chapter,3これが『俺にとっての決まり』だ
1,#過去と向き合っても気づけないこと
「逃げねぇから」と説得しつつ、俺はなんとか両手両足の拘束を姫香に解いてもらった、のだが・・・。
「あのなぁ、病み落ちしてるからってここまでする?」
「こうでもしないと聞いてくれないじゃん」
「逆にこうしないと聞いてるって思ってくれないことにびっくりだよ・・・」
話をよく聞いてもらうためかしらんが、姫香は座っている俺を正面からハグしたまま話し始めようとした。
でも裏を返すとそれだけ心に残ってるってことなんだな。
「じゃあ、ちゃんと聞いてね?」
「うん、聞くから」
「後で話したこと復唱してもらうからね」
「どんな拷問なんだよ・・・」
「ちなみに罰ゲームあり」
「え?なにするの?」
「妹からのほっぺにチュー」
「ご褒美やんけ(俺以外の男子ならな)」
そんな事を話したあと、姫香はは話し始めた。
あの日のことを──────
2,#好きから病み落とされた理由
小学1年生の頃。
私と直樹くんは、同じ小学校で同じクラスになった。
小学校という新しい場所、環境、雰囲気で私は耐えられなかった。
何より、昔いた幼稚園が居心地が良く、心の居場所の一つになってたということもあって、逆にこの小学校という場所は私にとって苦痛の極みだった。
そのせいで引っ込み思案になり、男女問わずいじめられた。
なんなら、先生にも怒られたりした。
それも理不尽なくらいに、私の口からは絶対話したくないぐらいに。
そんな絶望の日々でも、唯一の楽しみがあった。
「姫香?大丈夫?」
「・・・直樹くん」
「ほら、もう学校終わったし帰ろ?」
「うん・・・」
そう、直樹くん。
もといお兄ちゃんと帰る時間。
この時間こそが私の幸せな時間。
何気ない会話が、私にとっては幸せだった。
でもある日、今日も直樹くんと帰ろうとした時。
「おい、直樹」
「ん?」
「お前、今日市民体育館でバスケやるから来いよ」
クラスの男子から遊びの誘いを受けた。
しかもその男子は、クラスの男子を取り仕切るような、いわゆるリーダー的な人だった。
普通に逆らって、痛い目を見ないなんてまず無い。
だから私は「今日はお楽しみ無しか・・・」と心の中で落ち込んだ。
でも、直樹は──
「悪い、今日行けねぇや」
誘いを断った。
正直驚いた、まさか断るなんて。
これを聞いた男子たちは騒然とした。
「は?お前行けねぇの?」
「無理だね、ごめん」
「ふざけんなよ・・・、そんならよっ!」
「きゃっ!?」
「おい!?」
私は強引に肩を掴まれ、羽交い締めにされた。
肩が細いから、痛みがはしった。
「お前、いつも俺の誘い断ってこの子と帰ってるよなぁ?なに?こいつのこと好きなの?」
「・・・なんでそうなる?」
「はっ、こんな根暗の女のことすきになるとかなんなんだよ、気持ち悪いにも程があるぜ」
「気持ち悪い?」
「あ?聞こえなかったか?じゃあもう一度はっきり言ってやんよ!この気持ち悪い女の子と好きなんかって言ってんだよ!」
私は、この一部始終を聞きながら泣いた。
気持ち悪い───
あまりにもダイレクトに言ったその発言は、心に深いキズをつけた。
泣きながら私は直樹を見た。
すると、直樹は表情一つ変えておらず、ただ、真っ直ぐな視線をアイツに向けていた。
「───知るか」
「あ?」
「好きとか嫌いとか気持ち悪いとか。そんな事考えてんの?」
「何が言いたいんだよ?」
「俺はな───」
そしてそのままの視線を向けながら
「大切にしたい奴だから、ただそれだけだよ」
そう言った。
私は、そのことを聞いて涙を堪えた。
「はぁ、ふざけやがってよ!」
「きゃっ!?」
直樹に殴りかかろうとした、その時。
「おい!何してるんだ!」
「あ・・・」
ちょうど担任の先生が来た。
恐らく、誰かが呼びに行ってくれていたからだと思う。
この後、私を羽交い締めにした奴は先生に叱られ、私達二人から何があったかの説明をする羽目になった。
3,#いつの日か過ぎ去って
「はい、これで話はおしまい」
「お、おう・・・」
姫香の話が終わったあと、俺は少し考えた。
・・・正直に言う、全く覚えてない。
てか待って?そんな事あったの?
全然覚えてないんですけど・・・。
でも確かに、小学校に入学してから姫香が暗くなっていったのは覚えてるし、一緒に下校したことも覚えてる。
でも、姫香が話したきっかけの話の内容は、ほんとに俺がそんな事やったのか?って思うぐらい覚えていない。
え?待って?
これヤバくね?
相手姫香だよ?
ベットに両手両足縛ってくる義理の妹だよ?
病み落ちしてるんだよ?
これでもし覚えてないって言ったらどうなるん?
タダじゃすまないことは確定してもこれはヤバい。
「ねぇ、直樹くん?」
「は、はい?」
「改めて聞くんだけどさ」
「う、うん」
そうして姫香は、静かに囁いた。
「直樹くんは私のこと、好きなの?」
4,#自分をさらけ出して
根本的なことを忘れかけていた。
俺は姫香に対してどう思っているのか、そして、姫香に『好き』という兄妹間ではなく、恋愛感情であるということを知らされた今、俺の気持ちは────
「なぁ、姫香。俺は───」
「ま、直樹くんに拒否権なんか無いんだけどね」
「えっ?」
「もし仮にここで断っても、私は直樹くんのこと、諦めないからね」
「マジで?」
「うん。だって、それぐらい病み落ちしてるってこと。だからさ、直樹くん───」
そう言って姫香は俺の顔ギリギリまで近づいて
「一緒に、落ちるところまで落ちよう?ね?」
そう言って、俺と姫香の顔の距離はゼロになった。
Epilogue,#義妹の在り方
あの日から数日後の朝。
「んっ・・・ふわぁぁぁ・・・、眠い・・・。てかもう朝かよ───ん?」
何かお腹の当たりが変だということに気づいた俺は見てみると。
「・・・何してるの?」
「あ、おはよ直樹くん」
俺は姫香にギュッとハグされていた。
というか、俺と寝室別にしてもらったんだよね?
なぜわざわざここに来た?
「あの、姫香?何でここに」
「知らな〜い。えへへっ」
「はぁ・・・。まぁいっか」
あの日以来、姫香は家族の前や学校の友人問わず、俺に過度なスキンシップをしてくるようになった。
そのせいで、学校のみんなは俺と姫香が付き合ってると思いこんでしまい、完全に公認カップルになってしまった。
これも俺を病み落ちさせる作戦か、それともただ自慢したいだけか。
まぁ、どんな作戦だろうと俺は姫香を妹としてみる。
俺の中では、そう決まった。
だって───
「姫香」
「ん?なに?」
「ある意味落ちてるかもな、俺」
〜Fin〜
お久しぶりです、九条桐揶です。
ついに『義妹の在り方に決まりをつけて欲しい』が完結しました!
最初は短編小説として考えていたこの作品でしたが、三部作形式に進化して投稿を始め、長い間推敲や見直しなどをし続けた結果、約1年近くかけてなんとか完結できたことがとても嬉しいです!
終わったと同時に、楽しかったとも思えたことがよかったです。
そして、最後まで読んでくれた方々には感謝しかありません!
本当にありがとうございました!