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3-4 地下の男

 ユリがリボンを見ながら頭に思い浮かべていた当人は、南と共に謎の洞窟の中で見つけた男の跡を付けていた。背中に張り付くような距離で、ランは後ろから何度も声をかける。


「なあ、ここは何なんだよ?」

「どうして貴方は一人でこんな所を歩いているんですか?」

「どうやって怪魚を追っ払ったんだ?」

「この先に何かあるんですか?」


 何度もしつこく声をかけられた事で流石に痺れを切らした男は、足を止めて振り返り、苛立った声で返事をした。


「いい加減にしろ! 俺についてくるな!」

「じゃあ教えてくれよ、ここの事。地獄って端的に言われても分かるわけないし」

「説明したところで意味はない。お前達はここに来た時点で死ぬことが決定している」

「は?」

「俺と一緒にいれば、ただでさえ短い寿命をより早く失うだけだ。さっさと消えろ」


 二人は男の話に首を傾げていたが、ランは耳に入ってきた音で曲げた首を戻し、男も再びラン達と同じ方向に身体を向き直した。


 直後に南にも大きな足音が聞こえだし、一歩遅れて戦闘態勢を取る。しかし耳に聞こえた音に対し、耳の良いランは違和感を感じていた。


「ん?」

「ラン君?」

「この足音、さっきの怪魚とは違う」

「えっ?」


 南には違いが分からなかったが、ランは明確に音の違いが分かった。さっきまで襲ってきた怪魚は四本の脚を交互に前に出して進むものだったが、今回のものはそれより一歩一歩の音の重みが大きく、まるで大きな二本脚で地面を踏み込みながら大股に歩いているといったものだった。


「これは、さっきまでの怪魚とは何か違う!」


 ランの推測に南も警戒を強めると、先頭の男は眉間にしわを寄せて軽く舌打ちをつく。


「チッ……来たか」


 男は何が来るのか分かっているようだ。直後に暗闇から正面切って姿を現したのは、サメのような大きな背びれを持つ怪魚を太い二本脚で直立し、前脚ではなく先端にハサミのような部分が手の代わりに付いた腕。そして魚類には存在しない尻尾。総括的に見て怪魚に別の二足歩行の陸上生物を混ぜた合成獣(キメラ)、完全にラン達が知っている兵器獣だ。


「兵器獣!?」

「ッン?」


 男はランが呟いた単語に反応して一瞬彼を見たが、まずは迫り来る敵を対処をしなければと、二人を置いて真正面に飛び出していった。


「おい! 何もなくいきなり前に出たら返り討ちになるだけだぞ!!」

「何もないならな」


 男は走りながら一度目を閉じ、上がった息を意図的に沈めた。すると彼の右半身に二人に出会ったときと同じ鱗が出現し、瞳の色が禍々しい黄色に変化した。兵器獣は向かってくる相手を踏み潰そうと脚を上げて勢い良く降ろした。


 このままでは踏み潰されると南は駆け出し、ランはブレスレットを変形させて投げようとするが、次に目にした光景に驚いて中途半端に動きを止めてしまった。


「ウソッ!!」

「アイツ、兵器獣の攻撃を生身で!!」


 目の前で起こっていたのは、見た目が南の知る人間から逸脱しているとはいえ、彼女達とそう大きさが変わらない男が、踏み潰しにかかった兵器獣の脚を押さえつけている様子だった。驚く二人を余所に男は引いていた右肘を伸ばし、変形した手で兵器獣を押し飛ばし、体勢を崩させた。


 体勢が整いきらずにいる隙を突き、男は自身の頭部の少し斜め前で拳を握った両腕を手首の位置で重ね、勢いよく×字を描くように腰辺りにまで腕を伸ばして広げると、広げた両手の平の間に粘土細工のように張り付いて伸ばされた青い光る物体が発生していた。


 男は伸ばした物質を、胸の前に来るよう動かしながら丸い形に圧縮させると、ガラ空きになった兵器獣のみぞおちに向かって圧縮した物体を飛ばした。狙い通りの箇所に命中した物体は、一瞬で無理矢理押さえ込まれていたものが解放されるように弾け、巻き込まれた兵器獣は跡形もなく爆散した。


「兵器獣を一撃で倒した!」


 以前にいた世界でジャークを一撃で倒した南だが、それより強い兵器獣を一撃で撃退した彼には目を丸くせざるを得なかった。短時間の戦闘を終え、その場に呆然と立っている男に二人は歩いて近付くと、歩いていたときよりも真剣に探りを入れるようにランが質問をした。


「その身体、見た目以上にいわく付きらしいな」

「……」


 男はランの質問に答えず、沈黙が流れる。 そんな中男は再び両拳を握って胸の前で横並びに重ね、ようやく口を開いた。 だが話し出した内容は質問の返事ではなかった。


「似ているローブを着ているだけならば何もしなかったが、あれの正体を知っているとなると話は変わる」

「ん?」


 男は拳を横に放すと共に、先程と同じ青い光をレイピアのような細い形で出現させながら振り返り、その流れの先にいるランにいきなり切りかかった。ランはこれを剣の刃で受け止めた。男は自信の剣に鍔迫り合いされていることに驚いているようだった。


「受け止められるだと!? どれだけのネオニウムを使えばここまでの強度を?」

「いきなりどうした?」

「とぼけるな。同じローブを着ている上に兵器獣を知っているということは、お前達も奴らの刺客だろ!!」


 ランは男に出会ったときから感じていた事を彼の言い分で理解した。


「会って最初にこのローブについて触れていたが、お前やっぱり赤服を知って……」


 力の押し合いでは特殊な身体をしている男にランは勝てず、押し負けて弾き出される。その後も何度か同様にランは仕掛けるも男との力の差は明確で、ついには体勢を崩して尻餅をつく。

 男はすかさずランに剣の追撃をかけたが、ランは咄嗟に剣の刃を新体操のリボンのように伸ばし、男の腕を絡めて攻撃の軌道を逸らした。


「小賢しい!!」

「小賢しいのが得意でね!!」


 ランは続けて地面に付けていた左手を握り、持ち上げた砂を相手の目元に投げた。尻餅はこれをするためにわざとやっていたのだ。卑怯な目くらましに男は反射で目を閉じて握りこぶしを広げてしまい、その途端に出現させた剣が消滅した。


 ランは剣の形をバットに変形させながら体勢を戻し、武器を振って男を気絶させにかかる。しかし相手もすぐに目くらましから視界を回復させ、ランの近くに位置していた左手を強く握りさっきとは逆方向にレイピアを出現させ、近付いてくるランの喉に差し込みに仕掛けた。


 バットが当たるか剣が当たるかどちらが先かという瀬戸際、先に当たったのはその二つのどちらでもなく、横から入って来た南の張り手だった。


「ストオオオォォォォォォッッッッップ!!!!!」


 完全に視界から外れていた南の乱入に対処できなかった二人は、受け身も取れずに吹き飛ばされ、お互いに地面にぶつかって大きく擦れた。南自身も焦っていたようで息を切らしながら二人に叫ぶ。


「二人とも止めて!! お互いに勘違いして戦っていたら馬鹿みたいだよ!! まずは落ち着いて話をしよう!!」


 倒れた二人は市場に並ぶ魚のように動かないまま、ランが小さな声で素直に呟いた。


「暴力で止めておいてそれ言うか?」


 方法はともかく戦う気が削がれた二人はその場から立ち上がると、南に言われたとおりに落ち着いて話をする流れになった。気を張っていた気持ちが緩んだ南は、海水と汗で濡れた服が冷えてくしゃみをしてしまう。


「へっくしょん!! ご、ごめん」

「そういえば濡れた服から着替えてすらなかったな」


 ランと南はお互いを見ないように配慮しながら代わりの服に着替え、服を乾かすために用意したたき火を中心に囲って座り込み、南の仲裁の元、話し合いが始まった。


「さてと、場は整えたんだ。お互い気になっていることに関して話し合おうか」

「話を切り出したのはお前らだ。先に言うのが筋だろう」


 男にそういわれ、南が率先して口を開こうとしたが、「ここは俺が」とランが南に手を振り、自分達の事について簡単に説明した。


「ほう、じゃあお前達はその結晶を捜してこんな所に迷い込んだと」

「出られるなら出たいんだがな。どうにも扉が開けない。まずここはどういう場所なんだ?」


 ランが軽く周りを見回しながら聞くと、男は出会ったときとは違い素直に口を開いてくれた。


「俺が知っている範囲でしか話せないが、ここはお前らが『赤服』と呼んでいる奴らが近くの平行世界への進行のために作った拠点。その付近といった所だ」

「赤服の拠点!?」


 驚く南に対し、ランはむしろ納得しているような落ち着いた態度をしており、南はそちらが気になって聞いてしまう。


「ラン君、あまり驚いていないけどどうして?」

「予想していた悪い方が当たったって感想だ」

「予想していた?」


 ランは頭の中でこれまでの旅路を振り返りながら自分の考えていた事を話した。


「この宇宙は広いんだぞ。いくら赤服の勢力が不明な点が多いとはいえ、幸助のいた世界やお前のいた世界、連続して赤服と戦うことになるのは珍しい例だ。

 特にリブルースなんて、ステッキの材料をどこから手に入れていたのか不思議に思っていたしな」

「つまり、その材料供給の場所がここって言いたいの?」


 ランは無言で頷いて肯定する。


「ついでに言うと、それならこのジャミングが働いた不自然な洞窟にも説明が付く」


 南への返事を終えたランは、少し上半身を前に傾けて注目しながら次の質問に話を移す。


「で、お前はなんでこんな危ない場所にいる? さっき兵器獣に狙われていたのと関係があるのか?」

「狙われていた!?」


 南はランが流れで話した重要な言葉に目を見開き、ランの顔を覗いた。その様子に気づきながらもランは南に質問をされてまう前に説明を加えた。


「怪魚が俺達を襲ったのは飯を用意するのが目的だ。だが兵器獣は赤服の手下とも言える存在。わざわざ飯を食いに現れたりしない。かといって俺達を始末するなら野生の怪魚に任せておいた方がコストがかからないはずだ」

「お見事。奴は俺を追って赤服が放ったものだ。時期にまた次の兵器獣を送るだろ。」

「分かりきっているように言うな? お前、どうしてそこまでして狙われている?」

「当然だ。奴らは俺を逃がしたくないだろう」


 目を鋭くして答えを求めるランに、男は顎を引いてハッキリ答えた。ランと南はその内容に言葉を失う程の衝撃を受けた。


「俺もあれと同じ、組織に作り出された『兵器獣』だからな」


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