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4-23 抜け目ない

 そこからの猛攻は凄まじいものがあった。


 ランと幸助は息を合わせ、幸助の猛攻に足りない部分をランが補う形で動き、お互いの隙をなくして動く

ことが出来た。


 そしてカルミから()()()()を受けてやる気満々になったリガーは。

 カルミとユリが間合いに、逆にランと幸助とは少し距離があったことを考え、カルミ達をも取り囲む結界のごとく血液を宙に浮かせ円上に広げる。


 近付いてくるロボット達には鋭い刃物と同じになっている彼の血液に触れた途端、軽々と胴を切り裂かれて次々と破壊された残骸だけが転がっていく。


「リガーさん凄いな。一人でああも軽々と倒していって」

「テンションが上がっているだけだ。お前もな」

「ん?」

「気付いてないならいい。とっとと邪魔は片付けて本丸を潰すぞ」


 せっかくのロボット達が相手にならず、とうとう召喚した全てが撃退されてしまった。

 即座に迫ってくる戦闘員三人に焦りを見せるウィーン。


「クソッ! だがまだだぞ。ロボットの数はまだまだある! コスト高だがやられるよりましだ!!」


 ウィーンは手の中に用意した追加の召喚装置を作動させ、自分に近付いてくる三人にまたしても障壁を増やした。


 もう少しで届きそうとしたところでの妨害に、流石の三人も引きつった顔になる。いくら脆くとも数が多くなれば段々と手こずるようになる。

 特に一度アングラに破れて気絶していた幸助。つい先程ウィーンの猛攻を受けたばかりのリガーの二人は、どうにか興奮状態になって取り繕っているがいつ倒れてもおかしくない。

 ユリの回復術はあくまで怪我を治すだけ。負傷による疲労は回復しないのだ。


(ここまで数が多いといよいよ渋くなってきた。短時間で終らせるには、()()を使うしかないか)


 何かの考えがふとよぎるラン。だがふと視線にユリの姿を見た途端に、自分の中でよぎった思考を止めた。


(ダメだな。出来るだけ粘るしかない)


 こうしている間にもロボットはランに襲いかかるも、すぐに気が付いた彼によって返り討ちにされる。

 ランは一息吐きながらも、続いてロボットを蹴り飛ばす。


「幸助、リガー、まだいけるか?」

「オウッ! まだまだ!」

「お嬢様の激を受けましたので!!」


 とは言いつつも、二人に汗が流されていることにランが気が付く。そこまで長時間は戦いないのだろう。


 ウィーンは徐々に疲労していく彼等を見て警戒は緩められないながらも何処かほくそ笑んだ。


(このままいけば私の勝ちだぞ。戦闘員さえいなくなれば他の連中など赤子の手を捻るものだぞ)


 少しずつ追い詰められていたことに焦りを感じるラン。すると突然、広間の扉が大きく開いた。


「扉が!」

「おいおい、騒ぎで兵士共がやって来たのか?」


 この混戦状態に白の兵士が割り込んでくれば自体がより大きくなってしまう。最悪ウィーンに利用されれば一網打尽だ。

 悪い方に予想して何か対策がないかと考えたランだったが、その保険は言い意味で余計だった。


「お嬢様!」

「助けに参りました!!」


 扉を開いて広間に現われたのは、南の先導を受けて王城から脱出していたはずのカルミの使用人達だった。


「お主ら! 何でここにいるのじゃ!?」

「お嬢様の使用人はリガーだけではありませんから!!」

「私達も、少しでもお嬢様の力になりたいんです!」


 加勢に入った使用人達にロボット達は破壊されていく中、ランと幸助のブレスレットに着信が入った。受けてみると、モニターに南の姿が映った。


「その感じだと、丁度到着したかな?」

「南ちゃん!」

「お前のそそのかしか?」

「いいや……彼等の、自分の意思だよ!! 僕はもうちょっとの間、動けそうにないけど……」

「いや上出来だ。ゆっくり休んどけ」


 ランにとって今このタイミングの加勢はとてもありがたいことだった。通信を切ったランはすぐに彼等に指示を出した。


「そこら中にいる奴ら相手してくれ。本丸は俺達でケリを付けるぞ!!」


 全員が聞き取り、混戦がより激化した。だが確実に流れはカルミ側の方に傾いている。


 邪魔をしていたロボット達も使用人達が相手を変わり、ラン、幸助、リガーはようやくウィーンの前にまで突き進めた。


「き、貴様ら……」

「三度目の正直だ。いい加減お縄を頂戴するぞ、地上げ屋!!」


 こうなってはウィーンも直接戦わざるを得ない。とはいえウィーンがこうなったときのための対策をしていなかったわけではない。


 ラン達がロボットと戦闘している隙に左右半分ずつ生成していたカプセルをタイミングを見計らって彼等にはめ込むつもりだ。


(混戦の中、周りに隠れているカプセルを見つけることは難しい。間合いに入った瞬間、即捕獲だ)


 考え事をしている間に三人はウィーンの間合いに入った。すぐに彼は仕掛けていたカプセルを作動させて拘束にかかった。

 だが捕まえられるとなりかけた直前、三人は同じタイミングに上にジャンプし、罠を容易くかわしてみせた。


「こんなこと考えられているのだろうと思った。簡単だな」

「いや、狙い通りだ」


 ランの言葉に余裕の態度を見せて返事をするウィーン。彼はカプセルのスプレーを発射し、両腕にそれぞれ巨大な板を生成した。


「回避するには上へ跳ぶのが普通。だがそれは同時に自らの身を抵抗が出来ない空中に置くということ。

 ここまで邪魔をしてくれたのだぞ。もう生け捕りはせん! 一撃で叩き潰してくれるぞ!!」


 ウィーンは巨大な板二枚を両腕の力で軽々と動かし、三人をまとめて潰しにかかった。


「<大板鋏(おおいたばさみ)>」


 迫り来る二枚の板に為す術のない三人は、防御する手立ても時間もなく板に接触し、挟み込まれてしまう。

 勝ったかと思われたウィーンだが、次の瞬間目の前で起こっていることで彼は自分の目を疑った。三人は、まるで滑り台を滑り落ちるかのように素速く落ち、板の範囲から外れたのだ。


「ナニィ!!? ダゾォ!!?」


 大技を回避され、逆に隙だらけになったウィーンの腹を先陣を切ったランが殴り飛ばした。

 ウィーンはそのときに感じた滑るような感覚、そして飛ばされた直後に見たランの身体の光沢からあることに気が付いた。


「そ、そうか! 貴様、身体に油を塗って滑りを良くしたな。だが、そんな油など何処から……」


 軽く周囲を見渡すウィーン。次に彼は破壊されたロボットのよく見ることで油の調達にも気が付いた。


「まさか! ロボットの潤滑油を!?」

「ご名答。使えるものは拾うに限るよな」


 三人は激闘の最中、倒したロボットから潤滑油を奪い、自分の身体に塗り込ませて滑りを良くしていたのだ。


「リガーに対して挟み込みを使っていたからな。同じ技を使われたときの為に準備をさせていただいたんだ。じゃ、正解者へのプレゼントとして、コイツを送らせて貰おうか」


 ランは吐き気を及ぼすウィーンに追撃をかけようとブレスレットを纏った左拳で殴ろうとした。


「舐めるな!」


 これにウィーンは態勢を戻しつつ再び『渦鋏 貫』を起こし、ランの左拳に正面からぶつけた。

 弱っているとはいえ鋭い一撃。威力の差は歴然であり、どうにかブレスレットは剥がして巻き沿いは防いだものの、ランの左手は粉々に破壊され、彼の全身をも大きく吹き飛ばした。


「馬鹿めが! 調子に乗って突撃するからこうなる」

「いいや、そうでもないぞ」


 顎の引き、全く諦めていない様子のランの視線を見たウィーンは、今この時左右から幸助とリガーの存在に気が付くのが遅れてしまい、二人の間合いからの攻撃を回避することが出来なかった。


 だがウィーンは固い身体を利用し、両腕を曲げて二人の刃物を受け止めた。


「マジか!?」

「これも受け止めますか」

「伊達にいくつもの世界を渉って地上げをしていたわけじゃないんだぞ!!」


 力を出して二人の攻撃を押し返そうとするウィーン。二人もより力んで対抗するも、疲労が身体に表れ段々と腕が引き上げられる。


「クッソ!……」

「まだまだ……」

「虚勢をはっても無駄だぞ! お前達はもうおしま……ッン!!」


 ウィーンは二人に話をしている途中で、自分の腹に再び強烈な刺激を受けた。彼が目線を下に向けると、自身の腹に突き刺さる見覚えのあるドリルがあった。


「こ! これは!!……」


 ドリルの正体は、ウィーンが召喚したロボットの右腕だった。しかしそんなものがどうやって彼の腹に突き刺されたのか。可能性があるのは、目の前にいるランの存在だった。


 ウィーンが前方を確認すると、倒れているランの身体に左腕が生えているのが見て取れた。


「何故左腕が!? 私の技で破壊したはず……」

「だから言っただろ。使えるものは拾うに限るって」


 ランはとことん抜け目がなかった。実は彼が乱闘中に拾ったのはロボットの潤滑油だけではなく、ロボットの右腕、左腕もそれぞれ回収。

 自分の左腕でドリルを隠し持ちつつ、ロボットの左腕にブレスレットを纏わせ操ることでカモフラージュをしていたのだ。

 そしてウィーンの気が二人に向いたときをつき、隠していたドリルを投げ飛ばしたのだ。


「貴……様……」

「おいおい、俺にばかり気を取られてる場合じゃないだろ?」


 ランに言われて状況に気が付いたリガーだがもう遅い。緩んだところに幸助とリガーが押し込み、とうとう首に切り裂き傷が付けられた。

 痛みを感じる時間もなく、二人は息の合った回し蹴りでウィーンに突き刺さったドリルでよりダメージを与えるために蹴り飛ばした。


 壁に押しつけられ、吐き気を及ぼすウィーン。一度瞬きをして再び前を見た彼に、二人の男が怒りの形相で拳を握り絞める様子が映る。


「ユレサさんにやった事への罪……」

「お嬢様を出し抜こうとし、牙を向けたその業……」

「「この拳でまず一発! 晴らさせて貰うぞ!!」」


 怒りとさっきに満ち満ちた目付きを向けられ、吐き気や拾うが吹き飛ぶ程の恐怖に包まれたウィーンだが、今更謝罪をしたところで許されるはずがない。


「<血液装備(ブラッドウェポン) 拳骨(フィストボーン)>」

「<七光拳(しちこうけん)>」

「ヒイイイイイイィィィィィィィ!!!!!」


 怯える叫びに意味はなく、飛び出した二人の拳によってドリルを破壊しながらウィーンの腹を殴りつけたのをトドメに、直撃を受けたウィーンは意識を失った。


「オォ~……勇者ってのは、怒らせると怖いなぁ」


 召喚されたロボット達も、カルミの優秀な使用人達によって壊滅。


 吸血鬼の世界。王城内での戦闘は、カルミ一派の勝利で終了した。

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