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3-21 技VS技

 ランがキロンとの戦闘中、時を同じくして面と向かい合っていたアントと南。

 アントは南の蹴りを受けたことで多少なりとも彼女を警戒していた。


(この女、ここまで力があったとは……脱獄はこの女の協力あってか。確かに、力めば安い格子なら曲げられそうだ)


 実際は曲げるどころか破壊しているのだが、力尽くで脱出されたというだけでアントには彼女に近付いては危険をいう認知を与えた。


 そうなると当然、アントが次に取る攻撃は飛び道具によるものだった。

 片腕一本になりながらも素速く発射される糸玉。南は羊反で受け流そうと構える。


(弾き返して追撃につなげる!!)


 しかし南が羊反で糸玉の一発を弾き返すまでの間にアントが二発目を発射し、一撃目を巻き込んで彼女の体を貫いた。


「ウグッ!……」


 予想以上の威力から来る痛みに思わず声を漏らす南に、アントは自身の技に彼女を倒せる確証を得た。


「どうやらそちらにはこちらの飛び道具を防御することは出来ないようですね。それだけ分かれば十分」


 アントは手早くこの場の戦闘を終わらせようと糸玉の連檄を発射しようとしたが、南がこれを素直に受けるはずがなく、その場から走り出して直線方向に飛ぶ糸玉を回避した。

 しかしこの逃げ回るという行動は、彼女の戦い方において非常にやりづらいものだった。


 南の戦闘術である夕空流格闘術は、相手の攻撃を受け、それを体の動きで威力を受け流しながら反撃をかける、いわゆる『カウンター』を主体とした戦法をしている。

 故に離れた場所からの素速い飛び道具の連撃は、彼女にとって反撃を仕掛けられない苦手な攻撃となっていた。


(ラン君のように動いて戦う手法なら、ここで相手の細かい隙を見て距離を詰めるんだろうけど、僕にその技術はない……どうにかして一度攻撃を止めさせないと)


 どうにか横に走ることで糸玉を回避し続けていたが、やはり中々に近付ける隙は出てこない。

 このまましばらくイタチごっこが続くかに思われたが、アントはこの戦いを長時間続ける気は毛頭なかった。


 アントが糸玉を発射し南がこれを回避した直後、前脚に重心がかかったタイミングに突然、彼女の目の前に横一直線上の糸が光線のように飛び込んできた。


 普通の人ならばこのまま前のめりになって顔から糸に触れてしまう。

 しかし南は自身の頭を後ろにのけぞらせることで重心を無理矢理後ろに向かせ、後ろからの糸玉にも触れないように後ろに置いていた左足でバランスをとりながら攻撃が当たるすれすれでブレーキをかけた。


 直後に何が起きたのかアントの方に首を回して確認すると、右手からだけではなく、口を広げ、その中から直線上に糸を出していた。


「腕だけじゃなく口からも糸を!?」


 微かに青ざめた南に、アントは横一線に首に回して彼女に追撃をかけた。


「<斬糸(ざんし)>」

(マズい!!)


 アントの動きから次に釣る攻撃を察した南は中断していたのけぞりを逆に大きく行ない、バク転をする形で斬糸を紙一重で回避した。


(これもかわすとは、相当勘が鋭いな。しかしどうにしろ、もうじき始末出来る)


 二度の不意打ちを回避した南だが、ここから再び走り出すにはどうしても数秒のラグが発生してしまう。

 バランスの悪い姿勢をとり続けたために脚がもつれてしまったとき、突然地面からいくつもの束になった糸が地面から飛び出すと、彼女の上で一つに結ばれて彼女を鳥かごのように囲い込んだ。


「<糸檻(いとおり)>」

「しまった!!」


 囲い込まれた南。この短い期間に三度も檻に捕まってしまった彼女に、口から発射していた糸を切り離したアントが話しかける。


「私が片腕しかなかったことから油断しましたね。生憎私が糸を出せるのは掌からだけではない。口からはもちろん、手の指や、足の裏からまとまった数で発射することも出来るのです」


 南はすぐに自身の囲い込んでいる糸を右拳で殴りつけるが、拳の当たった箇所の糸が変形して衝撃を吸収されてしまう。


「無駄ですよ。一本ならまだしもその折の糸か塊になっている。柔い糸も固まればまとまって衝撃を吸収し、碌な鉄よりも破壊しにくい材質に変わります」


 つまり、南の格闘術でははか出来ない。アントはそう彼女に遠回しに伝えていた。しかし彼はチロウと違い舐めた態度をとることはなく、駒での南の動きについて評価を延べた。


「しかし正直なところ、ここまで連続の不意打ちを仕掛けて仕留められなかったことは初めてです。相当に鍛え上げられたのでしょう」


 そこでアントは南に一つの提案をした。


「どうです? 貴方も我らが帝国のために働いてみませんか?」

「……帝国に?」

「ええ、貴方の実力があれば、より効率良く武力行使が出来るようになるでしょう。あの緑髪の女を差し出せば、取引は成立しますよ」


 南は迷う様子などなく、アントのこの提案を一蹴した。


「お断りする!! 僕はお前達みたいな、勝手に人の世界を侵略する奴らの力になる気は一切ない!!」

「そうですか。残念だ……緑髪の女は生け捕りにするよう言われていますが、貴方に対しての処遇は特にない。敵でいるのなら、始末させて貰います」


 アントが南との交渉を失敗したと見た次の瞬間、檻の糸の一部が分離して中にいる彼女に鋭く突き刺さりに落ちてきた。


 南は閉鎖空間の中で逃げられず、その場でうずくまることしか出来ない。容赦無く降り注ぐ糸が体に突き刺さった。


「<糸檻(いとおり) 刺獄(しごく)>」


 アントは糸が刺さって動かなくなった南の様子を見てこの場の戦闘の終わりを確認すると、キロンの助太刀に入ろうとこの場を動こうとした。


 しかし檻を生成していた糸を解除しようとしたアントがそこで脚に違和感を感じた。微かだが、伸ばした糸が反対側から引っ張られているような感覚があったのだ。


(糸が引っ張られている? あの女は既に串刺しになって死んだはず……)


 ほんの少し焦りを感じながら南を閉じ込めた折に視線を戻すと、先程と変わらず石のように固まっている南の姿があるだけだ。


「やはり動いている様子はない。気のせいだったのか?」


 アントが自問自答で自分を納得させようとした次の瞬間、一瞬彼女の体が小さく揺れる動きが見えた。

 南はくたばったのではなく、わざと縮こまった態勢になることで糸の攻撃への特殊な受け身を取っていた。


「<夕空流格闘術 一式 水瓶(みずがめ)受け>」


 水瓶受け。夕空流格闘術における最も基本的な受け身の技であり、あらゆる相手の攻撃を様々な構えでショックを流し、出来るだけ自身の体にダメージにならないようにため込む技術。

 この技そのものに何の攻撃力もなく、完全な防御にもならないが、応用することで、次の技の威力を底上げすることが出来る。


「<八式 乙女翔(おとめしょう)>!!」


 南は次に、まるで女神が天高く飛び立とうと翼を広げるように両腕を横に大きく、尚且つ素速く動かした。

 水瓶受けによって受けていたダメージが重なり、彼女のこの技で発生した風圧は常人のそれを軽く越え、彼女を突き刺し、囲い込んでいた糸檻を丸ごと破壊し、同時に広く土埃を発生させて自分の姿を隠した。


 自身の糸が破壊されたことに驚くアントだが、それよりも優先すべきは姿を消した南が何処へ行ったのかだ。


(この土煙に隠れて旋回しながら私に近付くか? 見たところ、奴の技は多少の応用で飛び道具になるとはいえ、基本は近距離での格闘戦。

 向こうが最大に警戒しているのは、私の飛び道具による的当だろうな)


 などと南の戦法を読んだアントは、再び口から斬糸を出してそのまま身を回転させることで、近付いてくる南がどこから来ようと対処できるように仕掛けようとした。


(これならどうだろうと……ッン!!)


 しかしアントの予想は外れた。いや、外れたというより、考え込んでいたこと自体を逆手にとられた。


 南は付き煙に隠れて旋回することも小細工を仕掛けることもなく、アントが仕掛けてくる前に先手必勝で真正面から突っ込んできた。


(こちらの考えがまとまりきる前に! 敢えて単純なやり方をとったか!!)


 右拳を引いて構える南。アントはこのままでは殴られてはならないとすぐに防御に取りかかった。

 アントが右手の五本指を少し曲げ、爪でひっかくような構えを取ると、五本の指からそれぞれ糸が大量に飛び出し、相手の攻撃の威力を削ぐ防御壁を作った。


(拳でこれに当てようと威力は防がれる。攻撃の直後に出来る隙を突いて斬糸で首を貫けば始末できる。

 これまでのこの女の動きからナイフを持っている確率は低い。これで今度こそ終わりだ)


 アントは南が殴りかかることを装丁してこの防御を組んだ。

 しかし彼の予想は、根本から想定外の事態になったことで軽々と彼女に覆された。


(やっぱりまた糸を張ってきた。でも、単純な防御ならこれで突破できる!!)


 南は右腕を拳を叩き込むために肘を曲げて自身の体の後ろに引くと同時に、左手を指を全て真っ直ぐにして横に重ねたものをアントが糸を張った丁度左方向から勢い良く当てた。


「<二式 魚斬(うおぎ)り>!!」


 直後、アントが張った糸の束はナイフを紙に当てたときと同じようにいとも簡単に切断され、彼の胴体がガラ空きになった。


「何ぃ!!?」


 アントは南の戦法の弱点を突いた気になっていたが、それは誤りだった。

 南がナイフなどの切断物を持っていなかったのは、この技があるため、始めから持つ必要がなかったからだったのだ。


(マズい! 攻撃される!! なんとか防御を!!)


 アントはせめて攻撃のショックだけでも和らげようと、胴体に糸の膜を張ってせめてもの気休めを生成した。


 直後に南の拳が糸のクッションにかかり、装甲は破壊されるもアント自身はダメージを受けるもその場から吹き飛ばされることはなかった。


 「グッ!!……(想定よりかなり痛い……だが、耐えた! 耐えたぞ!! これであとは斬糸を発射すれバッ!!?……)」


 次の瞬間、アントの体は拳の衝撃を腹に受けて大きな吐き気を及ぼした。


(な……ぜ……? 追撃をかける動作はなかったはずぅ!?)

「<五式 双子拳(そうしけん)>」


 南も、当然攻撃に関してただ正面突破を決め込んでいたわけではなかった。

 『双子拳』は、一見するとただのストレートパンチだが、そこにはよく見なければ分からない仕掛けがある。


 人間の手の指は、親指を除いて三つの関節が設けられている。

 外側から数えられるその関節の内、一撃目は第二関節で押し当て、障壁を砕いたところを第三関節を使い、同じ威力で拳を叩き込む。


 これが『双子拳』。牛圧ほどの威力はないが、防御を巧みに行なう相手には、間髪のない連撃を当てる有効な攻撃だ。


 アントは倒れて気を失い、南の隣に倒れ込んだ。


「フゥ……危なかったかも……」


 南は息をつき、ダメージによる拾うがたたってその場の地面に膝をついた。


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