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3-15 固いものへの対処

 時は少し遡り、牢屋の中にいたときのランと南。鉄格子の近くには見張りが二人立ち、両腕も後ろに組む形で拘束されてとても逃げ出せない状態でいた。


 南は二度も牢屋に捕まってしまい、この危機的状況に何も出来ない自分への悔しさに顎を引き、下を向いて歯を食いしばっていた。


 すると視線の端で彼女の隣にいるランが監視には見えない程度の小さな動作で何かをしているのが見えたが、詳細は分からない。気にはなったものの下手に動いてバレてはいけないと南は敢えて触れないでおいた。


 しかしランが何かを仕掛けた瞬間に誤って物音が立ってしまい、会話をしていた監視の兵士に気付かれてしまう。


「何だ?」

「牢屋内から物音がしたような……」


 会話を止めて牢屋に顔を向けて近付いてくる二人に南は目を丸くして焦りが出てしまう。


(マズい! ラン君が何をしたいのか分からないけど、このままじゃすぐにバレてしまって……)


 バレないようにゆっくりと隣に目線を動かす南。しかしランの目線は変わらず、相手が牢屋から尋問をする前にいつの間にか拘束を解いていた右腕を前に伸ばした。すると次の瞬間、監視員二人が揃ってその場に倒れた。


「エエッ!?」

「さてと、あとは牢屋から出るだけか……」


 僅か数秒の間に起こった事に思わず声を上げて驚いてしまう南。そんな彼女に気付いていないのかランは平然と立ち上がって鉄格子を右手で掴んだ。

 あまりの冷静さを見て南は拘束されたまま暴れて叫んでしまう。


「ちょ! ちょっと待って!!」

「ん?」

「拘束を解くのに関しては、ユリさんの時に見て予想はしてたけど……」


 南の頭の中に以前の世界で捕らわれた中、ユリが自力で縄の拘束を解いた時を思い出す。彼女が出来るのならばランが出来ると予想は出来ていたが、それだけでは兵士達が気絶したことに説明が付かない。

 ランも彼女の言いたいことを察して先に口にした。


「どうやって気絶させたかか? それについては至極単純だ」


 ランが下げていた左腕を肘を曲げて上げると、細く小さい二本の針が彼の手にあった。


「それは?」

「ローブに仕込んどいた麻酔針。個人差はあるが、刺されば大抵瞬で終わる」

「仕込んだって、奴らにボディチェックされたんじゃ……」

「仕込み武器っていうのは相手にバレないから効果があるんだよ。ボディチェックぐらいすり抜けられないとな。もっとも確実に相手に射し込めるようにある程度距離を詰める必要があるがな」


 南は言葉にはしないながらも内心で驚きが一周回って呆れて一筋の冷や汗を流してしまった。


(こんな小さい針をピンポイントで投げられるラン君も、こんなものをいくつも作っているユリさんもどちらもとんでもないような……)


 あとは鉄格子を開ければいい。しかし今回は奪われていなかったブレスレットで武装して強化した彼の腕で鉄格子を殴ってもヒビすら入らなかった。


「即席の割には意外と頑丈だな……拳が無理ならどうするか」


 一人考えるランを背中を見ていた南が彼の左肩に手を置いた。


「ちょっといい?」

「ん?」


 ランの隣に移動した南は彼を鉄格子から放して彼女なりの意見を述べた。


「こういうものは、ただ殴ればいいってものじゃないんだと思う」

「なんだ唐突に?」


 南は心臓を両親指で突いて魔法少女の姿に変身すると、目線を鉄格子に集中させて右腕を弓を引くように真っ直ぐ引いた。


「一点に力を入れる箇所を集中させて、真っ直ぐに叩き込むの! <夕空流格闘術 十式 (さそり)突き>!!」


 南はまるで弓で引いた矢を真っ直ぐ飛ばすように鉄格子一点に力を集中してストレートパンチを叩き込んだ。

 反響音すら起こらなかった一撃だったが、少しすると、先程までビクともしなかったはずの鉄格子の中心に細かいヒビが入っていき、瞬く間に広がって破壊してみせた。


「オオォ……」


 南は鉄格子に当てた右手をゆっくり息を吐きながら再び引くと、今さっき破壊した鉄格子の近くにある別の鉄格子に次々と同じ攻撃をぶつけ、同じように破壊した。


「さ、これで外に出られるよ」


 軽々と鉄格子を破壊してみせる南の軽い反応につい先程の南と同じ呆れ顔と同じ表情になって同じ箇所に冷や汗を流した。


(こいつ、即席物とはいえネオにウム製の物体を軽々と破壊しやがったぞ… 俺、既に数回殴られているんだが本当に無事か? 既に粉砕骨折しているとかないよな?)


 ランはふと自分の身体に異常がないか心配になったが、気にしている暇もないので口には出さないことにしてそのまま彼女と一緒に脱獄することにした。



______________________



 そうしてランが牢屋から脱出してフジヤマに遭遇した現在。脱出した経緯が分かったフジヤマだが、それでもまだ分からないことがある。


「どうしてお前がここにいる? 牢屋から出てこられたところでこの基地の場所が分かるわけではないだろう!?」

「別に俺はこの場所を理解したわけじゃない。ここまで案内してくれたのは他でもないお前だ」


 フジヤマがランの言い分に驚くと、ランは続けてその事情を指差した。


「足下見てみろ」


 フジヤマがランに言われるがままに真下を見ると、自身が履いているボロボロの左靴の外側に張り付いている小さな機械に気が付いた。

 フジヤマが左足を上げて取り外すと、豆粒ほどの大きさの赤いランプが点滅している。これが何なのかを彼はすぐに理解した。


「発信器か」


 フジヤマにはいつこんなものを着けられたのかに心当たりがあった。ランとの二度目の戦闘時、目くらましで砂岩を粉砕させていて飛ばした砂の中に、小型の盗聴器を混ぜていたのだ。


 更にランは貼り付けた発信器の機能についてもう一つ説明を補足した。


「ついでに言うと、盗聴器付き。俺が被っているこのフードを通すことでそちらさんの声は丸々聞かせてもらったぞ。追加動員で出口に向かっているらしいなフジヤマ君」


 情報が全て筒抜けになっている事を名前を呼ぶことで示すラン。フジヤマは自分の弱みを握られた以上に今さっきランが言った台詞が気になった。


「待て!? お前は通信を封じられていたんじゃなかったのか?」

「そ、だからここに捕まった」

「何だと!?」

「拠点があるのなら、他の支部への連絡は必須。だから拠点があると聞いた時点から、基地自体には通信可能な空間があると予想していた」


 フジヤマは完全にランにしてやられていたことを思い知らされた。


「じゃあお前、わざと俺に捕まったのか!!」

「窒息させられるのは想定外だったがな」


 フジヤマは完全にここまで優勢にしていたことそのものがランの作戦だったことを知り、納得したい心があれど、以前の失敗もあってか無意識の内に話をすり替えてしまう。


「俺を付けてここまで来たのは分かった。だがお前と共にいた女は何処に行った?」


 ゲートから既に外に出たのなら兵器獣の目から向こうに映っているはず。しかしそこに南の姿は見当たらなかった。つまり彼女はまだ基地内のどこかにいるのだ。


「アイツにはちょっとした捜し物を頼んである」

「結晶か」

「さあな。俺はここでこれ以上向こうに敵が増えないように食い止めるためにここに来た」


 肝心な部分をはぐらかすランだが、ここを素直に通す気がないことはフジヤマに十分伝わった。


「退けといっても聞かないようだな」


 フジヤマは右半身を鱗で包み込み、戦闘態勢に入った。


「殺しはしない。だが作戦を邪魔しないよう、重傷は負ってもらうぞ」

「やってみろ」


 威勢を崩さないランにフジヤマは真正面から水球弾を生成し、ランがブレスレットを付けている左腕を狙って攻撃を飛ばした。狭い廊下の中では多少体を横に動かすのが精一杯で、これを回避しきることは出来ない。


「待つ場所を間違えたな。ここではろくに回避することも出来ない」

「確かにかわすにはきつい距離だな。受け止めるか」

「は?」


 フジヤマはランが言っていることの理解が出来なかった。前回の戦闘でランがブレスレットを変形させた盾では、自分の攻撃を防ぎきれない事実があった。

 それなのにランはこの場で水球弾から逃げもせず、そのまま至近距離にまで攻撃を近付けた。


 そして水球弾が爆発する寸前、ランは右手でブレスレットを掴んで何かに変形させ、爆発のショックを受け止めた。水蒸気が周囲に散らばり、煙となってフジヤマの視界を塞ぐ。


「狭い場所だからこちらも全力では放てないが、あの至近距離で受け手はただでは済まないだろう。どれ、念のためもう一撃近くから叩き込んでおくか」


 フジヤマが煙の中に足を踏み入れようとしたそのとき、自身の腹に腹痛とは違う強烈な痛みが襲った。煙でよく見えなかったが、その当たった物体に彼の身体は吹っ飛ばされてしまい、口から軽く吐血してしまった。


「ガハッ!!……(今のショックは一体!? 俺を鱗を貫いたとでも?)」

「固いものに攻撃するときは、一点に力を入れる箇所を集中させて、真っ直ぐに叩き込む」


 煙が晴れてきた廊下の先からランが前に歩いて姿を現し、自分の言った台詞に補足を付け足した。


「……らしい。俺もさっき聞いたばかりだからよく知らないんだがな」


 フジヤマがランの腕回りに視線を向けると、以前に彼が見たバットや、それより前に彼が使っていた如意棒(にょいぼう)よりも細く、先端が削りたての鉛筆のように尖った長い棒状の物体だった。


「どういうことだ? 水球弾をかわしたのか!? それを置いても俺の鱗は、お前の武器でも砕きなかったはずだ!」


 ランは武器の長さを掌に収まるほど短くすると、隠すことなく説明した。


「俺の武器は、元々ブレスレットを構成している粒子がばらけたり引っ付いたりすることで変形している。

 つまり、変形して出来たものがでかければでかいほど脆くなり、逆に縮めば縮むほど強度が強くなる算段」


 ランは水球弾を受ける寸前にブレスレットを厚さが薄く、衝撃を逃がしやすい形の壁に変形させて密度を上げることで爆発を防ぎきった。

 直後に右手で触れて壁を変形させ、敢えて武器の直径を縮めることで強度を増し、更に先端をより細くすることで圧力を増して威力を倍増させたのだ。


「普段は使い勝手がいいから分かりやすい武器の形にしているが、文字通り思考の幅だけ使いようがあるってんだ」


 不意を突かれてダメージを受けたフジヤマが立ち上がると、顎に突いた血を右腕で(ぬぐ)って立ち上がった。


「なるほどな。単純だがかなり効果のある手のようだ」


 しかしフジヤマにはまだランに勝つための手段がある。だがランもそれを当然警戒している。二人はお互いを睨み合い、いつ仕掛けるかを伺っていた。


 場所が変わって基地内の何処か。ランと同じく兵士に変装して一人静に捜し物をしている南。


「ラン君……本当に無茶苦茶なことを頼むよ……」


 少し文句をこぼしながらも道の先に部屋からの零れ日が見えた南はその側の壁に背中を付けてそっと近付いた。その先の部屋には、キロンがいる司令室があった。


「見つけた。ここが司令室……」


 南はこっそり視線を部屋の中に向け、何かを探るようにして息を呑んだ。


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[良い点] 読み応えがあって丁寧。世界観も面白くて、かつ色んな世界観が見れて楽しかったです。これからも頑張ってください。
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