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3-11 アキだけの秘密

 時間は流れて現在、ルミが一連の話をユリと幸助に聞かせていた話の結末を口にしていた。


「そうして私達はこの世界に来た。でも奴らは、あれだけ念入りに足取りを消しても、ここまで兵器獣を送り込んできたの」

「それが本当に追ってだったのか、たまたまこの世界の侵略に乗り出して送り込んでいたのかは、俺達には分からないがな」


 補足説明を付けたチロウ。ラルコンとマルトもこの話を聞くのは初めてだったが、二人は何も質問することはなかった。ユリと幸助も同じだ。


 しかしこれでも、一番事件を深く心に刻まれていたアキにはとても精神的にキツいものがあったのか、話が終わった途端に顔をうつむかせて部屋から出て行ってしまった。彼女をよく知ってるルミととチロウは止めようとはしなかったが、ラルコンは彼女を心配して追いかけようとする。


「アキ先生」

「やめろ!」


 マルトは彼女と違って察しが良かったために下手にアキを刺激してはいけないとラルコンを制止し、彼女は前に動こうとする脚を無理矢理止めて地団駄を踏んでいた。


「でも!!」

「先生のためを思うなら、余計なことはするな。俺達部外者がそう同情していいものでもない」


 マルトの説得を受けてラルコンはどうにか踏みとどまる。ルミはアキが出ていった方から視線を下に向けると、誰にも聞こえない小さい声でため息を吐くように言葉をこぼした。


「無理もないわね」


 その場の話が終了し、ユリと幸助は受けた情報を頭の中で整理させようと家屋から外に出ていた。彼は自分より赤服に狙われているユリがこの話を聞いてどういう心境なのかが気になった。


「ユリちゃん……」

「何?」

「あ、いや……何でもない」


 ここで変に心境を聞いても意味はない。そんなことより今の幸助には他に頭を抱えることが出来ていた。これまで彼の予想としてはユリを狙っている赤服は異世界を渡り歩いて侵略使用とする悪の組織程度だと思っていた。しかし実態はそんな小規模な団体ではなく、『国』という巨大なまとまり。それも…


「まさか、赤服の正体がいくつもの世界を支配する帝国だったなんてな」

「……そうね」


 ユリは声をかけられた事で我に返ったように少し間を空けて返事をしてきた。幸助はこれを自分の身への心配と感じた。


(無理もない。自分の身柄を狙っているのがそこまで巨大な存在だなんて、怖くなって当然だ)


 幸助は自分の右腕を肘から曲げて自身の右手を見ながら拳を握り絞める。


(そんな規模の相手となると、それこそこれからどんな敵が現れるのか分からない。俺がしっかりしないと! 今ここにランがいない分、俺が頑張らないといけないんだ!!)


 意を決して拳を下げながら目線を前に戻した幸助は、目線の先にいたはずのユリの姿が消えている事に中央に寄せた眉を反対に大きく開いて冷や汗をかきながら驚いた。


「ユリちゃん!? あれ? 何処に行った!!?」


 意気込んだ矢先でユリに単独行動をさせてしまい、幸助は血相を変え、文字通り血眼になって彼女を捜索し始めた。


 その捜されている当の本人は一人軽い足取りでとある場所に向かっていた。到着するとそこには既に先客がいる。


「やっぱり、ここにいた」

「貴方、どうしてここに?」


 声をかけられた事で振り返り、ユリが何故ここにいるのか疑問を浮かべるアキ。ここはユリ達四人がラルコンとマルトに助けられて打ち上げられた泡の出入り口付近の海岸だ。ユリは聞かれたことに対する返答を彼女に歩いて近付きながら親しみやすいように話した。


「貴方ならここにいるんじゃないかと思って」

「どうして、そう思ったの?」

ラルコンとマルト(あの二人)をここに行かせたのは貴方なんでしょ?」


 アキはピクリと体を震わせた。図星のようだ。少し動揺してしまうアキにユリは彼女の側にまで寄ってそう思った理由を述べる。


「ルミさんの話が終わった途端、貴方一人で思い詰めたままあの家屋から出てっちゃったから。周辺の住民の賛否が分かれている貴方がそれを気にせずやって来れる場所なんて、それこそここくらいでしょ。少し予想した部分もあったけど」


 自慢気に自分の仮説を語るユリに目線を彼女から外し、どうにか誤魔化せる台詞がないかを考えていたが、次にユリは自身の仮説によって導き出された結論を述べた。


「貴方はこの場所に余程の思い入れがあるんでしょ。でも他の人達には何も言わずにそっと家屋を出たことから、例えば、あの二人は知らない何かがこの近くにあるのかしら? そして貴方はその何かを二人に取りに行かせた。違う?」


 アキは細かい所に目を配られ、指摘をされたことに参ってしまい、そんな顔をユリに見せたくないためにそりそっぽを向いてしまう。

 だがここまで鋭い推理を突き付けられたとなると、もう自分だけが隠していたものを話さざるおえない状況となってしまう。躊躇いはあったが、意を決して表情を作りユリの顔をもう一度真正面から見て口を開いた。


「わ……私は!! ッン!?」


 アキが目を合わせようと振り替え選って先には何故かユリの顔が見えず、小さなうなり声が聞こえて来た下方向に首を曲げると、うずくまって頭を抱えているユリが見つかった。うなり声の次に彼女は自分で自分を卑下する言葉を口にしていた。


「アアァ!! またやっちゃった!!!」

「ッン!?」

「私ってどうしてこう、他人のプライバシーにズケズケ入り込もうとしちゃうんだろう!!」


 相手の情緒の一点に出しかけた言葉が引っ込み、冷や汗を流してゆっくり二度瞬きをしながら微苦笑をしてしまう。


「あ、あの……ユリさん?」


 とりあえず声をかけてみるアキにユリはしゃがんだままの体勢で顔を向け、頭を下げて合掌した。


「ああ! ごめんなさい!! 気に障りましたよね」


 さっきまでと何処か冷たい彼女から打って変わって頭を下げて謝罪してくるユリ。アキはそんな彼女の様子に少し失礼と思いながらもフフッと少し笑ってしまい、同時に緊張していた気が緩んだ。


「私、前からこうなんです。他人の心の閉ざしている部分に勝手につけ込むところがあって… ご、ごめんなさい」


 へりくだった態度で反省しているユリにアキは警戒から一転して優しく声をかけた。


「いいのよ。貴方たちはこの世界のことの右の左も分からないんだもん。疑いにかかられても普通ね。私達は、素性が素性だから」

「そんなことはないですよ!!」


 突然反応してウサギのように飛び跳ねながら立ち上がるユリ。続いて胸を張りながら右手を軽く挙げ、人差し指を立てながら自慢気に鼻息を吹いて台詞を吐く。


「貴方はいい人!! 私の勘に間違いはないんです!!」


 理屈のないその自信はどこから出てくるんだと突っ込みたくなるが、アキはなんともコロコロ変わる彼女の動きに呆気に取られてリアクションに困っていた。ユリは返事がないのをいいことに右手を下げながら右目をウインクさせて自分の言い分を続ける。


「貴方が私の怪我を治したときの手つき、機械の性能もあるだろうけど、無駄な動きのない慣れた手際だったわ。それも心がこもっているように優しくね」

「貴方、変わった人ね」

「それ、よく言われる」


 何処か心の内で壁があった二人だが、妙な会話をして込み上げてきた笑いを声に出して噴き出させたことで自然とその壁が溶けていった。アキは彼女になら口を開いてもいいと判断して崖の方に顔を向けてユリに説明を始めた。


「貴方の言うとおり、ここには二人には話していない隠しものがあるの。あの事件のとき、ヒデキ君が私に託してくれたものを隠してる」

「随分信頼されていうのね。そのヒデキって人と、よっぽど仲が良かったの?」


 アキは一度頷いて顔を下に向けると共に目を閉じ、ユリに一言、ハッキリと告げた。


「婚約者だったの。もうすぐ結婚するはずだった」


 ユリはこれまでの彼女の反応から大きく驚きはしないものの、右の眉毛を少し動かして反応した。


「そう。そうだったの……」


 ユリの気分が落ち、隙が出来たその瞬間、ユリにとって左の真横、二人の丁度間の空間がひび割れ、巨大な怪魚の右手が出現した。


「危ない!!」


 咄嗟に気が付いたユリがアキに飛びかかり、二人揃って倒れたことで兵器獣の腕が上にそれた。ユリはすぐに起き上がり、何が何だか分からないアキに手を差し伸べて彼女の体も起こした。


「大丈夫ですか?」

「うん、ありがとう」


 アキは当たりを見て何故ユリが自分に覆い被さってきたのかを理解した。二人は兵器獣が完全に姿を現す前に距離を取ろうと後ろに下がる。

 しかし十分に距離が取れたかに思われたそのとき、突然後ろから糸のような白く細い物体が飛びつき、二人の体を絡め取った。


「しまっ!!」

「これは!?」

「詰めが甘かったということです」


 二人とは違う声に後ろを振り返ると、両手の平の中心から二人を拘束している糸を伸ばしている男が無表情に直立していた。


「アンタ、まさか赤服!?」

「はじめまして、『アント』と申します。この場を張っていればまた誰か現れると踏んできていましたが、まさに糸に引っかかったようですね」


 表情を一切動かすことなく淡々と話すアントにアキはどうにかもがいて拘束を破ろうとするが、ユリは焦るどころか軽く細い目で相手を睨み付けてみせた。


「おや、随分余裕なようですね?」

「当然でしょ。あってすぐだけど、アンタはこれで終わりだもん」


 するとユリの全身から髪の色と同じエメラルドグリーンのオーラが揺らめき、彼女が何かを起こそうとする。


「喰らいなさい! 私の……」


 細めた目を開いて何かを叫ぼうとしたユリ、しかしアントと彼女を繋ぐ糸が横から振りとされた剣によって切断された。


「ナァッ!!」

「大丈夫かいユリちゃん!! よかった間に合って」


 剣を振り下ろしたのは、彼女を捜してここまで追い付いてきた幸助だ。普通なら拘束を解いてもらって礼を言うところなのだろうだが、ユリは解放された体を震わせて幸助をあろうことか怒鳴りつけた。


「タイミング悪すぎよ幸助君!!」

「エエェ!?」


 助けた相手にこんなことを言われてショックを受けてしまう幸助だが、そんなことよりも目の前の時の対処をと頭を切り替えてアントに対し武器を構えた。しかしアントは幸助が現れたことを受けて冷戦な判断をする。


「増援ですか。これは面倒だ。ここで戦うことは指示されていない。引きます」


 アントはアキに絡めた糸を幸助に切られる前に引き寄せて彼女の身柄を手に捕まえる。


「アキさん!!」

「この女は回収させてもらいます。では」


 幸助はアントを逃がすまいと雷輪で彼を拘束しかけたが、それを見越していたアントは彼等の後ろから兵器獣の左手だけを出現させて不意打ちを仕掛けた。

 流石に巨大なものが動くとあって音がハッキリ彼等の耳に伝わり、幸助は剣に力を込めて兵器獣に迎え撃った。


 ユリに修理された剣は以前の時とは違い、真正面から兵器獣の攻撃を受けても折れるどころかヒビすら入らなかった。単なる戦闘なら彼は感心していただろうが、アキが捕まった今はそんなことを思っている場合ではない。


 アントはこの不意打ちで出来た一瞬の隙を利用して自身の後ろの空間を割ってゲートを繋ぎ、捕まえたアキごと中に入って割れた空間を修復させ、同時に幸助が受け止めていた兵器獣の腕を引かせてこちらの空間も閉じた。


 ユリは捕まらずに解放された幸助だが、気分は当然曇っていた。


「クソッ! 逃げられた」


 幸助は自分がまたしても守り切れなかった事実を重く受け止めるしかなかった。


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