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プラントパペット 短編版

作者: 木之一




「おんぎゃ〜! おんぎゃ〜!」


 ここ、どこ? わたし……だれ? 周りが見えない……ぼやけてる?


「おんぎゃ〜! おんぎゃあぁ!」


 うるさいなぁ……赤ちゃん? どこから聞こえて……。


「は〜い、お嬢様。どうかなさいましたか〜?」


 誰!? どこにいるの!?


「ふぇ〜ん! あう〜……キャッキャッ!」


 え、なに!? 揺れてる!? どういうこと!? わたし、どうなってるの!?






 わたしの名前はアルストロメリア、愛称はメリア。わたし、転生したみたい。


「あう〜」


 しかも異世界。何で分かるかって? それは……。


「は〜い、お嬢様。どうしました〜?」


 太陽が二つもあるから。どう考えてもおかしいでしょ!? 地球だったら太陽二つもないし! なにより決定的なのが魔法の存在。絶対地球になかったものだもん。


「うぅ〜……」


 しかもわたし、貴族みたいだ。メイドさんがわたしのお世話してるし、そのメイドさんはわたしのことお嬢様って呼んでるし!? あーもう! 訳わかんない!


 って最初は思っちゃった。

 でも、今はもう慣れちゃった。わたしがメリアとして気がついたのは体感二、三ヶ月前くらいだと思う。

 そもそも、なんでわたしが転生したのかっていう話がもう訳分かんない。転生するんなら普通、記憶とか無いんじゃないの!?

 そういうものだと思ってたんだけど!?


 と、まあわたし自身の存在がおかしいんだから。もう、考えないようにしてる。


「キャッキャッ!」


 前世はわたし、女の子でした。今世もどうやら女の子みたいです。


 え? 前世の私はどんなのだったのかって? そりゃもう! バリバリの現役女子高生でしたよ! 友達もいっぱい居たし! カフェとか行って話したり!

 なんて……そんなんじゃないっす。今の全部嘘です。いや全部じゃないや、女子高生なのはホントです。はぁ……。


 わたしは多分、どちらかというと陰キャだったんじゃないかなぁ。友達もそんなに居なかったし、カフェなんて好きじゃない。好きなのはお花とか植物だった。お世話したらお世話した分だけ育つんだよ? 正に我が子同然だよ!

 だからわたしは園芸部に入ってた。それなりに楽しんでたな〜。まあでも……わたし、死んじゃったみたいだし。


 なんで死んじゃったのかなぁ? 死んだ原因とか、死んだ時の記憶ないんだよね〜。なんでなんだろ?




 と、まあそんなこんなで五歳になりました。今日は誕生日。やったー! わーい! なんて喜べない。


「メリア、準備できた?」


「はい! お母様!」


「もう……ママって呼んで?」


 いや、キツイっす。この人はわたしのお母さん。名前はデージー=センラント。貴族にしてはホワホワで天然っぽい人だ。わたしと同じの黒く染まった髪は波打っていて、朱色の目でわたしを眺めるお母様はとても美人で可愛くて。女のわたしでも惚れそうになるくらい綺麗です……。


「お母様もキレイですね!」


「ありがとう。メリアも可愛いわよ?」


「ありがとうございます! お母様!」


 おっと、話が逸れちゃった。なんで誕生日が喜べないかって? それはね……披露宴があるからだよ! どうやらこの世界、五歳の誕生日、十歳の誕生日、十五歳の誕生日は特別らしくて……。

 五歳の誕生日は生きててくれてありがとう、というモノ。この世界的には幼児が五歳まで生きるのは結構難しいらしい。だから、五歳まで生きててくれてありがとう、ってお祝いをするの。

 それに伴い、五歳の誕生日には披露宴がある。さっきわたしが言ったやつね! なんで披露宴があるかっていうのは、貴族だから。


 え? 説明が短い? 仕方ないなぁ。


 貴族的にはここまで生きててくれてありがとう、だけじゃ終わらせたくないんだよ。とどのつまり、ここまで自分の子供は生きれましたよ! って周りの貴族に自慢するために披露宴を開くんだって。

 んで、その披露宴でわたしは自己紹介をしないといけない。それがわたしはイヤ!


 なんでって? そりゃ、大勢の前で自己紹介なんて皆イヤじゃない? え、そんなでもない?

 いやいや、恥ずかしいでしょ。私なんて中学生の時の自己紹介でも、高校の自己紹介のときも恥ずかしくて俯きながら喋ってたよ!

 イヤだー! ヤダヤダー! 披露宴したくなーい! 自己紹介なんてしたくないよー!


 とまあ、駄々をこねても覆らないわけで……。ぐぬぬ。


 で、今は披露宴のための服に着替えてるところ。


「さて、パパはもう着替えたかしら?」


「お父様はどんな服なんですか? お母様」


「んーと……カッコいいんじゃないかしら? パパは元々カッコいいけど今日は娘の誕生日、しかも披露宴もあるんだから張り切ってると思うわよ?」


 キッツ。お父様、張り切らないでくだせぇ。


 お母様とお父様に初めて会ったのは三歳の頃。それまで世話をしてくれたのはわたしのメイドさん。そのメイドさんは部屋の隅でわたしたちを眺めてる。すっごい笑顔。


 で、三歳まで会えなかった理由はすごく単純。一、二歳の時は病気に掛かりやすく、貴族的には三歳がピークらしい。だから本来は三歳でもまだ会えなかったはずなんだって。それを強引に突破してきたのがうちのお父様とお母様。どっちも親バカみたいだ。


「デージー! メリアー!」


 走る音が扉の向こうから聞こえてそのまま扉は勢いよく開いた。お父様だな。

 入ってきたのは予想通りお父様。走ってきたことなんて無かったかのように、息切れもせず笑顔でそのままわたしたちの前に来る。


「パパ! カッコいいわ!」


「ありがとうデージー。デージーもキレイですよ」


「あら! 嬉しいわ! パパ、メリアも見てあげて?」


 少し恥ずかしくてお母様の後ろに隠れてたら、そっと横に避けられてお父様に見られる。


「かっ!」


 か?


「かわいい……」


 えー……恥ずかしい。恥ずかしいなぁ……。でもなんか……嬉しいのはなんででしょーね? あはは……。


「ンンッ! ユリオプス様」


「何ですか」


「女性の居られる部屋にノックもなしで入るなど、紳士失格ですよ」


 この人はお父様の執事さん。昔からの幼馴染なんだって。それはそれとして……なんかお父様がすっごい顔してる。まるで世界が終わったみたいなそんな顔。いや、どんな顔だよ。


「大丈夫よ、パパ。私達のことが大好きなのは分かってるわ」


「うん! お父様、カッコいいよ!」


 お母様がフォローしたんでそれに便乗してわたしも褒める。実際、お父様はカッコいいしね。緋色の髪に切れ長の翡翠の目。後ろに流してる髪を紐で縛ってるとこなんて、そりゃカッコいい。


「そ、そうですか。ありがとうございます」


 まあ、それでも落ち込んでるお父様でした。


「そろそろ披露宴ですね。メリア、頑張ってください」


「そうね。メリア、センラント家に恥の無いように」


 ホワホワなお母様とは一転、キリッとしたお母様。パッと切り替えれるのは流石、貴族といったところか。わたしも将来、あんな風にならないといけないのかぁ……。


「はい! お父様、お母様!」


 披露宴……がんばろ。




 はい。現在進行系で披露宴してます。今はセンラント家の紹介アンドお父様とお母様の紹介をしてる。多分もうすぐわたしの自己紹介。

 あ〜……キンチョーするぅ! こういう時は素数数えるんだっけ!? 手に人書いて飲む!? それとも深呼吸!? ヒッヒッフー! ってラマーズ法だった!


「それでは、ご紹介致します。私達の娘、センラント家長女のアルストロメリア=センラントです」


 ほわっ! キタァ! 落ち着け……落ち着け……。ふぅ……よし。


「センラント家、長女のアルストロメリアです。えっと……よろしくお願いします」


 スカートを摘んで膝を曲げながらお辞儀する。どう? カーテシーってこんなんだったでしょ? さっきお母様がやってたのを真似たんだけど……。なんか静かじゃない?

 お母様とお父様の時は挨拶したら拍手が来たんですけど……。頭上げてもみんな静か……どゆこと?


『パチパチパチパチパチパチ』


 うわっ、びっくりした。急になに。さっきの間は何だったの。


「そ、それでは披露宴を開始致します。乾杯!」


 お父様の号令で皆はグラスを上げた。そのままわたしはメイドに促されるまま席に案内される。机の上には豪華な食事、美味しそう……。食べていいのかな?


「メリア、お上手でしたよ。お疲れ様です。いっぱい食べなさい」


 私を労うお母様はとってもやさすぃー! よし、たーべよ! ……待てよ? 確か食事にもマナーとかあったよね。……気にせず食べるか!




 ぷはぁ……美味しかった〜! 特にあのジュース! なんのジュースだったんだろ? なんか前世で言うリンゴみたいな味だったけど……メイドさんに聞いたらあれはメイラの実を絞ったジュースらしい。

 メイラの実って……育てれるかな? リンゴみたいに木で育つのかなぁ……育ててみたいな〜……。


 今は私の部屋の中。満腹まで食べたらお父様が疲れただろうからって部屋に戻してくれた。助かる〜! あんな大勢の前じゃ緊張しちゃうし、疲れちゃう。

 メイドさんは私の部屋の前にいる。ベッド脇の机に使用人を呼ぶ用のベルがあるから、用があるときはこれを鳴らせばいいんだって。プライバシーは守られた!


 っても……暇だなぁ。前世だったら暇なときは植物眺めてたからなぁ。この部屋には……ないか。花瓶とかあると思ったんだけど……。うーん、暇だ。

 外でも眺めようかな? 窓開けて……開けて……届かない! そうだった、わたしまだ五才だわ。こういうのって普通の人の大きさだし、そもそもちっちゃい子に危なくないようにしてるよねぇ……。


 うぅん……結局暇なまま! なんか暇潰し、ないかなぁ……。そういえば、このキラキラってなんなんだろう?

 いつからか、わたしの目にはキラキラと光るものが見えてた。一度だけ、メイドさんに聞いたことがある。けど、このキラキラはわたしにしか見えないみたいだった。


 はぁ……このキラキラと話せたら良いのに。そう思ってキラキラに手を伸ばしてみると……直後、頭に痛みが走ってわたしは倒れてしまった。倒れる直前、夢を見た気がした。その夢は、まるで……。

 





 夢のような、現実味のないものを見た。けれどそれは夢じゃなくて……未来に起きるものだと、わたしは思ったんだ。

 未来に起きる。私が見たのは多分……本当に起きることなんだろう。まだ、頭が痛い……わたし……倒れたんだっけ……?


「お嬢様! 気が付きましたか!?」


 頭を押さえながらゆっくりと上半身を起こしたわたしに、ベッドの横に居たメイドさんが気付いて、それほど大きくない声でそう尋ねてきた。


「うん、おはよう……? わたし、どうなっちゃったの?」


 急に頭が痛くなって、倒れたのは覚えてる。でも、なんでそんなことに……? わかんないけど、とりあえず心配かけないようにしなきゃ。そう思ってベッドから立とうとするけど、その前にメイドさんに止められた。


「旦那さまと奥様を呼んできますので、そのままでお待ち下さい」


 メイドさんが部屋から出て数分後。お父様とお母様、それから……男の人? がやって来た。お母様はベッドに座るわたしに抱きついてきた。


「ど、どうしたの? お母様……?」


「メリア……メリア……」


 顔は見えないけど、なんだか悲しそうな声を出すお母様にわたしはお母様の頭を撫でた。それは多分、無意識にやってたんだと思う。


「お母様、大丈夫です。メリアは、わたしは大丈夫です」


 何分そうしていただろう、落ち着いたお母様は抱きつくのをやめて話し出した。


「ごめんなさい、メリア。取り乱したわね」


「いえ、大丈夫です。お母様」


 いつものような、ホワホワなお母様に戻ってくれてわたしはホッとした。私の目を見ながら話すお母様はやっぱキレイで……。


「ふふっ……ごめんなさいより、ありがとうの方が嬉しいわよね。メリ……ア?」


 わたしの名前を呼ぶお母様は何故か固まってしまった。そんなお母様にお父様が声をかける。


「どうしたんですか? デージー?」


「いえ、見間違いかしら? 違う……これは? ねぇ! パルガ! 見て!」


 お父様より後ろに居た男の人へ、お母様はわたしの目を見ながら声を掛けた。


「ど、どうしたんですか? デージー……急に慌てて……」


「早く! メリアの目が!」


「すみません、失礼いたします。目を見せて頂けますか?」


 お母様の真剣な声に深刻さを感じたのか、パルガと呼ばれた男の人はわたしへそう聞いてきた。


「はい、大丈夫です……?」


 そう返答すると、前世で言うペンライトのようなものを私の目に当てた。


「こ、これは!?」






 どうやらわたしは神子だったらしい。いや、巫女になるのかな? 神子っていうのは、精霊の加護を受けた子のことらしい。

 精霊の神子に選ばれるのは五歳ほどの男女で、魔素? が体の一部に集まって色が変化するんだって。


 髪の毛とか目、肌とか色々と変化する部分は人によって違うらしくて。わたしはどうやら右目に変化が出たみたい。ちなみに変化した色は一週間ぐらいで元に戻るらしい。

 でも、魔素? を使うときにはその変化した色が出るんだって。それで、女の子の場合は神子ではなく巫女というらしい。つまりわたしは巫女ってことだ!


 で、わたしの左目が蒼く濁ってるから……水の精霊の加護を受けたみたい。この世界的に青は水を司るから、わたしは水精の巫女ってことだね。


「大丈夫よ、これは栄誉あることだから 」


 そうお母様は言ってわたしを撫でた。お父様はなんか手紙? を書いてどこかに出したみたいだ。

 巫女になるのは栄誉あることなのか。なんか特別な能力とかあるのかなぁ? 数日後、お父様が言ってきた。


「メリア、王城に行きましょう」


「王城? なんでですか? お父様」


「そうでした。メリアは知りませんよね」


 お父様が言うには、神子は栄誉あるモノで国としては祝わなければならないらしい。要するに祭典? わたしが水精の巫女としてその祭典に出ないといけなくて……。

 キッツ、ムリだよ。披露宴でさえ疲れたのに。大事になったなぁ……。


 それで、王城があるところは王都ってところでそこに行くには馬車で数日掛かるんだって。わたしが今いるのはセンラント領地、お父様の領地だね。昨日の披露宴に来たのは隣の領地の貴族の人とか、親しくしてる貴族の人が来てたらしい。


 お父様とお母様、それからわたしは二日ほどの馬車旅で王都へと向かった。

 そしてわたしは水精の巫女として国に名を轟かせることになったんだ。


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