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3-12 キロン

 瞼の裏に光が入り込み、気絶から目を覚ました南。次に彼女は腰の後ろ辺りで手を縛られている違和感を感じ、自分が縛られていることに気が付いた。


「あ、あれ!? ここは!?」


 慌てふためく南が顔をあちこちに振ると、四方に囲まれて突き刺さっている鉄格子の中、隣で落ち着いて同じく囚われの身になっているランの姿、そして鉄格子の外にいる二人の赤い服装の監視員がいる。


 ランの方も南が目を覚ましたことに横目で気付き、早速彼女に話しかけてきた。


「よう、目が覚めたか」

「ら、ラン君! ここは?」

「見ての通りあの男に負けてとっ捕まった。ここが何処なのかは俺もよく分からん。なんとなく予想は付くがな」


 南はランから簡単に現状を聞いてパニックは収まるも、今度は背中を丸めて落ち込んでしまった。


「う~……この短期間の間に二度も牢屋の中に入ることになるなんて……」

「二度だけだろ? まだまだ可愛いもんだ」


 突拍子もないことを軽く言えるランの慣れた態度に南は彼がこれまでどんな生活を送ってきたのか聞きたいようなそうでないような気持ちになり、落ち込んでいた顔を上げて冷や汗を流した。


 二人の会話が止まったのと時を同じくして彼等のいる牢屋に近付いてくる足音がランの耳に届いた。


「さて、来たのは誰だ?」


 気を引き締めながらも冷静な顔を崩さないランに影響されて緊張を戻す南。二人が正面を見て少しすると、暗闇の奥から一人の男が姿を現した。フジヤマを脅して協力させた、彼の元主任の男だ。その後ろには


「初めまして。ようこそ我が進行拠点へ。私はこの施設、及び部隊の責任者『キロン』。私のおかげで来られたあの洞窟は楽しめたかな?」

「お前か。俺達を兵器獣や怪魚がのさばる無法地帯に落としたのは」

「ああ、本当なら結晶の少女ごと連行しようと思ったのだが、勘の良い誰かが邪魔をしてくれた」


 キロンはランに遠回しの嫌みを告げながら勝ち誇ったように自身の企みを話し続ける。


「ならばと始末しやすいように洞窟に送り込んだのに、兵器獣でさえ簡単に倒してしまうんだ。大したものだよ。おかげでこっちとしては大損だ」


 自分本位な文句を並べるキロンにランはに気になっていた突然敵対して自分達を捕まえたあの男について質問を飛ばす。


「お前があの兵器獣の男を脅した奴か?」

「兵器獣の男? ああ、フジヤマのことか」


 キロンはランの言い分に対して自分の立場からの言い分で返事をした。


「脅しをかけたつもりはない。アイツは元々私の部下だった。上の立場として少し指示を出しただけのことだ。奴の知り合いの話でもしながらな」

「人質か。分かりやすい手だ」


 図星を付かれたキロンは堂々とした態度を崩さないままに牢屋により近付きながら話の話題を切り替えてランに質問をする。


「ところで、気を失っている間に君をボディチェックさせてもらったが、君が持っているはずの結晶が一つも見つからなかったのだが、何処に隠したのか教えてもらえないかな?」

「え? ラン君、今結晶を持ってなかったの?」


 彼の側にいた南さえ知らなかった事実。捕らわれているという圧倒的不利な状況にもかかわらず、ランも余裕な態度を変えることはなく結晶の隠し場所についてしらを切った。


「さあな。お前に突き落とされた広い洞窟を歩いている中で落としちまったのかも」


 キロンは鉄格子越しにランの顔を上から見る形になりながら話を続ける。


「ほ~、その鋭い目付き、憶えがあるな。研究室から勝手に抜け出し、あまつさえ研究機関の主任であった私を、侵略部隊長に降格させた厄介者と同じ目付きだ。

 お前をこれから拷問して隠し事を吐かせるのも一興だろう」


 キロンは牢屋の近くの操作盤の前に立ち、ランに宣言通りの拷問を受けさせようとスイッチを操作しようとしたが、その直前に突然彼のブレスレットに着信が入った。


 キロンは楽しみに水を差されてしらけた言いたげな表情をしたが、すぐに真面目な顔を取り繕ってブレスレットの装飾に触れ、連絡用の立体モニターを出現させた。


「何だ?」


 映像に映っているのは彼の部下のアントだ。彼もキロンと同じく無表情に報告する。


「ご指示通りの場所にてを捕獲しました。しかし、結晶の女は捕らえ損ねました。申し訳ございません」

「構わん。どちらにしろ計画に支障はない。一度戻ってこい。私も向かう」


 連絡を終えてモニターを消したキロンはランの方を見て軽く舌打ちをしたが、そこは仕事人らしくすぐに自分を納得させた。


「まあいい。お前達の処遇は今の仕事を終えてからすればいいことだしな」


 キロンは近くにいた看守の男達に指示を飛ばす。


「コイツらを見張っておけ。妙な動きをすれば、小柄な方は殺して構わん」


 前回と違って結晶に関しての何の情報も握っていない南はすぐに利用価値がないと判断されたらしい。南は自分の身を危機への緊張からさっきまでの焦りが消えて背筋を伸ばす。


 キロンは先にアントに言った仕事を片付けるために牢屋内のランと南をそのままにしてこの部屋から出て行くと、出入り口真横の壁に近付いて立っているフジヤマの姿があった。彼は今のアントからの連絡の内容が気になっていた。


「今の連絡は何だ?」

「お前には関係のないことだ」


 一言で流すキロンにフジヤマは並走して焦りを感じる早口で話をする。


「奴らを連行すればアキ達への危害は加えない。お前が持ちかけた取引だろう!?」

「それはここからのお前の態度次第だ。これから行なわれる作戦にお前も参加するなら考えなくもない」

「作戦? まさかお前また侵略を!!」


 フジヤマは眉にしわを寄せて怒り、足を止めると同時に人間離れした力を持つ右手でキロンの胸ぐらを掴み上げた。


「勘違いするな! 俺はもうお前の部下じゃない。その気になればいつでもお前を殺すことも……」


 しかしキロンは平然とした顔のままでため息を吐き、直後にフジヤマは自分の腹に何かが突き付けられている感触に気が付いた。


 下を見てみると、キロンの右腕に当たる部分にフジヤマが見知らない砲口にハサミのようなカバーが付いた奇っ怪な物体があった。キロンはこれに同じ顔のまま皮肉めいた言い方で説明した。


「お前に千切られた腕の代わりに取り付けたものだ。先に言っておくが、鱗で体を固めても破壊できる威力はあるぞ」

「貴様!!」

「いつでも殺せるのはこちらの方だ。お前も、アキ ヨシザカも、お前が奴に隠させた結晶のことも、全部こちらが主導権を握っていることを忘れるな」


 フジヤマは自分のことでなく、アキのことにピンポイントで触れてきたことに指摘する。


「待て!? 何故アイツを?」

「おっと、何のことだ?」


 わざとらしく言い放つキロン。再び焦りだすフジヤマ。わざわざアキのことだけピンポイントで指摘してきたことから、フジヤマは既にアキはキロンの手によって捕まっていることに察しが付いた。おそらく彼が裏切らないようにするために念押しなのだろう。


 フジヤマは受け入れざるおえない脅しを返されたことで渋々腕の力を緩めて手を放した。キロンは崩れた服を整えながらフジヤマより前を歩いて指示を出す。


「貴様とくだらないことをしている程私に暇な時間はない。歩きながら指示を出すから計画通りに動け」


 有利な状況でありながらも、過去の自身の慢心によるミスで片腕を失ったことから油断を怠らないキロン。後ろを歩くフジヤマは、この場にはいない仲間のことを思っていた。


(アキ……チロウ……ルミ……)



______________________



 泡の中の都市内では、幸助とユリが赤服にアキが攫われた事態を伝えようとチロウ達がいる家屋にまで急いでいた。


 家屋に到着し、扉を開ける幸助。足を止めずに部屋に入る二人の目に飛び込んできたのは、その場にいる全員が出血して倒れている参事だった。


「これは! 一体!?」

「パニックになるのは後! まずは応急処置でもしないと!!」


 ユリは混乱しかけた幸助を我に返して自分の後ろをついてこさせ、自身の回復能力で怪我人の治療を行なった。その内、ルミは治療中に目を覚ました。


「ウッ……私……」

「気が付いた」


 ホッとした二人だが、ルミは逆に酷く焦った顔になる。


「アキは! アキは何処!? アキが危ない!!?」

「アキさんが危ない?」


 二人が自分達が伝えようとしていたアキの危機を逆に必死な様子で伝えられたことで面食らってしまったが、手当てに必死になって分かっていなかった事が一つあることに立っていた幸助が気が付いた。


「あれ? 誰か一人、いないような……」


 ユリが幸助に言われて一度顔を上げて周囲を見回すと、確かに彼の言うとおり家屋の中には三人しかおらず、ある人物だけ見当たらなかった。


「アキさんが危ないって、まさか!!」


 ユリは頭の中で整理を付け、事態が自分が思っている以上に悪い方向に傾いていることを知った。



______________________



 幸助があることに気が付いたのと同時刻、アキを攫って消えたアントは彼女の手足を拘束して逃げられない状態にし、どこかの部屋の中に監禁していた。アキは警戒した睨みを効かせてアントを見る。


「貴方、何が目的なの?」

「貴方の連行に関しては大した目的はありません。ただの交渉材料ですので」

「交渉材料?」


 アントの言っていることの意味が分からないアキだったが、そんな二人がいる場所にゆっくり歩いて近付いてくる人物が一人。アントは秋に背を向けてその人物に話しかけた。


「これでよろしいでしょう? 我らが帝国のために手を貸してもらいましょう」

「ああ、いいだろう」


 アキの耳に入ってきた声に聞き覚えがあった。それと共に睨みを効かせていた表情が崩れ去り、怯えるともまた違う、今目の前で起こっていうことが信じられないといった表情だった。そんな彼女に現れた人物は今までアキに見せたことの無い邪悪な笑みを浮かべて話しかけてくる。


「おいおい、そんな悲しそうな顔をするなよアキ。見ているこっちまで悲しくなるだろう?」


 アキは顔がハッキリ見えたその人物を改めて見て崩れていた表情をより大きく歪ませる。


「なんで……どうして貴方がここにいるの?





 ……クウリ君!?」


 

 アキの目の前に現れたのは、ルミと共に家屋の中にいるはずのチロウだったのだ。


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