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3-3 ヘンテコさん達

 タコが去り、怪魚の足音が離れて静まった洞窟の中、突然現れた青年の異形な姿に感謝より先に警戒をした。


 剣を向けるラン。そのまま現れた男と戦闘になるかに思われたが、相手の方は体中に生えていた鱗を皮膚の中に引っ込ませ、瞳の色をもう一方と同じ黒色に変化させた。身体の変化に目を丸くする二人に男は質問を飛ばした。


「白いローブ。それに見ない顔だな。何者だ?」

「風来坊。と言いたいが今は迷子だ。こっちからしたらお前こそ何者なのか聞きたいとこなんだが」


 ランの口の回しに男はそれ以上二人に何かを聞くことは無く後ろに振り返った。


「そうか、ならこれ以上に言うことはない」

「「いや、待て待て待て待て!!」」


 自然な流れで去ろうとする男を当然二人は止めようと追いかけた。辺り一面知らないものだらけのこの場において、今のところ唯一の情報源だ。男は無視して尚も離れようとするが、二人も負けじと追いかけた。男は無視しきれずに突き放す。


「俺に付いてくるな」

「この謎空間でそうそういないであろう情報源だ。すぐに返すわけないだろ」

「教えてください、ここがどういう場所なのか」


 力強く引き寄せられる男は面倒臭そうな心情を表情で示し、首を後ろに回して二人の顔に視線を向けながら率直に伝えた。


「どういう場所かだと? 簡単な話だ」


 男は掴まれた腕を振り払って身体も二人に向け、顎を引いて結論を告げた。


「ここは、地獄だ」



______________________



 一方で泡の中の空間に残ったユリと幸助。都市街の中に入ったものの、揃って細い路地の中を歩いていた。


「どうして、わざわざ細道を?」

「前例があるとはいえ、この世界じゃお前達のような肌色は異物だからな。変に人目につくのは避けた方がいいだろ?」

「あの人達がいる場所も、少しへんぴな場所だしね。もうすぐつくよ。ほら」


 ラルコンが指を指した前方をみると、街の角にひっそりとたたずんでいる小さな家屋を見つけた。ラルコンは善は急げとばかりに扉を開けて大声で声をかける。


「せんせ~い!! 患者さんを連れてきました~!!」

「テンション高くして言う事じゃないだろ」


 マルトが的確な指摘をすると、家屋の奥から若い女性のものと思われる声が聞こえてきた。


「患者さん? 分かったわ、連れてきて」


 一行が指示通り家屋の奥に進むと、所々幸助の見知ったものとは違うものの、病院の診察室と取れる内装の部屋についた。


 診察室の中には魚人の二人に事前に言われていたとおり、幸助達と同じ肌色に、セミロングの暗い茶色の髪をセンター分けにした女性がいた。白衣を着て椅子に座っている女性は2人よりも大人っぽく見え、丸みを帯びた優しい瞳を持つ彼女はユリとも引けを取らない容姿をしている。彼女の方もいきなり現れた、自分と同じ色の肌の人間に開始早々驚いた。


「ッン!! 貴方たち! 肌の色が。もしかして、こことは違う世界から?」

「先生、説明は後! とにかくこの女の人の怪我を治して欲しくて」


 ラルコンに言われてその女性はユリの腕から出血していることに気が付き、左手に被せる形で二人が見慣れない謎の機器を装着し、ユリの負傷した箇所にかざした。


 次の瞬間、ユリの腕と機器の間に青い光が発生し、瞬きする間に出血箇所が止血され、付近で軽くふいただけで傷跡もなく元の状態に治っていた。


「凄い! 何だこの技術?」


 女性は機器を取り外し、近くの台に置いてからユリの顔を見て告げた。


「これでもう大丈夫よ。動かしても支障はないわ」

「あ、ありがとうございます……」


 ユリは試しに左腕を大振りに回してみたが、確かに痛みは引き、動かしても支障はない。自分の身体の調子の良さに逆に気持ち悪さを感じるユリだが、女性が再び声をかけてきたことで腕を振るのを止めた。


「貴方たち、さっきも聞いたけど、もしかしてこことは違う」

「ええ、異世界からやって来ました」

「いきなり水難に遭ったところをあの二人に助けられて」


 ユリの返事に幸助が続き、そこから会話がはずむかに思われたが、ユリがくしゃみをしたことでまたしても話題がすり替わった。


「ハクション!!」

「ああ、大丈夫?」

「う~ん、海から上がってずっと同じ服着てたから冷えたのね」


 むず痒くなった鼻を指で擦っているユリ。女性は彼女の様子に微苦笑してしまうも、初対面の二人に対して優しい提案をしてきた。


「よかったら、お風呂に入ります? すぐに湧かせるし、服も代わりのを用意できるから」

「え、いいんですか?」

「わざわざすみません。えっと……」


 幸助はバタバタしていたため、彼女の名前を聞いていなかったことに今になって気が付いて言葉が詰まってしまったが、彼女の方から彼の思考を察して名乗ってくれた。


「名乗ってなかっわね、『アキ ヨシザカ』よ。遠慮しないで。貴方たちの事についてゆっくり話を聞きたいから」

「ユリです」

「西野 幸助です。って、ヨシザカって、もしかして貴方、日本人ですか?」

「日本? ごめんなさい、私の出身はそこではないわ」

「そうなんですか」


 聞きなじみのある名前の響きにてっきりアキが自分と同じ日本人だと思った幸助は豆鉄砲でも喰らった顔だったが、そこにユリが視線を向けて諭す。


「異世界は多種多様にある。貴方のいた世界のように、そこに日本っている国があるとは限らないってことよ」

「ああ、やっぱり常識や概念は通じないと思っていた方がいいんだなぁ」


 幸助は少し反省すると、すぐに用意された風呂が沸いた。お人好しと共に再会したときにランから攻められることが頭によぎった幸助によってユリが先に入ることになり、ユリは脱衣所に入ると、アキも服を受け取るためについて行き、一応のために扉を挟んで向かい側に幸助が立ち、彼女のブローチを事前に受け取る。


 ユリは早速濡れた服を脱いでアキに手渡したが、髪をまとめている黒いリボンだけは何故か外そうとしない。


「あれ? リボンは外さないの?」

「自分で手洗いしておくから大丈夫です」

「そう」


 アキはユリの変なこだわりに首を傾げるが、まずは身体を温めさせなければいけないと詮索することはしないで脱衣所を出た。


 一方部屋の外で待ち構えている幸助。壁にもたれて無言のまま立っていると、足音が近付いて来た事ですぐにそちらを向いた。ランほど鮮明に分かるわけではないが、アキのものとは明らかに違っていた。


「誰だ?」


 突然鋭い視線を向けられたことでその相手の男性は驚いた。


「ウワッ! なんだよ急に睨んで。」


 そこに脱衣所でユリから受け取った服を畳んで持ったアキが二人の間に現れた。


「あれ? どうしたの二人とも睨み合って」

「ヨシザカ、この男は誰だ?」

「あれ、知り合いですか? すみません! 俺、ピリピリしてて」

「フンッ」


 幸助は気持ちを落ち着かせて現れた男に謝罪したが、相手の方は視線を逸らしてシカトした。ピリついた空気が流れる中、そこに更に別の人物が入って話しかけてきたことで流れが変わった。


「アキ~、こんな時間にお風呂セットされてたんだけど何かしらない? ってあれ? 貴方誰!?」


 暗い雰囲気は和んだものの、改めて変な空気が流れだし、まずはこの場で一番状況を理解しているアキが別の部屋に連れて行き、ラルコンとマルトも合流させて話を付けることにした。幸助はユリから離れることに戸惑ったが、変にユリのことを注視してここにいられなくなってはマズいと思いついて行った。


 診察室とは違う家のリビングに似たような内装の部屋に到着した一行はテーブルを挟んで椅子に座り、三人による幸助達の説明が終わった。


「つまり、コイツともう一人女が俺達とは違う異世界からやって来たって事か?」

「そして迷子になったところをラルコン達が見つけて、同じ肌色の私達の所に連れてきたと」

「私、なんかマズいことしちゃったかな?」


 どうにもちぐはぐな空気にこの状況を作ったラルコンも顔が引きつり、マルトは彼女を細い目で冷たい視線を向けている。


「だから俺は反対したんだ」


 同じ異世界人とはいえ、いきなり知りもしない相手に対して睨み合ったとあって完全に幸助と現れた二人には溝が出来ているようだった。


 男は一度テーブルに肘からつけた幸助の腕を見た後に視線を上に上げて問い詰めてきた。


「全く、ここはホテルじゃないんだぞ」

「まあまあ、彼等も事情があるんだろうし、あの肌なら下手な場所じゃかくまえないでしょ。困ったときは助け合い、だよねアキ」

「うん。とりあえず、この人達はこの場にいた方がいいと思う」


 機嫌を悪くする男の分も含めて女の方が自己紹介をしてくれた。


「ごめんなさいね。私は『ルミ ムラカワ』、こっちのふてくされているのは『チロウ クウリ』、アキと同じくこの世界にやって来て医者をしている異世界人よ」

 「どうも、西野幸助です。あぁ、名字が西野で名前が幸助です」


 幸助は先程睨み付けた負い目から相手に対して妙にへりくだった態度を取ってしまう。ルミはそんな彼にアキとは違ったクールな雰囲気の優しい笑顔を見せて緊張を解こうとしてくれる。


「貴方も私達が何者なのか知りたいのよね。そっちのことは知ったんだし、話しましょ」

「おいルミ」


 ルミはチロウに顔を近付けて耳打ちした。


「黙っていたって仕方ないわ。それに彼、何処か警戒している。何か気にしていることがあるのかもしれないわ」


 ルミは詳細は分からないものの、幸助が自分達に何かを警戒していることに気が付いていた。だからこそ自分の事を話すことでその緊張をほぐそうとしていた。


「私達は、同じ研究チームの仲間として前にいた世界で色々な研究をしていたの。そしたら、研究の最中に起こった事故で、この世界にまで飛んで来ちゃったのよ」

「事故で異世界へと飛んでしまう研究って……」


 幸助はかなり重大なことを朝の挨拶のように軽く言っているルミへのリアクションに詰まって顔がこわばってしまう。


「元の世界に帰る方法も分からないから、この世界にお世話になってるの。ラルコンとマルトはこの世界に来てすぐに出会って、私達を助けてくれたの」

「まさか、こんな珍妙なことに二度も遭遇するとは思わなかったけど」


 ラルコンも微妙な顔になり、マルトも彼女の隣で頷いた。自分のことを話したルミは、テーブルの上に両肘を乗せて前のめりな姿勢になる。


「それで、貴方たちはどうしてこの世界に来たのかしら?」


 幸助はここで忙しさに自分の事を説明していなかったことに気が付いた。相手の事情を聞いた後ならと彼は隠すことなく身の上話をすることにした。


 一方のユリ。湯気が広がる風呂場の湯船に浸かり、リボンをお湯を注いだ風呂桶に入れて憑け洗いをしていた。


 湯船の隅に両手を重ねてその上に顎を置き、桶に中の水に浸かるリボンを呆然と見つめるユリ。頭の中では何かを思い起こしている様子だった。 


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