3-25 追撃者
戦闘が終わり、幸助とユリがヒトテツの両掌にそれぞれ乗っかってランと分かれた場所に運ばれていた。
道中、幸助はユリが兵器獣の酸を防いだ攻撃について質問した。
「さっきの酸を防いだ爆発。あれはユリちゃんが?」
「ええ、<クラッシュ エメラルルド>。私は触れた無生物に自分のエネルギーを流すことで、簡易的な爆弾を作り出して、好きなタイミングに爆発させることが出来る。
さっきのはランが切り裂いた赤服の義手にエネルギーを流して、兵器獣の体内で爆発させたの」
回答を得て納得した幸助だが、例のごとく自画自賛が好きなユリは鼻を高くして詳しい説明までも勝手に続ける。
「応用すれば、軽く触れた機械を壊すことも出来るし、そこら辺の小石を爆破して目くらましにも出来る。流石はこの私ってトコでしょ?」
そう、今回の戦闘時、実は時折道端の砂利が爆発したのも、キロンの義手がランの攻撃を受ける直前に突然故障したのも、彼女がこの技を使用したために起こった事だったのだ。
彼女の技は大変活躍していたのだが、正直なところこうも次男下に語られると感謝が薄れてしまうのが本音だ。
「まあ、弱点もあるけどね」
「弱点?」
普段自慢ばかりする彼女が卑下の言葉を言い出すとあってか幸助はオウム返しの反応をしてしまう。
「爆弾の生成にも私のエネルギーを送り出して溜めているからね。消耗が激しくてすぐにお腹減っちゃうのよ。だからランからは大がかりに使わないようにいわれてるわ。
だから兵器獣みたいな巨大な相手にはあまり使えないのよね」
「そうか……」
幸助は悟った。自慢気に説明している技といっても、彼女にとってそれはあまり使わせるわけにはいかない禁じ手だと。
それを今回何度も使わせてしまったのは、自分がふがいなかったせいだからと彼は自分を責めた。
思うところがあった幸助だが、それを口にする前にヒトテツは無言で何かを見ながら立っている南のいる場所に到着した。らんはいない。
「南ちゃ~ん!!」
「ん?」
ヒトテツは二人をそっと地上に降ろすと、幸助がこの場にランがいないことを南に問う。
「あれ? ランは?」
「混乱して言う隙に基地から出来るだけ情報を集めてくるって、来た道を戻っていったよ」
「抜け目がない奴。戦い終わったなら休めばいいのに……」
幸助は微妙にしかめた顔になり、ユリは微苦笑すると、南の奥にいた人物を見て目の色を変えて警戒した。
「南ちゃん、そいつら」
南の奥にいたのは、気を失ったまま拘束されたキロンとアントだ。
アントには糸を防ぐために口や足にも厳重に拘束具が取り付けられている。
何故この二人を気絶状態で置いているのかについては、幸助が質問する前に南が答えた。
「なんでもこの二人からも情報を吐かせたいからだとか。フジヤマさんからだけだと時系列が振るいものしかないからってラン君が」
「ふじやまさんって……もしかして! ルミさん達が言ってた!?」
「あぁ……アキさんの婚約者の!!」
「エッ? 婚約者ってどういうこと?」
事情を知らない幸助は思わずユリの方に首を回して聞いてしまう。
ユリも同じく彼に顔を向けて説明しようとしたが、南がいる方とは反対方向から突然顔を覗かせて声をかけて来る人物が現われた。
「仲いいな、お前ら」
「「ウワオッ!!」」
二人は驚いて揃って後ろに身を引くと、開いた門の真ん中をくぐるようにフジヤマが入り込み、側にいるアキも付いてきた。
「あ、アキさん」
「フジヤマさん」
ユリと南で自分が出会った人物の名前を呼ぶ。アキは手を振って反応、フジヤマは特に返事をすることなく前を歩くと、南の奥にいる二人に目線を向ける。
二人にとっては南達以上に思うところがあったが、それを声に出すことはなかった。
全員の空気が何処か冷たくなったとき、この場を離れていたランが戻ってきた。
「おう、もう揃ってたか。待たせてしまったな」
足音が耳に入ったのか、キロンも目を覚ました。彼は直後自身の体が動かないことにまず反応し、拘束されていることに気が付いた。
「これは……」
「こっちも目が覚めたか」
辺りが囲まれている子のを見て状況を察して抵抗することしなかったが、情報を吐く気はないと睨んだ目線ではっきり伝わってくる。
「国について聞きたいのか?」
「話が早いな」
「吐くと思うか?」
ランは当然キロンが自分から情報を漏らさないことを予想し、ブレスレットの装飾から出した立体モニターに右手で触れて何やら操作をしながら淡々と返事をする。
「送還すれば吐かせる方法なんていくらでもある。それこそ自白剤もたっぷりとな」
「自白剤って……拷問でもするつもりかよ」
「流石にそれって……」
少し躊躇をみせる幸助と南にランは操作を続けながら冷たく言い放った。
「甘えるな。ここで情報を得られなければ、後々危険になるのは俺達だけじゃない。こことは違う別の世界の生物、全てと言ってもいい」
更にランは一度二人を細い目付きで睨み付ける。
「この場の同情でそいつらが被害に遭ったとき、お前達は責任を取れるのか?」
「それは……」
言い返せない二人を余所にランは手続きを終えたようで、モニターの右下にある大きなクリック部分に指をかけながらキロンに厳しい言葉をかけた。
「じゃあな。せいぜいキツい目に遭ってこい」
キロンが覚悟し、ランが二人をどこかに転送しようとしたそのとき、ランはふと動きを止めて細くしていた目を大きく広げた。
「ッン! お前ら、下がれ!!」
突然の一声に戸惑う幸助、南、アキ。対してランと付き合いが長いユリ、そして赤服のやり口をこの場の誰より知っているフジヤマは素速く反応し、残りの面々を引き連れて咄嗟に後ろに身を退いた。
ランもすぐに続くと、直後にキロン達二人の真上から何かが高速で落下し、発生した煙で辺りが見えなくなった。
「何だ!?」
煙が晴れた先に赤服達の姿はなく、彼等がさっきまでいた地面は周辺ごと何かにえぐられたように半円状に消えてなくなっていた。
「これ、誰が!? 何をして!!?」
動揺する南。ランは冷静にこの状況から考えられる仮設を出し、全員に指示を出した。
「全員この場から逃げろ!! 新手だ!!」
一同は静かな空気が一変し、すぐにこの場から走り出した。
彼等は足を止めないながらも幸助はランに結晶のことを確認する。
「て! 流れで全員逃げてるけど、結晶を改修しなくて大丈夫なのか?」
「全滅して持っている分の結晶をとられるよりはましだ」
不幸中の幸いで兵器獣のとの戦闘を終えた後に幸助からの頼みもあって既に民衆は戦闘場所を離れており、ラン達が逃げた後に赤服の追撃が襲って来ることもなかった。
誰もいなくなり、再び静まり返った戦いの場には、少し後になって背の低い人影が一つ、陥没地の前に立って舌舐めずりをした。
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都市の奥、アキ達の家屋に戻ってきた幸助達。最後尾にランとフジヤマが入る。
フジヤマはここまで逃げるまでに攻撃が来ないことにランにそれとなく聞いてみる。
「ここまで来て攻撃がないって事は……」
「新手の目的は口封じだけか。警戒はいるが、とりあえず一息は付いてもいいか」
ランの合図を受けて全員、特に会話をしていた二人に南を含めた三人はようやく一息つくことが出来た。
「「「ハァ~……」」」
「力が抜けて撃沈してる!!」
「裂け目の先で何があったんだ!?」
移動回数こそ多いものの休憩と取れる時間があった幸助とユリには、連戦が続いた二人程の疲労はなかった。
「疲れたね……」
「そうだな……」
椅子に座らせてもらうことで落ち着いたランを見て、同じ環境にいた南が彼に聞く。
「それで、赤服の基地に戻って何かとに入った?」
「ああ、その事なんだが……」
少し気が抜けていたランの顔が再び引き締まる。というより締まりが悪いといったような感じだ。
「やられてた。おそらく二人を始末したのとグルだ」
ランの話によると、南とは兵士を気絶に留めておき、後になって情報をはけるかと踏んでいた。
しかし彼が到着したときには既に基地内の重要機器はほとんど破壊され、兵士達も全員死体になっていたという。
「戦闘のゴタゴタに乗じて痕跡を消されたらしい。下手に復旧しようとして脱出すら出来なるのはごめんだったから、急いで出てきて合流した」
「赤服……いや、星間帝国は味方を簡単に始末できるのかよ」
「所によるだろうが、俺がいたところはそうだったな」
幸助がもやついてこぼした言葉にフジヤマが自身の体験談から冷たく答える。
ランは重い空気に区切りを付ける為にユリに目線を向けながら話に区切りを付けた。
「手掛かりはなくなった。が、今は全員無事で合流できた事を良しとしておくか」
しかし幸助は撤退したことで新たに出来た問題に触れた。
「でも、結晶はどうするんだ? 結局手に入れられずじまいだろ?」
普段とは逆に痛いところを突かれたランは返答に困ったが、そのとき家屋のドアからノック音が聞こえて来た。
ルミが許可を出すと、マルトが扉を開けてラルコンと共に中に入って来た。
「先生に頼まれていたものを届けに来ました!!」
ラン達が首を傾げると、ラルコンが両手で包み込むようにして大事そうに持っていたものを見せる。
彼女が持っていたのは三角形に似ながらも丸みのある形をしたダークブルーの小さな石。
ランのブレスレットが反応を強く示していることから、これが何なのかを一同はすぐに理解した。
「これ! もしかして!」
「この世界の結晶よ。ヒデキ君が私に預けてくれて、隠していたの。
多分一度取り戻り戻されたのを奪い返すために、奴らはこの世界に執着していたのかも」
幸助が言いかけた結論を、先にアキが伝えてきた。しかし何故ラルコンが結晶を持っているのかについては彼女も知らなかった。
ラルコンは小さく微笑みながら事情を説明する。
「元々先生に頼まれていたから。皆が戦って誰も注目していない間に、そっと潜ってとってきていたの」
ラルコンは結晶を近くにいた幸助に手渡した。
「はい。これ、貴方たちに必要なものなんでしょ?」
「ああ! ありがとう!!」
これを見てランもフジヤマに近付き、小声で迫ってきた。
「そういえば、今回俺がお前を助けるに当たって付けた条件、忘れたわけじゃないよな?」
「がめつい奴だ。心配しなくても恩を仇で返すような真似はしない」
フジヤマはランの姿勢に呆れながらも素直に持っていた、形はこの世界のものと同じながら、赤褐色に輝いている結晶を手渡した。
「何処の世界の結晶かは知らない。だが俺が持っておくより、お前らに渡した方がいいだろう」
「……チッ、ここまで苦労してまた外れか」
「アッ!?」
ものを貰っておいていきなり舌打ちで返すランの態度に流石のフジヤマも怒りが湧いてきた。
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