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4-11 魔法少女の結晶

 そして現在。決戦となる舞踏会の翌日の朝。結果から言うと、彼等の長年かけた目論見は失敗してしまった。


 使用人達は広間で暗殺され、主犯格とも取れるカルミとリガーは城の地下牢の中に投獄されていた。


 お互いがお互いに責任を感じていた上、ここまで一緒に生活を共にしてきた仲間達が全員殺されたことを聞かされたこともあり、既に生きる気力はないように見える。


 彼女らの首が繋がってが繋がっていられるのもいつまでか。重く静かな時間が過ぎていく中、微かに聞こえてきた足音によって沈黙は崩された。


 足音に対して特に反応を示すこともなかった二人。地下牢の廊下を歩く兵士はどういう訳か二人がそれぞれ収容されている檻の丁度手前中心で足を止めた。


「よう。捜したぞ」


 牢屋の中にいる二人が揃って反応した。聞き覚えがありながらも、この場にいるはずのない人物の声が鉄格子の外から聞こえて来たからだ。


 思わず鉄格子の方向に首を向ける二人。目線の先にあるのは監視をしていたはずの兵士がその場で気を失って倒れている。

 そして同じくいつの間にか姿を現していた一人。彼等と同じ甲冑を着込んだ兵士が一人腕を組んで立たずいていた。


「貴方、まさか」


 追加で現われた兵士は目元まで深く被っていたヘルメットを外す。多少暑かったのか顔から汗を流し、息を吐いて軽く手で仰いでいる。


「フゥ~……この鎧暑いな。こんなもん季節によっちゃ自滅するだろ」


 顔を現したのは、広間で他の使用人達と同じく兵士達に襲われ、殺されたかに思われていたランだった。


「よ、助けに来ましたよご主人様」



______________________



 時は少し遡り、ラン達が罠にはめられて広間で襲われている最中。


 旅人一行三人によって兵士達が次々返り討ちには遭いながらも、閉鎖空間で大勢を少数で守りながら戦っているとなるとどうしても穴が出来る。


 兵士達も馬鹿ではない。当然穴を見つければそこをすぐに攻めて襲いかかったが、これも直前に音で気付いたランが飛ばす武器によって防がれていた。


 だが短時間でも数に押されれば疲労が出る。特に南は息が荒くなってきて、隙を突かれたことで体勢がガタついてしまう。


 怯んだところに追撃をかけてまずは一人とたたみ掛ける兵士達に、ランは気絶した兵士が落とした剣を拾って持ち手を逆手に持ち、刃が相手に当たらないように真っ直ぐ放り投げた。


 飛ばされた剣の柄は兵士のヘルメットに命中し、横方向に倒れて隣に並んでいた兵士達も一緒になって倒れた。


 今までの事からすぐにランの行動だと理解した南は彼に謝罪した。


「御免、ラン君」

「謝罪はいいから手を動かせ。……て言っても、長期戦はこっちが不利か。『ったく、コイツらといると次から次に面倒ごとになる』」


 内心で幸助と南に少々愚痴をこぼしつつも、ランはこの場の戦闘を早く終わらせるために冷静に頭を回転させた。


(とりあえず最優先は使用人達(コイツら)をこの部屋から出すことだ。とっとと気絶でも戦意喪失でもさせられれば都合が良いんだが……ん? 戦意喪失?)


 ランは一つあまり当てにならなさそうな案を思い付き、服装のどこかから結晶を一つ取り出した。

 五芒星(ごぼうせい)の形をした黄色い結晶、以前手に入れた『魔法少女の世界』の結晶だ。


(どんな効果があるか分からんが。やれるだけやってみるか)


 ランは以前会った魔法少女達のやり方を真似、武器をステッキ状に変形させて結晶を当てた。

 するとステッキは全体を黄色く光らせ、次に導線に電気が巡るように光がランの身体を包み込んだ。


「ん? なんで体に? なんつうか既に嫌な予感がするが」


 その嫌な予感はすぐに現実になった。包み込んだ光りが離れたランの姿は、派手な白色のガーターにフリフリの広がったスカート。魔法少女の服装を彼専用にアレンジを加えた形になっていた。


「魔法少女ラン! ただいま参上!!」


 普段とは比べものにならない可愛らしい声とヘンテコな服装に、その場にいた彼以外の全員が冷や汗をかいて唖然となった。


「ら、ラン……」

「ま、魔法少女に、なっちゃった?」


 そのままランは心も少女になっているのか、明るくあざとい動きでウインクをしながら体をスピンさせ、体を包んでいた光を収縮してステッキ先端に集めると、広間天井付近にまで発射された。


 突然発射された奇妙な光に全員が注目したが、続いて光りが周囲に弾けるように拡散したことで

使用人達を取り囲んでいた兵士達に命中した。


 光りは相手の皮膚に当たろうが鎧に当たろうが兵士の体の中に入り込んでいく。どのような効果が出るのか使用したラン自身も微妙な顔を浮かべたが、少しして兵士達に効果が現われだした。


 全員が持っていた武器を手放し、床に落とす音が響き渡った。


「な、何だ? 何が起こって」


 戦闘中に急に動きが止まった兵士達に驚く幸助と南だったが、更に目の前に見た光景に驚きを通り越してリアクションに困ってしまう。

 さっきまで戦っていた兵士達が、揃いも揃って気が抜け、もはや顔のパーツが変形したかのような単純な線で描いた表情になっていた。


 そして兵士達は空気が抜けてしぼんでいく風船のようにその場に倒れてしまい、同じ瞬間にランの身体に纏っていた魔法少女の服も消えて元の姿に戻った。


 上がっていた右腕を降ろしたランは、さっきまでの行動が全くなかったかのように少し間を置いてから倒れている兵士のヘルメットを脱がし取った。


「お、おい」


 涼しい顔をしているランに逆にどう声をかけたら良いのか分からず歯切れの悪い声かけをしてしまう幸助に、ランは彼を始め、ポカンとしている使用人達に聞こえるように声を張った。


「何ぼさっとしてる! さっさとコイツらの身ぐるみを剥げ! でないと別の兵士が来て皆殺しがオチだ」

「でも、閉じられている鍵はどうするの?」

「ブレスレットがある。この時代の鍵なんて開け閉めは容易だ」

「「ああぁ……」」


 それだけでなんとなく納得してしまう二人。画して倒した兵士達の装甲と自分達の服を入れ替えることでまずは広間から脱出したのだ。



______________________



 そうして何故か一人だけ地下牢に入ってきたランは、早速ブレスレットを変形させた鍵でカルミとリガーの檻を開けた。


「ほら、さっさと出てくれ。いつ見張りが来るか分からない」


 しかしここで問題が発生した。檻を開けて出られるようにしても、カルミ、リガー双方が床に付けた尻を上げる動作すらしなかったのだ。


 口を開いてカルミがランにした話は、自分の身の事ではなく、ランと共にいた他の使用人達に関することだった。


「わらわの使用人は、どうなったのじゃ?」

「安心しろ、幸助と南を護衛に付けて脱出を急がせている。出来るだけ兵士に見つからないルートは、準備中に目測したのをメモって渡したから、上手くいけばそろそろ外に出ているだろう」

「手際が良い。凄いですね」

「きな臭さはここへ来たときから感じていたからな」


 ランはこの城への移動中に、何度か兵士達が移動する様子を見かけていた。


 いくら要人が集結する舞踏会の席とはいえ、外敵を恐れているのならば外で見張ることが主立っているはずだ。だが今回の兵士達は、ほとんどが城の中に入って内部にこもっているようだった。


 そこでまさか自分達の命が狙われるのは予想外だったが、結果的には掛けておいた保険が功を奏した。


 自分の使用人達が全員とりあえず無事であったことに胸をなで下ろすカルミ。


 「ほら、使用人は無事だったんだ。主人であるアンタが出てこないと、アイツら路頭に迷うだろ」


 ランはカルミにすぐに牢屋から出るように諭すが、カルミは動かなかった。


「わらわが行ってももう無駄じゃ。ロソーア家の権威は失われた。戻ったとて、彼奴(あやつ)らを守る事は出来ん」

「お嬢様……」


 リガーも、言葉に詰まってしまう。ランは頭をかきながら少し機嫌の悪い声を出す。


「もやついた回答をするな。どうにしろはやくしないとなんだよ! 俺の予想じゃ、きな臭いのがよりやばくなる気がするんだよ!!」


 ランの根拠のない勘。いくつもの異世界を冒険してきた彼が感じたこの勘は、城の中ので別の場所にて始まっていた。


 昨日舞踏会にも使用された広間。片付けを終えたこの部屋に、マルジ王子に招かれた新たな婚約者であるユレサが、使用人共々跪いていた。


 今彼女達の目の前には、マルジの他にもう一人の人物がいる。彼と同じ銀色の髪に、鼻下や顎に多少のひげを生やした中年の男性が、玉座の上に座っている。

 彼こそが、この王国の国王なのだ。


「君がユレサ嬢か。話は息子から聞いておる。(おもて)を上げよ」


 緊張してコマ送りのように顔を上げるユレサに、国王は笑って優しくする。


「そう緊張することはない。もうじき我らは家族となるのだ。少しずつでも慣れていくといい」

「は、はい! 光栄です、国王陛下!!」


 顔から汗を流しながら礼をするユレサ。

 マルジは彼女の初々しい様子を喜んでいるが、国王は彼女の様子を見かねてまずは緊張をましにしようと、広間の警護をしていた兵士を立ち退かせた。


 扉の閉じる音が響き、広間が再び静まり返る。

 残った人物達に、マルジ待ちきれないと今後の事について切り出そうとする。


「お父様。こうして貴方との挨拶も完了しました。僕は一刻も早く彼女と結婚したいのです。早速、婚礼の計画について相談が」

「相談などする必要はありませんぞ」


 マルジの台詞に割って入ったウィーン。マルジは不敬な態度に少々表情を引きつらせて彼等の方を見ると、いつの間にかユレサの使用人達の姿が消えていた。


「ん? ユレサ、君の使用人は何処に?」


 マルジがユレサに問いかけた直後、マルジ、国王はそれぞれ自分の首元に刃物を突き付けられる感覚に襲われた。


 全く気が付かなかった彼等の側には、ウィーンを始めとするユレサの使用人達が王族二人にナイフを突き付けていたのだ。


「ヒッ!!」


 恐怖から思わず甲高い声を出してしまうマルジ。ユレサは顔を上げた途端に目に見た光景に立ち上がり混乱する。


「な! 何をやっているんですか皆さん!!」

「何を、ですか?」


 ウィーンは首だけをユレサに向けて、ここまで彼女に聞かせてきた暑苦しいながらも優しい声とは違う冷たい声で答えた。


「始めるんですぞ。私達の、本当のお仕事を……」


 台詞を言い終えた途端、使用人達の姿が頭のてっぺんから服出した水のようなものに包まれ、囲いが消えたその場には、人間とも吸血鬼とも明らかに違う怪物の姿が出現していた。


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