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3-5 泡の中の兵器獣

 洞窟の薄暗い静かな空間にて、南は男から言われた言葉の衝撃に動揺し、途切れ途切れの言葉で同じ事を聞き返してしまった。


「貴方が、兵器獣!?」

「ああ、そう言った」


 南は理解に時間がかかった。彼女が前回見たもの、そしてランから説明されていた事も踏まえて兵器獣とは、赤服が様々な世界にある生物を兵器利用するために改造した巨大な怪獣とばかり思っていた。


「でも、貴方は僕達と大差がない大きさで、それに、こうやって会話も出来ている」

「そういう風に改造されたからな」

「どういうことだ?」

「俺は奴らが押し進めていた研究の実験体。兵器獣に使われる合成技術を応用し、人間をベースに、姿形や思考を残したまま異世界生物と融合させた改造人間だ」


 男は自身の右手を曲げてその姿を鱗混じりのものに変身させる。改めて二人が見るそれは、ハッキリと見覚えのあるものだった。


「その鱗……もしかして、貴方はこの世界の怪魚と!」

「お前の思ったとおりだ」


 南の予想通り、彼に合成されたのはこの世界にいる怪魚のようだ。とそこにランがもう一つ気が付いたことを補足する。


「それに機械技術も組み合わさっているってトコか」


 男が変身させた右手を元に戻して腕を降ろすと、ランは少し思うところがあったが、突然立ち上がり、足払いで地面の砂を飛ばし、たき火の火を窒息消火した。


「どうしたのラン君?」


 南が彼の奇っ怪な行動に反応すると、ランは遠回しな言い方で二人に警戒を促した。


「お前のお客さんが来たみたいだぞ」


 ランの言葉を理解し、二人が立ち上がるとすぐに彼等の耳にも足音が響き、暗闇から先程出現したものと似た姿をした兵器獣が二体現れ、またしても襲いかかってきた。


「また兵器獣が! しかも二体も!?」

「ここまで兵器獣を動かすって事は、相当お前のことにケリを付けたいんだろうな」


 男が先頭に立ち迎え撃とうとすると、彼よりも前にランと南が兵器獣の前に立ちはだかった。


「おい! お前ら!!」と男が心配する声に二人は顔だけを後ろに向ける。

「お前がやられたら俺達にとって迷惑なんだよ」

「困ったときは、お互い助け合いが大事だから」

「それに、お前にはまだ聞きたいことがあるしな」


 ランはそう言うと再び顔を前に向け、ブレスレットを剣に変形させ、隣にいる南と同タイミングで兵器獣に向かって行った。



______________________



 その頃、魚人の泡の都市の中では身体が温まり、風呂から上がったユリが、アキから借りた服を着て、濡れた髪をタオルで拭きながら廊下を移動していた。ポケットには乾かしたリボンを入れている。


「よし、これで落ちないわね」


 彼女は脱衣所を出てすぐの廊下で待っていると思われた幸助がいないことに一瞬戸惑ったが、左方向にある部屋から幸助の声を含めた話し声が耳に入ったためその部屋に向かって行った。


 部屋の中では幸助が出されたお茶らしき飲み物を出されて味を感じないままにそれを飲みながら話を繋いでいると、隠す気のない足音を鳴らしてユリが部屋に入って来た。


「誰もいなくなっていると思ったらこんな所にいたの? しかも人の数増えてるし」

「ナッ!!?」


 ルミとチロウはこの子がアキから言われたもう一人なのだという印象だが、幸助にとっては目を丸くする程動揺する事態だ。彼は咄嗟に席を立って彼女に耳元で聞いてしまう。


「何してんの!? あの人達がまだ赤服と関わりないとは分かってないだろ?」

「もう三人に見られてるのよ。ここで急に姿を消したら、それこそあらぬ疑いをかけられるわ」

「それは、確かに……」


 ユリの言い分には納得できる。しかしラン達がどこにいるのかも分からない中で、ユリを守れる人物が自分しかいない状況では、正直なところあまり人に素顔を晒して欲しくないのが本音だ。内心不安が増えてしまう。


「しかしなユリちゃん」


 幸助がユリに話しをつけようとしたそのとき、ルミが二人に話しかけてきました。


「ねえ、何してるのそこの二人」

「あ、その……」


 返答に迷う幸助を置いて、ユリは彼より前に出て軽くお辞儀をしながら二人にも自己紹介をした。


「どうも、ユリです。お風呂ありがとうございます」

「ああ、貴方がアキが言ってたもう一人の客人ね。どういたしまして。今度は貴方の話を聞きたいな」


 早速新たに現れたユリに興味を引かれているルミ、対してラルコンがいそいそと幸助の分の着替えを持って彼に近付いて来た。


「お風呂空いたみたいだし、遠慮せずさあさあ」

「いや俺はいいよ、服もすぐに乾くだろうし。(今ユリちゃんから目を離すわけには行かないし……)」


 ユリのためにといいたいところだが、諸事情を隠している以上口には出来ないため、遠慮をするしかない幸助。しかしそんなことなど知らないラルコンは優しさから幸助の希望とは反対に走ってしまう。


「まあまあそんな遠慮しないで」

「あ、いや俺は……」


 断ろうにも断り方が分からずに戸惑ってしまう幸助。しかし次の瞬間、彼にとって幸か不幸か家屋の外からの群衆の様々な騒ぎ声が入って来た。


「何だ!?」


 驚いて机に手を打ち付けるチロウ。ルミも立ち上がり、幸助も困惑していた顔を沈ませて警戒する。


「外で騒ぎが? 一体何が?」


 ここまで聞こえてくると言うことは相当な事態だと感じ、何が起こったのかと気になった一行はお互いの身の上話を中断し、幸助も風呂に向かうのを止めて外に出た。

 都市の中に入らないと事情が分からない者と踏んでいたがそうではなかった。何故なら、外から出ただけでも見える場所で大きく異変が起こっていたからだ。


「あれは!」


 一行やこの世界の人達が見たのは、ドーム内の空中に大きくヒビが入って割れた空間から、怪物の血走ったような不気味な眼が民衆を見下ろしている様子だった。


 割れた空間の奥から見える怪物は、その場で身体を揺さぶりながら甲高い鳴き声を上げ、ガラスを蹴り割るように空間を出ると、自分の立っている場所から飛び降り、この世界の地面に地響きを起こしながら着地した。


 姿を見せたそれは、別の場所でランと南が見た怪魚を太い二本脚で直立し、前脚ではなく手の甲にヒレが付いた力のある両腕。そして魚類には存在しない尻尾。総括的に見て怪魚に別の二足歩行の陸上生物を混ぜた合成獣(キメラ)、完全に幸助達が知っている兵器獣だ。


 こうなってはと幸助は考えるより先に兵器獣の近くにいる人達を助けるために一目散に駆け出した。


「幸助君!! 全く考え無しに」


 ユリも彼の無鉄砲が心配になってフォローしようと追いかけていく。ラルコンとマルトは民衆と同じく混乱していたが、アキ達は何か思い立ったように追いかけていった。


 人混みの中に到着した幸助は、兵器獣の襲来で右往左往に動いて混乱している人達が巻き込まれないように、兵器獣の意識を向けさせるため、空間に土魔法の砂岩を作り出して攻撃した。兵器獣は挑発に乗る思考はないが、自分への攻撃に反応して振り向き、同時にこの世界の中で異物である幸助に注目した。


「こっちだ! 来い!!」


 幸助は兵器獣の注意を引いて、人目のないところに連れて行こうと動き出した。しかし同時に彼には少し思うところがあった。


(どうして兵器獣が都市街の真ん中に? 結晶が目的なら俺らのときと同じ都市の外の水中に出現するはずなのに)


 考え事をする幸助に、兵器獣は口を大きく開いて白い煙を吐き出した。速度が遅いため簡単にその場から離れて回避することが出来たが、ついさっき立っていた場所は周辺の建物も含めて煙が当たった途端に骨組みすら残さず溶けてしまった。


「あの煙、もしかして酸か!? かわしても二次被害が出る!!」


 更に幸助にとって都合が悪いことに、兵器獣は幸助ではなく身体を向き直して混乱する民衆の方へと向かって行ったのだ。


「なんで都市街に? あっちに結晶がある? それともまさか、ユリちゃんを狙って!!」


 幸助は都市から離れようとした脚を反転させて兵器獣に近付き、これ以上都市に進ませまいと動きを止めにかかった。兵器獣は今にもさっきの酸を民衆に吐き出そうとしていた。


「させるか! <砂流波(さりゅうは)>!!」


 幸助は空中に大量の砂を固めた物体を生成させ、兵器獣の腰に直撃さた。そのショックで背中を反らせ、煙の向きを上に向けさせることで被害を抑えた。


「危ないな!!」


 しかし兵器獣は後ろに目があるかのように幸助のいる箇所にピンポイントで尻尾を振り回した。大柄な身体に合わない素速い動きに、隙を突かれた幸助は攻撃を受けてしまい、建物の上から地面に叩きつけられる。


「ガッ!!」


 いつも通りの頑丈な身体のおかげで傷一つ無く済んでいる幸助だが、周りから見れば突然自分達と肌の色が違う彼の存在に更に動揺を与えてしまった。


「あの人! 肌が!!」

「馬鹿、そんな場合じゃないだろ!!」

 

 何人かの魚人が幸助に気を取られている内に再起した兵器獣は、さっきと同じ技で丸ごと襲いにかかった。防御が苦手な幸助は動きに迷う。


(マズい! 風で飛ばしても他の人に酸が当たる。防ぎきれない!!)


 一瞬の判断の迷いがミスに繋がり、兵器獣は彼等に向かって酸の煙を吐いた。


「しまっ!!」


 幸助がどうにか周りの人だけでも守ろうと動きかけたそのとき、彼等と兵器獣の間の空間に煙を阻む水の壁が突然発生した。


「何だこれ!?」

「これは!」

「あの人達が来たんだ!!」

「あの人達?」


 魚人達が何か知っているようなことを言うと、幸助の前にチロウとルミがアキが使っていたものと同じ装置を両腕に付けて現れた。


「チロウさん! ルミさん!?」


 二人がこの場に危険を省みずに現れた事に驚く幸助。二人は一度彼に顔を向けて簡単なお礼と、遠回しな撤退を促した。


「ここまでありがとう、とても助かったわ」

「ここからは俺達が怪獣の相手をする」

「は!? えっ?」


 状況に付いてこられていない幸助を余所に、ルミとチロウは別々の構えを取ってまた都市に進行する兵器獣にルミが向かって行った。


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