6-42 私は味方
ランが口にした提案。ジネス達を次警隊にて匿うという意見に、ジネスとリコルは困惑した。
「俺達が、お前たちの組織に?」
「そんなこと、出来るの?」
「以前、似たような流れ者を俺の権限で保護した例があるんでな」
「流れ者って」
「フジヤマさんとアキさんの事だ」
後ろでフジヤマとアキの顔を思い出す面々。だが確かに、ジネスとリコルの兄弟は、このままこの世界にいても狙われる危険が残るだろう。
ならば次警隊で保護した方が、今後の身の振り方を自由に決められる。何より、次警隊の医療技術は、この世界のものよりも発達している。ファンスの為にももってこいの環境だろう。
「どうする? 俺は強制はしない。決めるのはお前ら自身だ」
幸助達からしてみれば、反対する理由が見つからない。そして当の二人、特にジネスは一瞬だけ不安そうな顔をしたが、すぐに顔色を戻して答えて来た。
「願ってもないことだ。こちらからもお願いしたい」
「ジネス君」
ランは目を細めつつもこれを聞き入れた。
「分かった。んじゃ、まずはお前の妹だな。病院に行くぞ」
「なら、俺も!」
「いや、いい」
自分の家族の事だからと動きかけたジネスをランは止めた。騒動の重要人物であるジネスやリコルが病院に行けば、下手をすれば到着前にRAIDER残党に嗅ぎ付けられる恐れがあった。
「お前らはそこで待ってろ。突拍子のない話に、色々頭を整理したいだろうしな」
ユリはぬいぐるみの姿に戻り、ラン達はファンスの入り病院に向かって行った。
残されたジネスは、緊張が切れたかのように型と頭が下りる。リコルは彼からここまでとは違う、別の不安を感じ取った。
「ジネス君。一つ聞いて言い?」
「何だ?」
「もしかしてだけど、怖い? 妹さんが目を覚ますのが」
リコルの問いかけにジネスは否定しなかった。ジネスはここに来て隠し事はしてはいけないと、正直に白状した。
「素人目だが、アイツ等の技術は俺達の知るそれを圧倒的に凌いでいる。ファンスも、もしかすれば目を覚ますかもしれない。
だが、アイツは俺に襲われて重傷を負い、眠っているんだ。目を覚ましてもしあの事件を思い出したら、自分を襲ったのが兄だと気付いたら」
ジネスは拳を強く握り、身体を震わせた。
「怖いんだ。目を覚ましたファンスが、俺を見てどう思うのか。家族の事を思い出して、どう思うのか。
心の何処かでファンスが目を覚まさなければいいだなんて思っている自分がいる! そんな自分が最低で! 情けなくて仕方ない!」
身体の震えが強くなり、自己嫌悪するジネス。
「ジネス君……」
リコルはジネスの言葉を聞いて、勝手な同情の言葉を口にすることは出来なかった。どれだけ君は悪くないと言ったところで、ジネスがファンスを攻撃した事実は変わらないのだから。
だが、それでもリコルには、彼女の立場だからこそジネスに言える事があった。
「貴方は、私の事を受け入れてくれた」
「……リコル?」
触りだけでは何を言っているのか分からないジネス。リコルは下を向いた彼に優しい微笑を向け、話を続けた。
「貴方は全てを知った。私の父が、君の事件の黒幕だったことも。私が、君を監視するために恋人関係をしていたことも。
それを分かった今でも、ジネス君は私を嫌わなかった。そんな私の思いを受け入れてくれた」
「それは……お前は悪くないから。お前も、俺が利用していた被害者だから。それに……」
「それに?」
弁解する途中で言葉を詰まらせてしまうジネス。リコルが彼の言葉をゆっくり待っていると、彼は頬を赤くしながら続きを口にした。
「それに……俺が、お前を好きだから」
ふと行為を口にされた事にリコルも顔を赤くしてしまう。しかし今はそれを恥ずかしがっている場合ではないと、顔を振って色を戻した。
「そ、そう……好きでいてくれた。その思いは、意味は違えど妹さんにも向けている。そうでしょ?」
「え?」
顔が固まるジネスに、リコルは答えた。
「ジネス君はずっと妹さんが起きること望んでいた。それこそ、強い妄想をしてしまう程に。それだけ君は、妹さんの事が好きなの」
「それが、どうしたっていうんだよ?」
「妹さんはもしかすれば、君を怖がるかもしれない。嫌うかもしれない。でも、君がそれを受け入れて、その上で頑張っていけば! いつか、妹さんも君を受け入れてくれる。きっと」
「リコル……」
ジネスの正面に回ったリコルは、彼の手を取り励ました。
「大丈夫。ジネス君が辛いときは、私が励ますから。私は、もう二度と君を裏切らない。何があっても、今度こそ貴方の味方になるから」
リコルの目元に涙がにじみ、ふと手の力が緩んだ。するとジネスは解放された途端に再びリコルを抱きしめた。
「ちょ、ジネス君!?」
「好きだ」
「え?」
「好きだ! リコル、俺と一緒にいてくれ! 傍にいてくれ! これからも、ずっと」
「ジネス君……」
リコルは感情の制御が効かなくなり、ジネスを抱きしめ返して涙を抑えきれずに泣き出した。
「好き! 私こそ好き! 一緒にいる。貴方の傍に、一緒に……」
二人だけの空間。先んじて帰って来ていたランが話しかけるのに躊躇していると、変身を解いたユリが隣で話しかけてきた。
「問題は解決したみたいね。いい仲じゃない。私達も見習わないと」
「見習う必要なんてねえよ」
冷たく言いつけるランにユリは顔をしかめる。
「えぇ……お互いに心の底から支え合うのよ。憧れるじゃない」
「必要ねえよ。俺らは、とっくにそうだろうが」
「ナッ!」
ランが表情を少しも変えないままに口にした台詞に、ユリも顔を赤くしてしまった。
(ランってば、なんでそんなにさらっと言っちゃうのよ。こっちだけ恥ずかしいみたいじゃない!)
ランはユリ読み前を歩いた。自身の赤くなった頬を彼女に指摘されないようにするために。
その後、隊員達は再び集合。ジネスは早速話を切り出した。
「ファンスは?」
「安心しろ、特にトラブルなく移送完了だ。やばい種は事前に片付けられていたよ」
ランが手に取ってジネスに見せる置手紙。差出人は、一足早くこの場を離れたスフェーだった。
『彼女の障害は先に片付けておいた。マリーナ、心配せずに助けて上げてくれ』
「お兄様、しれっと……」
「シスコンの勘は凄いなぁ。見習いたくはないが」
ラン言葉とは違う明るい顔を見せる中、大吾と零名がジネスとリコルの元に歩いた。
「んじゃ前と同様に、俺らが二人を基地に連れて行くわ。そん後は再び仕事に戻るから、よろしゅうな」
「皆、何処かでまた会える」
「ああ、そうや」
大吾はおもむろに手に結晶を持つと、ランに放り投げて渡して来た。
「これは」
「この世界の結晶や。なんかの役に立つかもしれん、上手い事使い」
大吾は何処かからクナイに似たデバイスを取り出して操作、後方の空間が扉のように開いた。
リコルはラン達に頭を下げ、ジネスも感謝の言葉を口にした。
「本当に、何から何までありがとう。この恩は、絶対に返させて!」
「世話になった。次会う時は、お前らの力になってみせる!」
別れの挨拶を済ませ、四人は空間の先へと転移していった。
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最後に場に残った三番隊。次の世界への転移を前に各々一休憩を取っていた。
そんな中、ユリは幸助から渡された剣を見ている。バズに溶かされた剣の修理を頼まれたのだが、その表情は苦いものだった。
「悪いけど、これはもう直せそうにないわ」
「え……」
ショックを受ける幸助にユリが説明する。
「前回折れたときは、剣そのものが残っていたから直せたけど、今回はほとんど本体が溶けてなくなっちゃったから。直せたとしても、もうそれは元の剣じゃなくなるの。ごめんなさい」
謝罪するユリに返された剣を見て、幸助は作り笑いをする。
「いやいいよ。元々俺の不注意が原因だし」
二人が話を進める中、ランはふとブレスレットを操作し、南がそれを覗いていた。
「どうかしたの、ラン君?」
「ここに来てゴタゴタだらけだったからな。見落とした連絡があったらマズいと思ってよ」
メッセージの閲覧漏れがないか確認するラン。すると一番上に、新規のメッセージがあった。
「これは、タイタン隊長から? 何の用だ?」
早速メッセージの内容を確認する二人。南は隣で首を傾げている中、ランは文を見て目を丸くした。
「おいおい、マジか!」
時間は経過し、三番隊の準備も整った。ランは早速次の世界へ移動するためのゲートを発生支えようとブレスレットを操作する。
「行く先々でトラブルだらけ。俺達悪運強いよね」
「いいじゃない。その度にリコルさんみたいな縁が出来るんだから。きっと、良い事に繋がるわよ」
「それに危険があるなら止めないと! 次警隊の隊員として!」
三人がそれぞれ次に向けて気合を入れていると、ランが全員を見て話しかけた。
「よし、準備OKだ。次の世界に行くz……」
ランの言葉が中途半端に止まり、三人は一瞬戸惑ってしまう。すると転倒しかけたユリが下にあるものを見つけた。
「幸助君、足元が!」
言われて残りの二人が足元を見ると、突然幸助の真下に魔法陣のようなものが発生していた。一瞬の内に魔法陣は広がり、丁度幸助のいる範囲を包み込んだ。
「え? 何これ!?」
次に魔法陣は強い光を放出し、下から上へと幸助を飲み込もうとする。
「「幸助君!」
「チッ!」
ランは咄嗟に飛び出し、幸助を脱出させようと手を伸ばした。しかしもう遅く、さらに事態は悪化した。
次の瞬間、魔法陣は幸助だけでなく、効果範囲に体の一部が入ったランまでをも巻き込んで光に包み、二人揃って姿を消してしまったのだ。
「ラン!」
「ラン君! 幸助君!」
叫んだ先に二人はいない。魔法陣が消えた場所には、元の空間が存在しているだけだった。
「これは、一体……」
突然目の前で仲間が消えた事態に理解が追い付かない南とユリ。
「ユリさん、ラン君と幸助君は!」
不安になる南がふとユリに問いかけてしまう中、ユリは自身の右手を胸に当て、どうにか不安を抑える事しか出来なかった。
(ラン……幸助君……何があったの?)




