでは一切説明がなかった。でも今はここが現実である。聞いたら答えは返ってくる。


「昔は掛け持ちでも良かったのだが、掛け持ちが多すぎて全てが中途半端になってしまったんだ。教える時間も少なく、マスター出来る者が居なくなってな、1つに絞ってマスターさせるべきだと決まったんだ」


 因みにこの町はかなり好戦的であり、周りの町と良く揉める。と言うよりは今後戦いが発生してしまう。

 全てが中途半端な者より、何か1つ出来るものが有る者の方が戦力になる。つまりはそういうことかな。

 この町は戦闘員を作るために全員をギルドに所属させているってことだね。

 ゲームではこの町での戦いの描写はあまり出てなかったが、もしかしたらわたしも参加することになるのかもしれない。


「問題ないので格闘士ギルドに入ります」


 そうは言ってもどこかのギルドに入るしかない。魔法や剣も使ってみたかったけど、本当に戦いに参加するとしたら魔法や剣であれば確実に人を殺すことになる。拳であれば死なないように出来るかもしれない。

 元々モンクになるつもりだったので今更変更するつもりも無い。


「ありがとう。登録も………完了だ。では、さっき動きは見せてもらったから早速修行だな。準備運動してから参加してもらおう」


 ん?


「修行…?敵を倒せば良いんじゃないんですか?」


 あれ?ゲームでは適当に敵を倒すだけで経験値を貰ってレベルが上がっていたはず。修行って何の事?


「ここに所属するのであればまずは型を覚えて貰わないといけないからな。何も知らない状態で外に出たらお前でも死ぬぞ?」


 ん?どういうこと?

 だってゲームでは所属しただけで、壱の型が使えたけど………………………





 ってもしかして!?


 ゲームでは省略されてたけどあれは修行して覚えたの???


「そりゃそうだよね……………」


 今考えると当たり前だった。知らない事を出来る訳が無い。


  「あれ…………………?」


 気付いてしまった。

 わたしはモンクとして長い時間ゲームで使っていた。そして色々なスキルを使っていた。

 はっきり言うとスキルも似たよう名前や動きも多く、多少の違いはあった事は覚えているが、詳細には覚えていない。

 スキルを順番に発動させるでは無く、キーの位置を指が覚えており、その通りに指を動かしていただけだった。


 最新技もキーの順番は覚えている。最終的に回し蹴りをすることも覚えているが途中のキャラの動きや、回し蹴りのやり方は何も覚えていない。と言うよりは頭に入ってきていない。





 もしかして、転生したけどモンクが使えない??





「あのー………もう格闘士ギルドに登録ってしたんですよね………?」


 さっき登録したと聞こえたような気がしたが、気のせいの可能性もある。改めて聞いてみたらまだしてないって言われる可能性も………


「登録したが……………もしかして今更辞めたくなったとかか?」


「えっとぉ………ちがいます………」


 ですよね………知ってましたよ………


 諦めるしかない。このまま何もしなければどちらにしても戦いに出されて死んでしまう可能性がある。それならやるしかない。


 小説や物語では転生無双が普通であったが、それは神様が何かしらの強力なスキルを与えられた場合や魔法を使う場合である。わたしにはそういうのがなかった。





 今更ながらモンクを選んだ事を後悔してしまった。

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