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3-18 魚人都市防衛戦

 突然都市の中に現われたキロン。ラン達と通信が取れないために、この世界を狙っている赤服がアントだけだと思っていたユリは、完全に虚を突かれて攻撃を直撃してしまった。

 しかしそれ以上にこの場で気になるのは、アキを引き連れて現われたチロウの方だ。


 幸助は今のチロウに対し色々が疑問が一斉に浮かんできたが、それを整理しきれないまま中途半端な質問を声に出してしまう。


「チロウさん……どうして?」


 動揺する幸助にチロウは顎を上げて見下すような目付きをしながら経緯を説明した。


「ハッ! アキを捕まえた俺がどうしてのこのこ自分から出てきたのか気になるか? 俺自身、基地内でアキと仲良くしようと思っていたんだがな……

 あの隊長からネズミを始末するために出てくるように言われてな」

「ネズミの始末?」


 話の意味が理解できなかった幸助に、チロウは補足を付け足した。


「ああ、そこの女を庇って捕まっときながら、牢から抜け出して基地内をコソコソ動いている往生際が悪い二人」


 幸助はこの台詞でその二人がランと南であることを察した。更にチロウが続ける話の内容に、今度は抱えられて意識がもうろうとしているアキが反応した。


「そして、以前から国を裏切り楯突いてきた馬鹿な化学者の男もな。ま、こっちはお前には関係のない話か」

「ッン! それって……まさか!!」


 男の名前を口に仕掛けたアキにチロウは彼女の首に巻いていた自身の腕の力を強めて強制的に言葉を途切れさせた。


「アッ! カッ!!……」

「止めろ!!」

「何だ? 赤の他人が俺達のことに干渉するな」


 この行為を見ただけで、幸助は今自分の目の前にいるチロウが、自分が最初に見た警戒は強いながらも仲間を慕っていた人物像が崩れ去り、敵意を向けて武器を構える。


 するとチロウはアキへの危害を強めることはせず、より人を鼻で笑うような態度をとってラン達の現状をあざ笑うように語りかける。


「にしても、奴らも哀れなものだなあ。今から自分達の足で歩いて死ににいくなんてな」

「何を仕掛けた?」


 それが相手の挑発だと分かっていても、幸助は今ランと南がどうなっているのかが気になり、聞き返さずにはいられなかった。

 チロウもこれに機嫌をよくしながら仕掛けたキロンの許可を取らずに勝手に仕掛けた罠について説明しだした。


「アイツらはな、俺がまだ基地の部屋の中にいると勘違いしている。わざとそう情報を漏らすよう仕掛けておいたんだ。情報を掴んだ奴は兵士共により集団リンチ済み。部屋に向かった奴がいても、トラップの爆弾で丸焦げになっているだろうなぁ」


 子供がおもちゃで遊ぶような軽い感じのノリで語る言葉が逆鱗に触れた幸助はアキが人質に取られているにもかかわらず怒りにまかせて突撃をかけた。


 しかしチロウはアキを盾にすることもなく、空いていた左手を彼に向かって伸ばしてきた。すると彼の左腕が銀色に変色、直後に型から歪んだマスケット銃に形を変えると、銃口から火花を散らして何かを発射した。


 驚く間もなく真正面にから腹に攻撃した直撃した幸助は、銃弾のものとは思えないほどの衝撃に走っていたのとは真反対の後方に吹っ飛ばされた。


 地面に激突した幸助は腹に痛みを感じながらも上半身を起き上がらせ、変形したチロウの腕に目を丸くする。それは、かのの側にいたアキがより大きく、まさしく声が出ないほどに驚いた。


「チ、チロウさん……その腕は!?」


 息が上がりながらの幸助の質問に笑いながら返答する。


「ハハハ!! 凄いだろう。これが人間を越えた力ってやつだ。兵器獣の研究を進め、人間の自我を保ったままに異世界生物の力を手に入れる技術の開発を何度も行なった。その対象に自分自身も含まないわけがない。

 研究者として。自分の体で体験することはリスクより計り知れない価値がある。」

「じ……自分の体を、兵器獣にしたって言うのか!!」


 幸助の言葉が切れるのを合図にし、チロウはまた彼に向かって銃を発砲した。今度はギリギリ回避した幸助だが、そこに後ろの兵器獣が尾を振って彼の全身に喰らわせた。


「ガハッ!!」

「その兵器獣は俺が操っている。俺自身と共闘すれば、お前を始末することなど造作でもない」


 下手な多勢に無勢よりも追い込まれた幸助。一方のユリは、特殊な光線で身動きが出来なくなったところに現れた人物が何者なのか睨み付けた表情で止まっている。

 視線を向けられた相手は彼女が言いたいことを察して自分から答えてきた。


「初めまして。この世界の侵略部隊の隊長を任されているキロンだ」


 侵略部隊という固有名詞にユリは衝撃を受ける。その言葉が指すことは、この世界を侵略するために送り込まれた赤服は、これまでの世界であった一人だけの場合とは訳が違う、多勢に無勢の状態が出来上がっていることだからだ。


(複数体兵器獣を送り込んで来てたことから妙だとは思っていたけど、まさか侵略部隊が一個団体連れてきてるなんて……)


 キロンはユリの考えていることを見透かし、更に彼女の精神を動揺させるために敢えて自信のこの作品を彼女に漏らした。


「今お前は、私が部隊長だと白状したことで、この世界にいる敵の数が一人や二人ではないことを知ったな。そして次にこう考える。敵は一体どこにいるのか。どうやって攻めてくるのかと。

 教えよう。私の部下達は今、兵器獣がいた基地にて出動準備をしている。あと十分ほどすればこちらに増援に来るように指示を出している。」


 ユリはキロンの語りに実際少し動揺仕掛けたが、すぐに冷静に戻ってこの場に新たに発覚した情報から出来るだけ頭の中で冷静に情報を整理してみた。


(マズいわ。私は動けない。ランと南ちゃんが攫われたのも奴らの基地の中かしら? 幸助君もあの光線で固められたら、ここでの戦力が無くなっちゃう。まずそれだけは防がないと!!)


 どうにかして幸助にキロンが発射した特殊光線のことを伝えたいユリだが、体が動かせないのでは文字通り話にならない。

 ならばユリはたった今自分が受けた光の正体を頭の中で推理し、解除方法を仮説立てていた。


(あの腕から光線が発射されている。光線の光をこちらから離そうとしないってことは、光線が阻害さえれたら効果がなくなるのかしら? なら……)


 ユリが何か策を思い付いたようだが、体が動けないのではどうしようもない。キロンも抵抗できないと踏んで光線を彼女に浴びせたまま気絶させにかかる。


 しかしユリは既に仕掛けていた。キロンが真っ直ぐ近付いて来たところに突然足下から爆発が起こり、光線の軌道上に爆煙が発生したことで阻害され、同時にユリの体が動けるようになったことですぐにキロンを警戒しながら離れた。一方のキロンははやくも拘束の仕組みに気付かれた事を知る。


「こうもはやく気が付いたか。やはり試作品ではあまり使えないな」


 自身の武器に難癖を付けるキロン。ユリはまた同じ光線で拘束されるのを防ぐため、真っ先に彼の義手を破壊しようと攻め掛かる。

 自分はもちろん、今の幸助が拘束されればより危機的状況に追い込まれてしまうと思ったのだ。


 前方に煙幕を張られ、ユリに光線の光が届かないことに対してキロンは彼女の謎のわざに興味は持つも焦りは見られなかった。


(突然の爆発。仕組みは不明な上硬貨範囲も分からないと来た。上げツに間接的にでも捕まればアントの腕の二の舞になるか……ならこういう奴らに最も効果的なのは、手早いのが一つか)


 キロンは義手を上げて砲門を向ける。ユリが煙を抜けてアントの腕を破壊した技を繰り出そうとしたが、その直前で彼女は拘束されているわけでもないのに自分から動きを止めてしまった。


 キロンの武器を向けた先にいるのはユリではなく、チロウに抱えられて既に身動きが取れなくなっているアキだった。キロンは攻撃を止めたユリに上から目線な言葉で褒める。


「いい判断だ。もしそれ以上動いていたのなら、彼女の身が危険だったからな」


 賞賛こそしながらも、腕を退かす気は少しもない。更にキロンはわざと自身の義手に出来ることをユリに説明した。


「この腕は以前ある男に着られた部分を取り替えたものでな。ラボ内で開発した試供段階のシステムを搭載している。

 さっき貴方に当てた光線を彼女に当て続けば、体だけを硬直させて窒息させることも出来るのだが……」

 「おいおい隊長殿、それじゃあ俺が巻き込まれるでしょうが」


 チロウは銃口を幸助に向けたまま目を細めて睨み付けるが、キロンはそれも軽くあしらって返答する。


「心配するな。この光線は兵器獣には効果が内容に設定されてある。貴重な兵器が動かなくなったら作った意味がないからな」


 返答を聞いて安心したチロウだが、同時にキロンは自分を含めて兵器獣は全て()()としか見ていないと言うことに少々腹が立った。


「ああ、そうですかい。でも殺さないでくださいよ。アキと俺はこの仕事を片付けたら、溜めてた思いの分やることが山ほどあるんだからな」


 気味の悪い笑みを浮かべてアキを見るチロウに、彼女自身は恐怖で体を震わせた。二人の様子から自分達から離れた後に何があったのかを察したユリは、ランと同じような減らず口でチロウに挑発をかけた。


「貴方、アキさんが好きだったのね。情けないわねえ。正々堂々告白すらせずに拉致するなんて」

「何だと?」


 チロウはユリの話に食いついた。彼女はこれをいい傾向と見ると、キロンの光線を当てられないように動きながら話を続ける。


「ダサいって言ってるのよ。アキさんに婚約者がいることは知ってる。でも貴方とはそのときには知り合いだったんでしょ? それでも貴方は告白しなかった、いや出来なかったのよね。今も昔も臆病だから」


 次々と神経を逆撫でする言葉を吐くユリに怒りを覚えるチロウ。いつしかコウスケから注意を彼女に向けて怒声を大きく吐いた。


「お前に何が分かる!! まるで知ったようなことを言いおって!! 腹立たしい!!」


 怒りのままに幸助に向けていた銃口をユリに向けて発射しかけたが、そこで彼の意識から消えていた幸助が動き、チロウの側にまで近付いた。

 幸助の右手がアキを掴むと、チロウはここで初めて自分が揺動されたことに気が付く。


「しまった!!」

「アキさん、ちょっと痛いけど我慢して!!」


 幸助はそのまま力一杯に腕を引っ張ってアキを救出しようとした。しかしチロウの意識がそれていても他は違う。

 腕を引こうとしたとき、突然幸助のからだがピクリとも動かなくなったのだ。


(これは!?)


 首を曲げられない幸助の代わりにユリが見回すと、キロンが義手から拘束光線を放っていた。


「くだらない真似を。この程度で人質を解放できると思っていたのか?」

「その通りよ」


 予想の反対の返事をされたキロンが何故ユリがまだ生意気な台詞を吐く彼女が何かしでかさないかと警戒を強める。


 すると次の瞬間、彼の想定とは完全に外れた出来事が起きた。赤服立ちが全く意識していなかった物陰から、突然ルミが飛び出してきたのだ。


「あの女、いつの間に!」


 ルミはチロウの死角からいきなりアキの体をつかみかかり、彼女を救出しようと力を入れた。


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[良い点] どうもです。 Xより拝見しに来ました。 何と言いますか、独特の世界観、設定が俊逸で、ストーリーに引き込まれました。 表現も分かりやすくて、描写がイメージしやすかったです。 [一言] …
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