7-1 勇者召喚
魔法陣の光に包まれてから数瞬。眩さに目を閉じていた幸助だったが、閉じた目の先の光が小さくなっていきことをなんとなく感じ取り、ゆっくりと両目を開いた。
「ここは……」
何が起こったのか。幸助が自分に起こった現象を理解するために周囲に目を向ける。
正面には、存在感を示す巨大なステンドグラス。描かれているのは、王冠を被り、黒い剣を掲げた騎士のように見えた。
ステンドグラスから目を逸らすと、白色の太い柱が何本も見え、柱の数以上にたくさんいる甲冑を着こんだ兵士が見える。今彼がいるのは西洋の教会の広間というところなのだろう。
だが幸助が注目したのは空間や兵士達ではなく、近くで自分と同じように困惑している複数人の男性の姿が見えたことだ。
年齢層も人種もバラバラで、制服を着た高校生の青年から、ダンディーな風格を醸し出す大人、中学生くらいのヨーロッパ人っぽい少年までいる。
(動揺している。もしかして、俺と同じで変な魔法陣でここに?)
幸助は自分以外にもこの場に召喚された人がいる事に更に疑問を浮かべていると、ここで初めて自分のすぐ隣で腕を組んで立っているランがいることに気が付いた。
「うお! お前もいたのか」
「ああ」
ランは佇まいこそ普段通りだが、声の調子に若干の苛立ちを感じ取れた。
おそらく幸助と共にこの召喚に巻き込まれ、ユリと分断された事が原因だろう。少し前にどうにかスフェーを言いくるめたばかりでのこの事態。不安になるのも無理はない。
「ここは、一体何処だ?」
「さあな。とりあえずさっきまでいた世界とは別の異世界と考えた方がいいだろ」
ランは幸助の言葉を流しつつ、一瞬ながら左右に視線を向けて一つ確認した。
(俺達の他に呼び出された連中は、どれも中心の男が西洋風の装備か、そうでなくとも似たような服を着ているな。考えられるとすると……)
ランが一つ仮説を頭に浮かべたその時、前方から声が聞こえて来た。
「ようこそお越しくださいました。異界の勇者達よ」
全員が同じ方向に顔を向けると、腰まで長い髪を降ろした美しい女性が少し高い位置から見下ろす形で彼等を見ていた。
「異界の勇者達? 達ってもしかして、俺以外も!」
「やっぱか……」
幸助の隣でランが小さく呟く。広間の面々も最初こそ困惑していたようだったが、まるで以前に経験していたかのように全員がすぐに落ち着いたようで、女性の話を聞く姿勢になっていた。
女性もこの態度に話がはやくて助かるとばかりに説明を始めた。
「私はこの『イディオータ王国』の王女、『ファム イディオータ』と申します。勇者様方、どうかこの世界の巨悪、『魔王』を倒していただきたいのです!」
「魔王!?」
幸助が目を丸くした。最低でもこの世界にも魔王が存在する事。それにより苦しんでいる人がいることを知ったからだ。
驚く青年たちに、ファムは具体的な説明を始めた。
「この世界には、数百年に一度魔王が復活し、大勢の魔物を率いて世界に混沌をもたらします。
当初、我らは最初総力を挙げてこれに対抗しましたが、魔物の強さには到底及ばず、既に人類のほとんどが住処を失い、この世界は『魔物の世界』へと変貌してしまいました」
ファムが悲しげな顔を浮かべ、勇者達が俯く彼女の顔に注目した。
「そこで我々はこの邪悪に対抗するため、古文書の伝説に載っていた召喚の儀により、こことは違う世界の危機を救ったという『勇者』の召還をし、力を借りる事に決めました。貴方達は、そうしてこの世界に来たのです」
ファムの説明に、広間の青年たちのほとんどが驚いた様子を見せ、お互いに問いかけ合っていた。
「世界の危機を救った? 俺だけじゃないのか!」
「確かに、俺は異世界で魔王を倒した事があるけど」
「ここにいる人達、皆そうなのか!?」
この驚きの流れには、幸助も当然乗せられていた。
「やっぱりこの人達も、異世界で勇者をしていたって事なのか。それも魔王を倒しているだなんて! でも俺は……」
幸助の視線が一人動じていないランに向く。この中で唯一なのかは分からないが、幸助は彼等と違い、ランに先に倒されたことで、異世界で魔王を倒した経験がないのだ。
幸助一人が少し顔を暗くする中、ファムは階段を下りて一行と同じ高さに降りると、更に膝を付いて頭を下げ、再度青年達に頼み込んできた。
「ここにいる皆さんが全員、異界にて邪悪の根源を倒した経験がある戦士。どうかその力で、この世界を救っていただきたいのです!」
突拍子もない話ながら、この場にいる面々はそこまで違和感なく納得出来た。皆が過去に異世界を救った経験がある故だろう。
ほとんどの青年が新たな使命感を感じているのか凛々しくしている中、何人かの青年はファムに疑いの目を向けていた。ランもその一人だ。
一方のファムは、話をして青年達にそこまで混乱が起こらなかった事に胸を撫で下ろしたようで、このまま話を進めることにした。
「話を聞いてくれて嬉しいです。そこで次に、貴方達の事を教えていただきたいです」
「教えるって、自己紹介でもするのですか?」
ふと集団の一人がファムに質問した。ファムは当然の質問だと優しく受け取り、返事をする。
「いえ、少々流れ作業になってしまいますが、もっといい方法があります」
ファムが近くにいる部下らしき人物にアイコンタクトを送ると、その部下は広間の奥にあった水晶玉を用意した。
「こちらに一人一人手をかざしていただけますと、皆様の名前や能力を立体的に映し出します。これで自己紹介の代わりという事にさせてください」
ファムが用意した水晶にランが微妙な表情を浮かべ、隣の幸助にだけ聞こえる小さな声で話しかけた。
「何だそのプライバシーもへったくれもない水晶」
「いや、ファンタジーものでよく見るやつだよ。なんだかさっきからテンプレ展開だなぁ……」
「お前が元いた世界もそんなもんなんだろ? 前にお前自身から聞いたが?」
幸助がランの言葉にむず痒い顔をしていると、ファムは話を進めた。
「それでは、そちらの方から順番によろしくお願いします」
ファムの指名を受けた青年は水晶の元に足を運び、手をかざす。すると広間中の人達にハッキリ見える程の大きな文字で、青年の情報が映し出された。ご丁寧な事に、文字が日本語になっている。
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名前 桑原 サラガ
能力 あらゆる魔法の生成
頭の中で思い浮かべたこの世にない魔法を創造し、使用することが出来る
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「おお、本当に出て来た! 俺、前の世界ではこういうのなかったから、なんかワクワクする!」
データが出て来たその青年、修二がテンションが上がった様子で声を挙げる。すぐ隣にいるファムは、説明を見て修二を褒め称えた。
「魔法の生成、素晴らしい能力ですね。とても頼りになります!」
率直な誉め言葉に、修二は少し照れてしまいつつ水晶から離れた。この流れに乗り、他の青年達も次々と水晶に手をかざしていく。
出力される青年達のプロフィールは本当にどれも幸助と遜色がないほどにチート揃いであり、この時点で、彼等が異能力者として破格だという事を理解させられた。
(こんだけぶっ飛び戦力がわんさかいると、それこそ魔物との戦いなんて余裕勝ちで終わっちまうような気がするんだが)
ランが頭の中でそんなことを思っていると、とうとう隣にいる幸助が呼び出される順番になった。
「次は、貴方の番です」
ファムからの呼びかけに幸助は反応する。
「ああ、俺の番か!」
幸助は少し悩んだ。ランから学んだ事。常に何があるか分からないという考えだ。一応のため、幸助はランに耳打ちした。
「今更ながら、この水晶って大丈夫なのか?」
「というと?」
「いや、俺の知る創作物の展開の中じゃ、能力に応じて利用されて、そこを追放された奴に助けられる的なのも結構あるんだけど?」
幸助の疑問にランも納得した。だが読んでいるの壇上に上がってこない幸助に、ファムの方から再度声かけがあった。
「おや、どうかしましたか?」
ファムの姿勢を見たランは幸助に答える。
「お前の疑問ももっともだ。だが今この状況で下手に水晶から逃げれば、それこそ後ろ指刺されて警戒されかねない。
ここにいる奴らが白か黒かはまだ判別出来ないが、今は流れに従っておけ」
ランからの返答に幸助は頷くと、壇上へと上がっていき水晶の前に手をかざした。すると水晶が光り輝くと共に名前と能力が映し出された。
しかし周りの青年達にそこまで驚いている様子はない。幸助に負けず劣らずのチート能力を持っている彼等にとって、彼の能力と自分の異能力にそこまで差を感じなかったのだろう。
幸助は目立たなかったことを良しとすべきかと考えて離れていく中、ファムは彼のプロフィールを見て少し興味を示しているように見えた。
(このメンバーじゃ俺はこんなもんか。まあ、悪目立ちしなくてよかったのかもだけど……ん? 悪目立ち? あ!)
幸助はふと一つ悪い予感が思い浮かんだ。この場にいる男性陣は揃いも揃ってチートスペック揃いになっている。しかし幸助に巻き込まれて召喚させられたランだけは、そうではなかったからだ。
(ランだけ異世界転移経験があると言ってもチート能力がある訳じゃない! いや、もしかしたら輝身が出るのかもしれないけど、それはそれでマズいんじゃ)
幸助が階段を降りつつランに心配を向ける中、そのランは反対に階段を上っていく。
幸助は上る途中のランの肩に手を置き、声をかけた。
「ラン、この儀式お前こそやばいんじゃ」
「気付いたか。だがまあ逃げることも出来ん。最悪パターンも考慮するさ」
「考慮って、それまさか冷遇されるって事じゃ」
幸助の声を聞き流し、いつも通りの姿勢でそのまま階段を上っていくラン。幸助の不安の芽がぬぐえない中、ランは水晶に手を伸ばそうとした。
(さて、どう出るか)
しかしランの手に水晶が反応するかどうかといったそのとき、突然広間の外から轟音が響き渡った。
「何だ!」
場にいる何人かが動じていると、広間の出入り口にあたる扉がノックもなしに開き、兵士の一人が息を切らしながら飛び込んできた。
「殿下、緊急事態です!」
「どうしたのですか!」
「魔物です! 魔物の攻撃を受け、城壁の一部が破壊されようとしています!」
「何ですって!」
突然の魔物の進行。ランが水晶に触れる寸前に、儀式どころではなくなってしまったのだった。




