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11人目の戦核者  作者: アメイロ ニシキ
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第11話

 時刻は既に正午過ぎ。村から出発して数時間ほど木々の間をひた歩いていると、ようやく森を抜けた。

 遠目に見えるのは街と街とを繋ぐ街道であり、前に師匠(せんせい)と出掛けた時に見たそれと何ら変化は無い。正しく記憶通りの道だった。


 石を組んで作られた街道に足を乗せ、そのまま北へと歩みを進める。3日ほど徒歩で進めば目的地である街に到着するはずだ。

 一歩一歩、足の裏に固い感触を感じる度に俺は複雑な気持ちになった。その理由として、師匠(せんせい)曰く、この街道を整備したのは他でもない男達だそうだ。


 それも奴隷のような扱いを受けてきた者達の手で、この道は作られた。同じ男として複雑な気持ちになるのは無理からぬことだろうと自分でも思う。


 「奴隷か。結局、男は使い捨ての駒……クズが」


 無意識に出た言葉に小さく頭を抱えこむ。出発早々これでは先が思いやられるな。果たして変わることなど出来るのだろうか。

 いや、弱気になってはダメだ。やると決めたからにはやり遂げなくては。師匠(せんせい)の教えを無駄にはできない。


 保険として多めに持ってきた食料やその他諸々を詰め込んだ鞄を背負い直し、余計な事は考えないように再び足を踏み出した。



 さて、気を取り直したところでだ。街に着いたらまず何をすべきだろうか? 街内で野宿はダメだと言い含められてしまったので、宿の確保は必須。冒険者になるのだからある程度は身なりも整えるべきか。


 度重なる鍛錬でボロボロになっていた革鎧は泣く泣く家に置いてきた。まだ使えはしたのだが、いざ大事な局面で完全に破損しようものなら目も当てられない。故に今は防具といった物は着込んでおらず普段着だ。加えて外出用の上着。

 無論、鎧無しでも対応できる自信はある。しかし何事も絶対は無いものだ。防具等に関しては師匠(せんせい)に渡された資金を使ってどうにかしよう。もちろんなるべく安上がりな物を。


 「代わりの剣も必要だな」


 渡された黒剣タナトスはここぞという場面でしか使用しないつもりだから……よし、決めた。まずは宿の確保、その次に武具屋だ。


 とりあえずの方針も決まったところで鞄から黒パンを取り出し、それを噛りながら街に向けて歩み続けた。







 「ん?」


 街道に出てから2時間ほど経っただろうか。ふと視界に入ってきたのは、街道から離れた場所でこちらを睨み付けている狼型の魔獣数匹。

 距離にして約20メートル。魔獣らしく敵意全開で俺を睨んでいるくせに、そこから動こうとしない。……いや、近づけないの間違いだな。


 街道付近には魔獣避けの魔導具が等間隔で埋められていると師匠(せんせい)に教えてもらったことがある。一歩踏み出そうとしてすぐに足を引っ込める素振りを繰り返しているのが、魔導具がしっかり機能している証拠だ。


 これがあるから商人や一般人でも護衛無しで長距離の移動ができる。こんなものいったい誰が発明したのか。しかし流通問題に大きく貢献できているのは事実なのだから、賞賛されるべきなのは間違いない。


 「魔導具、ね」


 だが、便利故に人はそれに依存してしまう。いざ魔導具が無くなった時はどうする? たとえば街道の魔導具が、何らかの不具合で機能を停止してしまったら? 結果は言うまでもない。


 そういうことがあり得るからこそ、師匠(せんせい)は俺に極力魔導具を頼らないやり方を叩き込んだ。

 日常生活、狩り、戦闘。どんな局面であろうと最後に頼れるのは己の身一つ。魔導具や戦核に甘んじて自らを鍛えることを疎かにするなど愚の骨頂。師匠(せんせい)の教えだ。


 「……」


 襲っては来ないのだから一先ず魔獣のことは放っておき、再び歩みを進め始める。


 分かってはいたことだが、この味気ない移動が3日も続くとなると流石の俺でも退屈でどうにかなってしまいそうだ。

 退屈しのぎに街道で鍛錬も考えた。が、当然この街道を使うのは俺だけじゃない。いざ他の人が通りかかった時に鍛錬などしていれば邪魔になる。だから無理だ。


 なら街道を離れて自然の中で行うべきか? それも却下だ。街道を離れる、それ即ち魔獣が闊歩する空間で鍛錬する事と同義。

 実戦を交えた鍛錬と考えれば、まぁ選択肢としては有りである。いつだったか実戦に勝るもの無しと師匠(せんせい)も言っていた。しかし忘れてはいけないのが現在の俺は剣を持っていないということ。


 タナトスは論外だ。鍛錬で使うなど畏れ多いことこの上ない。ましてや魔獣を斬って刀身を血で汚すなどもってのほか。

 何度でも言おう。タナトス(これ)はいざと言う時以外では使わないと。


 まぁ素手でも寝起きの師匠(せんせい)と渡り合える程度の実力はあるのだから、そこいらの魔獣相手ならば撃退も難しくはないだろう。

 とは言え何事にも不測の事態は付き物だ。魔獣について特別詳しい訳でもなし。俺や師匠(せんせい)並みの相手が出てきたら厄介どころの話じゃないからな。


 街道上でも無理、外でも無理。ならば残されている選択肢は──。


 「読書だな」


 今の俺に出来るのはそれくらいだった。

 徐に鞄からボロボロの手帳を取り出して、テキトーにページを捲る。歩きながら読書など普通なら褒められた行為ではないだろう。前から来た人とうっかりぶつかってしまう可能性も捨てきれないが、生憎そこまで鈍ってはいないからな。


 今回は俺の退屈を紛らわす方を優先させてもらう。


 「……ふっ」


 手帳に書かれた文字を読んでいれば、自然と笑みが溢れた。

 読書と言いつつも俺が読み耽っているのは、市販されている本ではなく他ならぬ俺の文字が記された手帳だ。


 別に自分が書いた物語が面白くてとか、自分の文字に満足しているだとか、そんなふざけた理由ではなく。


 「人が宣う正義など、所詮はそいつの価値観や我儘、偽善でしかない。では正義とは? 決まっている。どれだけ打ちのめされようと、どれだけ馬鹿にされようと、その偽善を最後の最後まで貫き通し、多くの支持を得て、多くに認められて、初めてそれは正義となる。

 だから簡単に曲げるな。自分の意志を。たとえ道を逸れたとしても、最後には戻れ。そうした先に必ずお前の正義がある。……ふ、良い言葉だ」


 この手帳には、今まで師匠(せんせい)に教わってきたこと全てが記されているのだ。もちろん、この一冊だけに収まり切る量ではないので、まだ同じ物が他にもある。

 流石に大荷物になってしまうから大量にある物の中より厳選してこの一冊だけを持って来た。


 どのページを開いても学ばされる言葉ばかり。やはり俺の見立ては間違っていない。師匠(せんせい)を越える人格者など他にいるものか。


 「……ん?」


 手帳を読みながら歩き続けることしばらく。何やらガラガラと聞き慣れない音が聞こえてきた。その音は背後から、だんだんとこちらへ向かってきているようだ。


 その場で軽く振り返った先には、荷車を引く馬の姿。積み荷……ではなく、荷車に乗っているのは3つの人影。俺と同じく街へ向かう人達だろう。


 邪魔にならないように街道の端へ寄り、前を向いて再び手帳へと視線を落とした。


 ……しかし。


 背後から感じたのは明確な悪意。師匠(せんせい)殺気(それ)に比べれば赤子同然の小さな脅威が迫っているのを察知した。

 慌てることなく上半身を傾けた直後、俺の頬スレスレを通り過ぎたのは杖の先端部分。先程の荷車に乗っていた何者かが、すれ違いざまに俺の後頭部を狙ってきたのだ。


 「ちっ、ハズした」


 「はーい賭けはアタシの勝ち〜。夕食代はアンタの奢りね」


 「仕方ないわね。でもあまり高いものは頼まないでよ?」


 「はいはい」


 荷車は止まることなくそのまま街の方へ走り去ろうとしている。僅かに聞こえた会話の内容から、このような暴挙に出た輩達の目的は何となく理解できた。


 つまり、無防備に背中を晒している俺に攻撃が当たるか否かを賭けていた……と言ったところだろうか。そして、そんな気はしたが見た限り全員女。

 まさか出発早々この世界の腐り具合を目の当たりにするとは、俺も不運だな。しかも相手は何食わぬ顔でこの場を去ろうとしているときた。罪の意識すら欠片も感じられない。……ふむ、なるほど。



 ふ ざ け て い る の か ?



 「外道畜生に容赦なし。どちらが狩られる側か分からせてやれ」


 師匠(せんせい)の教えだ。文字通り分からせてやる。できれば面倒事は避けたいところだが、奴らを放っておけば第二第三の被害者が出てくるのは想像に難くない。

 これ以上、俺の目の前で腐敗を蔓延させてなるものか。


 「前途多難だな」


 鞄を背負い直し、体勢を低く、そして地を蹴った。荷車の速度はそれなりだ。常人では走っても追いつけない。

 だが俺は常人ではなく戦核者。内から漲る力を遺憾なく発揮して、瞬く間に荷車に追いついた。


 まさか俺に追いつかれるとも思っていない3人は、これだけ接近してなお俺の存在に気付かず談笑を続けている。好都合だ。気付いていないならそれだけやりやすくなる。


 先程俺を殴ろうとした女が持っていた杖が荷車の中に立てかけられていたので、これ幸いと素早く外から頂戴する。

 これを使って1人1人殴り倒していくのも一興ではあるが、非効率的だ。故に、激しく回る荷車の車輪の中へ勢い良く杖を突っ込んだ。


 「えっ」


 「なっ!!?」


 「きゃあっ!?」


 突然止まった車輪に荷車は制御を失い、大きく前へと跳ね上がる。乗っていた3人は当然投げ出され、街道へと無様にその身を打ち付けた。


 馬に罪は無いので、跳ね上がった直後に荷車と切り離し、尻を叩いて逃がしておいた。これくらいなら剣が無くとも容易だ。


 「いったぁ……何が起き──ってアンタ!?」


 起き上がった女の1人が俺を見上げる。続いて残りの2人も起き上がったが、ポカンとして動かない。どうやら状況が飲み込めずに混乱しているらしいな。無理もないが。

 ん? よく見ればコイツ等防具を着ている。一般人……いや、察するに冒険者か。


 「さっきぶりだな」


 言いつつ、ひっくり返った荷車を街道の外へと大きく蹴飛ばしておく。後から通行人が来たら邪魔だからな。


 「え、今……蹴って……? 男、よね……?」


 ん? やたらと驚いているな……あぁそうか、男には力が無いのだから今みたいに荷車を蹴飛ばすのも、こいつ等からしてみれば信じられない光景か。


 「さて、落ち着いて話が出来る場が出来たところでだ。さっきのはどういうつもりだ?

 まさか、あんな通り魔紛いのことをしでかしておいてそのままお咎めなしで行けるとでも? 随分とおめでたい頭をしているんだな、お前達」


 「ちっ……別に、何もしてない。偶然当たりそうになっただけ」


 「ふん、そうよ。ていうか! 男の分際でアタシ達にこんなことしてタダで済むと思ってんの!?」


 「その通りね。まずは事の重大さを理解しなさい。あなた、私達に意見していい立場なのかしら?」


 「…………はぁぁぁぁ〜」


 何を言ってるんだろう、コイツ等は。たぶん、人生で一番のため息をした気がする。

 いや、今の世界からしてみればこれこそが普通なのだろう。どちらかと言えば俺の方が異物か。


 まぁだからと言って自分の意見を変えるつもりは毛頭ないがな。これが俺にとっての我儘であり偽善だと言うのなら、貫き通して正義にすればいい話だ。幸いにもコイツ等は俺よりも遥かに弱い。

 話し合いで分かってもらえないなら、荒療治も致し方なしだ。野蛮? 知ったことか。


 「立場なんてどうでもいい。お前達がやろうとしたのは無意味な愚行であり外道の所業だ。俺だから怪我もせず済んだのは不幸中の幸いと喜ぶべきかもしれないが……もしさっきのが他の誰かで、打ちどころか悪く死んでいたらどう責任を取るつもりだった?」


 「はぁ〜? 責任? ぷっ、ねぇコイツ何言ってんの?」


 「男こそ役立たずで無意味な存在。仮に死んでても知ったこっちゃない」


 「責任と言うのなら、あなたの方こそどう責任を取るつもりなのかしら?」


 「確かにそうよね〜。詫びの一つや二つあってもいいと思うわ。あ、そうだ! とりあえず裸にひん剥いて魔獣の前に放り出すってのはどう?」


 「おもしろそう」


 「決まり! 悪く思わないでね〜?」


 ああ、本当に……話を聞いているだけで鬱になりそうだ。だがなるほど、やはりコイツ等にとっての常識が今の言葉だと仮定するならば、そもそも話し合うだけ無駄なのかもしれない。


 俺を見る目は悪意に染まりきっており、他者を見下し傷付けることに何の抵抗も感じていない。その目が全てを物語っていた。



 私達は女なのだからお前より偉いのだぞ、と。



 (……クズが)


 座っていた女の1人が腰に差していた剣を抜き放とうとした瞬間、一気に距離を詰める。剣を抜こうとしていた手を左手で捻り上げ、中途半端に抜刀された剣を右手で奪い、そのまま女を押し倒す形で首元に刀身をあてがった。


 遅い。そして弱い。相手が師匠(せんせい)なら余裕でカウンターをしかけてきていただろう。いや、コイツ等と比べるのは流石に失礼だな。


 「……は?」


 「動くなよ。死にたくないならな」


 相手からしてみれば俺が消えたように見えただろう。そして気付けば倒されていて剣を突き付けられている。呆然としてしまうのも無理はない。


 脅しではないと伝えるために、頸動脈をギリギリ斬らない絶妙な力加減で刀身を押し当て、女の肌に剣を食い込ませた。流れ落ちる血液の感触に女の顔が歪む。


 「痛っ……!」


 痛みを感じて初めて自分の置かれた状況を正しく認識したらしい。悪意の込もった瞳は途端に怯えの色を孕んだ。


 「うそ、見えなかった……」


 「え、えぇ……それに、どうして組み伏せられているの? 力では私達の方が圧倒的に上なのに」


 「あ、アンタ達! 冷静に言ってないで助けなさいよ!」


 「お前達も動くな。下手に動けばコイツの次はお前達だ。どれだけバカでもこの言葉が理解できないとは言わないよな?」


 流石にそこまで愚かではないと思いたいが、あんな事をしでかす奴等なのだから用心に越したことはない。


 「このっ、離しなさいよ! 汚い手で触らないで! 男のくせに何様なのよアンタ!!」


 ……訂正、愚かだ。


 動くなと言ったそばからバタバタ暴れるなどと、自分の置かれている状況が分かっていないのか? 俺が少しでも力を強めれば簡単に首が飛ぶこの状況を? 本当にバカなのかコイツ。


 流石に動かれていては鬱陶しいので、空いた左手で女の頭を掴んで地面へ強かに打ち付けた。


 「がっ!?」


 こちらも殺しはしない絶妙な力加減。軽く脳震盪を起こさせる程度に留めて、とりあえず大人しくさせた。

 改めて残りの2人に視線を移し、尚も言葉を紡いでいく。


 「嘆かわしいことこの上ないな。多少男より優れているだけで自分達は偉い、守られていると、そんな勘違いをしているお前達みたいなバカ共があまりに多過ぎる。

 何様だと言ったな? その言葉、そっくりそのまま返すぞ。お前達は偉くもなければ強くもない。まして男を虐げる資格すらも無い。戦核者という強者を盾に好き勝手やってるだけの蛆虫同然の存在だ」


 「っ」


 「少しは自覚があるらしいな。

 考えたことはなかったのか? その虐げている存在から、こんな風に逆襲される可能性を。自分達より優れた誰かが天罰を下そうとする可能性を、1ミリくらい考えたことは?

 ……無いだろうな。そんな意識があれば世界はもう少しくらいマトモだった筈だ」


 話せば話すほど女達の表情が苦々しいものになっていく。おそらく、コイツ等も元々はここまで非道な行いをするような連中ではなかったのかもしれない。

 戦核者によって歪められた価値観。それに酔ってしまった哀れな被害者に過ぎないのかもしれない。



 が、だから何だというのか。



 仮にそうだったとしても、無意味な殺しを、人の命で賭け事をしていた事実に変わりはない。報いを受けて然るべき存在だ。


 「さて、何だったかな……ああ、裸にひん剥いて魔獣の前に放り出す、だったか?」


 「ひっ……!」


 視線を横に移せば、タイミングよく数匹の魔獣が街道の外に集まっている。さっき見かけた奴等と同種だ。


 俺が今からやろうとしている事は外道のそれと何ら変わらないだろう。だが、この腐った常識が少しでも変わるのなら……俺は犠牲を厭わない。

 過去の俺(・・・・)のような思いをする存在が居なくなるならば、いつでも墜ちてやる。

 きっと師匠(せんせい)は喜ばないだろう。だけど、言われた通り最後には自分の道に戻るつもりでいるのだから、少しくらいは見逃してほしいところだ。


 やれやれ、自分が抱える歪みを治すために冒険者になろうとしているのに、いきなりこれなのだから笑えないなまったく。


 「目には目を、外道には外道を」


 片手で女の頭を鷲掴み無理矢理に起き上がらせ、手にした剣で衣服と防具を斬り飛ばす。繋ぎ目を正確に狙えば頑丈な防具と言えど簡単に剥がせる、そう師匠(せんせい)から学んだ。


 文字通り女を生まれたままの姿にした後、続けざまに片足へと剣を突き立てた。


 「い゛っ!!?」


 「武器も無い。防具も無い。足に傷を受け満足に走れもしない。この状態で魔獣相手にどれだけ足掻けるか見物だな」


 「や、やめっ、謝るから! アタシが悪かったから!」


 「その場しのぎの謝罪ほど価値の無い物は無い。そう思わないか?」


 「や、やり過ぎ」


 「私達が悪かったわ! だから離してあげて──」


 「同じ事を二度言わせるなよ」


 聞く耳など持たない。今更になって何をふざけたことを言っているのか。女達の言葉に価値無しと即判断し、一切の躊躇いなく女を街道の外へ大きく投げ飛ばした。


 「ホントにやるなんて! きゃっ!?」


 「うあっ……!」


 それを見た残りの2人が助けに行こうとしたが、それは許さない。直ぐに距離を詰めて女達を組み伏せた。

 もちろん、しっかりと街道の外が見えるように顔は上げさせておく。これから起こるだろうことから目を逸らさせない為に。


 「よく見ておけ。お前達は同じ事を俺にしようとしたんだ。その所業がどれだけ残酷で、どれだけ非道なものなのか、しっかりと自分の目で見て学べ」


 まるで俺の言葉を合図にしたように、投げ出された女へ魔獣達が殺到する。必死な形相でこっちへ戻ろうとしているが、足を深く斬られているせいで走るのはまず不可能。

 立ち上がっても直ぐに倒れ込む。這いずってでも戻ろうとする仲間の姿にコイツ等は今、何を思っているのだろうか。


 「やめ、て……助けてあげてっ!」


 「俺が同じ状況に陥っていたら、お前達は助けたのか?」


 そんな筈はないだろう? だから俺も助けない。お前達のように腐った連中は、一度絶望を知っておけ。

 俺が感じた絶望を。今この瞬間、どこかで虐げられている男達の絶望を。少しでも味わうんだ。




 やがて魔獣が女に追い付くと、悲痛な叫び声が木霊した。

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