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4-21 関係ない人質

 突然出現したユレサ。彼女の人質にすることにより、ランとコウスケはもちろん、同じ空間で戦っていたリガーとウィーンの攻防の手を止めて硬直状態に陥った。

 というよりも、実際には選択権のあるゴンドラが有利な状況に持ち込まれていた。


 いつユレサが危害を加えられるか分からない中、ランは攻撃が出来ない苛立ちからか減らず口を出して挑発をかけた。


「酷いもんだなあ、元とはいえ自分のご主人様を人質に取るか」

「アングラさん……」


 カプセルの中で恐怖の表情を浮かべているユレサ。アングラはランの台詞に対し、当の本人がすぐ近くにいるにもかかわらず酷い発言を軽く口にする。


「だったらどうした? この女は始めから俺達がこの世界を手に入れるために利用した駒に過ぎない。今だってそうだ」


 アングラの荒っぽい言い回しに対し、ウィーンはふと思い出したかのように丁寧な口調で話し出す。


「そういえば、この際ですからこれも話してしまいましょうかぞ」

「え?」


 ユレサはこれまでに明かされたことでだけでも十分すぎるほど絶望を受けていた。そんな彼女にウィーンは更に精神的なショックを与えようというのだ。


「ユレサ様。貴方は以前吸血鬼に襲われ、その際に今にも残るトラウマを刻まれたそうですね

 ……あれ、実は私が変身した偽物です」


 ユレサはたった今ウィーンが言い出した台詞を受け入れられなかった。だが彼は彼女の様子を気にすることなく勝手に説明を続ける。


「貴方をこの計画に利用するに当たって、吸血鬼の敵意は存分に利用できると思いましてぞ。

 実際王子は、貴方の恐怖からより吸血鬼を差別するようになり、ロソーア嬢の失脚に一役買ってくれましたぞ」

「全て……貴方たちが……私の、これまでの全ては……」

「そう……貴方のこれまでの功績も、成長も全ては、私達の野望のためのもの。貴方のためではない」


 ユレサの心が粉々に崩れ落ちた。これまで自分と共に暮らし、支えてくれていた使用人達。その彼等が、これまでの自分の成長も、トラウマも、全て自分達の侵略のための行為だったことに。

 ユレサはカプセルの中で空っぽになったように崩れていく。


「お前ら!!」


 楽しむようにユレサの心を傷付けるゴンドラの二人に幸助が怒りのままに突撃しかけるが、その前にアングラが自身の鋏の銃口をカプセルに向けることで防いでくる。


「動くなと言っているだろう! 次はないぞ?」


 もどかしい思いに脚を震わせる幸助。ここにアングラはカプセルを右手の甲で軽く叩きながらあざ笑う。


「ホント今も役に立ってくれて嬉しいぜ。ユレサ様」


 人質を取ってしまえば誰もそう易々とは動いてこないと思っていたアングラ。


 しかしこの直後に彼の予想外の出来事が起こった。怒りに沸点が溢れそうになっていた幸助ではなく、彼の隣にいたランが涼しい顔をして走り出してきたのだ。

 間合いに入られたアングラはランが振り降ろした剣を咄嗟に鋏で受け止めるが、踏ん張りがきかずに後ろに下がらされる。


「貴様! 人質の女がどうなってもいいのか!?」


 驚きを抑えつつ脅しをかけるアングラだが、ランは鍔迫り合いをしながら全く同じていない様子で淡々と質問の返事をする。


「どうなろうが構わん。俺には関係無い」

「ナッ!」


 軽々しくユレサを切る発言をしたランに逆に動揺してしまうアングラは、そのままランの連撃に押し切られて何度か軽く切りつけられてしまう。


「ウッグ!……貴様、正気か!? 目の前の相手を見殺しにするのか!!?」

「だから言っているだろ、俺には関係無いって。な、リガー」


 当然話を振られたことに一瞬反応に困った様子を見せたリガーだったが、次にはふと両目を閉じ軽く頷いてランの言い分に同意した。


「そうですね。これはシーズ嬢の問題。我々には何の関係もないことです」


 リガーは言葉を切るとすぐに血液を変形させて鋭い槍の形にすると、宙に浮かせた状態のままウィーンに発射した。


「<血液装備(ブラッドウェポン) (スピア)>」

(はやい。しかも直撃すれば私もただでは済まないぞ)


 壁に穴でも開けるような勢いで飛んでくる血の槍にウィーンはただ光線を撃てば相殺出来るものではないと感じ取る。

 ならばとウィーンは右手の鋏に光線を纏わせつつ、さっきまでよりも勢いに乗せた鋭い一撃を当てた。


「<渦鋏(うずばさみ) (つらぬき)>」


 お互いの技がぶつかり合い、矢は破壊される。

 ウィーンの攻撃はこれに止まらずジェット加速する動きに、先に仕掛けたリガーの方が逃げる事も出来ずに血液の防御壁を作るも、これでも相殺しきれずに切り裂き吹き飛ばされてしまう。


 吹き飛ばされたリガーを仕留めるために走り近付くウィーン。

 リガーもすぐに復帰し反撃をかけようとするも、先に動いたウィーンが銃口からカプセル生成用のスプレーで鋏から伸びる長い板を二枚生成し、立ち上がってすぐのリガーに挟み込んで攻撃した。


「<板鋏(いたばさみ)


 左右同時に強い打撃を直撃したリガーはダメージのあまり崩れ落ちるが、ウィーンは倒れかける彼に容赦無く左足で蹴りを入れ、引き下がっていたカルミの近くにまで飛ばされてしまった。


 痛みから肘をついても起き上がりきれないリガーに、カルミは再び広げた扇で口元を隠しながら見下して声をかける。


「何を倒れているのじゃリガー」

「お、お嬢様……」


 一方のラン。反撃をされないように途切れなく攻撃を繰り出し、アングラは防戦一方ながらどうにか精神的に揺さぶりをかけられないかと再びユレサについて触れる。


「貴様正気か!? 普通人質を取られたのなら交渉に持ち込むのが普通だろう!!」

「俺が助けたい相手ならな。アイツは別にどっちでもいい」


 悪党よりも悪党臭い台詞に狙いと反対にアングラの方が動じてしまうと、ランは更にその隙を突いて変形させた如意棒を伸ばしてみぞおちに打ち込んだ。


「アッ! ガッ!!……」

「決定打にはならないか。タフな奴だ」


 愚痴をこぼすラン。何処までの平然とした態度にアングラは吐き気を及ぼしつつ恐怖を覚えた。


「お、お前! なんで……なんでそんな涼しい顔してやがる」

「慣れ……かな? 深く考えたことないから分からん」


 会話をしつつ変形したバットでアングラの右頬を殴り飛ばす。一人たたずんでいた幸助は、二人の問答を聞いて大悟の言っていた言葉を思い出す。


「アイツ、狂っていたのが一周回ってかろうじてまともになった柄だ」


 これまでランと共に戦っていた幸助だが、振り返って見れば彼が戦闘中、表情を大きく変えたことは一度たりともない。精々怒鳴るときやふざけているときに眉が動くくらいだ。

 すぐに激情に駆られて動く幸助は実際未熟ともいえるが、かといってランのあれは人として何処か異常だ。


()()()()()()()()って、こういう?」


 幸助が反応に困っている内にもランはアングラを攻め立て、アングラは苦し紛れにカプセル生成スプレーを吹き出した。

 ランは一度これに捕まっていたために警戒を強め後ろに下がると、どういう訳かポケットの中に手を突っ込んで何かを取り出す。これを見ていなかったアングラはチャンスを感じ技を出して攻めに転じた。


 だがそのとき、走りし出したはずのアングラがすぐに壁にでもぶつかったかのような感覚に襲われ、動きを止められてしまった。


「何だ!?」

「本当に固いな、お前らのカプセルは」


 ランに指摘されたことで、アングラは今自分が自分で生成したカプセルの中に閉じ込められていることに気が付いた。

 スプレーが発射されたとき、ランは回避する動きとしてわざと直線方向に下がることで、頭に血が上っているアングラがスプレーを吹きかけた範囲に飛び込むよう仕向けたのだ。


「内側からなら破壊のは自分で体験して知っている。作った奴なら解除する手立てくらい知っているんだろうが、その隙があればどうなるかは分かるよな?」


 つまりカプセルから出てきた途端に切るだの叩くだの好きにする。アングラはカプセルから出ることはせず、中から発射した光線が透過する効果を利用して射撃を試みる。


 当然ランも理解しており、どう防御をするべきかを素速く貴方の中で組み立てる。アングラは鋏の銃口をランに突きつけ即座に光線を発射。

 ……とはならず、彼が切り捨てていたユレサに向かって発射した。


「ッン!」


 一瞬ランが視線を光線の方に向けたのを見たアングラは、彼がユレサを身を案じている事を確認出来た。

 一度動じさせてしまえば、その隙に攻撃できるかと思ったアングラ。だがランは無言のままブレスレットを右腕に纏い、カプセルを破壊しつつアングラの顔面を殴り飛ばした。


 鼻が折れるほど強烈な攻撃を受けたアングラは、うつ伏せにぶつかった地面で出血して片目の閉じた頭を上げて途切れ途切れの声を出す。


「お前……本当にアイツを見捨てて!?」

「だから言ったろ、俺には関係無いって」


 ランはアングラが光線を飛ばした方向に首を回して視線を向ける。

 二人が見る先には、既に破壊されて粉々になっているカプセルと、気力を失って動けていないユレサをお姫様抱っこの姿勢で抱えている幸助の姿があった。


「自分に関係のない人質を助けるなんてヒーロー行為は、ああいうお人好し馬鹿の役割だ」

「いつの間に……ハッ!!」


 アングラの頭にここまでの筋書きが読めてきた。


 ユレサを人質に出し戦況をゴンドラ側に傾けたと見たランは、敢えて即座に突撃をかけて相手の余裕をなくしていき、更に手数を多く仕掛けて防戦一方にさせることでアングラの意識を完全に()()()()に向けさせていた。


 ランが戦闘中にリガーに声をかけて彼を動かしたのも、同様にウィーン野一色をリガー一人に向けさせるためだったのだろう。

 こうなってしまえば、後はゴンドラの意識外に板幸助が、同じく意識外にいたユレサを助け出せばいいだけの話になる。


 ここまでの戦闘にてゴンドラ二人は、ランがものの数分の間に考えついた作戦に完全にはまってしまっていたのだ。


「俺は……あのときから踊らされて……」

「少しは人に騙される気持ちが分かったか? 感想を聞く気はもうとうないがな」


 ランは右腕に纏った強化グローブを再び剣に戻し、頭を落として気を失ったアングラから離れていった。


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