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3-8 人型兵器獣の違い

 手掛かりなくしてはどうしようもないと僅かでも何か見つからないか洞窟内を散策していたランと南。しかしむなしいことにこの場所から脱出する手立ては一行に掴めずにいた。


「アイツ、姿を消すときに足跡を消してやがる。それともあの能力で足跡そのものを作らなかったのか?」

「それじゃあ、もう手掛かりはないってこと?」


 殺風景な空間の中に取り残された二人。進展がないことに頭を抱えかけたそのとき、ランは微かな音に気が付き、聞こえて来た方向に体を向けた。


「ラン君?」

「構えろ」


 ランに一言指示された南は魔法少女に変身しようと両手の親指を立てて構えるが、暗闇から現れた正体にふと動きを止めた。


「貴方は!」


 二人の前に現れたのは、先程自らこの場を離れ、姿を消していたフジヤマだった。


 彼なら安心と警戒を緩めて両手を降ろす南だが、ランは違った。出会ったときと同じどころか、それ以上に警戒を強めていた。


 南が彼の様子を見て一瞬戸惑うと、ランは彼女に一言告げて前に出た。


「下がれ!!」

「エッ!?」


 次の瞬間、フジヤマは両腕を前に伸ばして水球弾を二人に向かって発射してきた。反応に遅れた南は後ろに動くまでに時間がかかってしまい、それに気が付いたランはブレスレットを大盾に変形させて水球弾を受けた。


「ウッグッ!!」


 水球弾の威力はランの予想を超えており、幸い南が後ろに弾く時間は稼げたが、水球弾が爆発した途端に大盾ごと体を吹っ飛ばされそうになる。


(ネオニウムの盾で耐えきれる気がしねえ! 兵器獣を一撃で倒せたわけだ。だったら!!)


 ランはこのままでは自分の体が大盾ごと粉々にされる未来を予想し、咄嗟に大盾を上方向に手放し、宙に浮かせて変形させ、同時に自分の身をスライディングの要領で下にかがんだ。


 変形した大盾は少しカーブのかかった滑り台のような形になり、水球弾の勢いを逸らして空中に飛ばしてから爆発させる。


 爆発の衝撃による風圧や塵は避けられないが、二人とも怪我なくすんだ。


「フゥ……いきなりあっぶねえな」


 地面に付けた尻を上げて立ち上がるランに、どうしても出来る隙を突いて距離を詰めたフジヤマが、前回と同様に出現させたエネルギーブレードを突き刺しにかかる。


 ランはそんな状況でもローブを振って布地に剣を当て、貫かれる前にローブに剣先をなぞらせながら翻って体勢を立て直した。


「器用な奴だ」

「小賢しいのが得意だって言ったろ。それより、人を避けていたお前が俺らを付け狙うなんて、どういう風の吹き回しだ?」


 フジヤマはその場で剣を勢い良く振り下ろし、ゆっくり右肘を引きながら弓を引くような体勢で鋭くランを睨み付ける。


「少々話が変わった。大人しく捕まってくれるのなら、これ以上は何もしない」

「生憎大人しくする気はないし、厄介ごとに巻き込まれるのもごめんだ。南、逃げるぞ」


 突然フジヤマから攻撃されたショックで状況について来られていない南は、操られるようにこの場から去ろうとするランについていこうとするが、フジヤマは当然話しかけて足を止めさせようとする。


「待て。お前らはどうにしろ俺から逃げることはしない」


 ランはフジヤマの言葉の言い回しに足を止めた。()()()()()ならまだしも、()()()()()()()()()とまるでランが彼から離れることにデメリットがあるとても言いたげな言い方だ。


 確かにランからすればフジヤマに居なくなられるとこの洞窟に関しての情報が一切無くなるため困ることには困るが、人に情報を聞けないことはいくつも異世界を渡ってきた中でそう珍しいことではない。

 にもかかわらず彼がそう言うということは、何か別の理由があると見た。


「何が言いたい?」


 ランが首と目線だけ後ろに回して聞くと、フジヤマは自身が履いたボロボロのズボンについたポケットの中に右手を入れ、中から一つの小さな石のような物を取り出してみせた。


 二人は彼が取り出した物をよく見ると、特にランが目の色を変えて体全体を反転させてフジヤマと再び面と向かった。


「お前! それは!!」

「お前達はこれを求めてこの世界にやって来たんだろう?」


 フジヤマが手に持っているのは、ラムネ玉と同じ球形、及び同じ大きさをした結晶。色はほとんどが影に重なって見えなく、ブレスレットの反応はないものの、ランは彼の持つものが何なのかすぐに理解した。


「まさか! 世界の結晶!?」


 フジヤマは見せつけた結晶を手の中に握り絞めて下げる。しかし南は辻褄が合わない事態に指摘を入れる。


「ちょっと待ってラン君! 確か結晶は、そのブレスレットで探知できるんじゃなかったの?」

「この空間には赤服が仕掛けたジャミングが働いているようだからな。探知用のレーダーが狂っていても不思議はない」

(この世界で最初に出た場所が危険な水中になったのも、結晶がこんな所にあって座標が狂ったからか?)


 ランが自分の頭の中でここまでの事態を納得させていると、フジヤマは数秒間足を止めて出来た隙を見逃さなかった。フジヤマは姿勢を崩して彼との距離を一気に詰め、体勢を戻すと同時にランの右腕を切り取る勢いで剣を切り上げた。


「フンッ!!」


 素速い速度で駆け上がる剣。するとランはいつの間にかローブの内に隠していた掌を広げるより少し大きなサイズの砂岩を取り出し、剣を受け止めて動きを止めた。


(いつこんなものを!? そうか! さっきスライディングをしたときに拾っていたな。しかしここまで大きな塊なんてなかったはず!? どうやって?)


 そのとき、フジヤマは自分の剣が砂岩を少し切り進んだところで止まってしまったことに気が付いた。

 塊といえど、元が砂粒とあっては耐久性はあまりよくないはずだからだ。


 するとフジヤマは、砂岩の砂を接着させている未知の物体を見つけた。それはさっきまでスロープになっていたはずのブレスレットと同じ色をしている。


「まさか! 爆発のとき、俺が意識を外したときに拾った砂粒を回りに接着して砂岩に見せかけた!!?」

「俺のブレスレットは、そのもの一つで機能するものになら何にでも変形する。剣や鍵はもちろん、砂を受け止める奇っ怪なものにもな!!」


 ランは僅かな砂岩の隙間からブレスレットを変形させ、突起を延ばしてぶつけにかかった。


「小賢しい手、二連続だ!!」


 素速い速度で飛んできた突起物に、咄嗟に背中をそって眉間に当たるところを紙一重で避けたが、同時に重心が後ろに向き、ふらついてしまう。

 その隙を見逃さず反撃にかかるランに、フジヤマは右手を広げながら剣を小型水球に変形させ、防御をしていないランを撃とうとする。


 しかしランは先程剣を防いでいた砂岩をフジヤマと自分の間にそっと放り投げ、爆発するようにブレスレットに纏わり付いた砂を飛び散らかせた。


(コイツ! さっきの砂をデコイに!!)


 咄嗟の衝撃に反射で技を引いたフジヤマに、ランは宙に浮いているブレスレットを右手で殴りつけながら変形させて拳に纏わせ、フジヤマの腹にパンチを決めた。


「ウガッ!!」


 ランはこの一連の動きの最中も頭の回転を止めず、自分のことを兵器獣だと自称したフジヤマの生態について観察していた。


(反射で技を引くってことは痛覚とかの感覚も人間と同じか。俺がこれまで見て来た兵器獣とは大分違うタイプのようだな。 ッン!?)


 思考の最中、ランは自身が先程フジヤマに当てた拳に、何か固いものが当たっていることに気が付いた。視線を拳の先に向けると、右手はフジヤマの腹にめり込むことなく止まっている。


「これは!?」


 殴られたことを逆に利用して体勢を戻したフジヤマは反撃として両手を包むように水を纏わせて強化し、ランの頭に両サイドから殴りかかった。


 ランは事前に念のため後ろ側に置いていた右足に力を入れ、体を後ろに引かせて攻撃を回避したが、自身のパンチの効果がないことに疑問を浮かべていた。


「お前、どうやってパンチを耐えた?」


 フジヤマは自身の着ているシャツを上げ、顔半分と同じように鱗に包まれた腹を露出させた。


「改造されているからこそ出来る方法だ。腹の部分だけピンポイントで変身させて強度を上げた。多少の痛みが伴うが、弾丸でも俺を傷付けることは出来ない」

「また()()()()()かよ……何度も出るな。勘弁してくれ」


 ランの頭に勇者の世界で撃退したサイクロプスの改造個体が思い浮かぶ。あれもかなり体が硬かったが、これが短い期間に二度も出てきたとあって、彼は愚痴の一つも吐きたくなった。


 今は同等に戦えているが、兵器獣を軽く粉砕する水球弾に強化した打撃をも通さない鱗を持つ。


 攻防共に能力が高く、ランは彼を攻めあぐねていたが、ここで長期戦になって困るのはフジヤマの方だ。

 ランに戦闘圏内から弾き出された南は、第三者視点でフジヤマの額に汗をかき、妙に肩に力が入っていることに気が付いた。


(あの人、何か焦ってる?)


 南がフジヤマの様子に気が付いたそのとき、彼は痺れを切らして一度舌打ちをつき、顎を引いて何かここまでやってきた行為とは別のことを仕掛ける決心を決めたようだった。


「チッ、仕方ない。時間がないんだ、終わらせて貰うぞ」


 何が来るのかと頭の中で推理しながら構えるラン。するとまたしてもフジヤマは距離を詰め、ランの頭を鷲掴みにするつもりなのか右手を伸ばしてきた。


 ランは回避をし、同時にガラ空きの腹に攻撃を仕掛けようとする。しかし次の瞬間、突然ランがその場で目を丸くして口を大きく開けると独りでに膝を崩した。


 見ている南は何が起こっているのか分からなかったが、ランが声も出せずに苦しんでいるように見えた。


「ラン君!!」


 考えるよりも体がランを助けるために前に出た。真正面に向かってくる彼女にフジヤマが何もしないわけがなく、彼女が近付くのと同じタイミングに右手を向けた。


 すると彼女も突然何か奪い取られたかのように苦しい気分になった。


(こ! これは!?)


 このとき、南は過去に初見で自分と互角に戦い、兵器獣にも勝利してきたランが何故突然弱ったのかの理由がハッキリ分かった。


(息が……出来ない……)


 何故こんなことが出来たのか。南に理屈は分からない。しかし突如呼吸が出来なくなってしまった彼女がラン同様、長時間耐える術はなく、そのまま気を失って前方に倒れてしまった。


 戦闘が終わり、気絶した二人を上から見るフジヤマ。誰にも聞こえない小さな声で謝罪の言葉を告げた。


「悪いな。俺にはアキを、皆を守らないといけないんだ」


 二人の体を抱えた男、『ヒデキ フジヤマ』は洞窟の奥の闇へと姿を消した。その最中では、泡の中の家屋でルミが話している内容のことを思い出していた。


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― 新着の感想 ―
こんばんは、前回の続きから10話ほど拝見しました。前回は2章の魔法少女の世界の最後まで読みましたが、今回は水の世界とでもいえばいいのか、海の中? の世界ですね。前からそうですが、異世界を旅するというコ…
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