3-20 嘘VS罠
裂け目の先に攫われていたはずのランと南が現れた事に幸助と赤服達が大きく動揺する。
幸助はランがキロンを攻撃したことで光線の軌道上から外れて拘束から解放されて動けるようになると、他よりも真っ先に驚きを口にした。
「ラン!? 南ちゃん!!? どうして二人がここに」
「よう、幸助。油断しているとやられるぞ」
「は?」
幸助はランの忠告に首を傾げていると、隙を見た兵器獣が尻尾で再び彼の身体を弾き飛ばした。
「アガァ!!」
飛ばされた先の地面に擦りながら幸助はたまたまユリの背中に付いたホコリを払い、手を取りながら彼女を立ち上がらせているランの側にまで流れ着いた。
「何やってんだお前?」
「ゆ、油断した……」
ランもユリも幸助のこの姿に何処かむなしいものを感じるも、気持ちを切り替えてランがうつ伏せで倒れている幸助に近付いた。
「まあ、丁度いい。こっちへ戻ったらまずお前に用があったからな」
「用って?」
首を曲げて顔だけ地面から出す幸助。ランは彼の背中に右手を伸ばすと、容赦無く彼の服の一部を剥ぎ取った。
「お前何して!?」
「叫ぶな。別に服を奪うってわけじゃない。お前に預けていたものを返してもらっただけだ」
「預けもの? 俺何か渡されてたっけ?」
立ち上がる幸助に、ランは彼から取った彼の服と同じ色の小さな袋を開いた。
するとその中にあったのは、これまでランが旅路の中で手に入れてきた異世界の結晶だった。
「結晶!? なんでこんなものを俺に!!?」
「一番あの状況下で赤服にマークされにくいと予想したからな。拉致される前に袋を背中にハッ付けておいた。
お前の体と性格なら海水で冷えててもしばらくは着替えないと思ってたし。案の上だ」
どうやらランには幸助がユリを守るため気が気でないことも想定されていたようだ。
全て見透かされていたことに凄いを通り越して気持ち悪いと感じた幸助だが、この状況下でくだらないいざこざを起こさないために長くは口にしないでおくが、大体の心情を察したユリが彼をなだめた。
「また俺は掌の上かよ」
「まあまあ、そうムスッとしないで。こんなときなんだから」
ユリに続き、ランも素直ではないながらも幸助の行動を賞賛した。
「実際お前がいたことにはかなり助かった。そこでもう一つ頼みがある」
「頼み?」
二人の話の途中、ランは自分に向かってくる攻撃の音が聞こえたために反射でバックステップをすると、彼が立っていた箇所を破壊光線が突き抜けた。
発射された先にはダメージから復帰したキロンが砲口から煙を出している義手を下に降ろしている。
「あれをかわすか……噂通り面倒な奴だ」
ランはキロンに顔は向けながらも幸助への話を続ける。
「赤服は俺と南で対処する。お前は兵器獣に集中しろ。出来るだけ手早く済ませる気ではいるが、それまでは一人で相手してくれ」
「でも、敵はそれだけじゃない! もう一人いる!!」
「安心しろ。それなら助っ人を連れてきた。アイツが対処してくれる」
話の最中、ランは袋の中から結晶を一つ取り出して幸助に放り投げた。
彼が落とさないように受け取り、顔の近くにまで持ってきてよく見ると、その結晶は、かつて幸助が旅をしていた『勇者の世界』の結晶だ。
「これ、俺がいた世界の!」
「結晶は別の世界で使い事でその世界の概念を一時的に召喚出来る。
疲労の分が補えるかは知らんが、これをお前が使えば多少のバフがかかるはずだ」
「ご丁寧にどうも」
幸助は受け取った結晶を握り絞め、民衆の元へ向かう兵器獣を阻止するために駆け出していった。
一方のランはユリを自身の後ろに下がらせ、キロンに警戒の目を向ける。そこにユリからの情報が入った。
「気をつけて。アイツの義手からの光線。体の動きを固まらせて拘束するものもあるみたいよ」
「それでさっき幸助が変なポーズ取って固まってたのか。
……ああはなりたくないな、うん。気をつける」
光線に当たらないように足を止めずにいたランに、幸助とのやりとりの一部始終を見ていたキロンが同じく間合いを保ちながら話しかける。
「まさか、こちらにいた男に結晶を隠していたとはな……驚きはしたが、これで結晶の場所は分かった」
キロンは自分の元々の片腕で義手に触れて装置何かを操作し、砲口を上げて話を続ける。
「これで知りたい事は十分。君は我々にとって危険な存在。用がないのなら今ここで死んでもらおう」
キロンは冷静な口調で話を切ると、再びランに光線を放ってきた。攻撃を横に避けようとしたランだが、走りかけたときに違和感を感じて足を止めた。
「これは!?」
ランはユリが逃げた方向に重なり、光線を受け止めて動きを固められてしまった。
「ラン!!」
(やろう。上手い真似を……)
キロンが先程ランを攻撃する宣誓をしたのは油断をさせてユリを拘束するためのフェイクだった。
光線が発射される直前に気が付いたランだが、その結果拘束光線を直撃してしまい、つい先程の幸助と同じ変なポーズで固まってしまった。
キロンはランの行動力にチロウのように鼻で笑うことはせず、むしろ感心していた。
「ほう、今のハッタリにも対応してきたか。相当に勘が鋭い奴だ」
しかし一度感心の言葉をかけると、次に今のランに一番痛いところを突いてくる。
「しかしそれで君が庇ったところで、人質役がそこの女から君に変わるだけだがな。むしろ君が戦闘不能になったことで、こちらがより有利になった」
キロンの視線が生け捕り対象であるユリに向く。動けないランは始末したも同然と、彼女にもうランを人質とした交渉をかけた。
「さあ取引だ。この男を解放して欲しければ、我々と共に来てもらおうか」
キロンの義手は砲口をランに向けたまま、いつでも彼を殺せることを強調してユリに近付く。ユリも逃げる足を止めて目に歩き出した。
(全く……フジヤマといいコイツらといい、人のいい奴は簡単に操ることが出来るな。こちらが取引に応じる気などさらさらなない気も知らずに……)
キロンは始めからこの取引に応じるつもりはない。ユリを確保すればランは必ず抵抗し、この場から逃げ出しても追ってくる。
ならば拘束を解放してすぐ、どう攻撃を仕掛けようと予備操作が入る数秒間の間に、既に攻撃準備を終えている義手から至近距離で破壊光線を発射すれば、流石のランでも防ぐことは出来ずにトドメを刺せると踏んだ。
(あの女が間合いに入るときが潮時。コイツを始末して一度基地に戻るとしよう)
などと自分の企みを頭で回すキロンだったが、突然彼の義手にショックが入った。
「ガッ!!?」
腕に攻撃を受けて光線の方向がずれたことで拘束が解けたランは、目論見とは反対に隙が出来たキロンにユリとは反対方向に吹き飛ぶように回し蹴りを腹に直撃させた。
何が起こったのか訳が分からないままに蹴り飛ばされるキロン。再びランを見ると、彼の手元に球状の物体が宙を飛んで近付いていき、剣に変形して握られた一部始終があった。
ランはユリから聞いた情報から、キロンが彼女を拘束させる気と分かると、自分が庇う寸前にブレスレットを自分が走り出した方向とは反対に放り投げていたのだ。
ランのブレスレットの変形、操作は、彼が被っているフードが彼自身の思考を読み取って行なわれている。
キロンの拘束光線は、あくまで相手の体を硬直させるため、相手の思考を止める効力はない。
これに気付いたランは、拘束されながらも思考を働かせてブレスレットをキロンの意識が向いていない外側から彼の背後に回し、同時に球状の鈍器に変形させ、自分を拘束して油断したキロンに資格から襲撃をかけていた。
「クホッ! おのれ……」
背中と腹へのダメージでよろめき吐血しながらも態勢を戻し、反撃にかかろうと義手の照準をランに合わせるキロン。
すると、ランは今度は左右へ避ける動作もなく真正面に走ってきた。予想外の彼の行動に対して余裕の無さから驚きもせず破壊光線を発射しようとしたキロン。
だがそのとき、義手が突然僅かながら爆発を起こした。資金虚位でもこの事には流石に驚いたキロンが義手に目を向けると、無惨に危機の隙間から煙を出して機能停止したガラクタだけが見えた。
(こんなときに何故故障を!? 偶然? いやそれこそ考えにくい。まさか! 奴はこれも見越して!!)
思考を巡らせる内容が自分の現状に関するものになっていたキロンは、考え事をしていた僅か数秒の間に近距離にまでランが近付いていた。
(いつの間にここまで!?)
「考え事でもしていたか? 隙だらけになっているぞ?」
武器を変形させた剣を持つ右腕を上げるラン。
反撃される前に体を回して光線の射線上から外れると、丁度攻撃するために振り上げていたキロンの義手に向かい、耳を澄まして剣を勢い良く振り下ろす。
剣の刃は義手の中でも直前の爆発で脆くなった部分を的確に直撃させ、真っ二つに破壊してみせた。
「ナアアアァァァァァァ!!!!」
腕を切られたことに関しては元々義手だったために特に体の痛みはなかったキロンだが、二度も誰かによってしてやられて右腕を千切られたという事態に、過去の事から精神的に響いてきていた。
続けてランはキロンに切り落とした義手を拾われないように、動揺した彼の顔面を左拳で殴り、より怯んだ所に再び腹を蹴り飛ばした。
ランからの容赦のない地面に尻餅をつき血を吐くキロン。
文字通り苦汁をなめるキロンに、ランは剣に引っかかった機械の欠片を払いながら告げた。
「俺を相手にするんなら、この一つは覚えておけ」
「何?」
血走った目付きで見上げるキロンに、ランは一瞬後ろのユリを見てからキロンを睨み直し、剣を棒状に変形させながら武器を持つ腕を後ろに引き、ダメージを受けた彼の耳にでも聞こえるように大きな声で伝えた。
「人の家族を軽々しく踏みつけにするな。この通り、直後に大きなしっぺ返しが来るぞ!!」
話を切ると共にランは如意棒を投げつけてキロンの腹に直撃させ、彼を即座に失神させた。
距離を取ったユリはランの台詞を聞いて緊迫した空気が流れる中で小さな一言をこぼした。
「さっすが、私のダーリン」
このとき、ほんの少しだけユリの頬が緩んだ。
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