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7-3 転移した経緯

 王都端での防衛戦。初陣にして圧倒的な力を見せつけた四人の転移者達。

 ランの頭に不安がよぎる中、幸助は素直に彼等に関心していた。


「四人共凄い。これが、異世界で魔王を倒した力か」

「お前だって似たようなもんだろ」

「いや、俺は……」


 ランからの返しに言葉が詰まってしまう幸助。彼自身、自分がチート能力を持っている自覚はあった。しかし彼のいた勇者の世界で魔王を倒したのも、その後現れた兵器獣戦で活躍したのも、どちらもランだったからだ。

 ランも幸助がそう考えている事を理解しつつ、下手に言葉を返したところで自己批判するだけだと判断し、放置して四人の男の元に足を運んだ。


「凄いもんだな。あれだけの数相手にワンサイドかよ」

「アハハ、たまたま上手くいっただけだよ」


 ランの台詞にカリアが笑いながらも謙遜する。近くにいるケトルも、同様に自己評価を低く下台詞を吐いた。


「いや君は凄いよ。俺は軟体か近付いてきた魔物を切っただけだから」

「ノールックで的確に敵を倒す奴が何言ってんだか」

「お前もそういう戦い方するだろ」


 幸助がさっきのやり返しとばかりにランに言い返すも、ランの表情に特に変動はなかった。


 何がともあれここでの戦闘は終了した。ともすればこの現場にいる必要はもうなく、ランは早速帰ろうとしていた。


「んじゃ戻るか。ここにはもう用ねえし」


 行きの馬車が残っていたため、ランがそちらに足を運ぼうとすると、サラガが後ろから声をかけて来た


「おいおい、何処に行くんだい?」

「あ?」 


 ランは声をかけられて後ろを振り返る。


「何処って、馬車に」

「馬車に乗る必要はないよ。僕の生成した転移魔法があるから」

「使えるのか?」


 サラガが軽く手をかざすと、その場の空間に白く光る穴が出現した。


「これを通れば好きな場所にいけるよ。さっきのお城に繋げておいたから、みんな使って」


 サラガの親切に、この場の面々がそこまで驚くことはなかった。まるで自分も普段から使っているかのような反応だ。


「君も使えるのか、ゲート」

「ゲート?」

「ん? 違う魔法か?」


 カリアの問いかけにサラガが少し戸惑う。どうやら同じような技でも、元いた異世界によって言い方が違うらしい。


「まあいいや。俺は俺でゲートでやって来たから、そのまま戻るから大丈夫」

「俺は空が飛べるしな」

「俺も……空を飛ぶ技があるから、大丈夫だ」


 カリアを始めとし正、そして年長者であるケトルも断った。彼等は各々が自分の能力や技によって元いた城へと戻っていく中、ランと幸助は残り、サラガが再度声をかけて来た。


「君達は、僕と一緒に行く感じでいいかな?」

「ええっと、俺達は」

「ああ、頼む」


 ランの台詞に幸助は目を丸くする。ランは今まで散々技術による転移を使っていたはずなのに、この場では使わない。手の内を隠す気なのだろうランに、幸助は表情を微妙なものに変形させた。


「それじゃあ二人共先に入ってくれ。僕は最後に」

「俺も一緒に入れてくれ」


 突然後ろから聞こえた声に注目する三人。ランと幸助の後方には、おそらく馬車で来たのだろう別の青年が近づいていた。

 他の青年達が次々馬車に乗って帰っていく中、一人わざわざ声をかけて来たその青年にランは目を細める。


「唐突に何だ? 手っ取り早く帰りたいのか?」

「ああ、こっちについて行った方が良いらしい。そう出たからな」

「らしい?」


 ランが青年の台詞に引っ掛かり問いかけようとするも、サラガが話しかけて防がれた。


「そろそろいいかな? これ広げている間魔力消費しちゃうから、出来ればはやくしてもらいたくて」


 サラガが妥当な理由で急かしてきたため、三人はとりあえず戻ることにした。最初に幸助、次にランが足を踏み入れる。その次の青年は足を踏み入れつつ、ランにだけ聞こえる小さな声で話しかけて来た。


「近い未来、お前はこの場の勇者達の敵となるだろう」


 突然何かを暗示しているかのような台詞を吐く青年に、ゲートを潜ったランが後ろを振り返った。するともう青年の姿はなく、ゲートを閉じたサラガの姿だけがあった。


「おい、さっきの奴はどうした?」

「さっきの? あれ、何処行ったんだあの人」


 サラガの方もさっきの青年を見失っていた。幸助も一緒になって探したが、結局青年の姿は見つからなかった。


 しばらくして、残りの転移者達も城に帰還して来た。ファムは魔物の進行があった地点の復興のために城の人達を連れて急行し、転移者達はひとまず部屋を与えられて夜を過ごす事となった。


 与えられた部屋のベッドに座るも、何処か落ち着かない気持ちが沸き上がる幸助。すると扉からノックオンが響き、おもむろにランが入って来た。


「よお。やっぱ落ち着いてない感じか」


 来て早々に気持ちを見透かされた幸助は、少し機嫌を悪くし、反論とばかりに問い詰める。


「お前こそどうなんだよ? ユリちゃんの事が心配なんじゃ」

「確かに多少イラついてはいるが、頭は冷静にしている。戻れるものなら戻りたいが、今は出来ないしな」


 ランの言葉に幸助がすかさず次の質問をした。


「どうして? ゾンビの世界の場所は記録してるんじゃないのか?」

「そっちはな。だが今いるこの世界。ここが宇宙の何処に当たる場所なのかが見当もつかない。最も通信を試して無理だったことを見ると、相当遠いと判断した方がよさそうだがな」


 しれっとランがユリとの通信を試みていた事を知り、彼の心の内を少し知った幸助は、さっきの自分の言葉を反省した。

 ランは表情が落ち着いた幸助にそのまま話を進める。


「異世界間の移動は手ごろなサイクリングのようにはいかない。下手に目的地だけ決めて行けば、最悪その間にある別の世界に衝突。凄まじいスピードで人体なんざお陀仏だ。

 だからスタート地点と移動場所の座標調べ、ルートを構築する。電車も船も飛行機も、道筋がはっきりしてないと進めないって事だ」

「そんな。じゃあ二人とはそう簡単には会えないって事なのか」

「今は南に護衛を任せるしかないな。まあユリの事だ。こういう時どうするべきかはキッチリ頭に入っている。大方俺と同じ考えがな」


 ハッキリと言ってのけるランに、幸助はジト目になってつい口を滑らせてしまった。


「ハッキリ言うな。根拠ないんじゃ」

「夫婦なんでな。(仮)の」

「語尾、付けないくていいんじゃない?」


 ランの言葉のおかげか、少し気分が明るくなった幸助。そのまま彼が顔を上げると、ふとランのブレスレットに視線が向いた。

 そこで初めて、幸助はランのブレスレットの装飾部が緑色の点滅を起こしている事に気が付いた。


「お前、それ……」


 幸助がランに問いかけようとした丁度同じタイミング、扉が再びノックされ、四人の男達が部屋に入って来た。本日の魔物退治の功労者達だ。


「皆さん! どうしてここに?」

「いや、最初あったのは偶然だったんだけど」

「同じ巻き込まれて、一緒に戦った仲間として、お互いの事を知りたいなと思って」

「そこで君が何処にいるのかを聞いたら、城の人からここだって教えてもらったんだ」


 幸助はせっかく来てもらったらならばと座る場所を用意した。用意が整い、ケトルが話を切り出した。


「それじゃあ年長者っぽいし、俺から改めて自己紹介をしようかな。

 俺は『五十井(いかい) ケトル(けとる)』。元々ブラック企業勤めのサラリーマンだったんだが、ある日寝て起きたら異世界に来ちゃってて。

 鑑定したら剣の才があるからって分かったからやってみたら、いつの間にかいっぱい教え子が出来て、その子達と一緒に魔王を倒したんだ」

「ブラック労働……久しぶりに聞いた嫌な響き」


 ケトルの自己紹介に、隣に座っているカリアが苦虫を嚙み潰したような顔になった。まさかと思ったケトルに、次はカリアが自己紹介する。


「『カリア モンス』。同じく酷い会社に勤めてた日本人だったんだ。過労で倒れて、気が付いたら貴族一家の三男坊に転生してた。

 跡取りって訳でもなかったから自由に暮らそうと興味持った魔法を勉強してたら、いつの間にか他の皆より強い魔法を使えるようになってたらしいんだ。俺自身はよく分からないんだけど、それで魔王を倒せたから、良かったとは思っている」

「やっぱり君も魔法なんだ! 僕もそうなんだ!」


 続いて声を挙げたのは、自分と似たような存在にテンションを上げているサラガだ。


「僕は『桑原(くわはら) サラガ』。お出かけ中に何故か転移した異世界で、とあるダンジョンに入ったんだ。

 そこでその世界の英知を結集させた魔導書を見つけて、手に取った途端にその全てが頭に流れ込んできた。その力で助けた人が仲間になって、皆の絆で魔王を倒せたんだ」

「仲間か。俺も向こうの世界に仲間がいるな」


 サラガの言葉に反応したのは、スマホを操作している正だ。


「『原戸(はらど) (ただし)』。なんでも異世界の実験の結果巻き込まれて異世界転移したらしくて、お詫びとしてこのスマホに色んな力を与えてもらった。

 おかげで魔物もサクサク倒せて、縁が出来た仲間と共に魔王に挑んで撃退した。いい思い出だよ」


 四人の自己紹介が終わり、次に彼等は幸助の方に目を向けた。


「君は?」

「俺は……『西野 幸助』。通学中に交通事故に遭って、気づいたら異世界に来てて、行き倒れかけたところをエルフの女の子に助けてもらって、飲ませてもらった水の効果で今の力を手に入れた。

 その子や色んな仲間と一緒に戦って、魔王城に辿り着いて、それで……」


 幸助の言葉が詰まる。彼はこの場の中で唯一魔王を倒していない。別に隠すことでのないのかもしれないが、それでも幸助は何処か後ろめたい思いを感じていた。

 すると隣にいるランが、幸助の思考を察したかのように彼よりも先に口を開いた。


「魔王を倒した。オチは見えてるからいいさ。最後は俺だな」

「え? ちょ……」


 困惑する幸助を置いてランは勝手に自己紹介を始めた。


「俺は『将星 ラン』、風来坊だ」


 自分から自己紹介を始めておきながら、たった一言で台詞が止まってしまったランに、幸助を含んだ五人全員が沈黙する微妙な空気が流れてしまう。


「……以上?」

「以上だ」

「以上なんだ」

「魔王を倒した同行は皆同じなんだ、いちいち説明することないだろ?」

「いや、どういう経緯で異世界に来て、魔王を倒したのかっていうのが」


 具体的に問いかけるサラガに、ランは率直に答えた。


「どういうって……死にかけて偶然異世界転移したり、死にかけて偶然力を手に入れたり、死にかけながらも戦ったり……」

「もういい! もういいから」


 ランが目を見開いたまま淡々と口にするあまりの混沌にサラガが制止し、とりあえずここでの話は一旦終了する流れになった。

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