1 : ゲームの世界に転生しました
ふと、ネタが浮かんできたので勢いで書いてみました。
今更ながら転生ものになります。
「最高…モンクこそ至高のジョブ…」
わたしはにやにやと気持ち悪い顔をしながら画面に映るキャラを見てひとりで呟く。一人暮らしであり誰も居ない。繋がりはネットの友達だけであり、わたしの声は誰にも届かない。
「最後に新技決めちゃお」
キーボードを押していくと、ゲームの中のキャラが高速で動きながらパンチからのキック、更には回し蹴りをする。回し蹴りは魔物に当たり、体力ゲージを0にする。
短いスカートを履いたわたしのキャラが回し蹴りしたことで大人っぽい黒色の下着が見えてしまい、チャット欄は賑やかになった。
【ヒマリちゃん見えてるw】
【今日追加されたパンツじゃない?w】
【そのキャラで黒はあかんw】
【難しいコンボ決めてるはずなのにパンツでぶっ飛んだわw】
【これをする為だけにモンクやってるからね
美少女のパンツはどうよ?最高でしょ】
【草】
【最高やな】
【もしもしポリスメン?】
【モンク難しいのにw努力の方向性間違えてますよw】
わたしがチャットを返すと更にチャットが返ってくる。このまま一生ネットの友達と馬鹿なチャットで遊んでいたいが、時間は朝の3時。そろそろ寝ないと明日(今日)の出勤に間に合わなくなる。
【あ、もうこんな時間…今日はねるねー】
【ヒマリちゃんおやすみー】
【おやすー】
【おやすみなさい】
【ヒマリちゃんおやすみ】
チャットが返って来たのをみてわたしはパソコンの電源を落とす。
ベッドに横になり、無意識に声がこぼれてしまう。
「別に行かなくても良いかなー」
そう言いながらも、明日の朝になると会社に向かってしまうことになるだろう。生きる為には必要だから。
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わたしの務めている会社はどちらかと言うとホワイト企業だ。有給もしっかりとあり、ボーナスもあり、評価されると昇給もある。
わたしはこの会社に入社すると、製造部門の組立工程に所属していた。周りの人も優しく、幸せに仕事をしていた。所属して半年経つ頃、職場の仕事の効率が悪い事に気付いてしまう。毎回わざわざ一つ一つ取り出さないといけない部品。他部署に連絡を入れ、持ってきてもらう部品。都度、使用の判断を上司にもらわないといけない部品。
明らかに無駄が多かった。
わたしは何も考えず、上司にその事を伝え、改善案を出した。明らかにおかしい作業効率に、誰も気付かないわけが無い事を知らずに伝えてしまった。
『無駄で良い。効率上げたら仕事が増えるだろ?』
上司はそう言った。たしかにこの部署は他の部署に比べるとかなり仕事量が少なくみえる。本当は自分のところでやるべきところを別の部署がやったりしていた。
『会社のためには改善すべきでは無いですか?』
わたしは上司にそう返したが、わたしは次の日から別の部署になった。
『改善がしたいなら別の部署でやってくれ』
上司はそう言いながらわたしを飛ばした。
あの時は、世の中思っても言わない方が良い事があるのだと改めて実感した。
そこからは地獄の始まりだった。
ホワイト企業でも、部署によって全然仕事量が違う。今所属している検査部門の受入検査工程は超絶忙しかった。
当日必要になる部品が昼に届き、全数測定検査を行うことなど日常茶飯事。今日の午前に必要だったものが昼に届き、当日に検査を終わらせて次工程に回しても遅いと怒られることも良くある。
検査して合格であったものが運搬中に崩れ傷が付き、全部不合格にされたこともあった。
多大なるストレスに晒されたわたしはふと見つけたゲームをやり始めた。
A・E・O
ファンタジーの定番である、魔法や剣、更には拳を使って冒険を行うMMORPG。最初はお使いのような依頼を繰り返し、徐々に大きな依頼をこなしていく、更には世界の心理に迫るような壮大な物語もあり、誰でも英雄になれる壮大な物語であった。
このゲームは無駄にグラフィックに凝っており、景色もそうだが、キャラもかなり拘られている。キャラメイクは途方もないパーツから好きなように選べ、肌は瑞々しくハリがあり、まるで現実のような質感も再現出来た。
装備品や下着類までも拘りが強く、R18になるような行為は無いが、それに準ずる程のエロさを出すことも出来た。
わたしは胸もお尻も大きいえっちな女の子を作ってしまい、そしてあろう事か自分の名前をつけて始めてしまった。正気に戻った時に名前を変えようとしたが、変えられず、ある程度の所まで進んでいたためこのまま続けてしまった。もう一度作り直せばよかったのだが、とあることがあった為、もう一度初めからやりたくない気持ちが大きいのもあった。
ストーリーも楽しみながらも、装備が更新される度に課金し、着せ替えを行う。それがわたしの楽しみ方であった。
残業して日付が変わるくらい帰ることもあるが、寝る間も惜しみながら毎日数時間このゲームに費やしていた。
仕事をして、ゲームをして、を繰り返している中で肌も荒れ、ストレスで声もかすれてきた。肉付きの悪かった身体は更に細くなり、他の人から『ガイコツじゃん』と言われたこともある。
やっと眠くなってきた。
明日も早く起きないといけないの………に………
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「おや?起きたかい?そろそろだよ」
寝ていたわたしは何かに揺らされている。
(……………ん?誰の声…?あれ…?なんで揺れて?)
気付いて飛び起き、寝起きで思考の定まらない中で、目を開けようとするが、周りは土埃が舞っており、すぐに目を閉じる。手で顔を覆うように隠しながら起き上がり、薄目で前を見ると驚きの光景が広がっていた。
高く大きな壁。大きな門。そして、そこから見えるレンガ造りの建物。日本の景色ではなかった。
「………なにこれ…?………どこ?」
口から漏れ出た声に違和感がある。高く鈴の音が響くような綺麗で可愛らしい声が聞こえた。ストレスで枯れたはずの喉からは出ない筈の声だった。
「え?」
そんな声がわたしから聞こえてくる。
「…ええ!?」
その声には覚えがある。
A・E・Oでわたしが作っていたキャラの声にそっくりだ。そっくりと言うよりは全く同じに聞こえてしまう。
そして気付いてしまう。目の前の景色もゲームで見たことがあった。
「嘘でしょ…」
わたしの額から大きな雫のような汗が吹き出てくる。
確認したくないとは思いながらも、自分の頭を触ってみると普通の人間では何も無いはずのところにふわふわとした耳がある。自分のお尻の方を見てみると、白い尻尾が生えている。お尻の先を動かすように思ってみると、白い尻尾もくねっと動いてしまう。
見えている尻尾はわたしの使っていたゲームのキャラと同じ、猫の獣人族の尻尾だった。
自分の胸を触る。痩せた体型とは違う大きな膨らみを感じる。
自分の腕をつまみ、ひねるがじんわりとした痛みを感じる。指には爪があり、チクリとした痛みと共に赤い鮮血が滲み出てくる。
間違いない。
わたしが使っているキャラの姿だ。
わたし、夏波陽葵はゲームの世界に転生してしまったみたいだ。
(小説とかで見た事のある転生。わたしは死んだの?)
昨日はいつも通り寝ていたはずだった。病気にもなってないはず。昨日の食事を覚えてない為食べてない気がするがそれだけだ。
神様の様なものは見ておらず、気付いたらゲームの世界。しかも、この馬車での移動と行者のセリフは初めてゲームを起動した時に流れるムービーにあった。
ゲームであったら、キャラメイクを行い、決定した後の状態が今である。ということは、ゲーム通りであればこれから起こる事を知っているということでは?
わたしは最新版までゲームの進捗は進んでなかったけど終盤近くまでは進んでいた。そして、モンクしか使っていないがレベルはカンスト、スキルも大量に覚えており、コンボも覚えている。
これは無双できるのでは?
この時のわたしは何も気づいてなかった。
ゲームで出来ていてもそれが現実で出来るとは限らないということを
3話までは毎日投稿になりますが、以降は不定期更新になります。
面白いと思ってもらえれば幸いです。
よろしくお願いします。