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3-2 続いて魚難

 ランと南が突然発生した裂け目に吸い込まれて消えてしまった直後。この事態の理解が出来ないラルコンとマルトは混乱していた。


「今の何よ!!?」

「俺にだって分かんねえよ!! なあ! アンタらは何か知ってるのか!?」


 表情には見せないながらも彼等と同じどころかより動揺して言葉が詰まっているユリに代わって幸助が簡単な説明をした。


「俺達が行く先々で戦っている、赤服って奴らの移動ゲートだ。こんな使われ方されたのは初めてだけど……(多分ユリちゃんを攫うつもりだったんだろうな)」


 幸助はユリの背中を優しくさすってやろうとしたが、その前に彼女の右腕から血が流れていることに気が付いた。


「ユリちゃん! 血が!!」

「エッ!? あぁ……多分さっき擦り剥いたのね」


 少し反応が遅れたが返事を返すユリ。そんな彼女を心配に思うところを持ちつつも、赤服の襲撃が起こったこの場に長居するのは良くないと判断し全員を連れてとにかく移動することにした。


「とりあえず、擦り剥いたところを治さないと」

「平気よ、このくらい」


 しかし幸助はこの道中、以前のようにユリが治癒能力を使わない事が気になった。そこで彼は涼しい顔をしているユリに他には聞こえないように小声で聞く。


「その傷、自分で治さないのかい?」

「そう都合のいいものじゃないわ。あの能力、自分の傷は治せないの」


 話を終える途端、打ち所が悪かったのか一瞬ユリの表情が引きついた。幸助はやはりこのままではマズいと思うが、かといって都市街についてないまま足を止めれば、また襲撃を受ければ今度こそユリが捕まってしまう。幸助は魚人達に質問を飛ばした。


「なあ、都市についたら、人目のつくところで休憩させてくれないか。軽く手当てが出来るところでいいんだけど」


 妙な要望に疑問を感じたラルコンとマルトが振り返ると、ユリの出血に気が付いた。


「その傷!! もしかしてさっき」

「そういうことで医者がいるなら、ここから近いところに一件あるよ」


 幸助の顔が少しホッとした顔を浮かべるが、マルトは少し思い悩んでいるようだった。


「おい、それって」

「この人達も訳ありなんだし、大丈夫でしょ」

「何だその訳の分からない理屈。いくら似たような姿してるからってそうすぐに合わせるのは……」


 二人の口論を聞いて幸助はなんとなく向かっている場所の察しがついた。


「さっきから君達が言っているその場所って、もしかしてだけど、俺達みたいな風貌の人がいるところ?」

「ああ、訳ありのな」


 マルトは二人に警戒を持った視線を向けて言うが、それは幸助の方も同じだ。


(でもここにいる異世界人って事は、俺達を罠にはめた赤服の可能性って事もあるのか)


 悩む幸助。しかしユリが幸助の少し前に出てこれに乗ることにした。


「そこでいいわ」

「ユリちゃん!?」

「当てもなく動いたって仕方ないでしょ。こうしている間にも、ランと南ちゃんは動いてるかもしれないのよ」

「そ、そうか」


 幸助は納得させられて声を止めた。マルトはこれに話がついたと判断する。


「決まりか? なら行くぞ」


 四人は目先の目的地を決定させ、その場所に向かって足を進めた。


 全員が離れた場所に、人知れず先程ラン達を覗いていたものと同じ瞳が出現して幸助達の背中を見ていた。


(白ローブめ、勘のいい奴だ。こうなると都市街であの女を攫うのはやりづらい。仕方ない、やり方を変えるか)


 裂け目は再び破片を修復させて空間を閉じた。



______________________



 短時間に二度も気を失って再び目を覚ました南。今度は意識がはやく回復して周りを見渡す。周辺には近くにいる松明のような形をしたライトを持ったランがいた。その周りは泡ではなく真っ暗な闇に囲まれ、地面はより粗い砂や石が至るところに散らばっている。どうやら洞窟の中のようだ。


「目が覚めたか」

「ラン君! ここ、洞窟!?」

「見事に罠にはまったようだ。いきなり襲って来るとは思わなかったが……」

「この世界にも、赤服が!?」

「確定だろうな。こうなれば急いで戻るに限るが……」


 南はどうにも歯がゆい顔をしているランに近付いて引っかかった部分を聞いてみた。


「なんでそんなに微妙な顔を?」

「転移の場所は座標を登録している場所にしか出来ないんだ。あの場には来たばかりだし、おそらく襲撃を回避するために移動している頃だろう。しかしま、生存確認の連絡はしてみるか」


 ランはブレスレットに触れてユリに連絡をかけてみた。


「ランよりユリへ……ランよりユリへ……って、ん?」

「どうしたの?」


 ランのブレスレットから立体モニターが表示されるが、画面はざらついて相手の顔が映らない。


「通信できない。ジャミングがかかってるのか。とすると……」


 ランは両腕を組んで目を閉じて結論を告げた。


「ジャミングを消すしかないな。とりあえずここの調査をしておくぞ」

「調査?」

「赤服がわざわざ転送してきた場所だ。ここには何かがある。おそらく悪い方にな」


 南は冷静に不穏なことを言うランに苦笑いを浮かべて先導する彼についていった。しかししばらく時間が経ってもだだっ広い空間が広がっているだけで特に異変があるようには思えなかった。


「ただの、広い空間?」

「いや、おかしい」

「エッ?」


 ランはここまで歩いてきて見てきた景色の違和感を南に説明した。


「綺麗すぎるんだよ。自然に出来た洞窟なら、そこら中に岩山やでこぼこがあるはずだが、少なすぎる。誰かに補修でもされているのか、それとも……」


 ランは次に静かな空間の中でこの場に近付いてくる足音が聞こえて来た。


「何かが近付いている。この足音、大型の獣?」


 相手の素速い動きに、ランがローブを着込むのを合図にして南は地震の心臓を指で押し込み力を発現させ、共に戦闘態勢を取る。音が聞こえた方向から現れたのは、巨大な魚に四本脚が映えたような怪物だ。


「魚!? でも脚が生えて……」

「あの二人が言ってた怪魚ってやつか。水陸両用とはな」


 怪魚は立ち止まることもなくラン達を食べるために襲いかかってきた。ランはブレスレットをバットに変形させてそれぞれ左右に分かれた。


「人工物は見当たらない。コイツはただの怪魚だ。しばくに留めていいだろう」

「しばくに留めるって十分乱暴だけど」


 南はランの容赦のない思想に再び微苦笑をしながら怪魚に向かって行った。


「ごめんなさい!」


 南は自分なりに手加減をして怪魚の側面部に正拳突きを喰らわせた。怪魚は大声で叫びだし、驚いたままその場を一目散に逃げ出して姿が見えなくなった。


「あ、あれ?」

「流石怪力娘。一撃で降参させるとはな」

「今の、かなり手加減したんだけど……」


 南は自分の力に拳を見ながら目をゆっくり閉じたり開いたりして顔を固めてしまう。ランは先程南に冗談を告げたが、次には怪魚が消えた方向に目を向ける。


「冗談はさておいてだ。随分とあっさり怪魚が戻っていったのが気になるな」


 ランの懸念は思っていたよりもはやく悪い形で的中した。さっきと同じ感覚の足音が今度は複数体束になって迫ってきている音が聞こえてきたのだ。


「あぁ……これはやばいかも。南、逃げるぞ」


 ランはすぐに回れ右をし、南も続いて彼についていきながら走り出す。南がそのまま後ろを振り返ると、さっき彼女が殴った個体を先頭に大量の怪魚の群れが二人を狙って一直線に走ってきた。


「ギャァァァァァ!!! 怪魚の大群!!!! 海獣総進撃だぁ!!!」

「マズったな。いきなりここまで数が増えるとはな……(にしても、割と広めとはいえこんな閉鎖空間の洞窟の中にあんな数いるか? そもそも拉致られてここに来てるわけだ。何かあるとは思っていたがあれがそれなのか?)」


 走り続けた所で歩幅も速度も違うのでは追い付かれるのは時間の問題。こうなれば振り返って真っ向勝負をかけるしかない。


「南、いけるか?」

「合図があれば」

「よし。じゃあ一、二の、三!!」


 二人はランの合図にピタリと合わせて後ろを振り返り、ランはブレスレットを纏った右拳で、南は魔法を纏った左の拳で先頭にいる怪魚の顔を真正面から殴り飛ばした。するとボウリング方式で後ろにいた怪魚の群れも吹っ飛んでいった。


「ストライク」

(異世界に来て数時間、既に自分に力が悲しいです、おじいちゃん)


 ランはブレスレットを元に戻し、二人はさっきの二の舞で怪魚が更に大群を連れて戻ってくるのを懸念してその場から一刻も早く離れた方がいいと判断し、早足で移動した。


 走っている最中、ランは隣で表情が暗くなっている南に顔を向けないまま今の彼女の心境を代弁した。


「想像していた異世界転移と違うってか?」

「ッン!!」


 南は図星を付かれたと目線を横に逸らす。ランはやっぱりと思いながら彼女に諭した。


「だから反対したんだ。俺らの旅は楽しいお気楽ツアーじゃない。だが今更帰りたくなってももう遅いぞ。ジャミングのせいで扉は開けない」


 しかし南はすぐに反論する。


「そうやって後悔させようとしないでくれ! 確かに思っていたのとは違ってるけど、それでも僕は覚悟して来た!! そこに後悔は今もないよ」


 ランは視線を変えて南の目付きを見て、彼女の真っ直ぐな目付きにこれ以上茶化すことはしなかった。


「そうか……すまない、余計なことだったな」


 二人が会話を切った直後、突然南が後ろから伸びてきた物体に身体を絡まれた。


「ホワッ!!?」


 南は抵抗をするが、絡みついていたものの正体である赤い触手の裏面についた吸盤が張り付いて全く振りほどけない。


「何これ! 触手!?」


 何事かとランが振り返ると、いつの間にか近付いていたタコによく似た巨大な生命体がランにも触手を伸ばして捕らえにかかった。彼はこれを回避するも、タコは容赦無く大量の触手をバラバラに伸ばしてきた。


「チィ! 吸盤で音を殺して近付いて来たのか。(流石にこの近距離に音がない攻撃。回避できるか?)」


 ランは南の救助を最優先に動くが、タコはそのことに気付き、彼の向かう先に大量の触手を飛ばした。


「脚何本あるんだこれ!? クッソ!!」


 ランがブレスレットを剣に変えて脚を切りにかかろうとしたその瞬間、ランは何処から音が聞こえて足を止めて上を見た。


 するとタコの顔面に向かって明るい水色の光球が激突し、南に絡みついた触手を軽々と引きちぎるほどに吹っ飛ばした。


 突然の攻撃に急いで逃げ出すタコ。南も力が緩んだ触手を外して一息ついた。


「助かった……」


 しかしランはむしろ警戒を強くし、タコを追い払った攻撃の発射方向に身体を剣を向ける。


「何者だ?」


 ランに声をかけられた相手は誤魔化すこともなくライトで見える範囲内にまで近付いて来た。ランと南は揃ってその現れた人物の姿に驚愕する。


 明かりに照らされたその出で立ちは、ラン達と同じ肌色の肌の上に魚人とは違う青い色の魚のような鱗が頭の右半分や右腕を包み込み、左目は黒く、右目は禍々しい黄色い縦に細長い瞳をしている、ボロボロの衣服を着た成人男性だった。


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