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4-22 元気! 入りました!!

 アングラを撃退し彼から離れたランは、まずは救助の状況を確認しておこうとユレサを抱えている幸助に合流した。


「調子は?」

「……」


 ランからの問いかけに幸助は顔をうつむかせたまま答えようとしない。だが口にしなくてもなんとなく伝わってくる。

 共に切磋琢磨し、家族同然の人達に裏切られたユレサの心境が、好調であるはずがない。


 ランは幸助にこれ以上問いかけることはせず、端的にメッセージだけ伝えた。


「俺はリガーのフォローに入る。そいつはお前に任せた」


 幸助は無言のままに頷き、ユレサを抱えたまま戦闘区域から離れていった。


「フゥ……もう一働きするか」


 ランは一度息を整えると、顎を引いてリガーのフォローに行くために走り出した。


 一方ユレサを安全な場所にまで運ぼうと走る幸助。そんな彼に対し、抱えられている方の人物は傷心しきったか細い声で口を開いた。


「何で……あのまま置いてくれなかったの?」

「エッ?」


 幸助は反応し足を止める。続いて口にしたユレサの台詞に大きく引っかかったためだ。


「あのままにしてくれていたら、死ねたのに……」

「死ねたって……そんなことさせるわけ!!」

「もういいの!!」


 幸助の反論はユレサの声にかき消される。彼女は幸助の服の襟を掴み、前髪で目を隠した状態で涙を流した。


「私が生きていたって、もう何の意味もないから……」

「何の意味もないなんて」

「だってそうでしょ!!」


 そこからはユレサのここまで受けに受け続けてきたショックが暴発するように叫び散らした。


「マルジ王子は勉強している庶民が珍しく思っただけ! ウィーンさん達も私をただの使い捨ての道具にしか見ていなかった。全部無駄だった!

 私と本当の意味で仲良くしてくれていた人はどこにもいない。始めから今まで、私は一人でしかなかった……」


 ユレサの頭に幼少期の記憶がよぎる。

 庶民の生まれでありながら勉学に優れる彼女。子供ですらある程度の年齢で働かされるのが当たり前だったこの世界の環境において、勉強ばかりしている彼女の存在は正直なところ浮いていた。


 ユレサは少女の時からも友人と呼べる人物はおらず、ただ一人、夢を叶えることだけを生きる糧として勉強をし続けていたのだ。

 その努力ですら、他人の企みに利用され折られてしまった。今の彼女は、自分にはもうなにもないと思い込んでしまっている。


「どうせ一人でしかいられないのなら、いっそ死んでしまった方が」

「そんなこと絶対にない!!」


 突然大声を出してきた幸助に、ユレサの台詞が引っ込んでしまう。


「一人でしかいられなかったからって、それが死んでいい理由になんてなりはしない! 自分が気付いていないだけで、悲しむ誰かは必ずいる!!」

「そんなの、私にはもう身寄りもないし……使用人達も……ほら、もう誰もいな」

「俺が悲しみます!!」


 幸助が目を見ながらハッキリ告げてきた言葉に、暗くなって閉じかけていたユレサの目が開いた。


「会ってそんなに時間も経ってないけど、俺は嫌だ! 何でかって理由は説明できるわけではないけど、とにかくいなくなって欲しくない!!」

「コウスケさん……」

「それに、ユレサさんがやって来たことは無駄なんかじゃない。今は結果が出ていなくても、やって来たことが役に立つことは絶対にある」


 幸助は頭にランの姿を思い浮かべ、優しく微笑みかけながら自分の身の上も話す。


「さっきの奴見たでしょう? あれが言っていた変な男です。やることなすこと全てが結果的にプラスになっている。

 今の俺には、アイツのような凄い事は出来ない。でも、アイツを越えるためにアイツから学ぶことは絶対にこの先無駄になったりはしないさ」

「やって来たことは、無駄じゃない……私にも、まだ見てくれている人がいる……」


 ユレサはまた一度顎を引いてうつむいたが、すぐに顔を上げて幸助に頼んだ。


「降ろしてください」

「でも」

「ご安心を……もう、大丈夫ですので」


 再び幸助に見せたユレサの表情は、さっきまでより何処か明るくなっているようだった。


「ユレサさん」

「行ってきて上げてください。貴方にはこの場所でまだやることがあります」


 幸助はユレサの意向を汲み取り、ゆっくり彼女を降ろす。


「ありがとう」

「お礼の言うのは私の方です……その……頑張ってください!」

「はい!!」


 幸助は気を引き締めて右に回り、ランの手助けにはるために走り出していった。



______________________



 戻って広間内。ウィーンからの強烈な攻撃に吹き飛ばされ、かなりのダメージを受けてしまったリガーは、立ち上がることすらままならなくなってしまっていた。


 当然ウィーンはトドメを刺そうと動いていたが、二人の間にランが入ってきたことで足を止めた。


「こっちはかなりピンチって感じか」

「ランさん!」

「アングラは……やられたのか」


 仲間がまた一人撃退されたことにウィーンの表情は分からないながらも、身体が震えだしどことなく怒りがにじみ出ているのが感じられた。

 ランは剣の先端をウィーンに突き付け一応降参を呼びかける。


「残りはお前だけだ。降参して攫った人達を解放するんなら、これ以上の戦闘はしない」

「ほう、我々にもう買った物とでも思い込んでいるのかぞ?」


 するとウィーンはどこからか掌サイズの球型をした謎の機械を取り出した。


「こんなところで使うことになるとは思わなかったが、この先手に入る利益のため! 多少のリスクはやむを得ないぞ!」


 ウィーンが機械の天辺に着いた赤いスイッチを押した途端に機械は光り輝きだし、広間にいる全員を取り囲むように、V字方の頭をした金属色が鈍く輝く人型のロボットを解き放った。


「隠し球か? 異世界製の兵器だろうが」


 ロボット達は右腕に取り付けられたドリルを回転させ、ウィーンに向かうランに真っ先に襲いかかった。


 ランは優れた聴力で音を聞き分ける事で視線を変えずにロボットの位置を探知すると、剣の横幅を縮め密度を上げつつ最初の一体を切断した。


 胴を真っ二つにされたロボットはそのまま機能停止して倒れ込み、ランは降りかかる火の粉を払うように五、六体のロボットを破壊した。


「安物だな。ぶった切れるとは相当脆いぞ」

「頑丈さは分かっているぞ。だがこの数、どう出るか?」


 ウィーンもロボット一体一体の戦闘力が弱いことは理解している。

 だが弱くとも大量の数が閉鎖空間の中で動くとなれば話は変わってくる。ランはアングラとの戦闘が終って時間が経っていない状態なこともあり、ウィーンに近付けるほど素速く撃退しきれない。


(数だけの攻撃……結晶の技を出せばすぐだろうが、それだと城ごと破壊しかねない。とすると頼りたくないが)

「リガー! ヘバっているところ悪いが加勢頼む」


 だがランの頼みを聞いているリガーも、余程ウィーンから受けた攻撃でダメージを受けたのか顔を上げるだけで限界といった感じだ。


 そんな状態ながら、リガーはどうにかすぐ近くにいるカルミに謝罪する。


「すみません……僕は……」

「御託はいい。さっさと立て」


 戦って重症を負っているリガーに対して即座にこの言い分。ウィーンは元とはいえ同じ使用人の立場としてつい同情してしまう。


「酷い扱われようだ。見ていて悲しいものですぞ……」

「お嬢様……」


 ウィーンは哀れながらも隙だらけなこの二人を狙わないほどいい性格をしているわけもなく、こうなればランよりも先に始末してしまおうとロボット達に襲わせる。


「チッ!」


 ランは急いで二人の救助に向かおうとするが、複数体のロボットが立ち塞がる、倒されるのは時間の問題だが、時間稼ぎには丁度いいのだろう。


 追い詰められる中、リガーは目線をカルミに向け、彼女に何かを求めるような目付きで見上げている。


「お、お嬢様……」

「全く、とっとと立つのじゃ、愚図が!」


 カルミは辛い表情のリガーを罵倒するだけに飽き足らず、汚いものを見下す姿勢を取りながら彼の尻あたりをサッカーボールのシュートを決めるような力強さで蹴り飛ばた。


 リガーの身体は強引に前に出され再びうつ伏せで倒れてしまう。


「馬鹿な連中だ。囲まれて殺されるのがオチだぞ」


 そうして二人とユリを囲っているロボット達が一斉に彼女達に攻撃を仕掛けようとしていたそのとき、襲いかかったロボット達が揃って一直線上に切り裂かれて破壊された。


「何が!?」


 一瞬のことだったために何が起こったのかが理解できなかったウィーン。

 彼がロボットの残骸の奥をよく見てみると、疲労とダメージで立つことすら出来ていなかったはずのリガーが肩幅に脚を広げて立ち上がり、歯を大きく噛み締めている怒りとも興奮状態とも取れる姿になっていた。


「怒り!? ご主人にしばかれた怒りによる暴走かぞ!?」


 立ち上がったリガーの気迫に押され、少し後ろに後退りをしてしまう。逆に自分の邪魔をしていたロボットの撃退を終えたランは別の意味で引いているようだった。


「いや、あれはもしや……」


 次の瞬間、リガーはロボット達を切断した刃物の正体である血液の波を突き上げた右拳から噴水のように噴き出していた。


「ありがとうございますお嬢様! 元気! 入りました」

「やっぱり……」


 リガーは少年時代からカルミに使えていったことで、すっかり彼女からの痛みをご褒美として受け取れるドMと成り果てていた。

 そんなリガー。上目遣いにカルミに頼んでいたのも、自分のやる気を引き出すために敢えて自身の尻を攻撃させたのだ。


「ホント幸助のお人好しといいリガーのドMといい、今回の戦闘、色々変なものが役に立ちすぎだろ」


 ランは味方陣営の異常な性格が生かされている様に呆れて一筋の汗を流しつつ、後ろから来るロボットをノールックで切り裂いて撃退する。

 だがこのままではいつまで経ってもウィーンにまで辿り着くことは出来ない。


 下手な技を出せないランが攻め手に悩んでいたところ、考えが深くなっていた隙を突いてロボットが動こうとするが、逆にロボットの方が後ろから別の何者かに切り裂かれてしまった。

 やったのはユレサとの対話を終えて戻ってきた幸助だ。


「お前、あの女は?」

「もう大丈夫。だから俺にも手伝わせてくれ」

「何が大丈夫だ。一回攫われた奴をすぐに一人にして大丈夫はないだろ」

「あ!」


 ランのごもっともな指摘に幸助は早速口を大きく開けてしまったとでも言いたげな顔になるが、ランが次に一息ついて幸助の後ろにいたロボットをレーザーガンで破壊した。


「まあ、それならそれでいい」


 ランは幸助と背中合わせの体勢を取ると、囲い込んだロボット達に剣を向けて構えた。


「とっとと終らせるぞ!」

「オウッ!!」


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