3-22 後出し勝負
ランがキロン、南がアントとの戦闘を開始した直後、都市街に迫る兵器獣を止めるために一人走る幸助。
兵器獣がまたしても都市街に酸を吹きかけようと準備をしている瞬間を見かけた幸助は、すぐに防ごうと攻撃を仕掛けた。
(アイツ! また都市街を……させるか!!)
しかし幸助が先手を仕掛けようとした直後、兵器獣は攻撃の向きを突然幸助のいる方向に変えて酸を放って来た。
「ハァ!? あれだけ攻撃してもこっちに向かなかったのにどうして!?」
すぐに酸に当たりそうになるため、兵器獣が幸助を見た理由を考えている暇はない。またしても風弾を発動しようとする。
「クッソ! 風は……ッン!!」
幸助は突然技を引っ込めた。ここで兵器獣の酸を弾き飛ばせば、近くにいるランやユリも飛び火するかもしれなかったのだ。
しかし今の幸助に不意を突かれたために代案を立てて攻撃を回避する時間はない。どうにか受けきる方法はないかと彼は必死に頭を回転させる。
(弾く以外に何か方法は……そうだ! 煙は液体っていうし、もしかしたら……)
「<水波>!!」
幸助が右手の甲に左手の平を重ねる形で腕を酸の煙が振る方向に伸ばすと、右手の平から蹴りの当たる面積を超える範囲に勢い良く大量の水が噴き出した。
水が煙に当たると途端に酸は水の中に溶けていき、そのまま兵器獣の頭にまで押し返した。
水に溶けて弱くなったいえ、自身の吐いた酸を押し返された兵器獣は顔を覆っていた鱗が溶かされ、少しだけだが皮膚が剥がれた肉が露出していた。
「よし、酸は奴自身にも効果がある。このまま押し返していけば……」
攻撃法を掴んだ幸助がこれから攻めかかろうとすると、兵器獣は突如彼に背を向けて距離を取り始めた。
「ハァ!? なんでここで逃げるんだよ!!?」
当然逃がしはしないとすぐに兵器獣を追いかける幸助。彼は兵器獣の動き方に何処か引っかかるものを感じた。
(おかしい。兵器獣には痛覚がないはずなのに、まるで危険を感じて逃げ出したみたいだ……
何処か近くから、誰かが操作をしているのか?)
などと幸助が少し考え込んでいる内に、これまた突如として足を止めた兵器獣が彼に向かって尻尾を振り打撃をかけてきた。
からくもギリギリでジャンプすることで回避した幸助は、兵器獣のまるで自分のいる後ろの位置が正確に分かったような攻撃に、先程の自分の仮設に確信を持った。
「やっぱり、近くで指令が出てる。でも誰が……」
ここで幸助の脳裏に、前回の兵器獣の襲撃が思い起こされた。
そのときの兵器獣の動きは、彼を攻撃するでも、ユリを狙っていたわけでもない。しかしルミやチロウが向かって行ったときには一方的にやられ、退却していった。
幸助の思考でもやついて部分が繋がった。
「そうか! それなら納得がいく!! あの兵器獣を操っているのは!!……」
その幸助が勘付いた兵器獣を操っている人物は、彼が遠目に見える位置にてどうにか兵器獣を操作していたが、その精神は全く余裕があるものではなかった。
当然と言えば当然だ。既に始末がすんだと思われていた自分が目の敵にしている人物が目の前にいるのだから。
「フジヤマ……フジヤマァ!!」
「久しぶりだな、チロウ」
怒りに満ちるチロウに反して、フジヤマは冷たいながらも何処か悲しそうな表情と声で答えが分かりきっている質問をチロウにした。
「お前、俺達を裏切っていたのか?」
チロウはアキを捕まえている腕の力を強め、フジヤマに私怨がこもった怒声を浴びせる形で返答する。
「裏切った? 裏切ったのはお前の方だろう!! 俺は帝国のために当然のことをしただけだ!!」
「アキを放せ。昔の仲間と殺し合いはしたくない」
フジヤマが説得しようとかけた言葉が、チロウの癪に障った。
「仲間……仲間か……俺はお前のことを、一度たりともそんな風に思った事はないんだよ!!」
フジヤマの姿を目に入れることすら気分が悪かったチロウは返事をおえた瞬間に腕の銃を発砲し、フジヤマの息の根を止めにかかった。
フジヤマが横に走り出して回避すると、チロウは周りへの飛び火など一切考えずに銃弾を乱射した。
「<金属生成 機関銃>」
体の金属を変形させた機関銃の発射速度は下手なガトリングガンよりも速く、フジヤマの逃げる速度に追い付いて彼の左足首に命中した。
念のため体を鱗で覆って防御力を上げていたフジヤマだが、弾丸は先端が鋭く尖った突き刺さりやすい加工がされておき、彼の身体をいとも簡単に貫通した。
「ッン!!」
脚を痛めてスピードが落ちるフジヤマ。チロウは彼に出来た隙を見逃さない。
彼は抱えていたアキの両手首と両足首に自身の体から分裂させた金属の拘束具を取り付けて自分の側に放すと、左手を歪な剣の形に変形させて腕を伸ばした。
「<金属生成 剣>!!」
剣はフジヤマの左肩に突き刺した。
動きを止められたフジヤマに、チロウは一度銃の乱射を止めて銃口だけを彼に突きつけながら自分が有利であることを敢えて口にする。
「俺に勝てるとでも思っていたのか? 昔のままの間抜けが」
続けてチロウはこれまでフジヤマやアキ達に対して堪えていた鬱憤の恨みや苛立ちの数々を怒声にして吐き出した。
「学生時代から、お前は常に俺にとって邪魔な存在でしかなかった!! 成績はいつも俺より下! 運動だってからっきしなポンコツ!
そのくせいつも一人本を読んでいただけの根暗だったくせに!! なんでお前みたいな奴が……」
チロウは一度アキの顔を除いてから視線を戻し、もう一度強調するように言い直して怒鳴り続ける、
「なんでお前みたいな奴が俺より出世を!! アキを!! 俺の方がこの通り格上だというのにだ!!!」
吐き出される怒りに比例して深く突き刺さる剣に、フジヤマは叫びや弱音こそ吐かないがダメージは受けているようで、頭から冷や汗を長し、態度からもあまり悠長はなかった。
チロウは彼のその様子を確認しようともせず、今度は彼等の発明について言及した。
「ラメールシステムだってそうだ! あの無限の可能性を持った素晴らしいシステムを、お前のその煩悩な頭のせいで棒に振るうところだった!!
万能なシステムは戦いに活用してこそ真価を発揮する!! そして戦いに勝つためにさらなる発展を遂げ! 国をより豊かにするんだよ!!」
ラメールシステムに対してのチロウの見解に、流石のフジヤマの口を挟んだ。
「そのために……他の世界の人は死んでもいいというのか!!?」
「大きな発展のための小さな犠牲だ! 大きな事を成し遂げるために、犠牲が出ない事などないだろう!!」
チロウの勝手な言い分に、酸欠がましになって意識がハッキリしてきたアキが素直な返事を返す。
「まるで……自分の、ものみたいに……」
「何?」
振り返るチロウに、アキが体をどうにか起き上がらせないかと奮闘しながら話を続ける。
「ラメールシステムは! 私達が作った!……皆のもの!!……貴方一人のものじゃない!!……貴方は、それを一人締めしようとしただけ!!」
アキのもっともな言い分に機嫌を損ねたチロウは、逃げることも出来ない彼女の腹に一方的に蹴りを入れた。
「カハッ!!」
「アキ!!」
アキが攻撃されたことに動揺して突き刺された剣を意に介さずチロウに向かってこようとする。
チロウもこれに気付いて剣に変形していた手の指を広げるように剣の刃を分け、爪で突き刺すように拘束の形を変えた。
「<金属生成 五本指刃>」
変形して数が増えたチロウの刃にフジヤマは両肩や両膝、そして左手の平の中心にそれぞれ剣が突き刺さった。
「ウガッ!!」
流石にここまで大量に突き刺されたとあってはフジヤマも体から血を流しかなりの痛みを感じ取る。
追撃と拘束によって一歩も動けなくなったフジヤマを前に、チロウは彼とアキに対して身勝手な持論を高らかに語り出した。
「一つ、お前らにいいことを教えてやるよ! 偉業となる物事において、一番栄光や勝利を掴むのはいつだって後出し勝負で最後に手を上げた奴なんだよ!!
歴史に名を刻んだ英雄共は! 常に別の誰かが打ち立ててきた功績を利用して後ろから栄光をかっ攫っていったものだ!!」
チロウはフジヤマに刺した五本の剣をより深くねじ込ませながら、彼にまるでそれが事実のように突き付けるよう圧をかける話し方で心を折りにかかる。
「俺とお前だってそうだフジヤマ。お前は俺が栄光を進むための花道を作る為だけに存在した踏み台なんだよ!!
だからはらわたが煮えくりかえっても生かしておいた!! 過去に消した踏み台は! もう亡霊以外の何者でもない!!」
チロウは右手を変形させて銃口数を増やして乱雑に並べながらも、その砲門全てを身動きの取れないフジヤマに命中するように発射方向を揃えていた。
(あんなに増やせるのか!? あれから一斉にさっきの金属弾が撃たれると、流石にやばい……)
対処に追われるフジヤマにチロウは容赦などあるわけがなく、彼に再び一方的な怒声の叫びを浴びせながら発射準備をする。
「亡霊は地獄に墜ちてしかるべき! あの洞窟が嫌なのなら!! 本物の地獄に突き落として今度こそ二度と戻ってこられないようにしてやるよ!!」
チロウの話が途切れた直後、彼は自身の腕の不気味な散弾銃を一斉に発砲させた。
「<金属生成 地獄機関銃>」
飛び出した弾丸の雨がフジヤマめがけて飛び込んでいく。
もう彼に回避する手立てはないと踏んでチロウは思わず笑みをこぼしてしまう。
逆にアキは少しだけ見える自分の婚約者の絶体絶命の危機に何も出来ず、不安と絶望から最早先程のように叫ぶことすら出来ずに声が喉の奥に詰まってしまった。
しかし当の攻撃を受けようとしているフジヤマは違った。
彼の目はランと戦っていたときのような何かを諦めようとしてもそれが出来切らすに迷っていたものではなく、真っ直ぐ真剣に前を見ている覚悟が決まったものだった。
チロウはここまで追い詰められながらも何故フジヤマが諦めていない態度をとっているのか理解できなかったが、理由は直後に目に見える形で現われた。
発射された弾丸がフジヤマに命中する直前、突然色が変わってボロボロと崩れていき、跡形もなく消え去った。
「何!? 何だ!? 何だこれはぁ!!!」
チロウの驚愕に、フジヤマは顎を引いて何かを腹に決めたようだった。
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