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11人目の戦核者  作者: アメイロ ニシキ
12/13

第12話

 粛正は滞りなく終わり、しばらく。


 満足した俺はあの女達に何かを求めるでもなく、何事も無かったように街道を歩き始めた。


 結果として裸にひん剥いた女は死んではいない。もっと正確に言うなら、魔獣にとどめを刺されそうになっている所を俺がギリギリで助けた。


 剣を一閃しただけで大半の魔獣が吹き飛んでしまったのには拍子抜けしてしまったが。負傷しているとはいえ、この程度の相手に裸一貫でも勝てないなどと、流石にレベルが低すぎるだろ。よくこれで男を見下せるものだ。


 まぁしかし、片腕を食い千切られている時点で助けるも何もあったものではないと思うが、命はあるのだから文句は受け付けない。

 それに、あのまま死なれては目的も達成できなかったからな。どれだけ俺が腐った奴等を懲らしめたところで、それを伝える者が居なければ何の意味もない。殺されかけた本人が伝える言葉なら信憑性も高まるというもの。


 生憎と本物の外道に堕ちるつもりは無いのだ俺は。


 血塗れで息も絶え絶えな女を、残りの2人が必死に手当てしようとしていた姿を見るに、やはり根っからの悪党というわけでもなさそうだった。それが分かっただけでも収穫はあった。


 流石にコイツ等も学んだだろうと、村から持ってきた効果も高く即効性もある薬草液を投げ渡した。ついでに俺が着ていた上着も。

 街で売っているポーション類よりも、やはり師匠(せんせい)が調合した薬草液が一番回復力が高い。失った片腕はもちろん戻らないが、切り傷噛み傷程度なら直ぐに完治するだろう。


 「これに懲りたら生き方を改めろ。少なくともこの世界には、お前達より強い男が1人は居る事を忘れるな。戦核者の影に隠れてふんぞり返るのではなく、自分自身がどう生きるべきかを考えろ。いいな?」


 去る間際、そんな問い掛けをした。恐怖でも何でも頷いてくれればそれで手打ちにしようと思っての言葉だった。少しでも変われと。

 しかし、女達の反応は俺が思っていたものとはあまりにも違っていたのだ。


 「は、はい」


 「肝に銘じる……」


 「……」ポー


 強がりでも悪態でも泣き言でもなく、何故か恍惚とした表情で頷かれた。それに若干の気味の悪さを感じた俺は、返答を待たずして去ったのだ。



 何だったんだあの反応は。組み伏せていた女2人の方だけならともかく、殺しかけた女まで同じ反応って……それにあの目、たまにユナが俺に向けるものによく似ていた。


 女って本当に意味が分からないな。去り際に名前を聞かれたのも理解できない。名前に関しては後々追われても面倒でしかないので偽名を名乗っておいた。


 アカメ。瞳が赤いからという理由だけで名付けた。うぅん、我ながらセンス無し。



 はぁ……それにしても。



 「ゔ……ぇ゛……」


 「さて、もう一度聞こうか。お前が言うべき言葉は何だ?」


 「ご……ごべ……ん、な……ざぃ゛」


 「それだけか?」


 「わだ……じ、が……お゛ろが……でじ、だ……! ゆる……じでっ」


 「なんだ、言えるじゃないか」


 「ゔっ、ゲホッゲホッ!! うぇぇぇっ……!」


 首を締めている両腕の力を抜くと、糸が切れた操り人形のように女が崩れ落ち、その場で激しく咳き込んだ。


 最初の襲撃から半日すら経っていないにも関わらず既に三度目。そう、三度も俺は見ず知らずの女達に絡まれた。なんなんだ本当に。


 一度目はすれ違い様に「臭い。気分が悪くなったから金出せ」と理不尽な要求を突き付けられた。

 お望み通りに財布から金貨を取り出し、それを指で勢い良く弾き、額にめり込ませて吹っ飛ばした。もちろん金貨は回収済み。


 二度目は怪しげな勧誘を受けた。男限定の特別待遇を約束するだの何だの意味の分からんことを言われ続け、断ったら実力行使に変えてきたので地面に埋めた。上から土を被せなかっただけありがたく思ってほしい。


 そして三度目。そろそろ日が落ちるので街道の外で野宿の準備でもと思っていた所へ女盗賊の集団が現れた。

 持っている物すべて置いて失せろと言われたが、そんなものに従う義理もなく。というか、立て続けに女に出会していい加減イライラや面倒臭さもピークに達していたので、割と加減なしに殴り飛ばした。


 現在。盗賊の頭と思われる女を平手打ちのみで制し、首を締め上げ謝罪の言葉を聞き届けてようやく気が晴れたところである。

 どうせ表面上のものでしかないと分かっていても、今はこれ以上追求すること自体が面倒だ。



 まったく、腐り過ぎだろうこの世界。コイツ等は男と分かれば喧嘩を売らなければならない病気でも患っているのか。

 前に街へ行く時はこんな事は一度も起こらなかったのに何故──……あぁ、そうか。あの時は師匠(せんせい)も一緒だったから絡まれなかったんだ。それなら納得。


 「はぁぁぁ……」


 大きなため息を吐き出して、中途半端になっていた野宿の準備へ取り掛かる。俺に殴り飛ばされて伸びている盗賊が周りに居てもお構いなしだ。片付けるのも億劫になる程度には疲れたからな。


 まずは火を起こす。幸いにも林が近場にあったので、手早く枯れ木を集めて乾燥した草類も採取。

 手頃な石ころを円状に並べて、その中へ枯れ木と草を投入し、家から持って来た火打ち石で難なく着火に成功した。魔導具を使えばもっと手早く済むが、やはり極力頼りたくはない。


 荷物の中から前日に下処理をして一口大に切っておいた熊肉を取り出し、同じく持参した鉄串に刺して火にかけた。

 下処理のおかげで多少保存期間が伸びているとはいえ生肉。早めに食べなければ傷んでしまうからな。初日から贅沢なのは許してほしいところである。


 「……」


 「ん?」


 焼き上がるまで読書でもと思い、手帳を広げた直後だった。何やらグゥ〜っと妙な音が響き渡る。音の発生源に視線を移せば、先程俺が絞め落としかけた女盗賊が今にも口から涎を垂らしそうな表情で肉を見つめていた。


 気付けば伸びていた他の奴等も意識を取り戻しており、お預けを受けている犬っころよろしく、全員が同じように肉を見ているではないか。


 言わずとも「食べたい」という意思が痛いほど伝わってきた。


 まさか食料すら持っていないのかコイツ等。……まぁ、そういった物に困っていなければ、そもそも盗賊なんぞやっていないだろうからな。

 よく見れば、先に襲ってきた女達とは違い、コイツ等は随分とみすぼらしい格好をしている。力のある核者のくせに、どうしてここまで落ちぶれているんだ……ふむ、だんだんと興味が湧いてきた。


 「お前、名は?」


 「……えうっ!? オレ──じゃなくて、わ、私、ですか……?」


 盗賊の頭に声をかけたら妙な反応で返されてしまった。

 何だその態度。襲い掛かってきた時はゼニスも顔負けなくらいオラオラしていたじゃないか。気持ち悪い奴だな。


 「そうだお前だ」


 「えっと……リューネです」


 「そうか。単刀直入に聞くぞリューネ。お前達はどうしてこんな真似をしている? 男を襲うのが楽しいからか? 奪うという行為が楽しいからか? 優越感に浸りたいからか?」


 「そ、それは……その……ぁの」


 「答えろ」


 嘘は許さんぞと語気を強めて威圧する。既に実力差も示した以上、これで愚かな選択をするとは思えないが……さて、聞かせてもらおうか。


 不安気な表情を浮かべ、話しづらそうに長い黒髪を揺らすリューネ。考える時間は与えまいと更に目付きを鋭くする。

 そんな俺に小さく悲鳴を上げた後、周りの仲間に軽く目配せをして、ようやくぽつりぽつりと語り始めた。


 「オレ……ぁ、私は」


 「普段通りに話せ。言葉遣いを改める必要は無い」


 「は、はぃ……じゃなくて、おうっ」


 そこからリューネが語り始めたのは自分達の過去話だった。


 どうやらコイツ等は元々全員が国に仕えていた騎士だったらしく、とある騒動に巻き込まれ、結果的に国から追われる身となってしまったらしい。


 同じく騎士として活動していた仲間の裏切り。ありもしない罪をでっち上げられ、地位を奪われた挙句に犯罪者扱い。裏切った相手はリューネの立場を奪い、現在もまだ真相を知っているリューネ達を消そうと討伐隊を派遣しているそうだ。


 食い扶持を失ったリューネ達に残された選択肢は多くない。相手は国に仕える騎士故に、国の息がかかった職にはまず就けないだろう。

 商人や傭兵はもちろん、冒険者などもってのほかだ。あっという間に情報は拡散されて居場所は簡単に特定されてしまう。


 そうして真っ当な生き方を奪われたリューネ達が行き着いたのが、盗賊だった。

 盗賊ならば足はつかない。追手を撒くために各地を転々とし、道行く者の物資を奪えば行き永らえることも可能だ。



 これが短時間で考えた真っ赤な嘘ならば大したものだな。しかし、事の顛末を語るリューネの表情は酷く悔し気なもので、途中からは涙声になっていた。

 周りの仲間も今にも自責の念に潰されてしまいそうなほど顔を歪めている。


 声、表情、感情、体の震え。そして視線。


 どれを取ってもリューネが嘘を吐いているようには見えなかった。

 俺は他人より目が良い(・・・・)。だから相手が嘘を吐けば間違いなく違和感を感じる。が、コイツ等の言葉や所作に違和感は感じられない。


 全て真実か、或いは俺の観察眼すら掻い潜るほどの演技派なのか。まぁ、どちらにしてもコイツ等がやった事は褒められた行為ではない。

 たとえ過去話が本当だとしても、罪の無い相手にいきなり襲いかかるのは外道の所業だ。


 ……とは言え、クズでもないのがな。聞けば、盗賊をしていると言っても持ち物を奪うだけで命を奪ったことは無いそうだ。この言葉にも偽りは無かった。


 さてどうしたものか。いっそのこと救いようのないクソ野郎だった方がやりやすかったんだけどな。

 改心の余地が有る者への粛清。それ即ち外道と変わらぬ行いと知れ。師匠(せんせい)の教えだ。


 はぁ……仕方ない。


 「お前達を嵌めた奴の名は?」


 「キアラ。キアラ・マグネスだ」


 「騎士間での地位は?」


 「オレの後釜のままなら、第3騎士団長。一部隊の長と考えてくれていいぜ。あー、冒険者で例えるなら──」


 「例えるな。俺はその辺りの知識には疎いんだ。それだけ聞ければ十分足りる」


 「そ、そうか。……なぁ、それを聞いてどうすんだ?」


 「ん? どうもこうも、そいつが居る限りお前達は表立って職にも就けないだろ? 今後そいつを見かけたら始末をつけておいてやる。

 冒険者になれば何処かで出会す可能性もあるからな。ついでだ」


 正直言って面倒でしかない。しかしこのまま放っておいたら、あの3人組と同じくコイツ等も同じ事を繰り返すだろう。生きる為に襲って、その度に自責の念に囚われて、また襲って、その繰り返し。悪循環だ。

 それに、救える者は救えと師匠(せんせい)から教え込まれた身としては、このまま知らん顔では居られない。


 コイツ等はまだ戻れる。女だろうが何だろうが、嫌いだからと考え無しに見捨てるのはあまりに愚かだ。


 「無理だ。悔しいがアイツの実力はオレよりも上なんだぜ? どう足掻いたところで、そもそも男が敵う道理なんざねぇよ」


 「その男に無様に殴り飛ばされたことをもう忘れたのか?」


 「うっ」


 指摘してやれば赤く晴れた頬を撫でるリューネ。他の奴等も同じく殴られた箇所をそれとなく庇っていた。


 「お前以外も元騎士か?」


 「ああ。コイツ等は元々オレの部下だった。情けねぇことに部隊まるまる嵌められてこのザマさ」


 「ふぅん……おい、お前」


 「ひゃいっ!」


 リューネの近くに座っていた金髪の女に話しかけると、飛び上がらん勢いで肩を震わせた。何をそんなにビクついてるんだこの女。


 「今リューネが話した事は全て真実か?」


 「は、はいぃ! ホントで──」


 「目を逸らすな。俺の目を真っ直ぐに見て答えろ。もう一度聞くぞ、今の話は本当か?」


 「は……はひ……ホントれす……」


 まさしく挙動不審。完全に目が泳いでいたのでしっかりと釘を差し、もう一度答えさせた。もにゅもにゅと口を動かして小さく紡がれた言葉。

 真っ直ぐに女の目を見て、それ以外も満遍なく観察し、女の言葉に偽り無しと判断した。


 「はひゅぅ……」


 「お、おいコロネ!? 大丈夫か!?」


 「は、恥ずかしいぃ……でもイイかも」


 顔を真っ赤にした女がいきなり倒れ込み、それを見て慌てて他の仲間が抱き起こす。何かを口走りながらも両手は上気した頬に添えられており、視線は俺の方へ。

 気のせいだろうか。女の瞳の奥にハート型の何かが見えたような……いや、そんな訳ないか。いきなり気持ちの悪い奴だ。


 「何なんだコイツは」


 「悪く思わねぇでくれ。おそらくだが反動ってやつだろうよ」


 「反動?」


 「ああ。アンタも当然知ってるだろうが、この世は女性優遇社会だ。男は肩身の狭い思いをしているだろうし、実際大多数が女にビビって縮こまっている。

 見慣れちまった光景だ。だから、アンタみてぇな存在にオレ達は耐性が無い。女より弱い筈の男が元騎士であるオレ達を簡単に捻じ伏せただけでなく、加えてさっきの堂々とした態度だ。コロネが倒れるのも無理はねぇ」


 「……そういうもの、か?」


 今の説明を受けてもコロネと呼ばれた女の反応についてイマイチ理解できなかったのだが、俺がおかしいのか? 俺がコイツ等より強かっただけでどうしてあんな状態になるんだ。理解できん。気持ち悪い。


 そうして首を傾げていると、ちょうど熊肉がいい感じに焼けてきた。火傷をしないよう鉄串の持ち手に布を巻きつけて手に取り、さぁ食べようと口元へ運んだ直後……再び鳴り響く腹の音。

 ジト目で見つめる先には熊肉を食い入るように見つめるリューネの姿。


 まったく、何が核者だ情けない。コイツ等の境遇に同情する部分はあれど、食料くらい他人から奪わず自力で確保できないのか。

 ……いや、元騎士だったな。今まではそんな事をせずとも国から食事が支給されていたのだろう。それに甘んじていたからこそ自力での狩りを知らないのか。世話の焼ける。


 「誓え」


 「え?」


 「金輪際、道行く人から物を奪わないと誓え。騎士だったなら尚更道を外れるな。それとも盗賊生活でそんな当たり前の事すら忘れてしまったか?」


 「そ、そりゃオレ達だって襲いたくはねぇよ。でも生きてく為には食わなきゃ」


 「察しが悪い奴だな。誓うなら俺の食料を分けてやると言ってるんだ。それと狩りのやり方もな」


 「えっ」


 俺の言葉がそんなに意外だったのか、リューネ達は驚きに言葉を失った。いちいちそんな反応に構っていたら時間がいくらあっても足りないため、構わずに続けていく。


 「そのキアラとかいう奴を始末する前にお前達が悪さをしてたら意味が無い。だから誓え。誓わないのなら外道と判断し、ここで斬り捨てるのもやむなしだ」


 「っ、誓う! 誓うぞ!」


 「団ちょ──じゃなくて、(カシラ)! そんな簡単に!」


 「どの道オレ達に選択肢は無ぇ。心を入れ替えるか、ここで死ぬかだ」


 「死ぬって……」


 「この男は本気だ。曲がりなりにも騎士団長を任されていた身……今の言葉が本気かどうかくらい分かる」


 「ほう?」


 俺の中で少しだけリューネの評価が上がった。ここで逆上してくれてもそれはそれで有りだったんだが、まぁ厄介事は少ない方がいい。


 「今の返事に嘘偽り無しと捉えても構わないんだな?」


 「意地の悪ぃ奴だな。それくらいアンタなら分かってるんだろ?」


 「言うじゃないか盗賊」


 まぁいい。ともかくこれで血生臭い展開にはならない事が確定した。元とは言え騎士、そう簡単に誓いを破ることはあるまい。

 いいだろう、と一言呟いて、手に持っていた熊肉をリューネに手渡した。瞬間、しばらくぶりの食事と言わんばかりに齧り付く姿は獣のそれ。不覚にも少しだけ笑ってしまった。


 「うぅ……」


 「心配するな。多くはないがお前達の分もある」


 他の奴等から物欲しそうな表情で見つめられ、鞄の中から残りの熊肉とパンをいくつか取り出す。丁寧に包んでおいた保存食も引っ張り出して、1人1人に配っていった。

 リューネに負けず劣らずな食いっぷり。中にはカチカチの黒パンを涙を流しながら食べる者まで居る始末。


 熊肉は生だが、それくらい自分で焼け。そこまで面倒を見るつもりはない。


 しかしまさかこんなことになるとは……多めに食料を持ってきて正解だったな。


 元騎士とは思えないほどがっついて食べる姿に苦笑を溢し、俺もまた黒パンを齧る。肉はしばらくお預けだな。


 「むぐむぐ……な、なぁアンタ」


 「飲み込んでから喋れ」


 「お、おう。んぐ……えっと、結局アンタって何者なんだ? 男であの強さ、明らかに普通じゃねぇだろ」


 「別に何者でもない。ただ毎日狩りと鍛錬に明け暮れていただけの存在だ」


 「いやいや、それでも限界はあるだろ。

 分かった! さては魔導具だな? 身体を強化する魔導具もあった筈だし絶対それだ」


 「そんな物に頼らなければならないほど柔な鍛え方はしていない。ここまで強くなれたのは恵まれた環境と……まぁ、俺が戦核者である部分も大きいだろう」


 「………………は?」


 あぁ、つい流れで口走ってしまった。いかんな、もう少し気を引き締めないと。


 まぁ別に絶対に隠さねばならないことでもなければ師匠(せんせい)に禁止されている訳でもない。切り替えていこう。


 自分が戦核者であると暴露した途端、あれだけ飯にがっついていた女達の動きが止まった。

 全員が全員、信じられないものを見る目で俺を見ている。


 確かに男の戦核者は特別なのだと自覚していたが、そんなに目を丸くするほどだろうか。俺個人の考えとしては、見つかっていないだけで案外そこらにゴロゴロ居ると睨んでいるが。


 「嘘、だろ……いや、でもさっきの強さは普通じゃなかったし、騎士団の中でもそれなりに力のあったオレですら子供扱いだった。

 冷静に見てみれば奴が体中に纏っているのは覇気にも似た威圧感。普通の男じゃまずありえない。じゃあやっぱり……本物……? もしそうだと仮定した場合、文献に記されていた最後の男の戦核者から数えて、約300年振りの……!」


 「何をブツブツと──」


 「名前を! 名前を聞かせてはくれねぇか!」


 まただ。最初の3人組といいリューネといい、何故そんなに名前を聞きたがるんだ。あいつ等と違う点と言えば、リューネはかなり興奮気味で……心なしか頬も上気している。

 リューネだけじゃない。他の奴等も同様だ。あれだけ食事に夢中だったくせに全員が手を止め、前のめりになりながら俺を見ていた。


 どいつもこいつも何なんだ。


 当然ながら本名を名乗る愚行はしない。先と同様に偽名を名乗ることにした。


 「アカメだ」


 「アカメ……アカメ様か」


 ん……? 気のせいか? 今、様付けされたような。


 「数々の比例をお詫びします。改めて名乗らせて頂きたく思いますが、よろしいでしょうか?」


 「……? あぁ」


 いきなり口調が変わったリューネに気味の悪さを感じた。明らかにさっきまでとは違う……そう、まさしく騎士と呼ぶに相応しい所作で俺の前に跪き、また、それに習って全員が同じく俺へと頭を垂れた。


 「私の名はリューネ・ベルゼリート。元桜花騎士団所属、第3騎士団長を務めていました。

 今や見る影もなく落ちぶれてしまった我が身、嘆かわしいことと理解しております。ですが、堕ちてしまったからこそ、こうしてアカメ様に出会うことができた。自分はなんと幸運なのでしょう。

 ……失礼。アカメ様、もし可能であれば、貴方様が真の戦核者であることを証明してはいただけませんか?」


 「と言われてもな。お前達を打ち負かしたことは証明にならないのか?」


 「恐れながら、未だ魔導具の線も消えていませんので。それに昨今、自身を戦核者だと偽り吹聴する者も時折現れています。まさかアカメ様がそうだとは思いませんが、一応の確認をお願いしたく思います」


 「偽り、ね。多くの核者共がマトモなら、そもそもそういう奴等も出てはこなかったと思うが……まぁいい。

 このまま疑われるのも癪だ。証明するにはどうすればいい?」


 「私の手を握ってください」


 「手を?」


 「はい。同じ戦核者ならば、初めて肌同士が触れ合った際に力の共鳴反応が起こる筈です」


 共鳴反応? ここに来て俺が知らない現象が出てきたな。師匠(せんせい)からも聞かされていないし、今まで師匠(せんせい)と接触する事はあれど、それらしきものが起きたこともない。

 うぅむ……怪しい。それに……。


 「その言い方だと、お前も戦核者のように聞こえるが」


 「その通りです。正確には、桜花騎士団に所属する騎士団長全員と言った方がいいでしょうか」


 ふむ、そりゃそうか。力があるからこそ上の地位に立っているわけだし、おかしな点は無い。そもそも桜花騎士団ってのがどんな存在なのかまったく知らないが、まぁ割とどうでもいいので詳しくは聞くまい。


 しかし共鳴反応か……怪しい、そこはかとなく怪しい。だが手っ取り早く証明出来るに越したことはないし、やるしかないのか。


 「握るだけでいいんだな?」


 「はい。何なら、指同士を絡めても構いませんよ?」


 「あ、団長ズルっ……!」


 「抜け駆けしてますわ」


 「テメェ等は黙ってろ。おほんっ! で、如何いたしますか?」


 「気色悪い。必要が無いならそれ以上する意味も無し」


 「……そうですか」


 あからさまに落ち込まれた。というか、揃いも揃って態度が変わり過ぎだろう。俺が戦核者だと暴露した途端にこれって……想像以上の存在なのか? 男の戦核者とは。


 「では、どうぞ」


 「ん」


 徐に差し出されたリューネの手を、内心では警戒を厳にしながら握り返す。これで共鳴反応とやらが起これば良し。仮に良からぬことをされそうになれば返り討ちにしてやるだけだ。


 少しだけ興味が湧き、さぁどうなる? と事の成り行きを見守ろうとした……直後。


 「ん゛っ……!! はっ、ぁ……! あぁぁあぁっ!!」


 「団長!?」


 「えっ、えっ? すっごい痙攣してるけど」


 リューネが弾かれるように体を仰け反らせ、その口から艶めかしい声が漏れ出る。握った手から十分に伝わるほど体はビクビクと震えており、何かを我慢するように両足を擦り合わせ、挙句には涎を一筋垂らしていた。

 瞳の奥に見えたのは、先程コロネと呼ばれていた女と似たもの。流石に心配になるくらい顔を真っ赤に染める姿は、正しく異常であった。


 「も、もうっ、じゅ……ぶん、です! 離してくだ、しゃい……!」


 「何なんだいったい」


 「はぁっ……はぁっ……はぁっ……! こ、こりぇは……予想以上っ。あまりにも危険です……!」


 息も絶え絶え。四つん這いで未だに足をガクガクと震わせるリューネは、信じられないものを見る目で自分の手を見つめていた。


 どうでもいいが、結局共鳴反応とやらは起きたのか? 俺は一切何も感じなかったが……やはりコイツ、テキトーなことを言っていたのでは?

 いや、ほんの少しだけ何かがピリッと走った感覚はあったか。だが、それを共鳴反応と言うには些か無理があるように思う。静電気と言われた方がまだ納得できるぞ。


 「それで、証明のほどは?」


 「まさしく、まさしくっ、アカメ様は戦核者に相違ありません! しかも、未だかつて経験したことのないほど強大で、底の知れない……いえ、いえ! どこまでも高く! 気が遠くなるほど高く! 決して手の届かない領域! 全身の細胞が私へ強烈に訴えかけました! 貴方様こそが、本物であると!

 男の戦核者は類稀な力を持つ……文献の通りだ! はぁ……はぁ……!」


 「お、おぅ……」


 流石に今のリューネには俺でも引いた。たまに強引に迫ってくるユナの数十倍は危険な雰囲気を纏っている。これは深堀りすべきではないな。

 まぁ疑いが晴れたのなら何でもいい。


 「アカメ様っ!!!」


 「あ、はい」


 自分でも驚くほど間抜けな反応を返してしまった。それだけリューネの迫力が凄まじいのだ。

 ギラギラと、しかしどこか蕩けているような瞳。全身から発せられている得体の知れない雰囲気は、師匠(せんせい)の扱きを耐え抜いてきた俺でさえたじろがせた。


 突然、額をかち割る勢いでリューネが頭を振り下ろし、地面へと顔面をめり込ませる。どう見ても奇行。それだけに留まらず、他の奴等も負けず劣らずの勢いで頭を打ち付け始めたではないか。


 えぇ……? いや……えぇ……?


 「アカメ様にお願いしたいことがあります! どうか! どうか私達を配下に加えていただきたく──!」


 「断る」


 秒で突っぱねた俺の判断は正しかった、筈だ。

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