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3-9 フジヤマ博士

 『星間帝国』。その国名にある通り、広大な宇宙に存在するいくつもの星、いくつもの異世界を侵略、支配下に置き領土を広げてきた巨大国家である。


 『ヒデキ フジヤマ』は、星間帝国の侵略を受けて統合されたとある世界の元日本国出身。

 名前こそ出身地の名残で日本人寄りになっているが、彼が生まれて成長したときには既に帝国による文化統合は完了しており、特に引っかかる事なく国での生活を過ごしていた。


 生まれながらに頭も良く、進学校でも主席の成績を収めていた彼は、学生時代からの仲間であったアキ達三人と共に国立の研究施設に籍を置き、そこでも実力を発揮して若き天才科学者として名をはせた。


 その名声のきっかけは、四人があるシステムの開発に成功させた事にある。

 それがアキ達が現在使っている回復技術へも応用が出来る、特定の範囲内の生物や空気中にある分子構造を自由自在に変形させることが出来るシステム。

 まさしく創作作品に出てくる異能力そのものだった。


 フジヤマは自身の研究室の教授にこれを見せ、彼に衝撃を受けさせた。


「これは……まさしく世界を、いや宇宙をも巻き込む大きな功績だ!! 是非このままここでの研究を続けてくれ!! 研究費は全て出すよ!!」

「ありがとうございます」

「しかしこの名称、『ラメールシステム』。この()()()()というのは……」

「私の大切な……きっかけとなった存在の名前です」


 治療や修理。あらゆる事柄に応用出来る、『ラメールシステム』。当然これを確立したそのときには四人揃って大歓喜した。

 国家間での賞も取り、大きな賞賛も受けた。会見の中心に立ち、記者達が彼等の姿を各々の撮影器具に納めようと構える。


 途方もない大勢の視線を受けて緊張が全身を固めて汗すら流せないフジヤマに、近くにいたルミが瀬名から軽く押して緊張を解かせた。


「ウオッ!!」

「何しているの? この表彰は君が主役でしょ!? 固まっていないで堂々としたら?」

「そうだ。リーダーがこれじゃあ、仲間の俺らまで恥ずかしくなるぜ」

「ご、ごめん。本ばっかりに浸ってたから、こういうの、慣れなくて……」


 固まった体は動いたものの、今度は全身から冷や汗があふれ出て震えが止まらないフジヤマに、ルミもチロウも額に一筋汗を流して微妙な顔をした。


 そんなフジヤマの右腕を突然隣にいる人物が両手で掴んで引っ張った。彼は震えていた脚がよろめいて転倒しかけたが、両足を踏んばってどうにかこらえる。

 次に彼はこんなときにいたずらをしてきた人物、アキに遺憾の意を伝えた。


「止めてくれよアキ。こんな目立つ場所で転んだりしたら一生の笑い者だよ」

「フフッ……ごめんなさい。でもヒデキ君、もう震えてないわ」


 いたずらを仕掛けた後とは思えない優しい笑みを浮かべながらこう言ってのけるアキにフジヤマは一瞬戸惑ったが、視線を真下に向けると、確かにさっきまで小刻みに震えが止まっていた。アキはこれを狙っていたのだろう。


「アキ。その……」

「お礼はいいから、行こう!」


 そのままアキが腕を引っ張って、フジヤマを連れていく。これがいつもの流れだった。完全に緊張が消えたわけではなかったが彼女のおかげで会見も乗り切ることが出来た。


 会見が終わり、二人っきりでいたフジヤマとアキは高ぶった気持ちを抑えきれずに笑みとなってこぼれていた。


「やったね! ヒデキ君!!」

「ああ、だがこれからさ。この技術を使って、これから大勢の人を幸せにするんだ」


 彼等はこれからの仕事にも励み、多くの人を幸せにすると確信し、来る日も自分達のシステムを臨床実験に精を出していた。


 連日による研究でそれぞれ、そのときは特にアキの様子に疲れが見えていた。それに気が付いたチロウは実験を続ける彼女に注意をかける。


「オイ! 大丈夫か?」

「アハハ、最近寝てないから……」

「休んでいろよ。残りは俺がやっとくから休みな」

「うん、ありがとう」


 アキはラボから離れ、あくびをしながら仮眠室に向かって行く。その途中の階段の横を通り過ぎようとしたそのときだった。


「ィャ……」


 微かに聞こえた女性の声が耳に入ったアキ。一瞬気のせいではないかと思ったが、階段の下の方に視線を向けると、普通では見逃すほど薄くぼんやりと光がある様子が見えた。


「あれは……別の場所で何の研究を?」


 ふと気になったアキが階段を降りていくと、階段の途中、丁度上と下の階の真ん中にある折り返しのスペースの壁からほんの少しだけ明かりの光が漏れ出ていた。

 普段ここは壁しかないはずと思っていたアキが気になってしまい、わずかに空いていた隙間から中を覗き込む。


「ッン!!」


 アキは声が喉の奥に引っ込んでしまうほどに大きな衝撃を受けた。

 隙間の先には、彼女達が一回も立ち入ったことのない実験室の中で台の上に拘束された女性が白衣姿の男女に取り囲まれ、その一人が誓うにある装置のスイッチを押して起動した。


 その瞬間、女は大きな悲鳴を上げて苦しみだしたが、拘束具が強く絞まり、暴れようとする彼女を無理矢理押さえ込んだ。


(こ、これって!!)


 明らかな人体実験。それもこんな研究所の隠し部屋の中で秘密裏に行なわれているとなると、道徳的観点から相当に外れた行為だということも目に見えて分かった。

 その上、直後に実験台の上の女性の右腕が何かと融合するように変形し、カマキリの腕のような鋭く尖った鎌に変形した。

 この反応は、アキ達が開発したラメールシステムのそれだった。そして次の瞬間、変わった腕が爆発して歪な腕の肉片だけが残った。


「嘘……そんな……」


 あまりの驚きに無意識に声が低くなるアキ。部屋の中の実験服の人達は話をしているようだった。


「うむ、また失敗か」

「先日手に入れたサンプルを使うのはどうでしょうか?」


 意見を聞いた男はその手に持っている小さな結晶を目の近くにまで持ってきた。


「これは大変貴重なものだ。我々が勝手に判断して消費していい代物ではない。使うなら、本国からの許可を取らなければな」

「しかしこのラボでの合成実験、これで十人連続での失敗だ。実験体の数も限られている。ここで成果を出さなくては」


 アキは彼等が自分に見られていることに気付いていたいことをいいことに忍び足でこの場を離れ、見た事をすぐに仮眠中のフジヤマに伝えると、チーム全員でラボの拠点の主任に話を付けにいった。


「どういうことだ! ラメールシステムは研究は我らのチームに専属しているはずだ! それも、人体実験なんてもってのほかだ!!」


 怒りで声が大きくなるフジヤマに対し、相手は変わらず落ち着き、顎を上げて少し向く出すような姿勢でものは言いようとばかりの持論を唱えた。


「事前に連絡を入れなかったのは謝罪しよう。部下のミスだ。しかしあれは人体実験ではない。あれはラメールシステムの臨床実験だ」

「百歩譲って臨床実験にしても、人間のやっていい所業ではない!!」

「これも帝国の繁栄のためだ。これ以上の問答は無駄だ。では」

「おい! ちょっと!!」


 主任の男はこれ以上話を聞きはせずに背中を向けて立ち去り、フジヤマが追いかけようとすれば、相手の護衛がそれを邪魔してきた。


 フジヤマは自分達が開発した技術を勝手に使われたことに怒りに満ち、今回のように隠れて悪用されていないかを調べることにした。

 国の中では一科学者でしかなかった彼だが、ここまでの功績で築き上げた信頼が皮肉にもものを言い、細かなところまで詳細に調べ上げることが出来た。

 結果分かったのは、彼等にとって信じられない帝国の裏の顔だった。


「こんな……こんなことが!!」


 フジヤマが手に入れたのは、国が新型兵器の計画書。そこには、ラメールシステムによる分子操作を利用した、二種族以上の生命体の細胞融合のプロセスが記載されていた。

 彼等の実験は人を救う医療方面ではなく、人を襲う侵略兵器として利用されていたのだ。


「あの部屋は……いやこのラボそのものが! 悪魔博士の実験室だったっていうのか!!」


 フジヤマはテーブルを強く握り締めた両拳をそのまま潰すような勢いで叩きつけた。

 怒りに満ちる彼に寄り添おうとするアキだが、チロウが荒れている彼に今近付くべきではないと彼女の肩を掴んで止めた。

 代わりに彼が少し離れたままフジヤマに問いかける。


「それで、どうするつもりだ?」

「決まっている… 上層部に計画書(これ)を使って問い詰める!!」

「そんなんで上手くいくと思うか?」

「……」


 宛が見つからずに悔しがるフジヤマに、チロウが彼の右肩に手を置いて諭した。


 これ以上ラメールシステムを帝国に悪用され、何の罪のない人が被害に遭うのを止めるためにはこれしかないと思い立ったフジヤマは、ラボ内にあった研究資料を最重要分を除いて紙もデータも例外なく処分し、研究チームを連れて国から行方をくらます計画を立てた。


 正直彼自身もこれがいい案ではないことは分かっていたが、同時に自分のチームにいる三人。

 特に隠し部屋を見てしまったアキが襲われる前に、そして被害者を出さないためにはこれしかないと思ったのだ。


 ラボ内のスケジュールを知っていた一行は、最も周辺に人数が少ない時間帯に逃げ出した。

 しかしラボの出入り口にさしかかったとき、普段この時間にはこの場にいるはずがない主任の男が待ち構えていた。


「こんな時間に外出かな? フジヤマ博士」

「ッン!! なんでこの時間に」

「コソコソ動いていたようだが、このラボ内にはいくつもの隠しカメラを仕掛けてある。お前達の行動は常に私の掌の上だったということだ」

「何だと!?」


 フジヤマが驚いたのは隠しカメラの存在ではなく、そのことに気付いて対策をしていたはずなのにかいくぐられた事へのものだった。


(ハッキングした者とは別経路のものがあったのか?)


 フジヤマが疑問を浮かべている隙に主任は軽く右手の指を鳴らすと、周辺に隠れていた帝国の機動部隊が彼等の取り囲み、銃口を突きつけて合図の途端に蜂の巣に出来る態勢を作った。


「こんなに!?」

「大人しく降参すればこちらも手出しはしない。」


 追い詰められた四人はこうなるともう逃げることは出来ないと察して両手を挙げて降参し、近付いて来た相手にそれぞれ拘束された。


 そのまま四人が連行された先は、アキが見つけた隠し実験室だ。既に機器は起動状態にあり、後は実験体を台に置けば開始できるようになっている。


「お前ら何を!?」


 フジヤマは実験台の上に拘束され、この後に彼等が起こそうとしている事態に予想が付いた。


「まさか……俺を!?」

「我が国を反逆を起こそうとしたのだ。ただの死罪では済まされない。どうせなら国のために有効活用しなければな」


 主任の男達はフジヤマを宇宙生物との合成装置を起動させた。彼は急激に異物を体に注入され、もだえ苦しみ声を上げる。


「グッ!! ガアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァ!!!!!」

「君らの働きで確率が増えたとはいえ、それでも人間ベースの兵器獣の成功率は三割を下回るらしい。果たして君はどうなるかな?」


 ルミとチロウは震えて声が出なくなり、逆にアキは機動隊員の拘束をどうにかフジヤマの危機を止めようとするが抜けられず、叫ぶことが精一杯だった。


「止めて!! 実験体なら! 彼の代わりに私が!!」

「この反乱はコイツが主犯だ。部下を使うよりこっちの方が手っ取り早いだろう」


 アキの心配、二人の恐怖を感じる余裕もない猛烈な苦しみを受け続け、フジヤマはそこで一度完全に意識を失った。


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― 新着の感想 ―
こちらでも続きから読ませていただきました! フジヤマ博士の辛い過去が明らかになりましたね。まさか自分の研究が邪なことに使われていたなんて。 しかも自身も人体実験に……。 続きもいずれ読ませていただきま…
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